ロピア事件‐横浜地判 令元・10・10 労働判例1216号5頁

【事案】
 Xが,Yに対し,懲戒解雇が無効であるとして労働契約上の地位確認等を求めたもの。

【判断】
「2 争点①(本件懲戒解雇の有効性)について
(1) 本件で懲戒事由となった対象となる客観的行為は,Xが本件精肉商品を精算しないまま持ち帰ったことであり,Xが本件持ち帰り行為を行ったこと自体について,当事者間に争いはない。もっとも,Yは本件持ち帰り行為が故意の窃盗行為であることを前提に,就業規則67条1項12号又は13号の懲戒事由に該当すると主張するのに対し,Xは過失により精算を失念したに過ぎず,上記懲戒事由のいずれにも該当しないと主張する。そこで,本件持ち帰り行為が故意の窃盗行為に当たり,懲戒事由該当性が認められるかについて,以下検討する。
 ア 前記前提事実(5)のとおり,本件持ち帰り行為については捜査機関による捜査が行われ,Xは,警察官による取調べを受けたものであるが,捜査を担当した藤沢北警察署は,Xの弁解を徴した上で説諭結了の措置をとり,捜査は終了しているのであって,本件持ち帰り行為が窃盗罪を構成する旨の公的機関による判断は示されていない。
 また,本件持ち帰り行為は,Xが,精肉商品を精算未了のまま店外へ持ち出した一回の行為であり,その外形自体,精算を失念して商品を持ち出してしまったとのXの説明と矛盾するものではなく,本件持ち帰り行為そのものが,Xに窃盗の故意があったことを積極的に裏付けるとはいえない。なお,本件全証拠によっても,本件持ち帰り行為以前に,Xが同様の行為を繰り返していたといった事実も認められない(Yは,本件持ち帰り行為の約1週間前に,Xが段ボールを持って帰宅している様子を写した防犯カメラの画像(〈証拠略〉)を提出するが,段ボールの中身は画像上明らかではなく,これによりXが商品を持ち出していたと認めることはできない。)。
 イ Yは,①精肉の加工作業を他の従業員と交替し,ラベルは不要だと発言したなどのXの言動が不審であること,②本件持ち帰り行為の動機について,本訴訟や藤沢北警察署に対する供述では知人への贈答品として購入しようとしていた旨述べるのに対し,Yには,弟に送るためという矛盾した説明をしていること,③本件精肉商品を精算するために作成したラベルを誤って洗濯し捨ててしまったなど到底信用できない供述をしていることから,Xは故意に本件持ち帰り行為を行ったものであり,計画的で悪質な窃盗行為だと主張する。
 しかし,①に挙げたXの言動は,いずれも知人への贈答用に本件精肉商品を購入しようとしたためであるとのXの説明によっても合理的に理解し得るものであり,これらの言動自体が不審であるとして,Xが故意に窃盗に及んだことをうかがわせるとはいい難い。また,②の点についてXは,過去に上司に他言しないでほしいと要望していた自己のプライバシーについて流布されたことがあったからと弁解しているところ(X本人),その弁解が必ずしも説得的とは言い難いものの,畢竟,本件精肉商品の送り先について異なる事実を述べたに過ぎず,これ自体が故意の窃盗行為を裏付けるとはいえない。
 次に③について,本件では6月20日に精肉室で勤務していた他の従業員は,いずれもXがラベルを作成する場面を目撃していないが(認定事実(4)オ),ラベル1枚を作成するのに要する時間は比較的短いと考えられること,ラベルを印刷するだけの場合に値付け機が大きな音を立てるものではないこと(X本人),Xが本件精肉商品をパック詰めしていたときは,いずれの従業員も勤務中であり,精肉室内では精肉販売等に必要な作業に従事していたことを踏まえると,他の従業員がXのラベル作成場面を目撃していなかったからといって,直ちにXが本件精肉商品に係るラベルを作成していないとまで認定するには足りず,また,ラベル喪失に関するXの供述内容が,それ自体虚偽であると評価し得る程不自然な内容であるとはいえない。
 かえって,Xは,他の従業員もいる中で人目をはばかることなく本件精肉商品を加工・梱包し,他の従業員に対し,私的に送る予定である旨説明するなどしており(認定事実(4)),これらのXの行動は,Xが故意に犯罪行為に及んだものと考えるには大胆に過ぎ,むしろ,精算を失念した旨をいうXの供述に沿うといえる。
 ウ 以上を総合すると,本件持ち帰り行為について,Xが故意に窃盗行為をしたと認めるに足りず,故意の犯罪の成立を前提とする就業規則67条1項12号及び13号の該当性は認められない。
(2) 次にYは本件持ち帰り行為が買い物ルール(認定事実(7))に違反するとして,就業規則67条1項5号,6号又は18号に該当すると主張し,予備的に,これらの根拠条文に基づく本件予備的解雇意思表示をしている。
 この点について,YがXに対する告知聴聞や懲戒委員会の開催など,適式な手続を履践しているとの主張立証もなく,そのような手続が履践されたのか甚だ疑問であるが,この点は措くとしても,Xは,買い物ルールを知らず,他の従業員にも徹底されていなかったなどと述べており(X本人),Dチーフにおいても,Xに対して買い物ルールを直接説明したり,認識しているか確認したりしたことはないと述べている(証人D)ことからすると,そもそもYの社内において,買い物ルールが周知され徹底して実施されていたか疑問があり,少なくともXがこの買い物ルールを認識していたと認めることはできない。
 また,仮にY社内において買い物ルールが周知されていたとしても,本件では,その買い物ルールの違反行為が一度なされたに過ぎない。そして,XはYから商品が未精算である旨の指摘を受けた際,直ちに自らの非を認めて謝罪し,本件精肉商品の価格相当額を清(ママ)算しており(認定事実(6)ア),Yに与えた実損害はない上に,再発が危惧される事情も特段見当たらないことからすれば,この一度の違反行為が,Yの社内の風紀ないし秩序を著しく乱す行為に当たると評価できるかは疑問であり,少なくとも懲戒解雇が相当であると認めることはできない。Yは,小売業における商品管理の必要性や万引きの弊害等を根拠に,本件持ち帰り行為にも厳重な姿勢で臨む必要があると主張するが,上記認定説示のとおり,そもそも本件持ち帰り行為が万引きという故意の窃盗だと認められない本件において,この主張は採用できない。
(3) さらに,本件持ち帰り行為を故意による窃盗行為と認定した本件懲戒解雇の手続に際して作成された報告書においてさえ,諭旨退職相当との見解が示されていたのに(認定事実(6)イ),本件訴訟手続係属後に故意による窃盗行為と認定されない場合に備えて予備的に行った懲戒処分に際して,より軽微な処分についての検討が真摯になされたとの主張もないし,本件全証拠によっても認められない。
(4) 以上より,本件懲戒解雇は,対象行為が就業規則67条1項12号及び13号に該当せず,Yが予備的に行った本件予備的解雇意思表示については,対象行為が就業規則67条1項5号,6号又は18号に該当するかは疑問があり,少なくとも,故意による窃盗行為よりも比較的軽微な違反行為に対し,不相当に重い処分がなされたものといえる。よって,本件懲戒解雇及び予備的に行った本件予備的解雇意思表示は,いずれも,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,無効である。」

「4 争点③(Yの行為の名誉毀損該当性)について
(1) Xは,本件掲示がXの社会的評価を低下させる名誉棄(ママ)損に当たり,不法行為が成立すると主張するため,以下検討する。
(2) 本件掲示は,本件持ち帰り行為について,Xの実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く,情状酌量の余地も認められない」「本事案は刑事事件になります」などと記載し,全体として見ると,Xが故意に商品を精算せず持ち帰り,窃盗行為をしたとの事実を摘示するものであり,Xの社会的評価を低下させる表現であると認められる。
 Yは,本件持ち帰り行為の事実を摘示してもXの社会的評価を低下させず,買い物ルールに違反した点を捉えて窃盗行為と表現するのが適切であって,Xの社会的評価を低下させないなどと主張するところ,そもそも,Yが,本件掲示がいかなる事実を摘示するものと主張するのか,その趣旨は判然としないものの,本件掲示を目にした者の普通の注意と読み方を基準とした場合に,上記のとおりXが故意に商品を精算せず持ち帰り,窃盗行為をしたとの事実を摘示するものと解されるから,Yの上記主張はその前提を誤るものであって採用できない。
(3) Yは,仮に前記事実摘示がXの社会的評価を低下させるものであっても,公共性,公益性が認められることに加え,Xは売り場の商品を精算せずに精肉室に持ち込んでおり,この時点で窃盗罪の既遂罪が成立するため,前記事実摘示は真実であるし,前記2(1)イ①から③に挙げた事情を根拠に,Xが故意に窃盗をしたことに真実であると信ずるについての相当な理由につき証明された場合に該当するため,違法性が阻却されると主張する。
 ア しかしながら,前記2に説示のとおり,本件持ち帰り行為が,窃盗罪を構成するものとは認められず,また,売り場の商品を精算せずに精肉室に持ち込んだことによって客観的に窃盗罪が成立するとの主張は,Y独自の解釈を示すもので採用できない。したがって,前記事実摘示が事実であるとはいえない。
 イ 次に,前記2(1)イ①から③に挙げた事情がいずれも故意の窃盗行為をしたことを裏付ける事実に当たらないことは前記2で説示のとおりである。また,Yは,平成30年6月22日のXとの面談において,Xが本件精肉商品について精算を失念していたと主張したのに対し,それ以上に本件持ち帰り行為が故意によるものか否かを調査したことをうかがわせる証拠はなく,むしろ,本件持ち帰り行為に対する警察による捜査が同月23日に行われ,即日説諭結了扱いにより終了しており(前提事実(5)),Yも,そのころこれを認識したものと推認される(弁論の全趣旨)にも関(ママ)わらず,同年7月3日には本件掲示に至っていること(前提事実(7),認定事実(8))からすれば,本件持ち帰り行為が窃盗行為であると断定するに足りる慎重な調査や手続きを行ったとは到底認められない。したがって,本件掲示によって摘示された事実が真実と信ずるについての相当な理由があったとも認められない。
 ウ なお,Yは,本件掲示をしたのは休憩室など一般の買い物客から見ることのできない場所であったため,伝播性が否定されると主張する。しかしながら,本件掲示は,Xの居住地近隣の店舗を含むロピア全店においてなされており,本件掲示を直接閲覧できる従業員のみでも相当数に上るため,伝播性が否定される余地はない。
(4) 以上より,本件掲示は,Xの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであり,違法性が阻却されるとは認められないから,不法行為に該当する。」

「7 争点⑥(Xの管理監督者性)について
(1) 労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」が労働基準法上の労働時間等に関する規定の適用から除外されるのは,その職務の性質や経営上の必要から,経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任,権限を付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にある一方,他の一般の従業員に比して賃金その他の待遇面でその地位にふさわしい優遇措置が講じられていることや,自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていることなどから,労働基準法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないことにあるからと考えられる。とすれば,労働基準法上の管理監督者に当たるかどうかは,①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである。
(2) そこで検討するに,Xは,Y入社から退職までの間,精肉事業部のチーフの下で勤務し,その間に担当した業務は,一般従業員と同様,あくまで精肉加工・販売にかかる実作業にすぎず(認定事実(2)ア),人事や予算に関して具体的な権限が与えられていたなどの事情は一切見当たらないことから,Xには,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されていたとは到底認められない。また,Xは出退勤時刻についての自由があったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,Xは,出退勤に際して毎回タイムカードを打刻し,Yがこれを管理していた(認定事実(3))。報酬においては,給与は理論年収500万5000円,月額支給額はグレード給35万円及び扶養手当と通勤費であり,賞与及び特別賞与として合計40万円が支払われるなど(前提事実(2),(3)),一般職と比較すれば若干の優遇を受けていたといえるが,その差額は一般職であるグレード4の上限と比較しても,年間30万円程度に満たない金額であり(〈証拠略〉),管理監督者にふさわしい報酬と評価できるものではない。
 以上によれば,Xが労働基準法条(ママ)の管理監督者に該当するとは到底認められない。」