九水運輸商事事件‐福岡地小倉支判 平30・2・1 裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87514

【事案】
 Yにおいて期間の定めのある労働契約をしているXらが,Yに対し,通勤手当が期間の定めのない労働者に対するものの半額とされていることは労契法20条の禁止する不合理な差別に値する等と主張して,通勤手当の差額等の支払を求めたもの。

【判断】
「労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する規定であるところ,同条の「期間の定めがあることにより」という文言は,有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違するだけで,当然に同条の規定が適用されるものではなく,当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が,期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要求するものと解するのが相当である。」

「ア 労働契約法20条違反の有無
 (ア) まず,通勤手当の性質について検討するに,Yは,実際の通勤費用を考慮することなく,一律に支給がされており,かつ月に3回以上欠勤すれば不支給となる取扱いがされていたことを根拠に,いわゆる皆勤手当の一種というべきであると主張する。
 確かに,旧就業規則等の下においてYの支給していた通勤手当は,徒歩や自転車など実費がかからない手段で通勤している者も含めて一律に定額(正社員は1万円,パート社員は5000円)が支給されていたものであって,実際の通勤距離に応じてその額が算定されるというものではない。
 しかし,Xらは,いずれも概ね25分から40分程度かけて自家用車で通勤しており,その通勤費用は実費1万円を超えているから,Xらが受給していた通勤手当は,その実際上の機能としても,Xらの通勤費用を填補する役割を果たしていたとみることができる。一方で,通勤手当として一定額を支給することは,会社にとっては通勤経路の確認や計算の簡素化といった事務手続の手間を省略化できるという利点があり,当該支給方法を採ったからといって直ちにこれが通勤手当としての性格を失うとか皆勤手当であるとみることは相当ではない。また,Yの旧就業規則等においては,皆勤手当とは別個に「通勤手当」が明確に定められていたものであり,Yはこれを通勤手当として申告することで非課税という扱いを受けてきたものであって,Yの主張は,通勤手当の形式と実質のうち,自らに都合の良い部分のみを切り取って主張するものといわざるを得ないし,さらに,Yの主張を前提にすると,Yが行った通勤手当に関する就業規則の改正の結果,通勤手当が支給されない従業員が生ずることになれば(徒歩で通勤する従業員がこれに該当することになろう。),その者に対して皆勤手当の廃止の是非という新たな法律問題を惹起することになり,不合理な結果となる。
 そうであれば,通勤手当の性質は,名目だけでなくその実質も通勤手当であると認めるのが相当である。
 (イ) そこで,…職務内容等の差異及び上記通勤手当の性質を踏まえて,本件相違が不合理といえるかどうかについて検討する。
 本件相違は,旧就業規則等の下における通勤手当の差額5000円であるから,本件で労働契約法20条に違反するかどうかを論じるには,パート社員(有期契約労働者)と正社員(無期契約労働者)との間でこのような通勤手当の差額を設けることが不合理といえるか否か,換言すれば,そのような取扱いが合理的な理由に基づいて行われているものであるか否かが問われることになる。
 しかし,Yが通勤手当を設けた理由は,Y代表者の供述によれば,少しでも手当が多い方が求人に有利であるというものであり,それ自体,本件相違の合理性を肯定できる理由であるとは考え難い。また,パート社員と正社員のいずれの職務内容も,北九州市中央卸売市場での作業を中核とするものであるから,パート社員か正社員かを問わず,仕事場への通勤を要し,かつ,その通勤形態としても,多くの者が自家用車で通勤しているという点で,両者で相違はなく,パート社員の方が,正社員に比べて通勤時間や通勤経路が短いといった事情もうかがわれないのであって,通勤手当の金額を定めるに当たり,正社員の通勤経路などを調査した上でこれが定められたわけでもない(Y代表者)。
 そうすると,本件相違に合理的な理由は見出せず,通勤手当がYに勤務する労働者の通勤のために要した交通費等を填補するものであることなどの性質等にかんがみれば,…職務内容の差異等を踏まえても,本件相違は不合理なものといわざるを得ない。
 したがって,本件相違は労働契約法20条に違反するものというべきである。」

「(ア) 本件相違が労働契約法20条に違反することによる効果について検討するに,Xらは,パート社員の労働条件のうち労働契約法20条に違反する部分については無効となり,正社員の労働条件によって補完される旨を主張する。
 しかしながら,旧パートタイマー就業規則には,「パートタイマーの賃金については別に定める賃金規定によるものとする。」という条項がある(第16条)が,ここにいう「別に定める賃金規定」が別途定められることはなかったのであるから,無効の対象となる賃金規定は存在しないというほかない。また,…パート社員の労働条件は旧パートタイマー就業規則によって定められ,他方で正社員の労働条件は旧就業規則で,そのうち賃金に係る部分は旧給与規程で,それぞれ定められることとされていたのであるから,仮に旧パートタイマー就業規則に通勤手当に関する規定が存在しており当該規定が無効となったとしても,旧給与規程に定められている正社員の労働条件がパート社員に適用されると解することは困難である。
 そうすると,仮に労働契約法20条に違反する場合の効果として労働条件の一部無効という私法的効果を肯定するとしても,このことによって,Xらに,労働契約に基づき,Yに対して通勤手当の格差分の支払請求権があると解することはできない。
 (イ) 次に,上記のように労働契約法20条に違反することが不法行為を構成するか否かについて検討するに,Yが本件相違を設ける合理的な理由が存しないことは前判示のとおりである。そのような不合理な取扱いが長年継続され,労働契約法20条が規定された後も改められることなく同様の取り扱いを継続していたことなどからすれば,違法にそのような取扱いを行っていたものとして,不法行為が成立すると認めるのが相当である。」

「ア 労働者の受ける不利益の程度及び変更後の就業規則の内容の相当性
(ア) …月額5000円という金額は,Xらの賃金総支給額の5%に当たる金額であり,ほぼ毎月皆勤手当の支給を受けていたという実態も考慮すると,本件改定による不利益の程度が僅少であるとはいい難く,また賃金に関する不利益変更であるから,その合理性については厳格に判断されなければならない。
(イ) Yは,本件協定による計画年休制度の導入によって,Xらが実際に従事する労働日数は変わらないまま,計画付与された年休取得に伴う平均賃金等を受け取ることになるため,皆勤手当の廃止の前後でXらが受け取る賃金の総額は変わらないから,Xらに皆勤手当の廃止による不利益はなく,むしろ1日でも欠勤すれば受給できない皆勤手当よりもより安定した賃金を得るメリットがあると主張する。
 しかしながら,本件協定による計画年休制度というものは,Yにおいて従業員が年次有給休暇を取得する日にちを指定するものにすぎず,当該制度によって,Xらの賃金が増加したり,新たな有給休暇が付与されたり,労働日数が減少したりするものではないから,これによって,直ちにXらが何らかの利益を受けるものとは考え難い。
 また,Yは,Yの従業員は,従来は年次有給休暇の取得を遠慮する風潮があったが,変更後はYが計画的に付与するため,年次有給休暇を取得しやすくなるとも主張する。しかし,パート社員を含むYの従業員に年次有給休暇を取得する権利があること自体は当該変更の前後を問わず変わらないし,同従業員が自由に年次有給休暇を取得できるとするのではなく,労働時間や労働日数は変わらないまま年次有給休暇の多くをYの指定した日に消化させられることになるから,これを利益といえるかどうかについて疑問なしとはしない。
 さらに,Yは,1年間で14日分の賃金(6万4750円)が増加したことになり,皆勤手当を廃止したことによろう損失分(月5000円×12か月=年間6万円)が補てんされるとも主張するが,当該増加分の賃金は,所定労働日数が増加したことに必然的に伴うものであるから,これをもって皆勤手当が廃止されたことに対する代償措置に当たるということはできない。
 加えて,Yは,従来1か月のうち1日でも欠勤すれば皆勤手当が支給されなかったが,新パートタイマー就業規則ではそのようなことがないから,むしろ従業員にとって有利な制度であるとも主張するが,Xらはほぼ毎月皆勤手当の支給を受けることができていたことは上記認定のとおりであるから,Y主張の点をもって,Xらに有利な制度であるということはできない。
 そうすると,本件協定による計画年休制度は,皆勤手当の廃止に伴う不利益の緩和措置又は代償措置として相当なものとはいい難い。
イ 労働条件の変更の必要性
 皆勤手当を廃止する必要性についてみると,Yは,その理由について,給与計算の簡素化と業績の悪化等を主張する。
 しかしながら,皆勤手当の計算というのは主に各従業員に欠勤があるかどうかを確認するものであり,これが簡素化を迫られるほどに煩雑なものとは直ちに認め難い。また,本件改定後も正社員については皆勤手当を残置していること(…),からすると,パート社員についてのみ給与計算の簡素化を図る合理的理由にも乏しい。
 さらに,業績の悪化について,Y代表者は,赤字が5期近く続いていると供述し(Y代表者),本件改定の際の通知書にも「近年は売上金額の減額も続いており,経営状態は厳しさを増す一方ですが,当社と致しましてはなんとか雇用を維持していこうと努力しておりますので,ご理解の上,勤務して頂きますようお願い致します。」という記載がある(書証略)ものの,業績悪化やその程度を裏付ける的確な証拠は存しない。
 そうすると,給与計算の簡素化や業績の悪化という観点からは皆勤手当を廃止する必要性があったかどうか疑わしいといわざるを得ず,他に皆勤手当の廃止の必要性を裏付ける証拠もない。
ウ 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情
 …Yは,従業員全員に対し,個別に本件改定について説明をし,Xらを除いた従業員からは書面で同意を得ているものであって,パート社員に限ってみてもその多く(30名のうち少なくとも25名)が本件改定に同意したと認めることができる。
 他方で,本件改定の前にXらが結成した労働組合との交渉が行われた形跡はない。
 なお,Yは,タイムレコーダーの側にある掲示板にBを選出することについて意見や立候補を求める張り紙を掲示する方法によって,Bを過半数代表者として選出し,意見聴取をしている旨を主張する。しかし,X1はYの主張するようなBを代表者として選出する旨の掲示物を見たことがないと述べ(X1),Y代表者は従業員同士で行うことなのでどのような選出方法をとったかわからないと述べており(Y代表者),Yが主張する選出方法が実施されたと認めるに足りる的確な証拠はない。
エ まとめ
 以上によれば,本件改定により皆勤手当が廃止されたことによってXらが受ける不利益の程度は小さくなく,Yが主張する上記不利益の代替措置を踏まえてもその内容が相当なものとは言い難いのであって,また,本件改定の必要性についても疑問があるといわざるを得ない。そうすると,Yが,本件改定に当たっては個別に従業員に説明して同意を取得し,多くの従業員がこれに賛同しているという事情を踏まえたとしても,本件改定(新パートタイマー就業規則)のうち皆勤手当の廃止に関する部分は,同意しないXらに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。」