Y社事件-東京地判 平28・11・16 労働経済判例速報2299号12頁

【事案】
 Yの従業員であったXが、Yの行った懲戒解雇が無効であると主張して、Yに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたもの。

【判断】
「イ(ア) XのB及びDに対する言動は、業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの、いずれも強い口調での罵声を伴うものであるし、Dに対しては年齢の割に役職に就いていないことを非難するような発言をし、Bに対しては、「お前、アホか」と言ったり、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなど、相手の人格や尊厳を傷つけるような言動に及んでいる。また、Bに対する「お前、クビ」「おまえなんかいつでも辞めさせてやる」という発言は、相手にいつ仕事を辞めさせられてもおかしくないという不安を抱かせる内容であり、発言の前後の文脈を考慮したとしても、上司の地位を利用した理不尽な言動と評価せざるを得ない。
 このように、XのD及びBに対する言動は、業務に付随してされたものである点を考慮しても、理不尽な言動により部下に精神的苦痛を与えるものであり、業務上の指導の範疇を逸脱した違法なものというべきである。
 (イ) XのF及びEに対する言動についても、業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの、同様にいずれも強い口調での叱責を伴うものであるし、Fに対しては「今まで何も考えてこなかった」「そんな生き方、考え方だから営業ができない」「お前は生き方が間違っている」などとFのそれまでの生き方や考え方を全て否定するような発言をしている上、「お前は丸くない、考え方が四角い」という話をして、Fが内容を理解できずに意図を尋ねてもまともに答えずに、丸と四角の絵を何度も描かせるなどし、その結果、Fは業務中に度々涙を流していたというのである。
 また、Xは、Eに対し、「お前は嫌いだ」「話しかけるな」などと発言し、EがXと会話をすることや部内のミーティングへの参加を禁止したり、Eが出社後会社にいることを許さず社外で一日過ごさせるなどの行動に及び、Eが休日子どもと遊ぶ写真をフェイスブックに投稿したところ、「よく子どもと遊んでいられるな」と発言するなどして、その結果、Eが精神的に耐え難い苦痛を感じ、適応障害に罹患するまでの状態に精神的に追い詰められていたことが認められる。
 このように、XのF及びEに対する言動もまた、業務に付随してされたものである点を考慮しても、両名の人格や尊厳を傷つけ、理不尽な言動により部下に精神的苦痛を与えるものであり、業務上の指導の範疇を逸脱した違法なものというべきである。」

「ア Xは、平成26年3月末にB及びDに対するハラスメント行為によりYから厳重注意を受け、顛末書まで提出したにもかかわらず、そのわずか1年余り後に再度F及びEに対するハラスメント行為に及んでおり、短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んだ態様は悪質というべきである。また、Xによる上記行為の結果、Fは別の部署に異動させざるを得なくなり、Eに至っては適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど、その結果は重大である。
 Xは、2度目のハラスメント行為に及んだ後も、自身の言動の問題性を理解することなく、あくまで部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず、全く反省する態度が見られない。Xは、本人尋問において、1回目のハラスメント行為後Jらによる厳重注意について、「緩い会話」であったと評しており(書証略)、この点にもXが自身の言動の問題性について軽視する姿勢が顕著に現れているというべきである。また、Xの陳述書や本人尋問における供述からは、自身の部下に対する指導方法は正当なものであり間違っていないという強固な信念がうかがわれ、Xの部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しいと判断せざるを得ない。
 このように、Xは、部下を預かる上司としての適性を欠くというべきである。
 さらに、上記のとおり、Xは、自身の部下に対する指導方法を一貫して正当なものと捉え、部下4名に対するハラスメント行為を反省する態度を示していないことに照らすと、仮にXを継続してYに在籍させた場合、将来再び部下に対するパワーハラスメント等の行為に及ぶ可能性は高いというべきである(このことは、Xを東京以外の営業所に異動させたり、グループ企業に出向させた場合にも同様に妥当する。)。Yは使用者として、雇用中の従業員が心身の健康を損なわないように職場環境に配慮する信義則上の義務を負っていると解されること、Yの所属するグループ企業においてはハラスメントの禁止を含むコンプライアンスの遵守が重視されていることを考慮すると、2度のハラスメント行為に及んだXを継続雇用することが職場環境を保全するという観点からも望ましくないというYの判断は、尊重されるべきである。」