アルパイン事件-東京地判 令元・5・21 労働経済判例速報2398号23頁

【事案】
 Xが,Yに対し,XとYとの間では,定年前の雇用契約の終了後においても再雇用されたのと同じ職務を内容とする雇用関係が存続しており,仮にそうでないとしても,YがXに対して定年後の再雇用の条件としてXの希望する従前と同じ職務内容と異なる職務内容を提示した行為等は違法であると主張して,地位確認等を求めたもの。

【判断】
「2 争点1(XとYとの間に平成29年9月16日以降雇用契約関係が存在するか。)
(1) 検討
ア 高年法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進,高年齢者等の再就職の促進,定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与することを目的とするところ(同法1条),…Yは,満60歳の誕生日以後初めて迎える3月15日又は9月15日を定年としつつ,定年後の継続雇用希望者をその定年後にアルパインビジネスサービスが引き続き雇用する定年再雇用制度を導入して,本人の意向を踏まえつつ,再雇用希望者の知識,技能,ノウハウ又は組織のニーズに応じて職務及び労働条件を設定して事前に再雇用希望者に通知し,再雇用後の業務内容,処遇条件等について了承した者を定年後再雇用するものとして,高年法に基づく高年齢者雇用確保措置である同法9条1項2項所定の継続雇用制度を設けていることが認められる。
 そして,…Yは,上記定年再雇用制度の枠組みの中で,サウンド設計部に関する業務を定年後も引き続き行いたいとのXの希望を聴取しつつも,遅くとも定年のおよそ2年前に当たる平成27年の面談時には,再雇用の場合,Xの上記希望に必ずしも沿えるものではなく,サウンド設計部以外での別種の業務もやむなしとの考えを伝え,定年のおよそ1年前に当たる平成28年9月頃,組織ニーズとして若手の人材確保を進めることなどを理由に,サウンド設計部を勤務部署とする定年再雇用の職務提示はできない旨あらかじめ説明した上で,定年のおよそ2か月前である平成29年7月10日,職務部署を人事総務部とし,職務内容を労政チーム内業務及び人事総務部内業務とする労働条件による定年再雇用を提示して,上記定年再雇用制度に基づく定年再雇用の申込みをしたが,Xは,サウンド設計部で就労することに固執して,これを承諾せず拒否したものである。
 すなわち,Xは,Yが高年法の趣旨に沿って設けた定年再雇用制度に基づいて提示した再雇用後の業務内容,処遇条件等に納得せず,サウンド設計部で就労することができないのであれば,YがXに対してした定年再雇用の申込みを承諾しないこととし,自らの判断により,これを拒否して,Yとの間で定年後の雇用契約を締結せず,そのまま,平成29年9月15日をもって定年を迎えて退職となったものであるから,同月16日以降,XとYとの間に雇用契約の存在を認める余地はない。
 イ この点,高年法は,継続雇用を希望する労働者を定年後も引き続き雇用する旨求めるにとどまり,同法中に,労働者が希望する労働条件での継続雇用をも使用者に義務づける定めはない。すなわち,継続雇用後の労働条件は,飽くまで,労使間の合意により定まるべきものであって,労働者が使用者に対して希望すれば直ちにその希望するがままに勤務部署や職務内容が定年前と同じ雇用契約が定年後も継続するというかのようなXの主張には,法律上の根拠がない。
 また,前記アに説示のとおり,XとYとの間で定年再雇用契約が成立しなかったのは,XがYからの申込みを拒否した結果であり,YがXからの定年再雇用の申込みを拒否したものではないから,解雇権や配転命令権の濫用を理由としてXとYとの間にXの定年後も雇用契約が継続しているとするXの主張は,それ自体,失当である。
 ウ さらに付言するに,Xは,YがXに対して提示した…労働条件のうち,契約期間,年間総労働日数,始終業時間,給与については同意したものであるところ,その余の条件である契約会社,勤務部署,職務内容が客観的に見て誰にとっても到底受け入れられないような不合理なものであったと認めるに足りる的確な証拠はない。Xの本人尋問における供述中には,上記職務内容は誰にでもできる単純作業であるから受け入れられないとの供述部分があるが,上記職務内容がそのようなものであったと認めるに足りる証拠はない。Xの陳述書(書証略)及び本人尋問における供述によれば,要するに,Xは,サウンド設計部における業務を行いたく思っており,上記職務内容に係る業務が受け入れたくない,やりたくない仕事であったことから,サウンド設計部における業務ではなく上記職務内容に係る業務を担当させられることは自尊心を著しく傷つけられ屈辱感を覚えることを理由としてYからの申込みを拒んだというのであり,その理由は主観的なものにとどまる。
 (2) 小括
 以上の次第で,XとYとの間に,平成29年9月16日以降雇用契約関係が存在するものとは認められないから,同契約が更新されたことを前提とする平成30年9月16日から令和元年9月15日までを契約期間とする雇用契約が存在するものとは認められない。
 3 争点2(YがXをその希望する労働条件で再雇用しなかったことがXに対する不法行為に当たるか。) 
 前記2に説示のとおり,XとYとの間でXの定年後に雇用契約が成立しなかったのは,YがXに対して転園再雇用を拒んだからではなく,XがYの申込みを承諾せずこれを拒否した結果であること,YがXに対して申し込んだ定年再雇用に係る勤務場所及び職務内容が客観的に見て不合理であったとは認められないことに照らせば,XとYとの間で定年再雇用契約が成立しなかったことにつき,Yに違法な行為があったと認める余地はない。」