しんわコンビ事件‐横浜地判 令元・6・27 労働判例1216号38頁

【事案】
 Xらが,Yに対し,未払賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) 争点①(労働時間)について
 ア 認定事実(3)アないしウのとおり,Yにおける従業員の出退勤管理は,出勤簿に基づいてなされており,Xらは,原則として毎日これに出退勤時刻を記載し,毎月1回,X1を通じてYに提出していたこと,Xらは日々の業務内容を,当該業務に従事していた時間とともに,原則として毎日,日報に記載していたこと,この日報についても,X1を通じてYに提出し,総務担当者や乙山月子,乙山次郎の決裁を得ていたことからすれば,出勤簿及び日報には,Xらの出退勤時刻が概ね正確に記載されているものと推認するのが相当である。
 これに対して,Yは,出勤簿等に同じ時刻の記載が不自然に並んでいることや,Xらは毎日Xらのみによって活動しており,他に労働事実を客観的に把握している者がいなかったことなどを根拠に,その記載内容の信用性を争っている。しかしながら,認定事実(3)イのとおり,Xらは,出勤簿について30分単位で出退勤時刻を記載しているのであるから,同じ時刻の記載が多く並んでみるからといって,何ら不自然ではなく,出勤簿等の記載内容の信用性を減殺するとはいえない。また,Xらの労働事実を客観的に把握している者がいなかったから,出勤簿等が信用できないなどと主張する点は,Xら労働者の労働時間を管理する義務を負っているのは,使用者であるY自身であることからすれば,およそ失当といわざるを得ない。その点は措くとしても,これらの出勤簿及び日報は,いずれもYに提出され,毎日ではないにせよ,Y側が決裁をした上で管理していたものであるところ,YからXらに対し,その記載内容に疑義があるなどの指摘をした等の事実も認められないことからすれば,これら出勤簿の信用性がないとは到底いえない。なお,Xらにおいても,出勤簿や日報に記載した退勤時刻以後も片付け等をしたりした日が存在するというものであり,出勤簿に記載された出退勤時刻よりも実際の労働時間が殊更短いことを疑わせる客観的証拠は見当たらない。
 以上からすると,出勤簿及び日報の記載は,Xらが少なくともその時間は業務に従事していたことを示す証拠として,基本的に信用することができるというべきであり,これらのうち,特に出退勤時間が意識的に記載されていたのが出勤簿であったことを踏まえると,Xらの労働時間は,出勤簿がある場合には出勤簿により,出勤簿が存在しない日については日報に記載された出退勤時間により認定するのが相当である。なお,出勤簿及び日報がいずれも存在しない日については,Xら及びYとの間で定められた所定労働時間に従い,8時30分から17時30分と認定するのが相当である。」

「(2) 争点②(本件労働契約の解釈)について
 ア Xらの基礎賃金及び基礎時給について
  (ア) 前提事実(2)及び認定事実(1)によると,XらとYとの間で締結された本件労働契約は,いずれも1日8時間,週6日勤務に対してその給与を月給制で支払うことを内容とするものであるところ,これは週48時間の勤務を所定労働時間とする点で,労基法32条1項に違反することが明らかである。そのため,本件労働契約の内容は,労基法13条,32条1項により,一週間当たりの所定労働時間を48時間と定める部分が無効となり,これが40時間(1日8時間,週5日勤務)へと修正されるものと解されるところ,月給制は原則として,月当たりの通常所定労働時間の労働への対価として当該金額が支払われる旨の合意であるから,YがXらに支払った月給は,上記のとおり労基法に従って修正された所定労働時間に対する対価として支払われたものと解するのが相当である。
  (イ) これに対して,Yは,Xらに支払った給与は「1日8時間,週6日勤務」の対価として支払われたものである以上,①Xらが請求できるのは週1日(6日目)分のうち割増賃金分に限られ,仮に割増賃金分に限らない全額の賃金の支払を認めるのであれば,既に支払われた6分の1は労働の対価なく支払われたものとして不当利得になる,②基礎賃金についても6分の5の金額で計算し,残りの6分の1については,週1にちの時間外労働に対する固定残業代の合意があったと解釈すべきである旨主張する。
 しかしながら,労基法13条により無効となるのは,同法の定める基準に達しない労働条件に限られるのであり,Xらの労働条件において,無効となる所定労働時間に応じて賃金の定めが修正され,YからXらに対し,時間外労働に対応した賃金が支払われたとみるべき事情はうかがわれない。また,Xらの労働条件について,これを定めた労働契約書や就業規則は存在しておらず,Xらと乙山次郎の採用面接の際にも,給与の一部を固定残業代と解すべき合意等は何ら認められないことを踏まえると,Xらが支払を受けた賃金に,時間外労働に対応する賃金が含まれるとは認められず,Yの主張はいずれも採用できない。」
「(エ) そして,Yは,X1に対し,同人の部下に対する管理監督が行き届いていないことなどを理由に賃金を…1か月2万円減額しているが(認定事実(4)ウ),減額に際しては乙山次郎がX1に対して一方的に前記理由を告げたのみであり,賃金減額に係る具体的理由が十分に説明されたとはいい難く,これに対してX1が異議を述べなかったという点を踏まえても,労働条件の不利益変更につき,X1が自由な意思に基づいて同意したとは認められない。」
「イ 有給休暇取得分の未払賃金について
 Yは,Xらが有給休暇を取得した場合は賃金を減額していないものの,これらは週当たり48時間,6日間勤務であることを前提として支払ったものと認められる。そして,前記のとおり,Xらに支払われた月給はいずれも週当たり40時間(5日間)勤務に対する対価であると解釈する結果,有給休暇取得日のうち,1週につき8時間(1日分)の有給休暇を取得した分について,労基法39条9項に基づき未払賃金の支払を請求できると解するのが相当である。」
「ウ X2及びX5に対する欠勤控除分の未払賃金について
 Yは,X2及びX5に対して,週6日のうち1日でも欠勤した場合には欠勤控除として相当額を賃金から差し引いていると認められるところ(前提事実(2),(3)イ),前記のとおり週当たりの所定労働時間が5日と修正される結果,週5日を割らない欠勤について控除した部分については理由がないと解され,当該控除分は未払賃金として支払われるべきである。」

「(3) 争点③(X1及びX2の管理監督者該当性)について
 ア X1について
 Yは,X1がその他のXらを管理監督する立場にあり,管理職手当として毎月10万円が支給されていたことや,出退勤を自由に管理できたことなどを根拠に,管理監督者に該当すると主張する。しかしながら,X1の主たる業務内容は,他の従業員らと共に現場作業に従事することであった上,部下の管理監督業務として行っていた内容についても,Yの業務依頼書に従って他のXらに業務を振り分け,他のXらの出勤簿等を総務に届けるというごく単純なものであり,有給休暇等の決裁権限などの労務管理権限は有していなかったうえ(認定事実(3)ア,ウ,エ,(4)ア,イ),本件全証拠によっても,Yの経営判断に関与したり,業務遂行に当たって広範な裁量が認められたりしていた事実は認められない。また,X1は,…管理職手当として10万円を受け取っているが,これは従前支給されていた基本給48万円の総額を変えることなく,その一部を管理職手当という名目で支給されるようになったに過ぎず(認定事実(4)ウ),この手当が管理監督者の報酬として支払われたと評価することは困難である。さらに,X1は他のXらと同様に出勤簿による出退勤管理を受けており(認定事実(3)),X1が自らの出退勤時刻を自由に定められる状況になかったものと認められる。
 以上からすれば,X1が労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にあったとは認められず,管理監督者に当たるとは認められないというべきである。
 イ X2について
 Yは,X2がYの取締役に就任していることを根拠に,管理監督者に該当すると主張する。しかしながら,取締役への就任登記は,Yが建設業許可を得ることを目的として形式的に行われたものであり,実際にYの経営に携わった事実等は認められない(認定事実(5))。また,その業務内容や出退勤管理の状況,報酬等の待遇面についても,他のXらとの間に何ら違いがなく(認定事実(3),(5)),管理監督者に該当するとは認められない。」

「(4) 争点④(Yによる健康保険料等の控除の有効性又は違法性)
 前提事実(4)のとおり,Yは横須賀年金事務所に対し,X1の…標準報酬月額について30万円と届け出ているため,本来であれば健康保険料等として標準報酬月額30万円を基準として折半額である合計…円のみをX1の賃金から控除すべきであるところ,実際は,標準報酬月額50万円を基準として金額に相当する合計…円を控除していたことが認められる。そして,上記健康保険料等は,健康保険法167条1項,厚生年金保険法84条1項に基づき,賃金全額払の原則の例外として賃金から控除することが認められているところ(労基法24条1項ただし書),Yにおける上記処理は,法令上許される控除額を超えてX1の賃金から健康保険料等の名目で控除しており,上記原則に反するものである。
 これに対し,Yは,結果としてX1が月額50万円の賃金を得ていたため,これに相当する健康保険料等を賃金から控除したことに問題はないと主張する。しかしながら,上記健康保険料等の控除は,賃金全額払の例外として法令上の根拠を有する範囲に限り認められるものであり,X1の健康保険料等は,実際の賃金額と異なるYの届出に基づき,標準報酬月額30万円を基準として定められていたものであるから(〈証拠略〉),Yにおいて標準報酬月額30万円に応じた健康保険料等を超えて,X1の賃金から控除を行う法令上の根拠はないというべきである。したがって,Yの主張は採用できない。
 したがって,X1について,…未払賃金が認められる。」