明治機械事件 ‐ 東京地判 令2・9・28 判例秘書 L07531593

【事案】
 Xが,Yに対し,試用期間の延長と当該期間の延長中の解雇が無効であるとして,地位確認等を求めたもの。

【判断】
「2 争点1(試用期間延長の有効性)について
 (1) 前記第2の1の(2)及び(3)のとおり,本件雇用契約において,試用期間について平成30年4月1日から同年6月30日までの3か月と規定されているものの延長の規定はなく,Y就業規則9条も「3か月以内」の「試用期間又は一定期間の見習」を命ずる旨の規定があるものの延長の規定はない。
 この点,Y就業規則9条が「試用期間又は見習中3か月以内の従業員で業務に不適当と認められる者は,何時にても解雇することができる。」と規定し,同28条1項5号が普通解雇事由として「試用期間中又は試用期間満了までに,従業員として不適格であると認められたとき」を定めていることに加え,前記第3の1の(5)及び(6)の事実に照らすと,本件雇用契約における試用期間は,職務能力や適格性を判定するため,使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間で,試用期間中の労働関係について解約権留保付労働契約であると解することができる。そして,試用期間を延長することは,労働者を不安定な地位に置くことになるから,根拠が必要と解すべきであるが,就業規則のほか労働者の同意も上記根拠に当たると解すべきであり,就業規則の最低基準効(労働契約法12条)に反しない限り,使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許される。
 そして,就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても,職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に,そのような調査を尽くす目的から,労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されないから,上記のようなやむを得ない事情があると認められる場合に調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長しても就業規則の最低基準効に反しないが,上記のやむを得ない事情,調査を尽くす目的,必要最小限度の期間について認められない場合,労働者の同意を得たとしても就業規則の最低基準効に反し,延長は無効になると解すべきである。
 そこで,前記1の認定事実を踏まえ,以下検討する。
 (2) 本件において,Yは,Xの職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があると判断したものの労働者の利益のために調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要があったとして,やむを得ない事情があると主張していると解されるところ,前記1によれば,Xは,Yから指示されて社会人としての基本的ルールやビジネスマナーを習得させて実践できるようにすることなどを目的とするマナー研修に参加していたにもかかわらず,講師に対して「やりたくないので,やらなくていいですか。」,「それって強制はできないですよね。」と述べるなどしたり,Y足利事業所の生産部組立研修で作業がうまくいかないときに大声を出して工具を放り投げるなどしたり,Xの上司の意向を踏まえて教育目的により先輩社員から調査・報告を指示された事項について「ネットを検索すると該当頁が出てくるのでそこを見てください」と述べて再度報告するように求められても「自分で調べた方が早いと思います。」述べたりするなどしていて,Xの勤務態度等に少なくない問題があったことは否めない。
 しかしながら,Xは,前記1(1)のとおり,実質的にはいわゆる社会人経験がない新卒の立場でYに入社したものであるところ,学生感覚から抜け出せないまま社会人になってしまう事例は内容・程度に差はあっても社会内に相当程度存するとうかがえる。そうすると,Yが,Xの職務能力や適格性について調査を尽くすというのであれば,Xの就労開始直後ころからその就労態度等に関する問題的を把握していたのであるから,面談を実施するなどしてXに対して問題点を具体的に指摘した上で改善されなければ解雇(解約権行使)もあり得るなどと警告し,適切な時間的間隔で面談を繰り返すなどして改善の有無等に関するYの認識を伝えるなどして職務能力や適格性を見極める取組みをすべきであったと考えられるが,Yが上記のような取組みをしたと認めるに足りる証拠はない。かえって,Xを含む新入社員の人事を担当する管理職であるAは,マナー研修の初日に「受講をちゃんと受けなさい」と指導したものの,Y足利事業所における研修中のXの問題が同事業所から報告されて,謙虚さ,前向きな姿勢,同僚とのコミュニケーションに問題があると認識しながらXに直接の注意・指導をしなかった事実を認める供述をしていて(証人A〔16頁〕),平成30年5月1日から2か月間にわたりXの直属の上司の立場にあったEは,平成30年5月末ないし6月中旬ころまでに,Xの勤務態度等に問題があって試用期間経過後に継続して配属を受け入れることが難しい旨判断するに至ったというにもかかわらず,平成30年6月29日のテスト実施(前記1(5)エ)に至るまで,繁忙を理由に,問題点を指摘して今後の処遇が困難であるなどと警告して改善を促す取組みをしなかったことを認める供述をするとともに,先輩の指示に従わなかったことについて指導したと明確に記憶しているのは1事例のみである旨の供述をしていることからしても(証人E〔19~21頁〕),Yが当初の試用期間中にXの職務能力や適格性について調査を尽くしていたと評価するに足りる事実を認めることはできないというべきである。
 したがって,Yが当初の試用期間中にXの職務能力や適格性について解約権行使を検討すべき程度の問題があると判断したとしても,調査を尽くした上での判断といえないことから,1回目の延長について,やむを得ない事情があったとは認められない。
 (3)ア また,本件において,Yは,本件雇用契約の試用期間を繰り返し延長したこと(特に1回目の延長及び2回目の延長)について,やむを得ない事情があったことを前提にXに職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるか検討する目的があった旨主張していると解され,Xは,上記延長の目的がXを自主退職に至らせることにあったと主張しているので,Y主張の目的があったかについても以下検討する。
 Yは,平成30年6月末までにYが認めたXの問題点について前記第2の2(1)の【Yの主張】イのとおり,社会人になるための心構え・仲間意識が必要であるとの教育が必要で,内向的(座学)なところがあって現場営業向きではなく,仕事に向き合う姿勢,教わろうとする姿勢,聞き取り能力,理解力も同期入社の社員と対比してかなり劣る点にあったと主張するが,YのXに対する平成30年7月以降の対応等(前記第3の1(6))をみると,電球の取替等の庶務を行わせたこともあったが,主に,本件会議室にX一人を置いて専ら簿記の自習ないし新聞記事の閲読・報告等をさせ,平成30年8月13日に簿記学習の成果を確認する小テストを実施した程度である。この点,Yが本当にXの職務能力や適格性について更に調査を尽くす目的があったのであれば,Yが主張するXの上記問題点の内容に照らして,例えば,周囲に複数の人がいる部署に席を設けて電話応対・取次や業務支援を通じた先輩職員との意思疎通の機会を継続的に設けつつ上司から随時問題点を指摘して改善の機会を与えるなどの取組みが考えられるが,Xの執務場所をXしかいない本件会議室にして主に自習をさせるというのは上記目的とは相容れない対応というほかない。
 そして,Yは,Xに対し,前記1(6)のとおり,平成30年6月22日,25日,27日,7月の2日,23日に退職勧奨を繰り返し,平成30年6月27日にXから退職勧奨に応じない旨明確に回答されてもなお退職勧奨を繰り返していて,Xを退職勧奨に応じさせたいという強い意思をうかがうことができる上,平成30年7月23日には,当時Yの取締役ないし執行役員の地位にあったBが,Xに対し,Xが本件会議室において午前8時45分から午後5時30分まで一人で簿記の学習等をしていることについて「苦痛じゃない。俺なら苦痛だけどね」,「退職勧奨にもってくために…それを耐えてんのは大したもんだよ」などと発言している。このBの発言は,平成30年7月以降のXに対する執務場所や執務内容に係るYの対応が,Xに精神的苦痛を与えて退職勧奨に応じさせる目的からであると自認したものといえる。
 そうすると,Yが本件雇用契約の試用期間を繰り返し延長した(1回目の延長及び2回目の延長)目的は,主として退職勧奨に応じさせることにあったと推認され,これを覆すに足りる証拠は存しないから,1回目の延長についても,2回目の延長についても,Xの職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるかを検討するというY主張の目的があったと認めることはできない。」

「Yが主張する事実のうち,解雇事由に当たり得るのは,前記コの集中力や説明を聴きとって理解することの問題,前記サの学習意欲に不足がある態度及び前記シの意思疎通の問題であるが,Xが前記のとおり実質的には新卒者と同じであること,Yが認識するXの問題に対して適切な指導を実施して改善されるか否かを検討したと認めるに足りる証拠がなく,かえって,Yが前記1(6)のとおり退職勧奨に力を入れてXの問題を改善させることと相容れないと考えられる本件会議室における一人での自習を主に続けさせたことを併せ考えると,前記の集中力や指導担当者の説明を聴きとって理解することの問題,学習意欲に不足がある態度,意思疎通のもんだいが解雇事由に当たると評価することはできないというべきである。」