前原鎔断事件 - 大阪地判 令2・3・3 労働経済判例速報2432号19頁

【事案】
 Xが,Yに対し,地位確認等の請求をしたもの。

【判断】
「ア Xは,Yへの入社から12年以上経過した後においても,上司や伝票による指示を確認し,これに従うという労務提供に際して必須かつ基本的な意識すら欠く勤務態度であり,「勉強会」の実施やZ1主任による指導を受けながらも,新入社員がおおむね3か月くらいでマスターする仕上げ作業をマスターできない状況にあったこと,クレーンに関する懲戒処分を受けた後かつ入社から13年以上経過した後も,X自身の業務の危険性に頓着しない勤務態度に及んで立て続けに2件のクレーン事故を起こしたこと,これらの事故について懲戒処分を受けた2か月後にもクレーン事故を起こし,工場全体の操業停止という事態を発生させたこと,以上の点を併せ鑑みれば,Yが,Xの就業状況が著しく不良で就業に適さない,あるいはこれに準ずるものとしてした本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,かつ,社会通念上相当と認められる。
 イ なお,Xは,技量は低いことは,減給や賞与評価で反映されており,それ以上解雇するのは行き過ぎである旨主張するが,上述のとおり,Xの就業状況の不良性は技量の低さのみに依拠するものではなく,Xの主張を踏まえても,上記判断は左右されない。
 またXは,「勉強会」の開催が,YがXをやめさせようとした一連の行為の一環であるとか,Yが多くの書類を用意しているが,Xの解雇が周到に準備されたものであることを看過すべきでないなどと主張する。前者について,X自身,「勉強会」の内容は,Xの行動に対する説教や指導であった旨供述するのみであるから(人証略),Xが「勉強会」での説教や指導内容を吸収すれば解雇には繋がらないのであり,採用できない。後者について,Xの主張の趣旨は不明瞭ではあるが,使用者が,労働者の勤務態度を詳細に記録し,その結果として就業状況が著しく不良で就業に適さないことが判明した場合に,そのような勤務態度を詳細に記録したこと自体が解雇の客観的合理性ないし社会通念上の相当性に影響を及ぼすとはいえない。
 ウ よって,Xの地位確認請求(請求1)並びに未払賃金及び未払賞与請求(請求2)は,その余の点(争点3)を判断するまでもなく,理由がない。」

「労働基準法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,これに該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものと解するのが相当である(最高裁平成12年3月9日第1小法廷判決・民集54巻3号801頁〔三菱重要長崎造船所事件〕参照)。」

「ア Xは,「勉強会」への出席も余儀なくされた旨主張し,Yは,Xが「勉強会」に任意に参加したいたことは明らかであり,労働時間には当たらない旨主張する。
 イ 確かに,「勉強会」は,本件組合の提案を受けて開催されるようになったものではあるものの,Xに対する指導内容等を振り返ることを内容とするものであるから(認定事実(11)),Xが参加せずに開催されることはそもそも予定されていない。また,XはZ6取締役が入社した平成20年の時点において,既に,Yの従業員から,なかなか仕事の技術が身に付かないと認識されていたものであり(人証略),Xが「勉強会」に参加せず,その後も技術が身に付かないままであれば,Xの賃金や賞与の査定如何,ひいては従業員としての地位如何にかかわるのは明らかである。加えて,Yの就業規則には,「会社は,従業員に対し,業務上必要な知識,技能を高め,資質の向上を図るため,必要な教育訓練を行う。」,「従業員は,会社から教育訓練を受講するよう指示された場合は,特段の事由がない限り指示された教育訓練を受講しなければならない。」と規定されていること(前提事実(5))をも併せ鑑みれば,Xが「勉強会」に参加する時間は,Yの指揮命令下に置かれている時間,すなわち労働基準法上の労働時間に該当すると解するのが相当である。なお,「勉強会」の日時についてXの予定を考慮して決められたり,Xの都合により日程を変更したりすることもあることによって,上記判断は左右されない。」