美容院A事件‐東京地判 平28・10・6 労働判例1154号37頁

【事案】
 Yの経営する美容院において稼働していたXが、Yに対し、Yとの間に労働契約が成立している旨主張して、賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「Xが、勤務時間や場所等について、これらを自由に決定できる状況になく、自身を指名予約する顧客の有無にかかわらず、場合によっては、美容院を不在にすることの多いY代表者を介して来店した顧客への対応も含めて、概ね週5、6日程度、出勤して美容師として稼働していたこと、そして、会計上、給与(賃金)の名目で月額報酬を支給され、雇用保険に加入していたこと、取締役又は代表取締役としての就任登記がされていないことといった事情に照らせば、原則として、Xの従業員としての地位を全く否定することは困難であって、少なからず同地位を有していたものとみるのが相当というべきである。
 Yは、Yのような零細企業、専門家である美容師の集団である美容院において、取締役の役割と従業員の役割はそもそも判然としているものではない点を強調するところ(・・・)、確かに、Yは、X及びY代表者を含めて、総勢9~11名程度の美容師が集う中小規模の美容院という実態があるが、個人事業主として会計上独立する美容師が一所に集まって場所を互いに融通し合っているという営業形態であるならばまだしも、本件では、各人がYという会社組織の指揮命令下で美容師として稼働するという側面を有している以上、上記のとおり原則として従業員性が認められるもので、その中でも、従業員の立場とは基本的に相容れない立場といえる代表取締役の地位に実質的にあるといえるような特段の事情がある場合でない限り、その従業員性を否定することはできないものと解すべきである。」

「XとY代表者との間では、費用と報酬を分け合い、二人で意見を出し合って店を切り盛りしていくといった程度の大まかな認識に基づく「共同経営」に関する合意があったところ、そのような合意に基づいて、両者の報酬がほぼ同等の額とされたほか、Xにおいても、自身が「共同経営者」であるとの認識に基づき、YにBで使用していた機材を提供することに始まり、「取締役」との肩書きを付した名刺を用いて稼働し、Y代表者に意見を述べ、また、他の美容師の指導的役割を担い、さらに、Yの運転資金等の借入れに際して、金融機関との折衝に立ち合い、連帯保証人となったほか、店舗賃貸借契約の連帯保証人にもなり、税理士・公認会計士とY代表者との打合せにXが参加したこともあったこと等を踏まえれば、Xは、Yの経営に一定程度関与をする姿勢を見せており、これに事実上の影響力を及ぼし得る立場にあったものといえる。
 もっとも、Yにおいて取締役会が開催されたことはなく、当然ながらXがこれに出席して何らかの発言等を行ったことが一切ないこと、また、これも代表取締役として就任登記の有無の差異から当然のこととはいえ、対外的な折衝、契約をはじめとする様々なYの業務執行行為に及んでいたのが飽くまでY代表者のみであり、Xがこれに及んでいたものではないこと(上記連帯保証契約を、Yの役員という立場や肩書きを明示した上でXが締結したことを認めるに足りる証拠はない。)からすると、Xが、Yの実質的な代表取締役であったとまでいうことは到底できない。
 前記のような事情を踏まえても、Xは、実質的には、せいぜい使用人兼務役員のような立場にあったといえるにすぎないというべきであって、上記特段の事情を見出すことはできず、Xの従業員性を否定することはできない。」

「Yは、Xが、賃金減額に対して何ら異議を述べず、Yを退職した後である平成25年10月にあっせんの申請をするまで、減額分の金員の請求をせず、これを受け入れていたものである旨を主張する(・・・)ところ、確かにXは、上記あっせん申請まで何らの法的な手続に及んではいない。
 しかしながら、Xの報酬のうち賃金相当額についてみると月額37万円から月額22万円への4割ほどの大幅な減額であること、Xとしては、その減額に対して少なくとも口頭で、そのような安い報酬ではやっていけない旨をY代表者に伝えた旨を供述していること(X本人尋問の結果)、そして、現にXはそのような処遇に納得がいかずにYを辞めることにしたこと(X本人尋問の結果、弁論の全趣旨)、また、Xは、Yの美容院を平成25年2月末に退店した後も、同年6月ないし7月頃まで、Yの了承の下に、Yの美容院の片隅に間借りして別の美容院を営んでおり、そのような状況が一段落してから未払賃金の請求をしようと考え、その後間もない同年10月にあっせんの申請に及んだこと(〈証拠略〉、X本人尋問の結果、弁論の全趣旨)からすると、Xが、Yからの賃金減額の通告に納得していたものではないといえ、他にXがこれについて真意に基づき同意していたことを認めるに足りる証拠はない。」