名古屋自動車学校事件 – 名古屋地判 令2・10・28 労働経済判例速報2434号3頁

【事案】
 Yを定年退職した後に,有期労働契約をYと締結して就労していたXらが,無期労働契約をYと締結している正職員との間に,労働契約法20条に違反する労働条件の相違があると主張して,Yに対し,金員等の支払を求めたもの。

【判断】
「オ 以上のとおり,Xらは,Yを正職員として定年退職した後に嘱託職員として有期労働契約により再雇用された者であるが,正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなく,Xらの正職員定年退職時の賃金は,賃金センサス上の平均賃金を下回る水準であった中で,Xらの嘱託職員時の基本給は,それが労働契約に基づく労働の対償の中核であるにもかかわらず,正職員定年退職時の基本給を大きく下回るものとされており,そのため,Xらに比べて職務上の経験に劣り,基本給に年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される傾向にある若年正職員の基本給をも下回るばかりか,賃金の総額が正職員定年時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているのであって,このような帰結は,労使自治が反映された結果でもない以上,嘱託職員の基本給が年功的性格を含まないこと,Xらが退職金を受給しており,要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金(比例報酬分)の支給を受けることができたことといった事情を踏まえたとしても,労働者の生活保障の観点からも看過し難い水準に達しているというべきである。
 そうすると,Xらの正職員定年退職時と嘱託職員時の各基本給に係る金額という労働条件の相違は,労働者の生活保障という観点も踏まえ,嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

「Xらは,嘱託職員として,正職員定年退職時より減額された皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)を支給されていたところ,これら賃金項目の支給の趣旨は,所定労働時間を欠略なく出勤すること及び多くの指導業務に就くことを奨励することであって,その必要性は,正職員と嘱託職員で相違はないから,両者で待遇を異にするのは不合理である旨主張する。
 上記Xらの主張は正当として是認できるから,皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)について,正職員定年退職時に比べ嘱託職員時に減額して支給するという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

「Yは,正職員に対しては,前記前提事実(2)イ(ア)cのとおり,扶養家族の人数に応じて家族手当を支給しているところ,嘱託職員に対しては,扶養家族の有無にかかわらず,これを支給していない。これを受けて,Xらは,扶養家族の有無は,定年後再雇用であるかどうかにかかわらない事項であり,正職員と嘱託職員で待遇を異にすることは不合理である旨主張する。
 しかし,Yは,労務の提供を金銭的に評価した結果としてではなく,従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で家族手当を支給しているのであり,使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては,従業員の生活に関する諸事情を考慮することになると解される。そして,Yの正職員は,嘱託職員と異なり,幅広い世代の者が存在し得るところ,そのような正職員について家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方,嘱託職員は,正職員として勤続した後に定年退職した者であり,老齢厚生年金の支給を受けることにもなる。
 これらの事情を総合考慮すると,正職員に対して家族手当を支給する一方,嘱託職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することはできず,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない。」

「エ 以上のとおり,Xらは,Yを正職員として定年退職した後に嘱託職員として有期労働契約により再雇用された者であるが,正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなかった一方,Xらの嘱託職員一時金は,正職員定年退職時の賞与を大幅に下回る結果,Xらに比べて職務上の経験に劣り,基本給に年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される傾向にある若年正職員の賞与をも下回るばかりか,賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているものであって,このような帰結は,労使自治が反映された結果でもない以上,賞与が多様な趣旨を含みうるものであること,Xらが退職金を受給しており,要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金(比例報酬分)の支給を受けることができたことといった事情を踏まえたとしても,労働者の生活保障という観点からも看過し難い水準に達しているというべきである。
 そうすると,Xらの正職員定年退職時の賞与と嘱託職員時の嘱託職員一時金に係る金額という労働条件の相違は,労働者の生活保障という観点も踏まえ,Xらの基本給を正職員定年退職時の60%の金額(前記(4)において不合理であると判断した部分を補充したもの)であるとして,各季の正職員の賞与の調整率(前記前提事実(2)イ(イ)aないしl)を乗じた結果を下回る限度で,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」