フーデックスホールディングスほか事件‐東京地判 平30・1・22 労働判例1208号82頁

【事案】
 Y社の従業員であったXが,職場の忘年会兼送別会の二次会で,同僚であったYから暴行を受けたとして,Yらに対し,損害賠償請求をしたもの。

【判断】
「本件忘年会は,B店のE店長の発案で,同店の忘年会と,定年退職者及び異動者の送別会の趣旨で開催されたものであり,一次会は,B店の営業終了後に同店近くの焼肉店で行われたこと,Xは,当日休みであったにもかかわらず,事前にE店長から参加を促されており,B店の従業員及びアルバイトが全員参加していること,二次会は,公共交通機関による帰宅が不可能な午前2時30分から開催されているから,一次会に参加した者は,事実上二次会にも参加せざるを得ない状況にあり,現に一次会に参加した者全員が二次会にも参加したことが認められる。
 そうすると,本件忘年会は,一次会,二次会を通じて,Y社の職務と密接な関連性があり,事業の執行につき行われたというべきである。
 これに対し,Y社は,本件忘年会のような行事は労務管理上禁止しており,本件忘年会は,業務外の私的な会合であると主張し,E店長もこれに沿う供述をする。
 しかし,そもそもY社が本件忘年会のような行事を禁止していたと認めるに足りる客観的な証拠はないし,仮にY社が本件忘年会のような行事を禁止していた事実があったとしても,上記事情に照らせば,本件忘年会がY社の事業の執行につき行われたものであることは否定できない。
 そして,本件暴行は,本件忘年会の二次会において,Y社の従業員であるYによって行われたものであるから,Y社は使用者責任を負う。」

「Xは,…本件暴行直後に,E店長らに「辞めます」とのメール(〈証拠略〉)を送信しているほか,平成25年12月30日,E店長から電話で,「もう一度Aに,仕事に戻ってもらえませんか」と言われたものの(〈証拠略〉),平成26年1月16日に退職届(〈証拠略〉)を提出してY社を退職しており,本人尋問においても,「(退職は)自分の意思でしょう」との質問に対し,「そうですね,はい」と供述しているのであるから,本件暴行を受けたことや,その後のY社の対応に不満を抱いていたにせよ,自らの判断でY社を退職したことが認められ,退職に伴う減収は,本件暴行による損害とは認められない。」

「Xは,本件暴行により退職を余儀なくされ,結婚を延期せざるを得なかったと主張するが,退職がXの意思によるものであったことは上記のとおりである。また,婚約者であるL(以下「L」という。)の証言によれば,Lは平成13年から地方公務員として勤務して月額30万円以上の収入を得ており,Xが本件暴行により休業を余儀なくされたとしても,そのことが結婚の障害になるとは考えにくいこと,XとLは現在まで結婚していないが,結婚を延期しているのは,この事件が終わるまでは結婚しないと二人で決めたことであることが認められるから,本件暴行によって,結婚を延期せざるを得なくなったとはいえず,結婚延期による精神的損害が生じたともいえない。
 また,本件訴訟の経緯に照らせば,現在まで本件紛争が解決していないのは,XとYらとの間で,調停又は和解の条件が折り合わなかったためであることが認められ(なお,本件訴訟において,人証調べ後に当裁判所が提示した和解案について,Yらが応諾する姿勢を示したのに対し,Xが判決による解決を望んだことは,当裁判所に顕著な事実である。),Yらの対応に違法性は認められない。
 よって,この点に関するYの主張は採用できない。」

「Xは,Y社がYを処分することなくXを退職させたことが職場環境配慮義務に違反すると主張するが,Xが自らの判断でY社を退職したと認められることは上記…のとおりであり,Y社がXに退職を強要したなどの事情は認められない。また,XがY社を退職したのは,本件暴行の約2週間後であり,その間,Xは休業しているから,XがY社を退職するまでの間に,Yに対し何らの処分もしなかったとしても,そのことが職場環境配慮義務に違反するとはいえないし,そのことによりXが何らかの損害を被ったということもできない。
 なお,Xの退職後は,Y社はXに対し,雇用契約上の義務を負わないから,Xの退職後の事情は,職場環境配慮義務違反に当たる余地はない。」