日本ファンド(パワハラ)事件‐東京地判 平22・7・27 労働判例1016号35頁

【事案】
 Xらが、Y1会社の上司であるY2から暴行や暴言を受けたと主張して、Yらに対し、損害賠償等を請求したもの。

【事案】
「(1) X1及びX2に対して扇風機の風を当てた行為について
ア ・・・Y2は、・・・従来扇風機が回されていなかった時期であるにもかかわらず、X1及びX2がたばこ臭いなどとして、扇風機をX1及びX2の席の近くに置き、X1及びX2に扇風機の風が直接当たるよう向きを固定した上で、扇風機を回すようになった。そして、Y2は、X2に対しては・・・X2が他社に異動するまで、X1に対しては・・・本件組合が中止を申し入れるまで、しばしば、時期によってはほぼ連日、X2及びX1に扇風機の風を当てていた。
 Y2によるこれらの一連の行為は、Y2が心臓発作を防ぐためたばこの臭いを避けようとしていたことを考慮しても、喫煙者であるX1及びX2に対する嫌がらせの目的をもって、長期間にわたり執拗にX1及びX2の身体に著しい不快感を与え続け、それを受忍することを余儀なくされたX1及びX2に対し著しく大きな精神的苦痛を与えたものというべきであるから、X1及びX2に対する不法行為に該当するというべきである。」
「(2) X1に対するその他の行為について
 ・・・Y2は、・・・X1がY2の提案した業務遂行方法を採用していないことを知って、X1Aから事情を聴取したり、X1に弁明の機会を与えることなく、X1を強い口調で叱責した上で、X1に、「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません。」という内容の始末書を提出させた。また、Y2は、・・・部門会議において、X1が業務の改善方法についての発言を行ったのに対し、「お前はやる気がない。なんでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい。」などと怒鳴った。
 これに対し、Yらは、仮にこれらの行為が存在したとしても、X1の業務上の怠慢に対する業務上必要かつ相当な注意である旨主張する。
 しかしながら、これらの行為は、X1による業務を一方的に非難するとともに、X1にY1会社における雇用を継続させないことがありうる旨を示唆することにより、X1に今後の雇用に対する著しい不安を与えたものというべきである。そして、・・・Y2は、第2事業部において、他の従業員が多数いる前で、部下の従業員やその直属の上司を大声で、時には有形力を伴いながら叱責したり、手当なしの残業や休日出勤を行うことを強いるなどして、部下に対し、著しく一方的かつ威圧的な言動を部下に強い(ママ)ることが常態となっており、Y2の下で働く従業員にとっては、Y2の言動に強い恐怖心や反発を抱きつつも、Y2に退職を強要されるかもしれないことを恐れて、それを受忍することを余儀なくされていたことが認められる。このような背景事情に照らせば、Y2によるX1に対する上記の行為は、社会通念上許される業務上の指導を超えて、X1に過重な心理的負担を与えたものとして、不法行為に該当するというべきである。
(3) X2に対するその他の行為について
ア ・・・Y2は、・・・X2が担当していた顧客の信用情報に係る報告が信用情報機関に行われていなかったことについて、「馬鹿野郎」、「給料泥棒」、「責任をとれ」などとX2及びその上司を叱責し、さらには、X2に「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした。」との文言を挿入させた上で本件念書を提出させた。
 これについて、Yらは、X2の業務上の怠慢に対する業務上必要かつ相当な注意指導であるから違法性はない旨主張する。
 しかしながら、これらの行為は、そもそも7年以上Y1会社において当該顧客に係る適切な処理がなされていなかったことに起因する事柄について、X2を執拗に非難し、自己の人格を否定するような文言をY2に宛てた謝罪文として書き加えさせたことにより、X2に多大な屈辱感を与えたものというべきである。そして、・・・Y2の下で働く従業員が、Y2の一方的かつ威圧的な言動に強い恐怖心や反発を抱きつつも、Y2に退職を強要されるかもしれないことを恐れて、それを受忍することを余儀なくされていたという背景事情にも照らせば、Y2によるX1に対する上記の行為は、社会通念上許される業務上の指導の範囲を逸脱して、X2に過重な心理的負担を与えたものと認められるから、X2に対する不法行為に該当するというべきである。」
「(4) X3に対する行為について
ア ・・・Y2は、・・・本件事務所における席替えの際に、立っていたX3の背中を突然右腕を振り下ろして1回殴打し、また、・・・X3と面談していた際にも、X3を叱責しながら、椅子に座った状態からX3の左膝を右足の裏で蹴った。
 Y2によるこれらの行為は、何ら正当な理由もないまま、その場の怒りにまかせてX3の身体を殴打したものであるから、違法な暴行として不法行為に該当するものというべきである。
 この点について、Yらは、静かにするよう注意するためX3の背中を掌でポンと軽く叩いて注意したにすぎない、また、仮に、Y2の足がX3の足に当たったとしても、Y2が足を組み替えた際に偶然に当たったものであるとして、これらの行為を暴行と評価することはできない旨主張する。
 しかしながら、Y2自身、本件事務所の席替えの際に、Nの下腹部付近を掌で押し、その後、X3の背中を叩いたことを自認しているところであって(〈証拠略〉)、職場において静かにするよう注意するために他人の腹部を掌で軽く押すなどということは通常考え難いことからすれば、Y2は、席替えによる騒音に腹を立ててNの腹部を殴打したものと認められ、その直後、Nの近くにいたX3を殴打したものと推認できる。また、Y2とX3が座って面談していたならば、両者の間にはある程度の距離があったと推測されるところであって、座った状態から足を組み替えることにより偶然に足の裏が当たったなどということは、通常考え難い。したがって、Yらの主張は、採用できない。
イ また、・・・Y2は、・・・X3と昼食をとっていた際、X3の配偶者に言及して、「よくこんな奴と結婚したな。もの好きもいるもんだな。」と発言した。
これについて、Yらは、いい奥さんが結婚してくれたねという趣旨のごく普通の会話をしたにすぎない旨主張する。
 しかしながら、上記主張に沿うY2の供述は信用することができない。そして、・・・Y2の下で働く従業員が、Y2の一方的かつ威圧的な言動に強い恐怖心や反発を抱きつつも、Y2に退職を強要されるかもしれないことを恐れて、それを受忍することを余儀なくされていたことに照らせば、そのような立場にあるY2の当該発言により、X3にとって自らとその配偶者が侮辱されたにもかかわらず何ら反論できないことについて大いに屈辱を感じたと認めることができる。そうすると、Y2による当該発言は、昼食時の会話であることを考慮しても、社会通念上許容される範囲を超えて、X3に精神的苦痛を与えたものと認めることができるから、X3に対する不法行為に該当するというべきである。」