京彩色中嶋事件‐京都地判 平29・4・27 労働法律旬報1889号42頁

【事案】
 Xらが、Yに対し、時間外手当等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) 専門業務型裁量労働制を採用するためには、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定を行うことを要する(労働基準法38条の3第1項)。
 また、個別の労働者との関係では、専門業務型裁量労働制を採用することを内容とする就業規則の改定等により、専門業務型裁量労働制が適用されることが労働契約の内容となることを要する。
 そこで、まず、これについて検討する。
 (2) 証拠(《略》)及び弁論の全趣旨によれば、Yは、平成23年4月20日、Yの従業員であるB(以下「B」という。)との間で、期間を平成23年4月21日から平成26年4月20日として専門業務型裁量労働制に係る労使協定を行い、その旨の協定届を作成して、この頃、労働基準監督署に届け出たこと、また、Yは平成23年4月21日に就業規則を改訂して専門業務型裁量労働制を採用し、制作業務に携わる者であって、原則として単独で仕事を行うことができ、自身の労働時間を本人の裁量に任ぜられると会社が判断した従業員については、従業員代表との協定に基づき、当該協定で定める業務に就いたときは、協定で定めた労働時間働いたものとみなすこととし、当該就業規則をこの頃労働基準監督署に届け出たこと(14条の2。《証拠略》)が認められる。
 また、Yの相談先の社会保険労務士は、専門業務型裁量労働制の採用には必要な事項を記載した協定を労働者代表と締結して労働基準監督署に提出する必要があること、就業規則の改訂も同様であることをYに何度か説明していることが認められる(《証拠略》)。
 しかし、Yの平成21年秋頃の従業員数は合計19名(《証拠略》)、専門業務型裁量労働制の採用に当たり対象となる従業員は11名(《証拠略》)であるところ、Bが労働者の過半数を代表する者とされた際の選出の手段、方法は不明であり、協定届出上「推薦」とあるが(《証拠略》)、B本人及びXらを含むY従業員合計6名はいずれもBを従業員として選出するための会合や選挙を行ったことはないと述べており(《証拠略》)、これらの従業員は、また、同様に、平成23年の就業規則改定に際して労働者代表を選出するための会合や選挙を行った事実もないと述べている(《証拠略》)。これに対し、Yは、労働者代表の選出は、社会保険労務士の指示に従い、従業員のうち事務を担当していたCに任せていたと述べるのみであり(《証拠略》)、その具体的な選出方法について何ら説明することができず、結局のところ、当該事業所に属する従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない。
 (3) Yは、平成23年当時、X1は管理職であったことから、就業規則の改正点をまとめた資料を回覧していた、また、就業規則はYの事務所に保管しており、資料と同じ棚に保管されていたから、Xらはいつでも自由に就業規則を閲覧することが可能であったとする。
 しかし、そもそも、X1に対して回覧されたという文書(《証拠略》)が、実際.にX1の回覧に供されたものであるとしても、改訂予定の就業規則案と共に示された改正点の説明本文は、専門業務型裁量労働制に関して、「労働時間などについて変更(裁量労働制の導入など)」との記載のみであり、周知といえるかは疑問である。Yは、平成22年から説明していたとも述べるが、平成22年12月27日に開催された「マネージャー・ミーティング」における説明も、「勤務形態の変更」があり、「制作部の社員・アルバイトは来年度より、『専門業務型裁量労働制』を導入する。」という程度であって(《証拠略》)、Y自身、従業員にはそれぞれ説明した、管理職はミーティングで説明していたと述べるが、説明の内容は、事務職の職員が文書を作って説明していたことはあるかもしれないという程度であり(Y本人)、これ以上具体的な説明がなされたことを認めることのできる客観的な証拠はない。
 また、就業規則が、平成23年の改訂の前後を通じて実際にYの事務所内の棚に保管され、従業員が手に取れる状態となっていたこと、また、その保管場所が従業員に周知されていたことを裏付ける客観的な証拠はない。むしろ、平成26年7月に行われたYとA労組との団体交渉において、組合側から就業規則の設置場所を聞かれ、Y側の弁護士が事務所内のYの座っているところの本棚にあると聞いていると説明するのに対して、X1が見たことがないと述べていることに照らすと(《証拠略》、X1本人)、保管場所が従業員に周知され、いつでも閲覧し得る状態になっていたということはできないことが明らかである。
 さらには、Yは、就業規則は、Yの事務所内の従業員が使用していたパソコンから閲覧可能であったとも述べるが(Y本人)、上記の労働組合の団体交渉時の対応においても、そのような説明は一切されていないことからすると、Yの述べるところは到底信用することができない。
 そうであるとすると、Yが主張する専門業務型裁量労働用(ママ)は、未だ、その採用手続が適法に行われたことを認めることができないと言わざるを得ない。
 (4) 以上によれば、Xらが行っていた業務が専門業務型裁量労働制の対象業務に該当するか否かを判断するまでもなく、専門業務型裁量労働制を採用したことにより勤務時間の定めがXらに適用されないとのYの主張は認めることができない。」