国際自動車(再雇用更新拒絶・仮処分第1)事件‐東京地決 平28・8・9 労働判例1149号5頁

【事案】
 Yとの間で有期労働契約を締結して稼働していたXらが、Yによる労働契約の更新拒絶が労働契約法19条に違反するなどと主張して、Yに対し、地位保全等を求めたもの。

【判断】
「ア Yは、平成26年6月に本件組合との間で本件供給契約が締結されたことにより、定年を迎えた従業員について再雇用のために労働者供給の申込みをするか否かはYの自由裁量であるから、本件供給契約は労働契約法や労働基準法の規制に服さず、本件雇止めに労働契約法19条の適用はない旨主張するので、最初にこの点について検討する。
 イ 本件供給契約は、Yが供給の申込みをした供給労働者とYとの間で、別途再雇用契約が締結されることを前提としているものと認められる(〈証拠略〉)。そうすると、本件供給契約に基づくYからの供給申込みが契機となるとしても、XらとYとの契約関係は雇用関係であるから、労働契約法及び労働基準法が適用されることは明らかである。
 ウ Yは、本件供給契約に基づき、定年者についてYが労働者供給の申込みをするか否かはYの自由裁量に委ねられているから、Xらとの間の労働契約に労働契約法19条の適用はない旨主張する。
 しかし、本件供給契約の締結により、契約期間の満了した労働者に対する供給申込みがYの自由裁量に委ねられ、その結果Yと労働者との有期労働契約の更新の場面に労働契約法19条が適用されなくなるとすれば、本件供給契約は、労働者保護の観点から労働者供給事業の原則禁止を定めた職業安定法44条の趣旨に反するとともに、労働契約法19条による規制を潜脱するものとして公序良俗に反し無効というべきである。また、本件供給契約に基づく供給申込みがYの自由裁量に委ねられるとすれば、定年後の有期雇用契約の締結について従前よりも労働者の地位を著しく不安定にすることになるが、労働者の労働条件の維持改善等を主たる目的とする本件組合が、かかる不利益な内容の本件供給契約を締結することはおよそ考え難いというべきである(むしろ、本件組合としては、所属組合員の定年後の安定的な継続雇用が制度的に保障されると考えたからこそ、Yとの間で本件供給契約を締結したと解するのが合理的である。)。さらに、Xらが平成27年2月及び3月にYとの間でそれぞれ締結した雇用契約書には、「契約更新の有無」の欄の「更新の判断基準に基づき更新する」との記載にチェック印が付され、会社都合及び労働者都合による期間満了に伴う契約終了の各場面について、契約更新の判断基準が列挙されているところ(〈証拠略〉)、当該記載も、労働者との有期労働契約の更新の有無が、Yの自由裁量による供給申込みの有無に委ねられるのではなく、一定の合理的な判断基準に基づくものであったことを裏付けるものといえる(なお、・・・本件供給契約導入後にXらとYとの間で締結された各雇用契約に関して、まず雇用契約の締結が先行し、その後にYから本件組合に対し、Xらに係る労働者供給の申込みがなされるという実態が認められ、このことは、本件供給契約に基づくYから本件組合に対する供給申込みの手続自体が名目的なものにすぎなかったことを窺わせる一事情ということができる。)。
 エ 以上のとおり、本件供給契約は、2条2項の「甲(Y)の申込みに応じて」との文言にかかわらず、Yに労働者供給の申込みについて自由裁量を与えたものと解することはできず、本件供給契約締結後の有期労働契約の更新の場面であっても、労働契約法19条が適用されるというべきであり、これに反するYの主張は採用できない。
 そして、Yが有期労働契約の期間満了を迎えたXらについて、本件供給契約に基づく申込みをしなかったことは、当該有期労働契約について更新しないことを意味するから、労働契約法19条柱書の「申込みを拒絶する」場合に該当することになる。」

「争いのない事実並びに後掲疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、①Xらを含む本件組合員ら58名が、平成28年1月12日、Yに対し、残業代等の支払を求める別件訴訟を提起したこと(〈証拠略〉)、②平成28年1月26日に本件組合とYとの間で行われた団体交渉において、Y代表者は、会社(Y)を提訴するような従業員と再雇用契約や契約更新するつもりは一切ない旨を明言し、実際に別件訴訟の原告となっている組合員については本件供給契約に基づく供給申込みを一切していないこと(〈証拠略〉、審尋の全趣旨)、③Yは、平成28年2月16日付けで別件訴訟の原告となっている各組合員に対し、各人が原告として別件訴訟を提起したことを確認したとする通知書を送付したこと(〈証拠略〉)、④別件訴訟の原告となっていた組合員のPがYに対する訴えを取り下げると、Yは平成28年2月8日付けで、同人に対する供給申込みをしない旨の通知を撤回し、改めて供給の申込みをしていること(〈証拠略〉)の各事実が認められ、・・・YがXらについて本件雇止めをした主たる理由は、Xらが別件訴訟を提起した点にあると推認することが相当である。
 そして、使用者たる会社に雇用されている従業員が、残業代の支払を求めて当該会社に対して民事訴訟を提起することは、それが一見して正当な権利を有しないことが明白であるような特段の事情のある場合を除き、労働基準法上の正当な権利行使というべきであるところ、本件においてかかる特段の事情を認めるに足りる疎明はないから、Xらが別件訴訟を提起したことをもって有期労働契約の更新を拒絶する合理的な理由に当たらないことは明らかである。
 この点、Yは、従業員が会社を提訴すること自体が労働契約の重大な不更新事由の一つであると主張するが、かかる主張は、裁判を受ける権利の保障(憲法32条)及び労働基準法の趣旨を没却する独自の見解といわざるを得ず、採用することができない。また、Yは、Xらの主張によれば、いかに勤務成績や態度が劣悪であろうとも、提訴によって会社(Y)は雇用(契約更新)を強制されてしまう旨主張するが、契約更新を拒絶するに足る客観的に合理的理由があり、社会通念上相当と認められる場合であれば、提訴の有無にかかわらず契約の不更新が違法とされることはないのであるから、Yの上記主張は失当である。
 ウ まとめ
 以上のとおり、YのXらに対する本件雇止めは、いずれも客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえないものとして無効であるから、Xらについては、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されたものとみなされる(労働契約法19条)。
 したがって、Xらは、Yとの間の労働契約上の地位を有していること(被保全権利)が認められる。」