浅口市事件‐岡山地倉敷支判 平30・10・31 判例時報2419号65頁

【事案】
 Yとの間の労務参加契約に基づき,市内山中で樹木の伐採作業に従事していたX1が,補助参加人Zが伐採した木に衝突し,後遺障害を負い,Yに対し,安全配慮義務ないし使用者責任に基づき損害賠償請求を,X1の妻であるX2及び子であるX3が,多大な精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求をしたもの。

【判断】
「二 安全配慮義務違反の有無(争点1)
 (1) 本件労務参加契約の法的性質
 ア …本件労務参加契約は,地元地区の公園の維持管理に関わりたいとの意向を受け,地元地区が推薦した作業員に清掃,草刈,伐採等の作業を依頼するものであること,作業員は,P2主任やP3管理人から細かい指示を受けることはなく,その指示は抽象的な内容にとどまり,作業内容及び作業手順について,作業員らに裁量が与えられていたことが認められ,また,天候の関係で作業が出来ない場合,作業員らの判断で,作業日が変更されることがあったことがうかがわれる。
 以上の事実によると,本件労務参加契約を請負契約と解する余地はある。
 イ しかしながら,本件労務参加契約は,第3条で作業時間が定められ,第5条において1日当たりの対価が定められており,報酬が出来高ではなく,時間に対する対価とされている。また,労務参加期間も1年間とある程度長期にわたっている(1条)。
 そして,本件労務参加契約においては,Yは,作業実施日や作業時間の変更を指示,連絡するものとされており(1条,3条2項),作業員は,天候が作業に適さない場合,変更することはできたと解されるものの,基本的には,作業場所や作業時間の拘束性の程度はそれなりに高かったと考えられる。その関係からすると,作業員が業務を自由に断ることができたとも考え難いところである。
 また,P2主任やP3管理人は,逐一細かい指示は行わないものの,作業は,P3管理人が作成した年間スケジュールに沿って行わなければならず,適宜,P3管理人から,作業場所や作業内容の指示もなされており,作業員は,これに従った作業に従事することが義務付けられていたものと考えられる。そうすると,作業員は,基本的には,P3管理人の指揮命令を受けて作業していたと評価して差し支えない。
 その他,X1は,自己が所有するチェーンソーを使用しているものの,原則的には作業に必要な道具は,Yが用意するものとされていること,公園作業請求書の体裁からすると,本件労務参加契約は,作業員自らが作業することが想定されており,作業員が業務を再委託すること等が想定されているとは解されていないことなどの事情を総合すると,本件労務参加契約の法的性質は,請負契約ではなく,雇用契約と解するのが相当である。
 (2) Yの安全配慮義務違反
 前記のとおり,本件労務参加契約の法的性質は,雇用契約なのであるから,Yは,本件労務参加契約の付随的義務として,信義則上安全配慮義務を負うものというべきである。
 そして,…認定した安全な樹木の伐採手順等や本件事故前に講習会を実施し,Yは同伐採手順等を認識得たことからすると,Yは,少なくとも,作業に特に必要な保護具であるヘルメットや呼子を備え,着用させることによって,木の伐採作業の遂行に当たって生じる危険を防止すべき安全配慮義務を具体的に有していたといわざるを得ない。
 しかるに,Yは作業員全員についてヘルメットや呼子などを用意しておらず,そのため,ヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化していることを容易に認識し得たにもかかわらず,何ら必要な指示,指導を行っていないというのであるから,Yには安全配慮義務違反があったと評価せざるを得ない。
 したがって,Yは,安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を免れない。
 三 使用者責任の成否(争点2),過失相殺の成否(争点3)
 (1) 本件労務参加契約の締結
 前記のとおり,本件労務参加契約は雇用契約なのであるから,補助参加人との間には,実質的な指揮監督関係があり,Yは,民法715条1項の「他人を使用する者」に該当する。
 (2) 補助参加人の過失について
 …認定した本件事故態様によると,補助参加人は,1本目の木を伐採する時に声を掛けたことから,すぐに2本目の木を切れば安全は確保されていると軽信し,声を掛けることなく,2本目の木を切る作業を開始した上,2本目の木を伐採する際,安全は樹木の伐採手順である受け口を作ることをせず,1回で切り倒そうとしたことが認められる。
 このように,補助参加人は,安全な樹木の伐採手順に違反しているのであって,同人に過失が認められることは明らかである。
 したがって,Yは,使用者責任に基づく損害賠償責任を免れない。
 (3) 過失相殺の成否
 Yは,X1には,①本件事故現場付近から退避せず,作業中の補助参加人の下側の登山道上で通れた1本目の木を切断する等の作業を行った過失,②X1が,Yに対してヘルメットや呼子等の支給を求めていなかった過失があり,5割の過失相殺がなされるべきである旨主張する。
 しかしながら,①については,前記認定のとおり,補助参加人は,他の作業員と木を切るとの確認をはっきりとすることなく伐採作業を始めていること,本件事故現場には,下水や雑草があり,山中と木が倒れた道路との見通しが悪かったこと,《証拠略》以下の写真によると,本件事故現場には多数の枯れ木があり,伐倒の必要があった木は,補助参加人が伐倒した2本の木に限られるわけではないと認められることからすると,X1において1本目に引き続いて2本目の木の伐採作業が始まることを予測することは甚だ困難であったと言わざるを得ない。
 また,②については,X1は,Yに対してヘルメットや呼子等の支給を求めることが望ましかったとはいえるものの,Yが,作業員全員に対して,少なくとも,特に必要な保護具であるヘルメットや呼子などを用意し,安全を確保することが強く求められていたことからすると,この点につき,過失相殺を行うことが損害の公平な負担に適うとは言い難い。」

「X2及びX3が,本件事故の結果,多大な精神的苦痛を受けたことは明らかであって,その苦痛は察するには余りある。
 しかしながら,近親者固有の慰謝料は,生命侵害に比肩すべきような精神的苦痛を受けた場合に限り認められるところ,…認定したX1の後遺障害の内容からすると,X2及びX3が,生命侵害に比肩するような精神的苦痛を受けたと認定することは困難である。
 したがって,X2及びX3の慰謝料請求はいずれも認められない。」