九水運輸商事事件‐福岡高判 平30・9・20 労働経済判例速報2378号3頁

【事案】
 Yにおいて期間の定めのある労働契約をしているXらが,Yに対し,通勤手当が期間の定めのない労働者に対するものの半額とされていることは労契法20条の禁止する不合理な差別に値する等と主張して,通勤手当の差額等の支払を求めたもの。
 Xら,Yがそれぞれ原審での敗訴部分を不服として控訴。

【判断】
「労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないこと,正社員とパート社員とで通勤に利用する交通手段に相違は認められず,パート社員の通勤時間や通勤経路が正社員のそれに比して短いといった事情がうかがわれないことを総合考慮すると,本件相違は労働契約法20条にいう不合理な労働条件に当たると解するのが相当である。
 エ 他方で,Xらは,本件改定により正社員の通勤手当が5000円減額されると同時に職能給が1万円増額されており,この増額のうち5000円は上記減額の対価であるから,本件改定後も,正社員には通勤手当1万円の支給が存続しているとして,労働契約法20条違反の状態は継続していると主張する。
 しかしながら,新賃金規程9条2項は,職能給は社員の職務能力に応じ個別に決定する旨を定めていて(書証略),本件改定後に正社員に支給されている職能給と通勤手当とは,別個の賃金であるといえるから,上記減額及び増額が同時にされたことやその変動額が対応していることをもって,直ちに職能給の一部が通勤手当に当たると認めることはできない。
 また,労働契約法20条は,労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものであり,その解消のために無期契約労働者の通勤手当が減額されたとしても,そのことが同条に違反すると解することもできない。
 したがって,労働契約法20条違反の状態が継続しているとのXらの上記主張を採用することはできない。」
「Yは,本件相違が労働契約法20条に違反するとしても,原判決で認定されるまで,本条に違反すると予見することは不可能であったとして,Yの不作為を不法行為と評価することはできないと主張する。
 しかしながら,Yが,上記予見が不可能であったことを基礎付ける事実として主張する,通勤手当を長年の間,皆勤手当の一種として取り扱ってきたとの事実が認められないことは,前記…で説示したとおりである。また,Yが主張する条文の文言や施行からの日数は,いずれも上記予見が不可能であったことを基礎付ける事実であると評価することはできない。かえって,前記…で述べたとおり,本件相違は労働契約法20条に違反するもので,Yの取扱が,正社員とパート社員とで支給する通勤手当の金額が異なるというものであって,通勤手当に差異を設けることが不合理であるとの評価を妨げる事情がうかがわれないことに照らせば,Yにおいて,本件相違が同条に違反することを予見することは可能であったと認められ,Yがそのような違法な取扱いをしていたことについては過失があったというべきである。
 したがって,Yは,上記取扱いによりYらが被った損害について,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。」

「皆勤手当が低額であるとも,同手当に対する労働者の期待がそれほど高くなかったとも認められないことは…説示したとおりである。Yが主張する…事情を考慮しても,本件代替措置によって,皆勤手当の廃止によるXらが受ける不利益の程度が緩和されていると認めることはできない。
 ウ Yは,Yのほとんどの労働者が本件改定に同意していることから,本件代替措置は相当なものであると主張する。
 しかしながら,本件代償措置は,Yの労働者が自由に年次有給休暇を取得することができる日数を減少させるものでもあることも考慮すると,上記同意があったことが認められるとしても,そのことから直ちに,本件代替措置の内容が相当なものであるということは困難である。
 エ Yは,皆勤手当の存在が給与計算においてかなりの負担となっていたことや,Yの業績が悪化していたことから,皆勤手当を廃止する必要性があったと主張する。
 しかしながら,上記給与計算の負担や業績の悪化の事実が認められず,皆勤手当を廃止する必要性があったといえないことは…説示するとおりである。
 オ Yは,本件改定の約1年前から,団体交渉を通じて本件改定についてXらが所属する労働組合と繰り返し協議を行ったと主張するけれども,これを認めるに足る証拠はない。また,本件改定について意見を付した労働者代表Fの選出方法がYが主張するとおりであったと認めることができないことは…説示するとおりである。
 カ 以上のとおりであるから,本件改定のうち皆勤手当の廃止に関する部分が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることが許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず,労働契約法10条にいう合理的なものに当たると認めることはできない。」