イオンディライトセキュリティ事件‐千葉地判 平29・5・17 労働経済判例速報2318号3頁

【事案】
 Xが、Yに対し、割増賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「P店の警備は1名体制であり、警備員は機器類の発報時には即応することが求められていたこと、そのため、本件仮眠時間1における仮眠場所は、P店の防災センター内の警備員室とされており、Yの警備員は、本件仮眠時間1の間も、防災センターを離れることは許されておらず、寝巻きに着替えて仮眠をとることもなかったこと、実際に、XがP店の警備業務に従事していた8か月間に、Xが仮眠時間中に緊急対応のため出動したことは少なくとも4回あり、X以外のYの警備員が仮眠時間中に緊急対応のため出動したことも少なくとも1回あったことが認められる。
 また、・・・本件休憩時間1においては、Yの警備員は出入管理業務に従事する必要はなかったものの、本件仮眠時間1と同様に、機器類の発報等があった場合には即応することが求められていたことが認められる。
 これらの事実関係に照らせば、Xは、本件仮眠時間1及び本件休憩時間1の間、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられており、実作業への従事は、その必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないというべきであるから、本件仮眠時間及び本件休憩時間1は、全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。
 なお、本件休憩時間1について付言すれば、仮に、XがP店の警備業務に従事していた8か月間に、X又はX以外のYの警備員が本件休憩時間1の間に緊急対応のため出動したことが皆無であるか又はほとんどなかったとしても、その理由は、本件休憩時間1の長さが30分にすぎないことにあると考えられるし、本件仮眠時間1と本件休憩時間1とでYのXに対する義務付けの内容を別異に解すべきことを基礎付ける事情も特に見いだせないことからすれば、本件休憩時間1について実質的に上記のような義務付けがされていなと認めることができるような事情が存するということはできないというべきである。
 したがって、Xは、本件仮眠時間1及び本件休憩時間1の間、不活動時間も含めてYの指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間1及び本件休憩時間1は労基法上の労働時間に当たるというべきである。」

「(ア) まず、Xが、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2の間、労働契約に基づく義務として、待機及び対応等が義務付けられていたか否かについて、検討する。
確かに、・・・T店の夜間の警備体制は、A1勤務、A2勤務及びC勤務の3名体制であり、その勤務割は、常に1名は勤務時間となるように組まれており、また、Yが、T店の営業時間外における外向き防犯警報発報等に警備員がとるべき対応として定め、乙から承認を受けていた手順書(本件手順書)には、仮眠者を起こして対応を求める旨の明示的な記載はないことが認められる。
 しかしながら、他方で、本件手順書には、防災センターにおいて対応する警備員(1名)の手順と現場において対応する警備員(1名以上)の手順とが別個に並列して記載されており、特に、現場において対応する警備員(1名以上)の手順のうちには、休憩等に入っている警備員が、館内放送を確認の上、現場監視を行うべき趣旨の記載がある。また、本件手順書には、対応時のポイントとして、「常駐警備員は、「防災センター」を無人にしない」との記載があるとともに、防災センターにおいて対応する警備員が行うべきとされている侵入事案発生の緊急放送の放送文例中には、「警備員は所定の行動に移れ!」との記載があり、他方、Yと丙との間のT店の警備業務の委託契約に添付された本件警備計画書には、Yの警備員は、機械警備が発報した場合、直ちに発報エリアの現場確認を行う旨の記載がある。これらの各記載に照らせば、本件手順書は、T店において営業時間外における外向き防犯警報が発報した場合には、勤務時間中の警備員1名に対して、防災センターにおける対応を求めるとともに、仮眠時間又は休憩時間に入っている警備員に対して、現場対応を求める旨を記載したものであると解するのが相当である。
 また、・・・Yが警備業務に係る業務内容等を記載して警備員に交付していた手帳には、休憩時間であっても火災などの突発的な緊急事案の対応が必要となることがある旨の定めがあり、しかも、Yは、T警備隊において、警備2名以上の店舗においては発報時は仮眠中の警備員も起きることとする旨の注意書きが付されたフローチャートに基づき侵入事案対応訓練を行ったり、夜間侵入事案発生時に仮眠者を起こさないことが対応不備に当たる旨の指南を含む書面を発出して警備員に対する注意喚起を図ったりしていたというのである。そして、実際に、T警備隊においては、発報があった場合及び震度3以上の地震があった場合には、基本的に仮眠者を起こして対応するという運用がとられており、Yも、T警備隊において、そのような運用がとられていることを認識していたというのである。これらの各事情に照らせば、Yは、T警備隊において、発報等があった場合には、仮眠時間又は休憩時間中の警備員に対しても、直ちに相当の対応をすることを求めていたというべきであり、各警備員も、そのことを理解していたために、上記運用がとられていたと解するのが相当である。
 さらに、・・・Yが警備業務に係る業務内容等を記載して警備員に交付していた手帳には、休憩時間における対応の必要が生じた場合に備え、休憩時間に物品購入や食事で防災センターを離れる場合には所在を明確化する旨の記載があったというのであり、実際に、T店の警備員は、仮眠時間又は休憩時間において、防災センター以外の場所で仮眠をとったり、近場に買い物又は食事に行ったりして、防災センターを離れる場合には、発報等があった場合に即応できるように、行き先を勤務時間中の警備員に伝えるとともに、防災センターを離れる警備員にPHSを持たせるなどして、防災センターにいる警備員と防災センターを離れる警備員とが連絡が取れる状態を確保するようにしていたというのである。そうすると、T店の警備員は、仮眠時間又は休憩時間であっても、発報等があった旨の連絡があった場合には、直ちにT店においてこれに対する対応に当たることができるようにするため、T店又はその近辺において事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたものというべきである。
 これに対し、Yは、本件時程表において、本件仮眠時間2について「ノーワーク(始終電なしのため仮眠)」との記載があることをもって、仮眠時間2が労働時間に当たらない旨を主張する。しかしながら、本件時程表には、警備員が本件仮眠時間2において発報等に従事する必要がない旨の明示的な記載はなく、かえって、Yは、T警備隊において、発報等があった場合には、仮眠時間又は休憩時間中の警備員に対しても、直ちに相当の対応をすることを求めていたと解されることは、上記のとおりである。そうすると、本件時程表における上記記載をもって、Yが警備員に対して仮眠時間又は休憩時間中の対応を義務付けていなかったと解することはできないから、Yの上記主張を採用することはできない。
 以上を総合すると、Xは、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2の間、労働契約に基づく義務として、T店又はその近辺における待機と発報等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられていたというべきである。
 (イ) 次に、本件において、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがなされていないと認めることができるような事情が存するか否か、検討する。
・・・T店において、1名の警備員が仮眠中に発報等に対する対応を求められる頻度は、1年間に平均2回ないし4回程度であったというのであり、実際にも、Xは、T店に勤務していた約1年の間に、仮眠時間中に発報に対応を求められたことが少なくとも2回あり、他にも、Xの仮眠時間中ではないものの、深夜の発報が少なくとも3回あったというのであって、XがT店に勤務していた期間の直後の時期には、冷凍機の発報対応により仮眠者が対応を求められる事態が集中して15件発生したというのである。
 これらの事実関係に照らすと、T店においては、Xが勤務していた期間又はこれに近接した時期において、仮眠時間中又は休憩時間中の警備員が発報等により対応を求められる事態が、一定の頻度で生じていたというべきである。そうすると、客観的に見て、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2の間、発報等により警備員が対応を求められる可能性が著しく乏しい状況にあったということはできないから、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2について、警備員が実作業に従事する必要が生じることが皆無に等しい状況にあったとまではいうことはできない。
 そして、他に、実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情についての具体的な主張立証はない。
 以上によれば、本件において、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情は認められない。
 なお、本件休憩時間2について付言すれば、仮に、XがT店の警備業務に従事していた約1年間に、X又はX以外のYの警備員が本件休憩時間2の間に緊急対応のため出動したことが皆無であるか又はほとんどなかったとしても、その理由は、本件休憩時間2の長さが1時間にすぎないことにあると考えられるし、本件仮眠時間2と本件休憩時間2とでYのXに対する義務付けの内容を別異に解すべきことを基礎付ける事情も特に見いだせないことからすれば、本件休憩時間2について実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が存するということはできない。
 (ウ) したがって、Xは、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2の間は不活動時間も含めてYの指揮命令下に置かれていたものであるから、本件仮眠時間2及び本件休憩時間2は労基法上の労働時間に当たるものというべきである。」

「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当すると解される(・・・)。
 そこで検討すると、R店においては、始業時刻は午前8時であるが、毎日7時35分から事業場内の待機室において朝礼が行われていたこと、警備員は全員制服を着用して朝礼に出席することを義務付けられていたこと、警備員が警備業務を行うに当たっては、制服を着用すべき法律上の義務が課せられており(警備法16条1項)、Yにおいて就業するに当たっても制服の着用が不可欠であったこと、Yにおいては、制服を着用しての出退勤が禁止され、制服への更衣は事業場内で行うべきこととされていたため、警備員が事業場内で制服に更衣していたことについては、当事者間に争いがない。
 そうすると、Xは、警備員としてR店に勤務するに当たり、朝礼への出席及びこれに先立つ制服への着替えを義務付けられ、また、これらを事業場内において行うこととされていたというべきであって、上記特段の事情についての具体的な主張立証もないから、上記朝礼及び着替えに要する時間は、Yの指揮命令下に置かれていたものと評価することができる。」

「Yは、平成26年11月、T警備隊のC副隊長から、Xは勤務態度に問題がある旨や、Xから勤務中に頻繁に非難を受け、それが精神的な負担となり、うつ状態との診断を受けた旨の申告を受け、平成27年5月には、T警備隊の2名の隊員が、Yの面談調査に対し、休憩時間であるにもかかわらずXから勤務の交代を頼まれて困っていた旨を述べているというのであり、更に、Yは、同年4月、丙のT店のDチーフから、Xが3月31日に実際には巡回業務を行っていないにもかかわらず巡回業務を行ったと述べたことがあったなどの苦情を受けたというのである。そうすると、それらの申告に係るXの非違行為の有無及び程度についてはひとまず措くとしても、少なくとも、T警備隊においては、上司、複数の同僚及び取引先から、Xの勤務態度ないし勤務中の言動についての苦情が寄せられる事態が生じていたということができる。そうであれば、本件配転命令及び本件業務命令の当時、そのような人事管理面及び営業面の不適切な事態を解消するため、XをY警備隊から異動させる業務上の必要性があったと認められる。
 また、・・・X代理人は、同年5月、Yに対し、Yにおける仮眠時間は労働時間に算入すべきであるとして、未払割増賃金を請求したというのである。そうすると、そのような請求があって以降も仮眠時間が伴う警備業務にXを従事させるとすれば、その仮眠時間の労働時間該当性をめぐって、係争額が増大し、紛争が拡大する事態は避けられないというべきである。そうであれば、本件配転命令及び本件業務命令の当時、そのような事態を防ぐため、仮眠時間が伴う警備業務から事務業務へとXを異動させる業務上の必要性があったと認められる。
 さらに、・・・Xは、本件業務命令により、警備業務責任者用の教本のワープロ入力を行うよう命じられたというのであるが、そのようにして教本の内容のデータ化が実現されれば、そのデータをYにおいて教材作成等の用途に活用することが可能であるというべきであるから、Xが命じられた業務自体が必要性を欠くものであったということもできない。
 以上によれば、本件配転命令及び本件業務命令に業務上の必要性が存しなかったと認めることはできない。」

「本件配転命令及び本件業務命令は、業務上の必要性が存しないものではなく、かつ、不当な動機・目的をもってなされたものであるとも、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとも認められないから、権利の濫用になるものではなく、Xに対する不法行為を構成するものでもないというべきである。
 したがって、本件配転命令及び本件業務命令が、パワーハラスメント、不当配転又は仕事差別に当たり、Xに対する不法行為を構成するとのXの主張を採用することはできない。」