協同組合つばさほか事件 - 水戸地判 平30・11・9 労働判例1216号61頁,東京高判 令元・5・8 労働判例1216号52頁

【事案】
 技能実習生であったX1がY組合ら対し,未払の残業代の支払等を,Y組合から解雇されたX2が,Y組合に対し,地位確認の請求等をしたもの。

【判断】
〔第1審〕
「(1) 大葉巻き作業が,X1雇用契約に基づくものであるか否かを判断するに当たっては,同作業が使用者による指揮監督下において行われたか否かによって判断すべきである。
(2) 大葉巻き作業は,大葉の出荷に向けて,大葉を摘み取った次に行う作業であり,大葉の摘み取り作業に密接に関連した作業であるといえるが,X1雇用契約の業務内容は,耕種農業・施設園芸であり,大葉巻き作業はこれに含まれない実習計画外の作業であって(認定事実(1)ア),形式的には雇用契約の対象には当たらない。そして,X1は,日中の大葉の摘み取り作業が終わった後に大葉巻き作業をしており,大葉の摘み取り作業は農場で行われるのに対し,大葉巻き作業は女性技能実習生の部屋に隣接した作業場で行われるなど,両作業は区別されていたものとみることができる。
(3) 大葉巻き作業は,Y1方の敷地内の作業場で行われていたが,作業場は母屋と中庭を隔てた場所にあり,作業がしばしば夜遅くになることもあったのであり(X1の大葉巻き作業の時間については,後記3で認定するとおりである。),Y1やY2が作業場に常駐していたり,作業状況を常時監督したりしていたとは考え難い。また,巻いた束数のみがY1に報告されており,作業時間は厳格に管理されておらず,X1が作業の途中に抜け出すこともしばしばあり(認定事実(1)カ,キ),作業に対する監督の程度は日中の大葉摘み取りの作業よりも低かったものとみることができる。
 そして,Y1は,従前大葉巻きを外注していたときは,出荷調整の期間も含めて,大葉を摘み取ってから4,5日から1週間程度で出荷しており(認定事実(1)オ),技能実習生が大葉巻きをするようになってから出荷までの期間が短縮されたような事情はうかがわれないから,技能実習生に対し,その日に摘み取った大葉をその日のうちに巻かなければならないという指示がされていたとは認め難く,実際,摘み取った大葉をその日のうちに全て巻くことができない場合には,冷蔵庫に保管していて,翌日に巻くこともあったものである(認定事実(1)オ)。
 しかし,Y1方の農場では,連日,大量の大葉を摘み取って出荷していたのであり,そのことは,X1の大葉巻き作業の実績からも明らかである。そうすると,大葉を摘み取ってから出荷するまでに出荷調整を含め数日の余裕があり,摘み取った大衆の全てをその日のうちに巻くことまでは求められていなかったとしても,大葉巻き作業は全て技能実習生が行っており,外注がされていたわけではない状況の下においては,技能実習生としては,少なくともその大部分はその日のうちに巻いておく必要があったものといえる。そして,技能実習生が大葉巻き作業を行うのは日中の作業が終わった午後5時頃からであり,大量の大葉を巻くときには作業が数時間掛かることもあるのであるから,Y1やY2が常時大葉巻き作業を監督するなどしていたわけではなく,作業中に作業場から出入りすることも許容されていたとしても,作業時間についての裁量性は乏しいものであったと評価せざるを得ない。Y1としても,日中は大葉の摘み取りの作業をしている技能実習生に大葉巻き作業を行わせる以上,そのような状況にあることは理解していたものと認められる。
(4) Y1は,平成25年には,全ての大葉巻き作業を技能実習生に行わせていたのであるから(認定事実(1)イ),技能実習生としては,大葉巻き作業は自分たちが行うべき作業だと考えていたとしても不自然なことではなく,X1の場合もそのことに変わりはないのであるから,同X1が大葉巻き作業をするに当たり,諾否の自由は,事実上制限された状態にあったものと認められる。
 なお,技能実習生のうち,Iは大葉巻き作業を行っていないところ,同人は当初大葉巻き作業をしていたのであり,同人が大葉巻き作業をしないことになった経緯は証拠上明確ではないが,上記のような事情を考慮すれば,同人が大葉巻き作業をすることについて諾否の自由があったとは直ちにいうことはできない。また,技能実習生が大間巻き作業をすること(ママ)希望したことが,技能実習生が大葉巻き作業をするようになったきっかけになっていたとしても,前記のとおり,X1が大葉巻き作業を始めたときは技能実習生が大葉巻き作業をすることが前提とされていて,X1はY2や先輩の技能実習生からそのような説明を受けていたのであるから(認定事実(1)エ),上記のような経緯から直ちにX1が大葉巻き作業をすることについての諾否の自由があったということはできない。
(5) 以上のとおり,X1の大葉巻き作業は,形式的には,1束2円の請負契約として合意されたものであるが,作業内容がX1雇用契約において作業内容とされていた大葉の摘み取りと密接に関連しており,X1が大葉巻き作業をするに当たり諾否の自由が事実上制限された状態にあったものであって,作業時間についての裁量性も乏しいものであるなどの事情を考慮すれば,Y1の指揮監督下で行われた作業であるというべきであって,X1雇用契約に基づいてされたものと認めるのが相当である。」

「X2の警察への通報は,Y組合の信用を毀損し,又はその業務を妨害するもので,X2が監査結果報告書を持ち出したことはY組合の業務を妨害するものであり,さらに,X2は無断外出をして職務命令に反した上,Y組合に敵対的な感情を明らかにし,Y組合の職場の秩序を乱したものであるから,解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められる。
(2) 相当性について
 X2の…言動,特に,Y組合の業務を妨害し,その信用を毀損するような警察への通報を繰り返したこと,監査結果報告書を持ち出してY組合の業務を妨害したこと,無断外出をして職務命令違反をし,Y組合に敵対的な感情を明らかにっし,Y組合の職場の秩序を乱したことによれば,これらの言動によってY組合とX2との信頼関係は失われていたといわざるを得ず,個別的な指導等によってもX2がY組合の職務に戻ることは現実的に期待できなかったというべきであるから,解雇をしたことについては社会的通念上相当なものと認められる。」

〔控訴審〕(X1は控訴後,控訴取下げ)
「(1) X2は,本件解雇は懲戒解雇として行われたものであり,X2雇用契約に懲戒事由の定めはなく,Y組合が就業規則を定めていないことから,懲戒権の根拠を欠くものとして無効である旨主張する。
 確かに,一般に,使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ労働契約又は就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するところ,前提事実のとおり,X2雇用契約に懲戒事由の定めはなく,Y組合が就業規則を定めていないことから,X2が主張するとおり,Y組合は,X2に対して懲戒解雇をすることはできない。
 しかしながら,このような場合に,仮に使用者が懲戒解雇と称する意思表示をしたとしても,使用者が懲戒権の行使としての解雇であることに固執せず,かつ,労働者の地位を不当に不安定にすることのない限り,使用者のした解雇の意思表示は,普通解雇の意思表示と解することができるというべきである(東京高等裁判所昭和61年5月29日判決労働関係民事裁判例集37巻2・3号257頁参照)。
 これを本件についてみるに,X2の離職票においてY組合が重責解雇と記載したからといって直ちにこれが懲戒解雇を意味するものとはいえず,他に本件解雇について懲戒解雇であると明示されたことはなく,本件訴訟においても,Y組合は,本件解雇は普通解雇であると主張しているのであるから,本件解雇を普通解雇と解するとしても,これによって労働者であるX2の地位を不当に不安定にするとは認め難い。
 したがって,本件解雇については,その余の点につき判断するまでもなく,普通解雇であると解するのが相当であって,これが懲戒解雇であることを前提として無効であるとするX2の主張は採用することができない。
(2) 客観的に合理的な理由の有無
 ア 警察への通報について
 11月30日の通報は,X2はY組合の職員として元X1のセクハラ被害の申告や実習外活動である大葉巻き作業の件で,技能実習生らが元Y1方で技能実習を続けることが不可能になり,研修センターに引き上げる必要があり,Y組合の職員がそのために元Y1方に行っていたことを認識していたものと認められるところ,Mからの連絡で,元X1が拉致されそうな状況にあったわけではないことを認識していたにもかかわらず,警察に対し,自らがY組合の職員であることを説明せず,女性の技能実習生が男に拉致されそうだという虚偽の通報をしたものであり(前記認定事実(3)ウ),Y組合の職員が技能実習生を連れ出すことができないようにしようとしたものであって,これによって,Y組合の業務を妨害する行為であると評価することができる。
 12月6日の通報は,確かにHが元X1の肩を押すなどしており,これを暴行と評価する余地がないではないとしても,Hの行為は上記のようなもので,深刻なものではなかった上,既にHはその場を離れていたのであるから,直ちに通報をする必要はなかったというべきである。それにもかかわらずX2が通報をしたことは,HがY組合の説得に応じて研修センターを移動するなど,セクハラ被害の問題や大葉巻き作業の問題についてX2や元X1と歩調を合わせる意思がない態度を示したことから,Hに対する圧力をかける考えがあったことをうかがわせるものであり,Y組合の職員でありながらそのような行動に出たこと自体,Y組合の業務を妨害する行為と評価することができる。
 さらに,12月13日の通報は,前記認定事実(4)ウのような状況でされたもので,X2が監禁されるような状況にはなかったにもかかわらず,Y組合の事務所で監禁されているなどと明らかに虚偽の通報をしたことは,Y組合の信用を毀損し,その業務を妨害する行為であると評価することができる。
 イ 監査結果報告書の持ち出しについて
 監査結果報告書は,入国管理局に提出するものであり,X2がこれを持ち出す正当な理由は見当たらない。監査結果報告書が未完成であったとしても,監査結果報告書は事務所内のパソコンで作成されていたものであり,外部で作成することは考えられない。
 また,X2は,技能実習の状況について問題がない旨の報告書を提出することは不当であり,そのような監査結果報告書の作成に関与したくないと考えたなどと主張するが,監査結果報告書の内容に意見があるのであれば,上司にその旨の報告をするなどの方法によるべきであり,監査結果報告書を持ち出す正当な理由になるものではない。
 なお,Y組合は,X2が監査結果報告書を作成するためのソフトを消去した旨の主張をするが,そのことを裏付ける的確な証拠はない。
 ウ 職務命令に違反した外出等について
 前記認定事実(4)アのとおり,Y組合事務局長のQは,平成26年12月13日,X2に対し,外出しないように具体的な職務命令を出したにもかかわらず,X2は外出をしたもので,これは,明示の職務命令に反するものである。
 また,X2は,その際,Y組合をつぶすなどと発言しているが,同年11月末頃からの元X1のセクハラ被害の申告等に端を発する経緯の中でのX2の行動,特に3回にわたる警察への通報は,前記のとおりY組合の業務を妨害したり,信用を毀損したりするものであり,Y組合に敵対的なものといわざるを得ず,その中で上記の発言をしたことは,Y組合に対する敵対的な感情を明らかにしたもので,Y組合における職場の秩序を乱すものといわざるを得ない。
 エ 小括
 以上のとおり,X2の警察への通報はY組合の信用を毀損し,又はその業務を妨害するもので,X2が監査結果報告書を持ち出したことはY組合の業務を妨害するものであり,さらに,X2は明示の職務命令に反して外出した上,Y組合に敵対的な感情を明らかにし,Y組合の職場の秩序を乱したものであって,その内容に照らせば,いずれもその程度は強いものというべきであるから,解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められる。
(3) 相当性について
 X2の前記の言動,すなわち,Y組合の業務を妨害し,その信用を毀損する警察への通報を繰り返したこと,監査結果報告書を持ち出してY組合の業務を妨害したこと,明示の職務命令に反して外出し,Y組合に敵対的な感情を明らかにし,Y組合の職場の秩序を乱したことによれば,これらの言動によってY組合とX2との信頼関係は完全に失われていたといわざるを得ず,個別的な指導等によってX2がY組合の職務に戻ることは現実的に期待できなかったというべきであるから,解雇をしたことについては社会通念上相当なものと認められる。」