社会福祉法人恩賜財団母子愛育会事件 ‐ 東京高判 令元・12・24 労働判例1236号40頁

【事案】
 Xが,Yに対し,未払割増賃金等の支払を求めた(本訴)のに対し,Yが,Xに対し,受給資格のない管理職手当(157万5000円)を過誤払したとして不当利得返還請求をした(反訴)ものの控訴審。(原審) 
 
【判断】
「労働基準法114条の付加金の支払義務は,使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然に発生するものではなく,労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから,使用者に同法37条の違反があっても,裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには,もはや,裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなると解すべきである(最高裁昭和30年(オ)第93号同35年3月11日第二小法廷判決・民集14巻3号403頁,最高裁昭和48年(オ)第682号同51年7月9日第二小法廷判決・裁判集民事118号249頁参照)。このことは,事実審の口頭弁論がいったん終結され,その後口頭弁論が再開された場合であっても異なるものではないというべきである。そうすると,Yの未払割増賃金債務は,本件弁済及び本件供託により7万3498円を残して消滅したから,消滅前の債務額を前提として付加金の支払を求めるXの請求は理由がない。
 そして,付加金の支払については,裁判所は,使用者の違反の程度・態様,労働者の不利益の性質・内容等諸般の事情を考慮し,その裁量により支払義務の存否及び額を決定すべきものであるところ,Yの未払割増賃金債務は本件弁済及び本件供託によりそのほとんどが消滅したこと,Yは,本件訴訟前には円満解決を図るためXと交渉の機会を持ち,原判決後ただちに本件弁済をし,また,当審においても,和解の経過に沿う本件供託をしたことからすれば,上記未払額についても付加金の支払を命ずるのは相当ではなく,付加金の支払は命じないことにする。
 したがって,Xの付加金の請求はすべて理由がない。」