メトロコマース事件

メトロコマース事件‐東京地判 平29・3・23 労働判例1154号5頁

【事案】
 Yの契約社員として有期労働契約を締結し、東京メトロ駅構内の売店で販売業務に従事してきたXらが、期間の定めのない労働契約を締結しているYの従業員がXらと同一内容の業務に従事しているにもかかわらず賃金等の労働条件においてXらと差異があることから、労働契約法20条に違反しかつ公序良俗に反すると主張して、Yに対し、差額賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、同条の「期間の定めがあることにより」という文言は、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に同条の規定が適用されることにはならず、当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当である。
 本件において、Xらが主張する契約社員Bと正社員との間の賃金や諸手当等の労働条件の相違は、その内容に照らしていずれも期間の定めの有無に関連して生じたものであることが明らかであるから、労働契約法20条が施行された平成25年4月1日以降は、本件には同条の適用があるというべきである(なお、Xらの主張には、平成25年3月31日以前の労働条件の相違についても労働契約法20条の適用があることを前提としているように解し得る部分があるが、同条は施行日以前の労働条件の相違については適用されないから、Xらの主張が上記の趣旨をいうのであれば、その限度で失当である。
(2) 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、「不合理なものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、飽くまで問題とされている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているというべきであり、合理的な理由があることまでを要求する趣旨ではないと解される。したがって、同条の不合理性については、労働者は、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者は、当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である。以上の結果、当該労働条件の相違について、労働契約法20条が掲げる諸要素を考慮してもなお不合理であるとまでは断定できない場合には、当該相違は同条に違反するものではないと判断されることになる。」

「Xらは、売店業務に従事する正社員とXら契約社員Bとの職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であると主張する。しかしながら、Xらの上記主張は、売店業務に専従している正社員のみを比較の対象として、契約社員Bとの職務の内容及び配置の変更の範囲の同一性をいうものであり、失当といわざるを得ない。すなわち、前述したとおり、Yの正社員の大半は、その従事する業務は売店業務に限られず、Yの各部署において多様な業務に従事するのであって、ごく一部の正社員が、売店業務を担っていた互助会からYに移籍したり、契約社員Bから登用されたりしたという経歴、担当業務を踏まえて売店業務に配置され、例外的に専従していると考えられる上、売店業務に専従する正社員とそれ以外の正社員とで適用される就業規則に違いがないことを踏まえると、契約社員Bとの労働条件の相違を検討する上では、売店業務に従事する正社員のみならず、広くYの正社員一般の労働条件を比較の対象とするのが相当である。
 したがって、Xらの上記主張は採用することができない。」

「(エ) ・・・正社員と契約社員Bの本給及び資格手当(以下「本給等」という。)には上記の相違があるが、・・・両者の間には職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違がある上、正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、短期雇用を前提とする有期契約労働者にはこれと異なる賃金体系を設けるということには、企業の人事施策上の判断として一定の合理性が認められるといえる。また、契約社員Bの本給は高卒新規採用の正社員の1年目の本給よりも高く3年目でも同程度であり、10年目の本給を比較しても契約社員Bの本給は正社員の本給の8割以上は確保されている。以上に加え、契約社員Bの本給も毎年時給10円ずつの昇給が存在すること、契約社員Bには正社員にはない早番手当及び皆勤手当が支給されることなどを踏まえると、長期雇用を前提とした正社員と有期雇用である契約社員Bとの間で、本給等における上記の相違を設け、昇給・昇格について異なる制度を設けることは、不合理なものであるとは認められない。」

「(イ) Yにおける住宅手当が、住宅に要する費用負担の有無を問わず一律に支給されることからすれば、実際に支出した住宅費用の補助というよりは、正社員に対する福利厚生としての性格が強い手当ということができるところ、Yの正社員は転居を伴う可能性のある配置転換や出向が予定され、配置転換や出向が予定されない契約社員Bと比べて、住宅コストの増大が見込まれることに照らすと、正社員に対してのみ住宅手当を支給することが不合理であるということはできない。また、長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の補助及び福利厚生を手厚くすることによって、有為な人材の獲得・定着を図るというYの主張する目的自体は、人事施策上相応の合理性を有するものということができる。
  (ウ) これに対し、Xらは、Yの営業所の所在地が東京都内に限定され、転居の伴う配置転換や出向はないことから、正社員のみに住宅手当を支給することは不合理であると主張する。しかしながら、東京都内の異動であっても転居の伴う場合が想定し得ることに加え、上記(イ)のとおり、正社員に対する福利厚生を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るなどの人事施策上の目的が相応の合理性を有すると認められることを踏まえると、Xらの指摘する上記の点は、前記判断を左右するものではない。
  (エ) したがって、住宅手当における正社員と契約社員Bとの相違は、不合理であるとは認められない。」

「(イ) ・・・Yの正社員と契約社員Bとの間には職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があることや、契約社員Bにも夏季及び冬季に各12万円の賞与が支給されることに加え、賞与が労働の対価としての性格のみならず、功労報償的な性格や将来の労働への意欲向上としての意味合いも持つこと、かかる賞与の性格を踏まえ、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るというYの主張する人事施策上の目的にも一定の合理性が認められることなどを勘案すると、賞与における正社員と契約社員Bとの上記相違は、不合理なものであるとまでは認められない。」

「(イ) ・・・一般に退職金が賃金の後払い的性格のみならず功労報償的性格を有することに照らすと、企業が長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって正社員に対する退職金制度を設け、短期雇用を原則とする有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすることは、人事施策上の合理性を有するものと考えられる。これに加え、本件においては、前記説示のとおりYの正社員と契約社員Bとの間には職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があること、Yでは契約社員Bから契約社員A及び契約社員Aから正社員への登用制度が設けられ、実際にも契約社員Bから契約社員Aへの一定の登用実績(5年間で28名)があることなどを併せ考慮すると、退職金における正社員と契約社員Bとの間の相違は、不合理とまでは認められないというべきである。」

「(ウ) Yにおける・・・褒賞制度のうち永年勤労に係る褒賞は、永年勤続しYに貢献した従業員に対しYが特別に褒賞を支給するというものであるから、長期雇用を前提とする正社員のみを支給対象とし、有期労働契約を締結し短期雇用が想定される契約社員A及びBには褒賞を支給しないという扱いをすることは不合理とまではいえない。以上に加え、前記説示のとおり、正社員と契約社員Bとの間には職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があること、長期雇用を前提とする正社員に対する福利厚生を手厚くすることにより有為な人材の確保・定着を図るという目的自体に一定の合理性が認められることからすれば、褒賞における正社員と契約社員Bとの間の相違は、不合理なものであるとまでは認められない。」

「(イ) ・・・早出残業手当は、その内容から、Y従業員の時間外労働に対する割増賃金としての性格を有するものと認められる。そして、労働基準法37条が時間外労働等に対する割増賃金の支払を義務付けている趣旨は、時間外労働は通常の労働時間に付加された特別の労働であることから、使用者に割増賃金の支払という経済的負担を課すことにより時間外労働等を抑制することにある。かかる割増賃金の趣旨に照らせば、従業員の時間外労働に対しては、使用者は、それが正社員であるか有期契約労働者であるかを問わず、等しく割増賃金を支払うのが相当というべきであって、このことは使用者が法定の割増率を上回る割増賃金を支払う場合にも妥当するというべきである一方、長期雇用を前提とした正社員に対してのみ、福利厚生を手厚くしたり、有為な人材の確保・定着を図ったりする目的の下、有期契約労働者よりも割増率の高い割増賃金を支払うことには合理的な理由をにわかに見いだし難いところである。
  (ウ) これを本件についてみると、・・・Yにおいては、所定労働時間を超える勤務をすなわち時間外労働について、正社員の場合には最初の2時間までは2割7分、2時間を超える時間については3割5分の割増率による早出残業手当(割増賃金)が支払われるのに対し、契約社員Bの場合には法定の割増率と同じ2割5分の割増率による早出残業手当が支払われるにすぎず、両者の割増率には相違がある。割増賃金の性質を有する早出残業手当におけるかかる相違は、労働契約の期間の定めの有無のみを理由とする相違であって、前述した労働基準法37条の趣旨に鑑みると、当該相違は不合理なものというべきである。・
  (エ) したがって、早出残業手当に関する正社員と契約社員Bとの間の相違は、労働契約法20条に違反するものと認められる。」

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