日本郵便(北海道支社・本訴)事件‐札幌地判 令2・1・23 労働判例1217号32頁

【事案】
 Xが,Yに対し,懲戒解雇が無効であると主張して,地位確認等の請求をしたもの。

【判断】
「2 争点(1)(本件懲戒解雇に係る懲戒事由の有無)について
(1)ア 前記前提事実(2)よれば,Xは,①社用車を使用して出張しておきながら,公共交通機関の利用相当額の旅費を受給し(…),②宿泊の際にクオカードを受領しながら,クオカード代金が宿泊費に上乗せされた宿泊費を請求し,実際の宿泊費を超えるクオカード代金相当額の受給をした(…)ものであるところ,こうした各受給は,社用車の利用及びクオカードの受領の各事実を知らないYの担当者に対し,公共交通機関を利用した旨の虚偽の請求書を自ら作成し,また,駐車場代金やクオカード代金が宿泊料に含まれていないかのように表示された宿泊施設の領収証を提出して(…)行われたことが明らかである。Xは,社用車を利用した出張,クオカード及び駐車場料金を含む宿泊プランの選択,上記請求書の作成と提出,一部の領収書の作成の依頼をいずれも自ら行っているから,これらの事実を認識,認容していたといえる。
 前記認定事実(3)及び(4)によれば,受領した金銭の使途は,出張先の郵便局員に対する差し入れ等の購入費にとどまらず,複数の出張間に申請なく行った宿泊費,出張の際に任意に行われる懇親会費,休日に行った社員との食事代に及んでいて,いずれもYの職務命令に基づくものでなく,私的なものということができ,また,こうした用途に充てる目的を有して本件非違行為を行ったものといえる。
 したがって,本件非違行為は,会社の金品を詐取したものと評価することができ,前記前提事実(3)アのとおりの事実があったというべきである。
 イ 上記①は,社用車を使用した場合に交通費を支給しない旨の規定(前提事実(5)ウ)に反する。上記②は,上記の事実関係によれば,Xは,受領したクオカードをYの業務外の費用に充てるか自ら保有していて,私的な利用といわざるを得ないから,宿泊費の実費を支給する旨の規定(前提事実(5)エ)に反する。したがって,法令又はYの規程に違反した(就業規則81条1項1号)ということができる。また,上記①及び②は,いずれもXの出張に係る業務に関する規定に違反したもので,業務取扱に関する不正があった(同項5号)ということができる。
 したがって,本件非違行為は,上記各号の懲戒事由に該当する。」

「3 争点(2)(本件懲戒解雇の懲戒権濫用該当性)について
(1) 前記2(1)アにおいて判断したとおり,本件非違行為は,会社の金品を詐取したものと評価することができ,懲戒標準における重大な不祥事関係のアの1項に該当するものであり,Yに真実と異なる事実認識を持たせて旅費に関する企業秩序を乱した点でXとYとの信頼関係を大きく損ねる重大なもので,Xは,Yの従業員の地位を継続し得ないものとみるほかない。
 本件非違行為は,上記のとおり故意に旅行手段や宿泊料金を偽り,これが容易に判明し得ないようになっている点でも悪質性が高く,しかも,前記前提事実(2)のとおり,約1年6か月間に100回にわたって繰り返し行われていて,常習性があるとみるべきであるし,不正受給の額は,実際の出張により受領可能な旅費部分を除いても50万円を超え,看過できない規模に及んでいる。
 その一方で,前記認定事実によれば,上記の詐取額が不正なものとXが認めてこれを返納した(認定事実(5))が,上記の高い悪質性に照らすと,処分を軽減すべきとは直ちにいえない。Xにつき,これまで懲戒処分歴がなく,極めて優秀な業務実績を上げてきたという事情もある(同(2))が,そうした結果得られた職務上の地位(同(1))は,他の職員のインストラクターに業務を指導する立場にあって,これらの者に範を示すべきものであるといえるから,上記の事情を重くみて,処分を軽減することは相当でない。
 そうすると,XについてYの従業員の地位を即時に失わせることはやむを得ないといわざるを得ないから,本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当でないということはできない。」