東京都(交通局)事件 ‐ 東京地判 令元.12.2 労働経済判例速報2414号8頁

【事案】
 Xが,労基法39条に基づいて年休の取得を申請したにもかかわらず,認められなかったとして,Yに対し,慰謝料等の支払を求めたもの。

【判断】
「イ 使用者は,時季変更権を行使するにあたり,代替日を提案する必要性はないから,労働者が指定した時季において年次休暇を取得することを承認しないという意思表示であっても時季変更権を行使したということができる(最高裁判所昭和57年3月18日第一小法廷判決・民集36巻3号366頁参照)。そして,使用者による時季変更権の行使は,労働者が別の日に年次休暇を取得することができることを前提とするものであるから,労働者が指定した日以外の日に年次休暇を取得させることが不可能である場合には,使用者は時季変更権を行使することができないものと解すべきである。
 ウ 前記前提事実及び前記1(3)において認定した事実によれば,平成29年度の夏休期間は同年6月16日から同年10月15日までであり,本件営業所においては,労使間の協議により導入された事前調整制度の下において,夏休期間中の休暇の取得は,取得できるのが夏休期間に限定されている夏休が優先され,事前調整を経て夏休取得日が確定した後においては,原則として,夏休同士又は週休同士の交代によってのみ対応することとされていたが,Xは,平成29年8月9日以外であっても,夏休期間中の夏休取得者の数が休暇取得可能人数に達していない日や,夏休期間以外であれば,年次休暇を取得することができたのであるから,労働者が指定した日以外の日に年次休暇を取得させることが不可能であったということはできない。
 この点,Xは,平成29年8月9日にしかZ2において診察を受けることができない以上,同日以外に年次休暇を取得する意味はないのであるから,YがXに対して他の時季に年次休暇を与えることはできない旨主張する。しかしながら,労働者側の年次休暇取得の目的によって使用者が時季変更権を行使したか否かが左右されることにはならないから,Xの上記主張は採用することができない。」

「(1) 時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において,勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には,代替勤務者確保の難易は重要な判断要素であり,勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に,使用者としての通常の配慮をすれば,代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず,使用者がそのための配慮をしなかった結果,代替勤務者が配置されなかったときは,必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解される(最高裁判所平成元年7月4日第三小法廷判決・民集43巻7号767頁参照)。」
「Yは,使用者としての通常の配慮をしても,平成29年8月9日にXに割当てられていたダイヤを補てんする代替勤務者を確保することができなかったと評価すべきであり,したがって,Xが同日に年次休暇を取得することは,Yの都営バス事業の正常な運営を妨げるものと認められる。」

「(1) Xは,平成29年8月9日の年次休暇の取得が認められなかったことにより,同日にZ2の主治医の診療を受けることができず,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けることができなかったため,同月10日には服用できるジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルがなくなり,同月14日に冠攣縮性狭心症の発作を発症したのであるから,Xが同月9日に年次休暇を取得することができなかったこととXが同月14日に冠攣縮性狭心症の発作を発症したこととの間には相当因果関係があると主張する。
 (2) 前記1(4)で認定した事実によれば,①Xは,遅くとも平成29年8月9日時点において,同日にジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けられなかった場合,翌日以降に服用すべきジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルがなくなることを認識しており,また,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの服用を中止した場合には生命の危険があることを認識していたこと,②Xは,週休日や勤務後の時間帯を利用するなどして,Z4を受診し,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けることが可能であったことが認められる。
 そうすると,Xとしては,平成29年8月9日にZ2を受診することができないとしても,週休日や勤務後の時間帯を利用してZ4を受診し,Z2を受診することができる日までの間に服用する用量のジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けることにより,冠攣縮性狭心症の発作の発症を予防することができたというべきである。
 したがって,平成29年8月9日に年次休暇を取得することができなかったからといって,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けることができなかったことにはならないから,Xが同日に年次休暇を取得することができなかったこと(Yによる時季変更権の行使)と同月14日にXが冠攣縮性狭心症の発作を発症したこととの間に相当因果関係を認めることはできない。
 (3) これに対し,Xは,Z4にZ2への紹介状を作成してもらったことや,Z2において検査を受け,その結果に基づいてZ5医師が処方薬を改善する予定であったことを理由に,Z5医師の診察を受けないままジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けるためだけにZ4を受診することはできなかった旨主張し,これに沿う供述をする。
 しかしながら,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの服用が乗務の前提条件となっていたことや,X自身もジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの服用を中止した場合には生命の危険があることを認識していたことを考慮すると,Xの主張する事情は,ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けるためにZ4を受診することができなかった合理的理由とはいえず,他にZ4を受診することができなかった事情についての主張及び立証はない。
 かえって,前記1(4)アにおいて認定したとおり,Xは,平成29年6月21日に受診した際,Z5医師から,現在処方されている薬を引き続き服用するように言われ,同日,Z2を受診した後にZ4を受診して60日分のジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの処方を受けていることからすると,Xとしては,服用できる同カプセルがなくなった場合には,Z4を受診して同カプセルの処方を受けるべきであったといえる。
 結局,Xの上記主張及び供述は,X独自の考えであって合理性を欠くものといわざるを得ず,前記(2)の判断を左右するものではない。」