判例(その他)

January 15, 2018

福祉事業者A苑事件‐京都地判 平29・3・30 労働判例1164号44頁

【事案】
 Yに雇用されていたXが、主位的には、XとYとの労働契約は期間の定めのないものであったところ、Yがした解雇は無効であると主張し、予備的には、XとYとの労働契約が期間の定めがあるものであったとしても、Yがした雇止めは無効で、従前の契約が更新されたと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたもの。

【判断】
「ア 求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求職(ママ)票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である。
 そして、本件では、Xは、ハローワークで本件求人票を閲覧してYの面接を受けて採用されたものであるところ、本件求人票には雇用期間の定めはなく、雇用期間の始期は平成26年2月1日とされ、面接でもそれらの点について求人票と異なる旨の話はないまま、YはXに採用を通知したのであるから、本件労働契約は、同日を始期とする期間の定めのない契約として成立したものと認められる。また、定年制については、面接ではY代表者から定年制はまだ決めていないという回答がされたものの、本件求人票には定年制なしと記載されていた上、定年制は、その旨の合意をしない限り労働契約の内容とはならないのであるから、求人票の記載と異なり定年制があることを明確にしないまま採用を通知して以上、定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当である。
 イ これに対し、Yは、本件労働契約が平成26年2月1日を始期とする期間の定めのないものと認めるのは、同年2月のXの就業状況に沿わないと主張する。
 しかし、同月のXの就業状況が前記のようなものとなったのは、Yが、前記の内容の労働契約が成立したにもかかわらず、契約書を作成せず、また、説明もなくパートタイム契約として扱うことにより都合のいい日に出勤すれば足りるとの態度を示したことに対して、Xが自己の不利益を回避するためにした事後的な対応の結果によるものであるから、Xの同月の就業状況が前記認定のようになったからといって、当初の労働契約の内容が前記認定のものであることを否定することはできず、せいぜい、契約の始期を同年3月1日とする旨に変更されたと認め得るにとどまるというべきである。したがって、Yの上記主張は採用できない。
 ウ また、本件では、Y代表者が同年3月1日にXに対して本件労働条件通知書を提示し、その裏面にXが署名している。この事実に基づいてYは、同日での新たな労働契約の成立を主張するところ、この主張は、先に成立を認定した本件労働契約の変更を主張する趣旨を含むと解されるから、次にその点を検討する。
 使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当ではなく、当該変更に対する労働者の同意の有無については、当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所第2小法廷平成28年2月19日判決・民集70巻2号123頁参照)。そして、この理は、賃金や退職金と同様の重要な労働条件の変更についても妥当するものと解するのが相当である。
 これを本件について見ると、労働契約が期間の定めのあるものか否かは、期間の定めがない場合には、死亡等を除けば、解雇によらなければ契約は終了せず、その解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされる(労働契約法16条)のに対し、期間の定めがある場合には、原則として期間満了による労働契約は終了し、例外的に、過去に反復して更新されたことがあり、契約を更新しないことが期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる場合や、期間満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合にのみ、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、同一の条件で更新したとみなされる(同法19条)という相違があり、契約の安定性に大きな相違があることから、賃金と同様に重要な労働条件であるといえる。また、定年制の有無及びその年齢も、契約締結当時64歳のXの場合には、やはり賃金と同様に重要な労働条件であるといえる。そして、期間の定め及び定年制のない労働契約を、1年の有期契約で、65歳を定年とする労働契約に変更することには、Xの不利益が重大であると認められる。
 また、本件労働条件通知書は、Y代表者がその主要な内容を相応に説明した上で、Xが承諾するとして署名押印したものであるものの、Y代表者が求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を明らかにして説明したとは認められず、他方、Y代表者がそれを提示した時点では、Xは既に従前の就業先を退職してYでの就労を開始しており、これを拒否すると仕事が完全になくなり収入が断たれると考えて署名押印したと認められる。
 これらの事情からすると、本件労働条件通知書にXが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないから、それによる労働条件の変更についてXの同意があったと認めることはできない。
エ 以上によれば、XとYとの労働契約は、期間の定め及び定年制のないものであると認められるところ、YはXを解雇したこと等の本件労働契約は現在もなお継続していると認められる。」

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