判例(退職金)

December 01, 2017

医療法人貴医会事件‐大阪地判 平28・12・9 労働判例1162号84頁

【事案】
 Xが、Yに対し、自己都合退職したとして退職金を請求したところ、診療記録を改ざんしたことを理由に支給されなかったことから、その支払等を求めるとともに、Y代表者らから違法な退職勧奨を受けたなどと主張して、損害賠償請求等をしたもの。

【判断】
「ア Yは、本件懲戒解雇が有効であることを前提として、これが本件退職金規定…の退職金不支給事由(懲戒解雇)に該当すると主張し、Xの退職金請求権の発生を争う。
 しかしながら、・・・Xが、①本件退職届を提出した日の翌々日(平成26年10月29日)の午後以降、労務を提供しなかったこと、②同年11月8日、Y代表者及びJ院長に対し、退職の挨拶を内容とする本件各葉書を送付したこと、③同月14日、本件病院の総務課に健康保険証を返却したことによれば、Xは、本件退職届において確定的に退職する意思を表示していたといえるから、本件退職届は、合意解約に申込みではなく、一方的な解約の申入れ(辞職)であると解するのが相当である。そして、・・・Xの賃金は月給制であるから(〈証拠略〉)、本件労働契約の解約申入れには民法627条2項が適用されるところ、同項及び本件就業規則・・・により、本件労働契約は、遅くとも本件退職届が提出された日の1か月後である平成26年11月27日までには終了したといえる。したがって、本件懲戒解雇は、既に本件労働契約が終了した後になされたものであるから、法的な効力を有しないものというほかない。
 よって、Yの上記主張を採用することはできない。
 イ このように退職金規定に定められた支給要件を満たす労働者が退職した場合は、使用者は、労働者に対して懲戒解雇することができず、懲戒解雇をした場合に退職金を不支給にすることができる旨の退職金規定の定めがあるとしても、この定めを適用して退職金請求権の発生を否定することはできない。しかしながら、当該退職金が賃金の後払い的性格と共に功労報償的性格も有するといえる場合には、労働者においてそれまでの勤続の功労を抹消又は減殺する程度にまで著しく信義に反する行為があったと認められるときは、使用者は、その労働者によって退職金請求の全部又は一部が権利の濫用に当たるとして、その支給の全部又は一部を拒むことができると解するのが相当である。
 そして、本件退職金規定に基づく退職金は、・・・退職金不支給条項が置かれ、功労報償的な性格を有するといえることから、Xの退職金請求の当否を判断するにあたっては、Xにおいて在職中の勤続の功労を抹消又は減殺する程度にまで著しく信義に反する行為があったか否かを検討する必要があり、以下これを検討する。」

「Xの本件改ざん行為は、不正な保険請求の危険を生じさせ、その結果、Yの医療機関としての信用を失墜させる危険のある悪質な行為であり、少なくとも本件就業規則・・・所定の懲戒事由に該当するといわなければならない。さらに、・・・A課職員を中心としたY職員は、診療報酬の改ざんが発覚した直後から、改ざんの発見、改ざんの証拠保全、データの復旧、行為者の特定に多大の労力を要したことが認められる。他方、・・・実際に本件改ざん・・・の不正な診療情報に基づき保険請求がなされたものの、速やかに同請求を取り下げたことにより、Yの信用失墜に至らずに済んだことが認められる。
 そうすると、Xの本件改ざん行為は、懲戒解雇事由に該当する悪質な行為であり、Xが19年余にわたり本件病院に勤務して積み上げてきた功労を減殺するものといえるものの、Yの信用失墜には至らなかったことを考慮すると、Xの功労を全部抹消するほどに重大な事由であるとまではいえない。」

「Xは、本人尋問において、「(平成26年10月24日、院長室でY代表者らと30分ぐらい話をした際、)退職の話は出てなかったです。」(X本人調書)、「(同月27日、Y代表者から、)俺が許しても理事会で許されんようなことを言われまして、手でこう、退職届をくれというふうに言われたんで、ああ、それなら、お渡ししますということで(本件退職届を)お渡ししました。」(同調書)と供述しており、同供述によったとしても、本件退職届は、Xが自発的に作成したものであり、Y代表者に対して任意に提出されたものと認められるから、Y代表者がXに対し違法な退職勧奨を行ったとは認められない。」

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