マイラン製薬事件‐東京地判 平30・10・31 労働経済判例速報2373号24頁

【事案】
 MRとして勤務していたXが,Yに対し,労働契約上の権利を有することの確認等を求めたもの。

【判断】
「(2) 解雇回避努力
 ア 他の職種への転換可能性
 まず,Xを他職種に配転することが可能であったか否かについて検討すると,①Xは,大学卒業後,他の製薬会社において一貫して医薬品の営業職として勤務したところ,その職歴等を評価されてYに医薬品の営業職として中途採用されて(…),同採用の約半年後に医薬品の営業に特化した専門性の高い技能を要するMR資格を取得し,それ以降10年以上にわたって一貫してMRの業務に従事し続けており,他方で,就職してから医薬品の営業職以外の他職経験は全くないこと(…),②Yにおいて社員公募制が採用されており,異なる部門間の配転は基本的には予定されていないこと(…),③Yにおいて給与(役割給)はその役割責任に応じた等級により定められる職務等級制が採用されているところ(…),この職務等級制の下における月額賃金は,X(MR資格あり)は約50万円(…),他方で,入社時のX(MRの資格なし)は約30万円(…),特別な資格,知識又は類似職務における職歴が必須でない役職の従業員は約23万円前後(証拠略)であり,MRの資格保有の有無によってその賃金条件につき顕著な差が生じていること,④…Yにおいて,Xの保有するMRの資格やキャリアに見合った役職や業務は見当たらないことを総合的に考慮すれば,Xに対する他職種への配転は極めて困難であったといわざるを得ない。
 そうすると,他職種への配転の措置を講じなかったとしても,その一事をもって直ちに解雇回避努力が尽くされていないと判断することは相当ではない。
 イ Yが講じた解雇回避措置
 (ア) A2への出向先確保
 Yは,…人員削減の必要性が生じた後に,A2に働き掛けて本件各MRの38名の出向先を確保している(…)ところ,かかる事情はYが一定の解雇回避措置を講じたものとして評価することができる。
 これに対し,Xは,早期退職者の募集をしていないから,上記出向先の確保は解雇回避措置として不十分である旨主張する。しかしながら,A2は,関連会社とはいえ,別法人であり(…),当初,出向受入に難色を示していたこと(…),出向者枠が38名と少なく(…),同社の財務状況等に相応の負担を与え得ること,本件各MRは総勢173名おり(…),その能力やキャリアも多様であることなどの事情を考慮すれば,本件各MRのうち同社が求める優秀な人材を選抜すること自体には合理性が認められる。そして,上記のような優秀な人材は転職が容易であるともいえるところ,早期退職者の募集手続を採ると,これらの人材が流出するおそれがあり,これにより上記出向が頓挫する事態を招来しかねないということができ,かかる観点からすれば,早期退職者の募集手続を採らなかったからといって,A2への出向先を確保したことが解雇回避措置に当たらないとも,その努力の評価の程度を減殺することにもならないというべきである。
 したがって,Xの上記主張は採用することができない。
 (イ) 社内公募の案内等
 Yは,Xに対し,文書ないし個別面談により現在社内公募されているポジションの案内,説明等をしている(…)。このようなYの行為は,Yでは従業員の採用につき社内公募制が採用されていて(…),異なる部署に及ぶXの配転が困難であること(前記ア)を踏まえながらも,XがYに在籍し続けることを可能な限り支援するものとみることができる。そうすると,Yは,Xに対して解雇回避措置を行ったということができる。
 以上に対し,Xは,上記案内に係る役職は,採用に係る難易度が高く,応募しても採用されないことは明らかであり,上記案内は解雇回避の努力に当たらない旨主張する。しかしながら,Xは社内公募制によりYに在職し続ける機会が与えられるところ,社内公募に向け,Yが上記案内や説明等することは解雇回避に向けた努力に当たるとみることができるし,他方で,解雇回避の措置として,企業秩序や本件各MRを含む従業員との公平性を犠牲にしてまでXに対してのみ特別に便宜を取り計らうことが要求されると解すべく理由もない。そうすると,上記Xが主張する点を考慮し,上記案内に係る当該役職の採用の難易度が高かったとしても,それらが社内公募の案内が解雇回避措置とみることができるという上記結論を左右するもの足り得ないというべきである。上記Xの主張は失当であり採用することができない。
 (ウ) 配転や出向の検討
 Yは,Xの配転につき,大きな制約がありながらも(前記ア),工場勤務の出向案を打診したり(…),Xの提示した経験や資格に適する役職について一応検討したり(…)するなどして,同社にとどまりたい旨主張するXの意向を汲んで,可能な限り配慮したということができ,これらも解雇回避措置としてみることができる。
 以上に対し,Xは,配転の検討に半日程度しか時間がかけられておらず不十分であるとか,工場勤務の配転を命じるべきであったとか主張する。しかしながら,前者の主張については,上記アに説示したとおりそもそも配転の現実的可能性があったとはいえないこと,その検討の程度は必ずしも時間に比例するともいえないことからすれば,採用の限りではない。また,後者の主張については,YがXに対して工場勤務のポストへの出向案を提示したが,Xが特に反応を示さなかったこと(…),同ポストへの出向は,前記アのとおり賃金の大幅な低下という著しい不利益をもたらすことからすれば,上記出向を命じたとしてもXがこれに応じる可能性は極めて低かったというべきである。以上からすれば,上記Xの主張は採用することができない。
 ウ 解雇回避措置に対するXの対応
 (ア) Xは,解雇回避措置の一環として行った社内公募の案内の説明を受けても(…),自分で選択するには無理があるなどと述べて,結局,社内公募に応募しなかったこと(…),Dから提示された出向案につき何ら反応を示さなかったこと(…)からすれば,これらの解雇回避措置を選択肢の一つとして真摯に検討しなかったとみることができる。
 (イ) また,Xは,Dから今後の手続の進め方について電話協議を打診されても(…),電話で述べる内容の要旨を電子メールにて送信するように提示するだけで,電話協議の候補日時について連絡しなかった(…)。
 さらに,Dが今後の処遇について協議すべき架電しても,Xは,これに応じないばかりか,折り返し架電することもなく(…),再び上記と同一の電子メール送信の指示に終始した。
 加えて,このような対応は,Dが書面によりXの処遇について説明の機会があることを連絡しても(…),変わるところはなく,結局,XはYに対して連絡をしなかった(…)。
 これらの事情を考慮すれば,Xは,Yからの解雇回避措置も含めたその処遇に関する協議の申入れについて取り合わなかったというほかはない(人証略)。
 以上に対し,Xは,Dから上記のほかに連絡がされなかった,業務用の携帯電話機に架電されなかったから受電できなかったなどとして,話合いを拒否していない旨主張するが,仮にX主張に沿う事実があったとしてもそれが上記説示した判断を覆すに足りる程度のものが存したことを立証する証拠はなく,他に上記判断を覆すべき事情を認めるに足りる証拠もない。Xの主張は採用することができない。
 (ウ) 以上の事情に加えて,Xは,YにおいてMRの就くべき業務が消滅した(…)上,配転も困難である(前記ア)という状況において,これにつき重ねて説明を受けている(…)にもかかわらず,なおもYに対して一方的にその内容が判然としない「業務指示」を繰り返し求めていること(…)も併せて考慮すると,Xは,正社員で年収750万円以上という当時の処遇の保障に固執し,Yから示された解雇回避措置については選択肢の一つとして真摯に検討することもせず,また,Yからの協議の申入れについても取り合わないという態度に終始しているといわざるを得ない。
 エ 小括
 以上からすれば,Yは,全従業員数の4割を超える大規模な余剰人員が生じたという非常事態下(…)において,その人事制度の仕組みや配転が困難であるという制約の枠内(…)で,なし得る限りの有為な解雇回避措置を複数採っている(…)ということができる。それにもかかわらず,Xは,解雇回避措置を真摯に検討しなかったばかりか,Yからの協議の申入れについて取り合わなかったのであって,Xの協力が得られない以上,Yが上記各措置以上の解雇回避措置を採ることも困難であるから,…人員削減の必要性が経営政策上の必要性にとどまることを踏まえても,Yは,相応の解雇回避措置を講じ,解雇回避努力を尽くしたとみることができる。」

「人員削減が経営政策上の必要性に由来するにとどまることを踏まえてもなお,Yは,大規模な余剰人員が生じるという非常事態において,その人事制度上の制約下で,有意な解雇回避措置を複数講じた一方で,XにはYとの協議に応じた上でその提案を真摯に検討する姿勢が欠けていたといわざるを得ないのであって,Yがそれ以上の解雇回避措置を講じることは困難であった。そうすると,Yとしては,本件における具体的な事実経過に照らして相応の解雇回避措置を講じ,解雇回避努力を尽くしたということができる。そして,Xを被解雇者として選定することも合理的であり,本件解雇に先立つ手続が不相当であるともいえず,かえってYとしては十分な説明・協議を尽くしたといえる。したがって,本件は「事業の縮小その他会社の都合により止むを得ない事情にあるとき」(就業規則26条1項5号)に該当し,本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認めることができる。」