ゴールドルチル事件‐岐阜地多治見支決 平28・3・16 労働判例1156号25頁、名古屋高決 平29・1・11 労働判例1156号18頁

【事案】
 Xが、Y代表者から事実上解雇されたが、その解雇は無効であると主張して、Yに対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を仮に求めたもの。

【判断】
〔仮処分〕
「(1) ・・・Xは、平成27年5月28日の夕方、Y代表者から掛かってきた電話に応答した際、足を負傷したため翌日は出勤しない旨告げ、翌同月29日以降、Y代表者のもとに出勤せず、Y代表者から掛かってきた電話にも出なくなったというのであり、また、この状態は、少なくとも、XがY代表者に対し、携帯電話を借りていた元彼女に返してしまったため、連絡が取れなかった旨釈明した平成27年6月7日ころまで続いたものと一応認められる。その一方で、Xは、平成27年5月28日に負傷したことについて、医療機関を同年6月3日になって初めて受診している。
 これらの事実に照らすと、Xが平成27年5月28日、Y代表者に対し、上記足の負傷が仕事中の負傷であることを告げたというXの言い分は、にわかに信用することができない。そして、Xの上記言い分を裏付ける証拠は存しない。
 したがって、Xは、平成27年5月28日、Y代表者に対し、その理由を説明せずに翌日以降の出勤はしない旨告げて同月29日以降Y代表者のもとに出勤せず、また、同日から同年6月7日ころまでの間、Y代表者との面会を拒否し、Y代表者から掛かってきた電話にも出なかったということになる。これら一連のXの言動は、Y代表者に対し労働契約の解約を申し入れる行為と評価することができる。
(2) Xは、労働契約の解約の申入れは、労働契約を確定的に終了させることが明確に示されていることが必要であると主張する。確かに、労働契約が継続的契約関係であり、また、労働契約の終了が労働者にとって重大なものであることはXが主張するとおりであり、したがって、労働契約の解約の申入れがあったか否かの評価を慎重にすべきではあるが、これが明示の意思表示によってしか認められないと解することはできない。
(3) また、Xは、Y代表者が平成27年6月6日にXが使用していた大型ダンプを引き揚げたことに直ちに異議を唱え、同月15日以降、Y代表者に対し、「やはり首ですよね?はっきりしないと仕事を探すにも探せません」、「首ですね?」、「乙山さんの会社を辞めないと行けませんけど」と各記載したメールを送信し、Xのこれらの言動は、Xが労働契約の合意解約を申し入れる意思がなかったことを示していると主張する。
 しかし、Xは、平成27年6月7日ころまでの間は、Y代表者のもとに出勤せず、Y代表者との面会を拒否し、Y代表者から掛かってきた電話にも出なかったのである。したがって、Xが指摘するXの言動は、結局のところ、Xが使用していた大型ダンプを引き揚げられたことをきっかけとして、それまでの態度を一転させ、後付けで退職の申入れはしていないと言い出したに過ぎないと考えられる。そして、Xが、同月3日にB病院を受診した後、同月10日までB病院に行かなかったこと、Xが平成27年6月6日に大型ダンプを引き揚げられた後、約10日も経ってから、改めて「やはり首ですよね?」などとY代表者の意思を確認するようなメールを送っていることをも考慮すると、Xが大型ダンプを引き揚げられた後にした言動から、同年5月28日時点におけるXの意思を推認することはできないというべきである。Xの上記主張は採用することができない。
(4) Xは、更に、Y代表者において平成27年6月6日以降労働契約の合意解約が成立していたと考えていたのであれば、そのことに言及するはずであるのに、Y代表者は、Xとのメールのやり取りの中でそのことに言及していないと主張する。しかし、Y代表者は、・・・平成27年6月15日及び同月16日、Xに対し、「仕事さがしてみてはいかがですか」、「雇用保険受付してもいいですよ」と記載したメールを送信しているのであり、これらの文言は、既にXとの労働契約が終了したことを前提としたものであることが明らかである。Xの上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
(5) そうすると、Xは、平成27年5月28日、Y代表者に対し労働契約の解約の申入れをしたといえるところ、Y代表者が同年6月6日にXが使用していた大型ダンプを引き揚げることにより、これを承諾したということができるから、XとY代表者との間の労働契約は同日限りで終了している。したがって、本件各申立ては、その余の点を検討するまでもなく、いずれもその被保全権利の疎明を欠くことが明らかである。」


〔抗告審〕
「(1) Yは、乙山が、平成27年5月29日以降、出社して負傷の状況確認をさせるよう何度も電話で要請したが、Xは、出社の意思はない旨述べ、負傷状況の確認も拒否し、乙山からの電話に応じなくなったから、退職の合意又は退職の意思表示があったものと評価できる旨主張する。
(2) ・・・Xは、平成27年5月28日、乙山に対し、負傷のため翌日は出勤しない旨述べ、乙山から、負傷の状況確認等のため出社するよう求められたのに対し、これを拒否し、数日後には、乙山からの電話に応じなくなったことが一応認められるが、これらの経緯をもって、本件合意退職等があったものと評価することはおよそ困難といわざるを得ない。
(3) また、・・・Xは、乙山に対し、「やはり首ですよね?はっきりしないと仕事を探すにも探せません」「首ですね?」「乙山さんの会社を辞めないと行けませんけど」と述べ、乙山は「仕事さがしてみてはいかがですか」「雇用保険受付してもいいですよ」と応じ、Xが、雇用保険受付について「お願いします」と返信したこと、乙山は、Xの求めに応じ、平成27年6月19日、Xの雇用保険被保険者離職票を作成し、Xに交付したことが一応認められる。しかし、これらのやりとりは、Xが、乙山から、他の会社にXを紹介しようとしたが断られた旨の手紙を受け取った後になされ、雇用関係が既に終了しているかのような乙山の対応を前提とするものであって、かつ、負傷により通院中であり、当面の生活費にも困っている中で金銭給付を受けるためになされたものである。そのような事情を踏まえると、上記やりとりをもってXが退職を受け入れ本件合意退職等をしたものと一応認めるには足りないというべきである。その他これらを認めるに足りる疎明資料はない。
(4) 以上によれば、相手方の上記(1)の主張は採用することができない。」

「本件解雇は、業務上の負傷である本件負傷のために休業する期間になされたものであって、労働基準法19条1項に反し許されないから、無効である。」

「本件において、XのYに対する労働契約上の権利を有する地位が仮に定められれば、社会保険の被保険者たる資格を含めた包括的な地位が一応回復されることになること、Xがあえて任意の履行を求めるものでもよいとして発令を求めていること、Yは、履行する意思はないとしているものの、抗告審において和解勧試に真摯に対応しており、発令に応じてXを従業員として扱うことも期待できないわけではないこと等の事情が認められるのであり、そのような事情が認められる本件事案においては、雇用契約上の地位保全の必要性を認めることができるというべきである。」

「仮処分の審理期間に係る賃金仮払いが認められないのでは、被保全権利が認められるのにも関わらずYが争ったために審理を要したことの不利益をXに負担させることになり、相当ではないから、申立時以降の賃金仮払いが認められるべきである。また、生活保護の受給についても、生活保護が「生活の困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」(生活保護法4条1項)ものであって、雇用主に対する賃金支払請求権を有している場合に給付されることが予定されているものではないことからすれば、Xが生活保護を受けている事実をもって保全の必要性が否定されることにはならない。そして、仮払いの金額についても、健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要な限度とする必要はなく、Xが、Yに解雇されるまで、Yから支払われる賃金をもって生活の原資としており他に収入があったとは認められないこと、賃金額がXの生活にとって過分なものであったとは考え難いことからすると、Xの生活には、従前支給されていた賃金額の金員を要するものと認められるから、同額について支払の必要性があるというべきである。」