判例(裁量労働制)

August 21, 2017

日立コンサルティング事件‐東京地判 平28・10・7 労働判例1155号54頁

【事案】
 Xが、Yに対し、地位確認並びに未払賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(2) ・・・Xは、かねてから自己中心的な態度を示しており、上司からの指導にも反省がなく、明確な指示に反した挙句、3月28日夜の騒ぎを起こし、その結果、Y及び日立製作所の本件銀行に対する体面は著しく損なわれ、Xの自己中心的な行動による企業秩序の混乱も軽視できないものというべきである。本件降格は就業規則上の根拠を有し(・・・)、その手続も適正なものといえ、偽装請負申告とは無関係に決定されたものと認められる。処分内容はかなり重いといえるが、社会通念上過酷に失するものとまでは認められず、懲戒権を濫用したものということはできない。
(3) もっとも、YによるXの問題視のうち、・・・「客先常駐」の指示に従わなかったことに関するものは、裁量労働制の適用がある以上、正当なものとは認められない。すなわち、裁量労働制では労働時間の決定は対象労働者の裁量・自己管理に委ねられ、何時間、どのように業務に(ママ)遂行するかの自律性を有し、平易にいれ(ママ)ば、その労働者が個席にいなくても上司はそれだけでは文句をいえず(菅野和夫「労働法(ママ)第10版(ママ)」380頁)、裁量勤務制度規則(6条4項、5項)及び本件労使協定(3条1項)でも、原則前日までに始業及び終業の各時刻を届け出ること、フレックスタイムにおける標準時間帯内の30分は必ず出勤することのみを定めているから、労働時間に関する自己管理の一般的な在り方や労働者が届け出た始業時刻の遵守を指導する程度にとどまらず、届け出るべき始業時刻を具体的に指示する、1日30分を超えて職場等に滞留すべきことを画一的に指示することはYないし上司の権限が及ぶものではない。本件業務委託の業務が本件銀行本社に常駐を要するものであったとしても、本件裁量労働制を定める労働契約を締結したのはY自身であるから、何ら正当化事由にならない。
 以上の限りで、YのXに対する問題視には相当といえない部分があり、むしろ、Xがある程度は上司に反発することもやむを得ない事情も多少はあったという意味でXに有利な事情として考慮すべきである(なお、裁量労働制のもとで労働者の自己管理が明らかに成果を見込めない程度にとどまって裁量を逸脱することが明らかであること、自己管理が適切でなかったため、十分な成績を上げることができず、成果の不足が生じたことを上司が指導し、また、人事評価等で不利益に考慮できることは無論である。)。」
「(4) Xは、3月28日夜の騒ぎにつき、偽装請負の資料を持ち出すためと主張するが、・・・YがXの本件銀行本店(ママ)の入館を認めないことが指示命令権を濫用した違法・無効なものとはいえない上、Xに偽装請負の資料持ち出しの目的があっても本件銀行及びYの管理権を排除する強制調査権限があるわけではなく、夜間、明示に立ち入りを禁止されている状況下での立ち入りは社会通念上平穏なものともいえないから、Xの再度の入館を正当なものということはできない。Xの入館を制止しようとした上司らの立ち入りは、事前に本件銀行の同意を得たわけではないが、その経緯等に照らし、上司の指示を明確に拒否し、反発するXを顧客である本件銀行本社に立ち入らせないようにしたもので社会通念上相当性を欠く行動とはいえず、事後に本件銀行から追認を得られることが十分に見込まれるから(現に本件銀行が上司らの立ち入りそのものを問題視していることを認めるに足りる証拠はない。)、これを不当なものとみることはできない。」
「(6) ・・・本件降格は有効であり、これによるXに対する賃金減額の措置も有効というべきである。」

「(1) 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が(ママ)可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の待遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に排除されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない。
 ことに一般的な新卒採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の待遇に対する期待は高い。・・・Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付されていたから、このような事情があるといえる。
 労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須ではないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
 したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。
(2) Yは、本件労使協定5条3号は、Yが労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
 しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない。本件労働契約、Y就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず(・・・)、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから(…、〈証拠・人証略〉)、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとYとの間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。」
「本件労使協定5条3号は、裁量労働適用者の健康及び福祉のため、Yが適宜の措置を広く取るべきことを求めた訓示規定であって、本件裁量労働除外措置で示された理由(・・・)のうち、Xの健康及び福祉にかかわるとはいえない「成果物の進捗も極めて不十分であるため、本来の裁量労働業務を適切に遂行していない」「部門としての適正な業務運営及び貴殿の能力向上並びにアウトプットの品質向上」との理由が妥当するものでないし、「健康及び福祉のための措置」としても、YにXの同意を得ないで裁量労働制の適用を除外する具体的な権限を定めたものと解することはできない。
 また、本件裁量労働制除外措置をもって健康状態に配慮したもので、「健康及び福祉のための措置」として合理的なものであることにも疑問が残る。すなわち、裁量労働制は、労働者の裁量による労働時間の自己管理が認められるが、必ずしも労働者が自己管理のみでは長時間労働の抑制に実効を上げることができず、働き過ぎにつながって、健康被害を招くおそれもあるので、その導入のためには特に労使協定や労使委員会の決議で健康及び福祉を確保するための措置を講じることも求められているところ(労働基準法38条の3第1項4号、38条の4第1項4号、平成15年10月22日基発第1022001号参照)、Yは、本件裁量労働制除外措置の前後を通じて、Xが長時間労働を余儀なくされているとは認識しておらず、むしろ、出勤状況が芳しくなく、労働時間は過小であると認識していたのであり(〈証拠・人証略〉)、YがXの負担軽減になると判断した理由も一般論や推測の域を出ず(〈証拠・人証略〉)、裁量手当(本件降格後は金11万2557円)の支給もなくなるという賃金上の大きな不利益を伴うにもかかわらず、Xと協議を経ないうちに本件裁量労働除外措置の方針を決定し(〈証拠略〉)、Xから本件裁量労働除外措置はむしろ負担を強めると強く反対されたが(〈証拠略〉)、方針を変更していない。YでX以外の者に対して実施された裁量労働制から除外する措置の例(〈証拠略〉)は、「精神疾患」又は「長時間労働による産業医指示」を理由に、その社員の同意を得て行われたもので(〈人証略〉)、Xに対する本件裁量労働制除外措置と同様のものではない。」
「(6) Yは、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける。」
「(7) ・・・本件裁量労働制除外措置は、Xの反対にもかかわらず、Yのみの意思により労働条件を変更する十分な労働契約上の根拠を認めることはできず、「健康及び福祉のための措置」として合理的なものであるともいえないから、これを法的に有効なものと認めることはできない。
(8) したがって、Xは、本件解雇が有効でも・・・「未払裁量手当」につきそれぞれ・・・支払を求めることができる。」

「・・・Y主張の解雇理由のうち、Xの不良な言動はその大半を認めることができるが、解雇理由となることができない部分もあり、また、その経過ではYにも落ち度があったから、本件解雇が有効かどうかは、これらの事情を全て総合した上で、本家解雇に(ママ)客観的な合理的な理由を備え、かつ、社会通念上相当であるといえるかという観点から慎重に判断する必要がある。
 Xは、本件降格の以前から著しく不良な言動を継続しており、その主因はXの冷静さと協調性を欠いた独善的な性格に起因すると推認せざるを得ない。Xの不良な言動は、労働者・社員として当然求められる出勤、業務従事、報告、職場での遵守事項の遵守などを怠ることにも及んでおり、服務規律の観点から軽視できず、業務成果も十分にあげていない。Xの賃金は、本件降格及び本件裁量労働制除外措置の後でも毎月約47万円で(・・・)、決して低廉とはいえないが[Xは「アルバイト程度の賃金」との認識を有していたようであるが(〈証拠略〉)、そのような評価はできない。]、Xがその賃金に相応しい能力を発揮していたとはいえない。本件裁量労働制の再適用があっても、その状況が改善するとは推認できない。正当な権利行使を逸脱したYの外部に向けた言動も見られ、Y又はその社員の名誉、信用等に違法に侵害する危険を有し、これらの言動はYに対する社会通念上相当な抗議の範囲を超えていると言わざるを得ない。平成25年9月の本件解雇まで、不良な言動が生じ始めた平成24年10月ころから約11か月(・・・)、平成25年4月の本件降格からでも約5か月にわたって不良な言動は継続しているから、一般的に感情に駆られた言動に過ぎないとはいえない。Yにも落ち度はあり、それがXの反発を招いて、ますます言動を激化させる要因となったことは否めないが、その事情を考慮しても節度に欠け、過激に過ぎる。」
「本件解雇は客観的な合理的な理由を備え、かつ、社会通念上相当なものというべきである。Xの雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び雇用契約上の地位を前提にした賃金支払請求を認容することはできない。」

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