東京都(懲戒免職処分等取消請求)事件‐東京地判 平28・2・8 判例地方自治420号45頁

【事案】
 Xが、懲戒免職処分及び職員の退職手当等の全部を支給しないことを内容とする退職手当支給制限処分を受けたことから、Yに対し、同処分の取消しを求めたもの。

【判断】
「ア 地方公務員法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分をすべきか否か、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかについては、公正であるべきことを定め(同法27条1項)、平等取扱いの原則(同法13条)及び不利益取扱いの禁止(同法56条)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な定めを置いていない。
 そして、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等の他、当該公務員の行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して判断されるべきものであるところ、その判断は、平素からの庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。したがって、懲戒権者が上記の裁量権を行使して行った懲戒処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り、違法となるものと解される。
    イ これを本件についてみると、本件懲戒免職処分を選択、決定するに対し、最も重大な非違行為であると考えられる本件漏えい行為についてみると、警視庁警部として特殊3係に配属されたXは、B医院事件の実質的な捜査指揮官として、捜査全体を掌握するという重要な立場にあり、捜査の密行性の観点から、捜査上の秘密保持や捜査関係書類の保管・管理等に十分な配慮を払うべき職務水往生の義務を負っていたというべきところ、そのような義務に反し本件漏えいを行った点について斟酌すべき事情はなく、本件漏えい行為の対象がB医院事件における被害女性の死因に関する本件鑑定書及び捜査本部の拡大方針が記載された本件事件チャートという重要性・機密性が高い文書であり、これを捜査対象者であるA美容外科職員であるCに交付したことは、同美容外科の罪証隠滅を容易にし、捜査活動に支障を生じさせるばかりでなく、警察の捜査に対する信頼を損なう重大な非違行為であるというべきである。・・・本件漏えいの後にも、CがXに対し、更なる情報提供を求めており、同美容外科において捜査活動への対抗策を講じており、罪証隠滅行為を試みようとしていたことがうかがえること、本件漏えい行為が社会に与えた影響も大きいことが推察されることを勘案すると、本件漏えい行為は、それだけでも懲戒免職処分に相当する重大かつ悪質な非違行為である。
 また、Xは、B医院事件に関連して、本件飲食行為・・・、本件雇用要求行為、本件旅行行為、本件招き入れ行為並びに本件携帯電話受領行為といった多数の非違行為を行っているところ、これらの非違行為も捜査対象者であるA美容外科側から種々の利益供与を受け、あるいは、同美容外科側に便宜を図るものであり警察の捜査に対する信頼を損なうものであるというべきである。
 そうすると、Xが本件漏えい行為を否認しているため、その動機について必ずしも明らかにはなっていないこと、Xが勤務態度について指導等をされたことがなく、事件解決の功労として警視総監賞の表彰を20回受けたこと、過去に懲戒処分歴を受けたことがないことを斟酌したとしても、警視総監がした本件懲戒免職処分が社会通念上著しく妥当を欠くものであるということはできず、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできないというべきである。
    ウ これに対し、Xは、本件懲戒免職処分は、事実誤認による懲戒事由に基づいてされたものであり、処分量定についても社会通念上著しく妥当性を欠くものであるから、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであって違法であり、取り消されるべきものである旨主張する。しかし、Xの主張は、Xが本件漏えい行為を行っていないことを前提とするものであって、その前提を欠くことは前記説示のとおりであるから、採用することはできない。」

「ア 本件条例17条1項は、退職手当管理機関が懲戒免職等を受けて退職した者に対し退職手当等の全部又は一部を支給しない処分をする場合には、懲戒免職等の理由となった非違行為に係る事情のほか、当該退職をした者の職務及びその責任、勤務の状況等、広範な事情について総合的な検討を行うことを求めている。もっとも、同項は、検討の内容についてそれ以上に具体的な定めを置いていないから、退職手当の支給制限を行うか否か、これを行う場合にどの程度の重きを置いて考慮すべきかについては、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる当該退職手当管理機関の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであり、退職手当管理機関がその裁量権を行使して行った退職手当支給制限処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り、違法となるものと解される。
    イ これを本件についてみると、これまで検討したとおり、本件漏えい行為の重大性、悪質性に加え、その余の非違行為の態様等に鑑みれば、懲戒免職等の理由となった非違行為に係る事情のほか、当該退職した者の職務及びその責任、勤務の状況等を含め、・・・Xに有利な事情を最大限考慮しても、Xについては、退職手当を全部支給しない処分とすべきであり、そのような警視総監の判断には相応の根拠が認められ、社会観念上著しく妥当性を欠いているとは認められないというべきである。
 したがって、本件支給制限処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したということはできない。」