三村運送事件-東京地判 令元・5・31 労働経済判例速報2397号9頁

【事案】
 Xらが,Yに対し,割増賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) 労働時間該当性に係る判断枠組み
 労基法32条の労働時間に該当するか否かは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に定めるものであって,労働契約,就業規則等の定めいかんにより決定されるものではなく,労働者が実作業に従事していない時間であっても,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれていたものとして,労働時間に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成12年3月9日第1小法廷判決・民集54巻3号801頁,同平成14年2月28日第1小法廷判決・民集56巻2号361頁)。
 そこで,このような観点から以下検討する。
 (2) 休憩施設等滞在時間の労働時間該当性の検討
 ア まず,Xらは,その業務内容が顧客の荷物を預かって目的地までの輸送・搬入であること,輸送中に積載貨物を盗難被害等に遭う可能性があり,その場合には運転手が責任を問われるおそれもあること,積載貨物は高価な精密機械であることなどの観点から,その積載貨物を常時監視しなければならない職務上の義務がある旨主張する。
 以上の点について,確かに,就業規則上トラック運転手の服務心得として受託貨物は細心の注意を払って大切に取り扱うことが定められている(38条45号,書証略)が,この規定から直ちにトラック運転手が積載貨物を常時監視する義務を生じさせるものと解することはできないし(証拠略),その他労働協約(書証略)や就業規則(書証略)等を見ても,労働契約上Xらに積載貨物を常時監視することを義務付けるような規定等の存在は認められない。また,YがXらに対してトラックから離れずに積載貨物を監視するように指示したことはなく(…),その他にトラック運転手に対する明示的な積載貨物の常時監視義務を認めるに足りる事情はない。
 また,積載貨物は主に約350キログラムから約500キログラムの重量のある医療用精密機械である(…,人証略)ところ,このような積載貨物については,当該貨物のみを窃取するという形態の盗難の可能性は高いとみることはできないし(人証略),有害・危険な毒物等の貨物などとは異なり,その貨物の性質上からして常時監視が必要となるような性格のものでもない。加えて,積載貨物には保険が掛けられていること(…),車両の構造(…)に鑑みれば運転手が適切にエンジンキーを管理している限り盗難等のおそれは低いこと,エンジンキーを適切に管理していたにもかかわらず盗難が発生した場合に当該運転手に対して制裁を科すような内部規程も見当たらないこと(人証略)からすれば,積載貨物の価額や盗難の可能性等を起点としてこれによってXらに積載貨物を常時監視することが義務付けられていると解すべきことにもならない。以上に対し,X4は,貨物盗難の可能性によるYの信用低下や運転手の評価の低下につき供述する(人証略)が,前記のように,YはXらに対してトラックから離れずに積載貨物を監視するように指示したことがなく(…),Yが事実上貨物盗難の可能性による信用低下の危険を引き受けているのであれば,そうであるにもかかわらずXらが殊更に盗難の可能性を慮る必要はないし,ましてや職務上の義務はないというべきである。また,エンジンキーを常時保管,携帯するなどトラックの適切な管理をしていた場合に万が一盗難が発生したとしても,そのことをもって直ちに当該運転手の評価を低下させることにもならないし,そもそもそれによってXらのYに対する労働契約上の積載貨物の常時監視義務を基礎付けるものともいえない。
 さらに,Xらは,休憩施設等において,車内で,睡眠を取ったり,飲酒したり,テレビを見たり,トラックを駐車した上でそこから離れて,飲食物を購入したり,入浴したり,食事をとったりするなどして過ごしており(…),ホテル滞在時においても,トラックの確認は一日2回程度にとどまり,その他の時間は客室において携帯端末を用いてニュース記事を見たり,ゲームをしたり,テレビを見たり,飲食のために外出したりするなどしていた(…)のであるから,X4も自認しているとおり,そもそも積載貨物を常時監視していたとは認め難い(人証略)。そして,Yはこれらの行動を特に規制するような指示はしておらず,かえってトラック運転手の裁量にゆだねていたこと(…)からすれば,休憩施設等滞在時間は,Xらにおいて業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間であるということができる。
 イ また,Xらは,長距離運転中,SA棟において,①取引先等からの問合せに対する対応,②運転手間の荷物の受渡しや積替え等の作業等の業務に従事したり,③上記②の作業のために待機したりしているとした上で,休憩施設等滞在時間は労働時間に該当する旨主張し,X4はこれに沿う供述をし,更に,④積載貨物の状況確認,⑤積載貨物の固定作業,⑥運行日報の作成,⑦除雪に沿う車両移動,⑧車両の点検作業,⑨目的地までの経路等の確認等の業務を行う旨供述する(人証略)。
 しかしながら,上記①の深夜の問合せについては午後10時以降恒常的に生じていたとは認め難く(人証略),時季や地域が限定される上記⑦の除雪時の車両移動も同様である。また,X4は,上記⑥の運行日報(書証略)の作成に約10分要するなどと供述する(人証略)が,単に停車するSA等の場所とその出入りの時間を運行日報に記載するのにそれだけの時間を要するとは考え難い。X4は,SA等を出発する際にも約20分ないし30分要する旨も供述する(人証略)が,本件営業所を出発する前に,運行指示書により経由地及び目的地並びにそれらの到着・出発日時について具体的な指示を受けており(書証略),おおよその経路は見当がついているにもかかわらず,上記のように複数回,数十分もかけて経路を何度も確認する必要性を見出し難い。このように,X4のSA等において種々の作業を行っている旨の上記供述には直ちに措信し難いものが多分に含まれているといわざるを得ない。
 そして,運行日報(書証略)等を見ても,Xらが主に深夜早朝の時間帯であるSA等の滞在時間(…)において恒常的に上記作業(ただし,上記⑥は除く。)に一定時間従事したことを窺わせる記載は見当たらず,その他に上記作業に一定時間従事したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 仮にXらが長距離中にSA等で上記作業を行うことがあったとしても,上記のとおり恒常的に行っていたとは認められないことに鑑みると,業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間(上記ア)と上記作業とを峻別することができていないといわざるを得ない。また,運行日報(書証略)はSA等において恒常的に作成されていたとしても,そのSA等の到着・出発時刻の記載を見ると,現実にSA等に到着・出発した時刻ではなく,トラックを停車させた後に運行日報に記入した時の時刻が記載されている可能性を否定することができず,そうであれば,その作成時間はトラックの運転時間に含まれている可能性もある。
 したがって,X4の上記供述を採用することはできず,Xらの主張は失当である。」