判例(社会保険)

March 12, 2018

マンボー事件‐東京地判 平29・10・11 労働経済判例速報2332号30頁

【事案】
 Xが,Yに対し,割増賃金等の支払等を求めたもの。

【判断】
「ア …Xの採用面接時の担当者であるCの証言等(書証略)を前提としても,Cは,同面接時,Xに対し,勤務条件について,休憩1時間を含めた1日12時間シフトの週6日勤務で,賃金総額が30万円であり,賃金総額の増額決定がない限り同額を超えて支給されることは一切ない旨を説明したにとどまり,賃金総額30万円のうちのどの部分が固定残業代に当たるのかについて説明をしていなかったものである。しかるに,同説明のみでは,賃金総額について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができず,Xが同説明を受けた上で本件労働契約を締結したとしても,Yとの間で有効な固定残業代に関する合意をしたとはいうことはできない。
 そして,基本給の額がいくらであるかは,割増賃金の算定に大きな影響を生じさせるなど,労働者にとって極めて重要な事項であるところ,その後,…Yにおいて,支給明細上,一方的に定めた割合により賃金総額を「基本給1」と「超過勤務手当」に分けて支給するにとどまり,本件各証拠によっても,Xにおいて,賃金総額の振り分け方法について十分に理解した上で,これについて明確な同意を積極的にしていたと認めることもできないこと(むしろ,Yの人事部長を含むYの他の従業員も,賃金総額のうちいくらが割増賃金に当たるのか明確に認識・理解していなかったものである。(人証略))。)からすると,XとYとの間で,賃金総額の15分の7に相当する額を週26時間分の固定残業代として支払う旨の合意があったということはできない。なお,…本件誓約書には,割増賃金について,当時の就業規則第25条に基づき,毎月定額で支給されることを了承する旨の記載があるが,同条の内容は明らかでなく,そもそも,当時,就業規則が存在し,その内容が周知されていたのかも不明であることからすると,同誓約書によりXとYとの間で本件固定残業代についての合意があったと認めることもできない。
 さらに,本件就業規則についても,本件労働契約締結後に施行されたものである上,Yにおける上記の賃金の支給方法は,そもそも,本件就業規則第26条が定める割増賃金の支給方法と異なるものである。
 以上によれば,本件固定残業代が本件労働契約の内容になっていたとはいえない。
 イ また,仮に本件固定残業代についてXの同意があったとしても,本件労働契約においては当初から,労働者の労働時間の制限を定める労働基準法32条及び36条に反し,36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働を恒常的に義務付けられ,同合意は,その対価として本件固定残業代を位置づけるものであることからすると,36協定の有効性にかかわらず,公序良俗に反し無効である(民法90条)と解するのが相当である。
 なお,Yは,本件固定残業代に関する合意が無効となるとしても,当事者の合理的意思からすれば,少なくとも36協定により合意された45時間分の時間外労働に対する割増賃金を固定残業代の形で支払う旨の合意であると解釈すべきであると主張する。この点に関し,Xは,平成27年3月31日付け労使協定における代表者の信認の確認書に押印していた(書証略)ものである。しかし,それ以前の確認書にはXの押印はなく(書証略),上記押印についても,その際にXが具体的にどのような説明を受けていたかを認めるに足りる客観的な証拠はなく,証人E(人証略)の証言を前提としても,Xは,「Yに在籍しているので,押しますけど」と述べていたというのであって,積極的に押印をしていたともいえないものである。本件においては,上記アのとおりの採用面接時のCの説明内容からしても,Yにおいて少なくとも36協定により合意された45時間分の時間外労働に対する割増賃金を固定残業代の形で支払う旨の意思が包含されていたとは認め難く,他方でXは賃金総額の振り分け方法についてさえ十分に理解していなかったものであり,これまで判示したところに照らして,X及びYにYが主張するような合理的意思を見出すことは困難といわざるを得ない。」

「(1) 厚生年金保険法,健康保険法及び雇用保険法が,事業主に対して被保険者の資格取得について保険者に対する届出を義務付けることにより,強制加入の原則を採用している目的は,これら保険制度の財政基盤を強化することにとどまらず,当該事務所で使用される特定の労働者に対して保険給付を受ける権利を具体的に保障することにもあると解すべきであるから,使用者は,労働者に対し,不法行為上の作為義務として,法の要求する上記届出を適正に行うべき義務を負い,使用者が同義務を怠った場合には,労働者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
 本件において,Yは,Xについて上記届出義務を怠っていたものであるから,不法行為に基づき,これによりXが被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額を賠償すべき責任を負う。
 (2) そこで,上記慰謝料額を検討するに,Xは,Yの上記届出義務違反により,不安な気持ちで就労することを余儀なくされたことは否定できないものの,これにより具体的にどのような経済的損害が生じたかは明らかでない上,入社時に社会保険に加入していない旨の説明を受け,支給明細書の記載からも未加入であることを認識しつつも,Yに対し,加入を求める等の対応をとることもなかったこと(人証略)からすると,慰謝料額としては…円が相当である。」

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