K社事件‐横浜地小田原支判 平30・3・23 労働経済判例速報2380号6頁

【事案】
 Xらが,Yに対し,未払賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) 労働基準法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。そして,実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が上記労働時間に該当するか否かは,不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきであるところ,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁平成9年(オ)第609号同14年2月28日第1小法廷判決民集56巻2号361頁)。
 (2) 証拠(略)又は弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 ア 交代運転手の座席は,運転席の真後ろにある客席である。客席が二人用の座席であっても一人で着席していた。バスによっては,交代運転手用の座席の前のパネルに足をのばして乗せることができる台が設置されているものや,乗客の席との間の仕切りやカーテンが設置されているものがあった。
 イ 交代運転手は,運転の際に残った疲れが事故の原因になることがないように,交代運転手として乗車している間は休憩するようにYから指導されており,仮眠するなどして休憩していた。この際,交代運転手は,制服を着ていたものの,上着を脱ぐことは許容されていた(Yは運転手に対し,接客時には上着を着用することを義務付けていた。)。交代運転手は,その着席中に,乗客の要望や苦情に対応することや,運転手の運転を補助することはなかった。交代運転手は,事故等の非常用にYから支給された携帯電話を管理していたが,携帯電話機にYから着信があることはほとんどなく,まれに所用により発信することがある程度であった。
 (3) 前記(2)で認定した各事実を踏まえれば,交代運転手として乗車している間にYのための役務を提供した事実は認められない。また,交代運転手によるY支給の携帯電話の管理についても,それを使用することはまれであったことからするとこれを重視することはできない。
 むしろ,前記(2)で認定した各事実からは,交代運転手が休憩するために配慮された環境が提供されていたというべきであって,Xらは,交代運転手として乗車していた間に労働契約上の役務の提供を義務付けられていたとは認められず,使用者の指揮命令下に置かれていたと評価するに足りない。
 (4) Xらは,交代運転手が,乗客に対し,気軽に交代運転手に声をかけるように車内放送をしており,現に交代運転手は乗客からしばしば話しかけられ,これに対応していたと主張する。しかし,走行中の車両の内部は暗く,最低限の証明のみが点灯しているだけであったこと(人証略),車両は夜間に走行しており多くの乗客は入眠しており,あえて交代運転手に話し掛ける必要がなかったと考えられること,Xらが主張するような交代運転手の業務や当時の車内放送の各存在を裏付ける的確な証拠がないことに照らし,Xらの主張は採用できない。
 また,Xらは,交代運転手が道案内をしていたと主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はないし,バスにはカーナビケーションシステムが設置されていたこと(人証略)からすれば交代運転手自身が道案内する必要はないから,Xらの主張は採用できない。
 Xらは,Xらが所定の座席に制服を着用して着席していた事実を指摘するが,乗客の存在する場所と同じ閉鎖的な空間であり,交代運転手の職務の性質上,休憩の場所もバス車内に限られていたことに照らせば,休憩する場所や服装が限定されることはやむを得ないものである。かえって,Yとしても,上記のとおり,交代運転手に対し,休憩するために配慮された環境を提供し,制服の上着を脱ぐことを許容することで,休憩する場所や服装が限定される中で,可能な限り,XらがYの指揮命令下から解放されるよう配慮していたと評価できる。したがって,Xらが指摘する事実をもって,Xらが使用者の指揮命令下に置かれていたと評価するのは困難である。
 交代運転手が乗客から話しかけられて対応することがあり得ることはYにおいても想定はしており,交代運転手に乗客への対応の仕方を委ねていたことが認められるものの(人証略),日常的にそのような事態が生じていたとは認められないし,まれに交代運転手が乗客への対応をせざるを得なかったことをもって,交代運転手が労働契約上の役務の提供を義務付けられていたと認めることはできない。
 また,Xらが主張するように,仮眠がバスの安全運転を確保するためのものである一面があること自体は否定できないものの,仮眠はXらとYとの間の労働契約において提供すべき役務そのものではないから,直ちに仮眠に充てられていた時間を使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできない。
 (5) 以上によれば,交代運転手としてバスに乗っている時間は労働時間には当たらない。」