カキウチ商事事件‐神戸地判 令元12・18 労働判例1218号5頁

【事案】
 Xらが,Yに対し,未払賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) Xらの労働契約における試用期間及び賃金額について
 ア(ア) Xらは,Xらの労働契約の試用期間の終了時期が勤務開始日から1か月,試用期間中の賃金が日給9000円,試用期間終了後の賃金が月額35万円以上であった(ママ)主張し,これに沿う供述をする(〈証拠略〉,X1本人,X2本人)。
 確かに,上1(1)認定のとおり,XらがY入社前に見たYのホームページには大型ドライバーで月給36万円以上との条件が記載されていたが,上記1(1)認定のとおり,Yが1月にハローワークに申し込んだ求人票には「基本給13万円~15万円,基本給+精務給+各種手当で35万円~」と記載されており,入社前の面接の際,Y代表者及びY取締役が,基本給のみで35万円との説明をすることはにわかには考え難いこと,Xらは,Y入社前,Yと同業の訴外会社に勤務し,運送会社の賃金体系を把握しており,X1も,基本給が月額35万円ではなく,手取りで月額35万円と認識していた旨を供述し(X1本人調書),時間外手当等を含めないと月額35万円に届かないことを認識していたことからすると,Xらが基本給月額35万円であると認識していたものと認めることはできない(仮に,基本給が35万円で月平均所定労働時間を173.80時間とすると,1時間当たりの単価は2013円(350,000÷173.80≒2,013.8)となり,運送業界の水準よりも極めて高額になる。)。
 加えて,上記(1)(2)(3)認定事実によると,①Y入社時,Xらも基本的に試用期間が3か月であることを聞いていたこと,②Xら及びCらは,採用面接時に提示された労働条件と給与支給額に齟齬があるとしてYに抗議して本件説明会が開催され,本件説明会の席上,Y側から説明がなされたが,労働者側から不満等が噴出し,収拾がつかなくなり,個別面談に移行したこと,③Xらは,Y側と個別面談でやりとりした直後,研修期間用として雇用期間を7月1日から8月7日まで,日給9000円との内容の本件契約書1・2に署名したことが認められる。
 これらの事実からすると,Xらの労働契約において,少なくとも8月7日までは試用期間であり,試用期間中は日給9000円であったと認めるのが相当であり,Xらの上記主張は採用できない(本件契約書1・2により,当初1か月であった試用期間をXらとYとの間の合意で事後的に延長したとみることもできるし,当初3か月であった試用期間を本件契約書1・2により少なくとも8月7日までに短縮したとみることもできる。Xらの試用期間が1か月であったことについてはXらに立証責任があるところ,Xらがこの点について立証責任を尽くしたということはできない。)。
  (イ) なお,Xらは,8月7日の個別面談の際,Y側から本件契約書1・2に署名するよう求められたので,十分に確認しないまま署名した旨供述する(〈証拠略〉,X1本人,X2本人)が,Xら及びCらは労働条件が採用面接時の説明と相違するとしてYに抗議して本件説明会が開催され,そこでもY側と労働条件についてやりとりをしているのであるから,Xらが労働条件に無関心なまま本件契約書1・2に署名したとは考え難く,Xらの上記供述はいずれも採用できない。
 イ かたや,Yは,試用期間中の横乗りは日給6000円である旨主張し,Y代表者はこれに沿う供述をする(〈証拠略〉,Y代表者)。
 Yは,関東便の横乗りでは日給9000円を支払っており,上記横乗りとは関東以外の横乗りを指すものと理解できるところ,確かに,上記1(3)ウエ認定のとおり,本件契約書1・2には横乗りの日当は6000円(関東以外)との記載があり,Xらはこれに署名したことが認められる。
 しかしながら,①上記1(1)イ認定のとおり,Yが1月にハローワークに申し込んだ求人票には,試用期間中日給9000円と記載されており,日給6000円の記載はないこと,②Yが採用面接時に面接者に示したとされるメモ(乙3。乙3には,当該面接者が6月21日に入社した場合を前提とする記載があり,同日入社したCの面接時のメモであることがうかがえる。)には日給6000円との記載が一切見られないこと,③前提となる事実(4),上記1(3)イ認定のとおり,Y側は,本件説明会において,労働者側らから,横乗りの日給6000円と聞いていないとの不満を聞いて,落ち度があったことを認め,日給9000円との差額分を支払うことを約束し,その後にこれを支払っていること,④上記1(3)ウエ認定のとおり,本件契約書1・2はあらかじめYにより用意されたもので,上記③でのYの対応が反映されていないことからすると,Xらの採用面接時,Yが試用期間中横乗り(関東以外)の日給が6000円と説明したことについて疑問が残る(なお,兵庫県の平成27年10月1日から平成28年9月30日までの最低賃金は時給794円であり(公知の事実),1日の所定労働時間が8時間の場合,日給最低額は6532円(794円×8時間)であり,日給6000円は最低賃金を下回り,明らかに違法である。)。
 したがって,Y代表者の上記供述は採用できず,Yの上記主張は採用できない。」