国・三田労基署長(シー・ヴィ・エス・ベイエリア)事件‐東京高判 平28・9・1 労働判例1151号27頁

【事案】
 Xの子であるKが、業務に起因して精神障害を発症し自殺したとして、Xが労災保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を請求したところ、処分行政庁が不支給処分を行ったため、処分の取り消しを求めたもの。
 1審がXの請求を棄却したため控訴。

【判断】
「認定基準は、対象疾病の発病の有無、発症時期及び疾患名は、診断ガイドラインに基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、関係者からの聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断されるとした上、精神障害の治療歴のない事案の場合には、関係者からの聴取内容等を医学的に慎重に検討し、診断ガイドラインに示されている診断基準を満たす事実が認められる場合又は種々の状況から診断基準を満たすと医学的に推定される場合には、当該疾患名の精神障害が発病したものと取り扱うものとしている(〈証拠略〉)。」

「Kは、A6店勤務時から本件店舗に配置転換された後も、店舗の業績や人事管理、人間関係等に悩み、平成20年1月から同年6月までの間、毎月おおむね120時間を超える時間外労働に連続して従事し、自らの限界を感じて自信を喪失し、罪責感を抱いて本件会社を退職することを考えるようになり、遂には本件会社に退職の意向を伝えたものの、慰留され、次第に追い詰められた心境になったものと認められる。Kは、本件会社に対し、退職理由として仕事上の不満や問題を伝えることなく、あえて父の病気という虚偽の事実を伝え、退職後の生活設計もないまま本件会社を退職しようとしたところ、Yは、これを本件会社を円満に退職するための方便と指摘するが、Kが虚偽事実を伝えてまで退職を希望したことは、その追い詰められた精神状態の一端を示すものと考えるべきである。また、平成20年5月以降に家族と共に食事や温泉施設に宿泊した際のKの様子からは、仕事で疲弊し、不眠や食欲不振当等の症状があったことが認められるし、Kは、元居室を賃借していたにもかかわらず、家族に黙って新たに本件居室を賃借し、後に同居室で縊死したところ、その頃の元居室及び本件居室の状況からは、本件自殺直前のKの強い希死念慮と精神状態の混乱がうかがわれる。加えて、Kは、本件会社において一度も不正を行ったことがなかったところ(〈証拠略〉)、漸く本件会社を退職することが決まって退職日を調整中であったにもかかわらず、あえて本件レジ事件を惹起した上(本件店舗のレジから現金を出入金すれば、システム上、その日時や出入金者が特定される仕組みとされており(〈証拠略〉)、このことをKが知らなかったとは考えられない。)、本件店舗の金庫の鍵等を所持したまま、無断欠勤して行方不明になるなど、Kの性格や従前の行状からは考えられない異常な行動を取るに至っている。
 そして、Kの行動等に関する上記諸事情を診断ガイドラインの診断基準に照らして検討すると、平成20年5月から、本件レジ事件を惹起して本件居室を新たに賃借するなど異常な行動を取るようになった同年12月中旬頃にかけて、Kには、①抑うつ気分、②興味と喜びの喪失、③自己評価と自信の低下、④罪責感と無価値観、⑤将来に対する希望のない悲観的な見方、⑥睡眠障害、⑦食欲不振等の症状があり、いずれも一時的なものではなく、2週間以上の期間にわたって持続していたと認められるから中等症うつ病エピソードの診断基準に合致するものであるということができる。」