日本漁船保険組合事件 - 東京地判 令2・8・27 労働経済判例速報2434号20頁

【事案】
 Xが,Yに対し,休職期間満了を理由に退職扱いしたことは違法無効であると主張して,地位確認等を求めたもの。

【判断】
「(1)本件診断書2の不受理について
 ア 本件就業規則12条3項には,職員が復職を求める際に提出する主治医の治癒証明(診断書)について,Yが主治医に対する面談の上での事情聴取を求めた場合には,職員は,医師宛ての医療情報開示同意書を提出するほか,その実現に協力しなければならず,職員が正当な理由なくこれを拒絶した場合には,当該診断書を受理しない旨の定めがあるところ,これは,平成30年6月5日付けの就業規則の改正により新設されたものである(前記前提事実(2))。
 医師の診断書は,Yにおいてこれを閲読しただけでその意味内容や診断理由を十分に理解することができるとは限らないことから,Yが,診断内容を正確に理解して傷病休暇中の職員の復職の可否を判断するために,主治医と面談し,主治医から直接に事情聴取をすることは必要であり,これについて職員に協力を求めることは合理的である。そして,職員が正当な理由なく協力を拒絶した場合には,Yにおいて診断書の内容を正確に理解することが困難となる以上,当該診断書を不受理とすることはやむを得ないというべきである。他方,職員としては,Yが主治医と面談し,主治医から直接事情聴取を行うことによって,自己の傷病の回復状況を正確に理解してもらうことができ,また,医師宛ての医療情報開示同意書を提出するなど,Yと主治医との面談の実現に協力することは容易なことであるから,上記の定めの新設によって何ら不利益を被るものではない。以上によれば,上記定めの新設は,合理的なものであり,就業規則の改正前から休職していたXにも適用される。
 イ そこで,Xが,Yから,本件復職申出2を行う際に提出した本件診断書2を作成した主治医であるZ4医師との面談について同意を求められたにもかかわらず,これを拒絶したことについて,正当な理由があったといえるかどうかについて検討する。
 (ア) 上記1(4))によれば,Xは,平成30年7月24日の本件復職不許可の後,令和元年7月23日に本件復職申出2を行うまでの1年間,定期的にZ2病院に通院しているところ,Xは,平成31年4月頃までの診察時には,眠れていること,幻聴はあるがやり過ごせていることなど,安定した病状にある旨述べていたが,令和元年5月10日の診察時には,睡眠が悪くなっていること,昼間眠くなったり吐き気がしたりすることがあること,不安を感じることなど,病状の悪化が窺われる事情を述べていたことが認められる。そのような中で,Z4医師により,同年6月7日付けで本件診断書2が作成されているが,その内容は,本件診断書1と同様,「現段階では復職に明らかに支障をきたす著明な症状はみられず,復職を試みることは可能と考えられる」というものであり,病状の悪化が窺われる上記事情についての説明は何ら記載されておらず,病状の悪化が窺われるにもかかわらず,本件診断書1と同旨の診断をした理由は明らかではない。したがって,Yにおいて,Z4医師に対し,上記理由について説明を求める必要があったといえる。
 また,Xは,本件復職不許可の後,本件診断書2が作成されるまでの間,上記1(4)のとおり,様々な記載を多数の第三者に返信する方法でツイッターに投稿しているところ,本件診断書2やXのZ2病院のカルテには,Xがこのようなツイッターへの投稿を繰り返していることやその内容をどのように考えるかについて,主治医の見解は記載されていない。そうすると,Yにおいて,Z4医師に対して実際にツイッターへの投稿を示すなどして,上記の点に関するZ4医師の見解を確認する必要があったといえる。
 さらに,上記1(4)ア~ウのとおり,Xは,Z2病院への通院を継続しているが,平成31年4月には,Xの主治医がZ3医師からZ4医師に替わっている。それに加え,上記1(3)のとおり,Z1氏がZ3医師と面談したのは,平成30年5月24日及び同年6月21日であり,本件診断書2が作成される約1年前である。そうすると,Yにおいて,本件診断書2の作成時点におけるXの病状等をどのようにとらえているかについて,改めて確認する必要があったといえる。
 (イ) これに対し,Xは,Yに対してZ4医師との面談についての同意を拒否した理由として,①Z1氏が,Z3医師と面談した際に不合理な質問をして,本件診断書1の内容を曲解しようとしたこと,②Xが,本件訴訟においてZ2病院のカルテを開示していることや,産業医や指定医との面談には応じる意向を示していたことを考慮すると,労働者に求められる協力義務は果たしているといえることを主張する。
 しかしながら,平成30年6月21日におけるZ1氏らとZ3医師との面談内容は,上記1(3)イ(オ)のとおりであり,Z1氏がZ3医師に対して不合理な質問をしたとは認めることはできない。
 また,カルテが開示されているからといって,Yにおいて,本件診断書2の内容やカルテの記載内容等について,主治医と面談して口頭により直接説明を受けることを希望することが不合理であるとはいえない。本件診断書2は,本件復職申出2に対する判断を行う際の主要な資料である以上,Xが産業医や指定医との面談には応じる意向を示していたとしても,Yにおいて主治医と面談してXの病状を確認する必要性が失われるものではない。
 (ウ) 以上によれば,YがZ4医師との面談の上,事情聴取をする必要性は認められるのであり,Xがその実現に対する協力を拒んだことについて,正当な理由があったとは認められない。したがって,Yが,本件就業規則12条3に基づき,本件診断書2を受理しなかったことは,正当であり,裁量権の逸脱,濫用は認められない。
 (2) 本件自然退職について
 そこで,次に,Yが,休職期間が満了したことを理由に,Xを本件自然退職としてことは,裁量権を逸脱,濫用したものといえるかについて検討する。
 Yは,令和元年7月23日に本件診断書2が提出された後,本件診断書2を不受理とした同年9月19日までの約2か月間,Xに対し,YがZ4医師と面談することについての同意を求めたが,Xは,一貫して,同意を拒み続けたものであり,同意を拒絶するXの意思は,当事者尋問の時点においても一貫している(人証略)。そうすると,Yが,Xとの協議をそれ以上に重ねたとしても,Xにおいて,YがZ4医師と面談することに同意をする可能性は乏しかったものといえる。たとえ,Yが,Xに対する産業医や指定医による診察などを先行して行ったとしても,本件診断書2は,本件復職申出2に対する判断を行う際の主要な資料である以上,主治医と面談の上,事情聴取をする必要性が失われるものではない。
 したがって,Yが,本件就業規則12条3項に基づき,本件診断書2を受理しなかったことに伴い,Xによる休職事由の消滅の立証がないまま休職期間が満了したことを理由に,本件就業規則13条3号に基づき,Xを本件自然退職としてことについて,Yが裁量権を逸脱,濫用したものであるということはできない。」