ケー・アイ・エス事件‐東京高判 平28・11・30 労働経済判例速報2310号3頁

【事案】
 Xが、Yに対し、腰痛で休職し、休職期間が経過した後に退職扱いとされたことについて、腰痛は業務上のものであり、労基法19条に違反し無効であるとして地位確認等を求めたもの。
 1審がXの請求を認容したため、Yが控訴。

【判断】
「(1) ・・・Xは、小学生の頃に陸上競技の激しい練習を原因とする腰痛を発症し、20歳頃までその腰痛が続いており、陸上競技を引退した時点ではXの腰痛は既に慢性化していたことがうかがわれる。もっとも、Xの腰痛は、平成20年にサッカーや自転車の運転をした際に一時的に激しくなることがあったものの、自宅から甲工場まで10km弱の距離を自転車で通勤することができていたことなどに照らせば、その程度は比較的軽微なものであったということができる。Xが平成21年3月以降に腰痛を理由とする転院を繰り返していたことがあるとしても、平成22年7月の自転車転倒事故までは自転車運転を続けていたことに照らせば、Xの腰痛の程度がその当時悪化していたことの証左となるものではない。
 (2) 他方、本件作業は、最大で230kg超のコンテナ容器を異動させる作業を含むものであったが、キャスター付きのコンテナ容器の上端部を両手で押して勢いを付け、殺菌機の投入口手前に設置された鉄製足場板によって生じた段差部分にコンテナ容器のキャスター部分を衝突させ、その衝撃を利用してコンテナ容器を傾けさせて殺菌機の投入口にスパイス原料の大半を投入した後、コンテナ容器がある程度横倒しとなった状態でその下端部を両手で更に押して同容易内に残存するスパイス原料を殺菌機の投入口に全て投入するという態様であるにすぎず、勢いを付けてコンテナ容器を移動させる際に腰部への負荷が生ずることがあるとしても、その程度がXの体格を基準としても過重なものであったとはいえない。このことは、Xよりも多数回にわたって本件作業に従事していたY会社の従業員において、本件作業を原因とする腰痛の発症を訴えた者がいなかったこと、X自身も、少なくとも平成20年当時は自らの腰痛の原因が本件作業にあると訴えていなかったことによっても裏付けられる。
 (3) 以上のような事情を総合すれば、Xの主張に係る平成20年7月25日、同年10月2日、同年12月5日の本件作業中に腰痛の発症、悪化があったとしても、Xにおいて本件作業に従事する相当以前から罹患していた慢性的な腰痛が日常生活上の通常の動作によって一時的に悪化したことがある程度のものであるにすぎず、その原因が本件作業にあったということは到底できないというべきである。船橋労働基準監督署長による、Xの腰痛がY会社の業務上の負傷に起因する疾病に該当するとの認定は、本件作業がXの主張する態様のものであったとの誤った事実を前提とするものであったから、上記判断を左右する事情であるとはいえない。
 (4) したがって、Xの腰痛を理由とする平成23年1月21日以降の休職は、業務上の傷病による休職ではなく、私傷病による休職であったことになるから、本件について労働基準法19条の適用はないというべきである。
 そして、・・・Yの休職期間の延長、面談の機会の設定等にかかわらず、Xにおいて復職や休職期間の再延長を申し出ることもなかったとうい経緯に鑑みると、就業規則に基づくXの自然退職を無効であると解すべき事情もうかがわれないから、Xは、延長された休職期間が満了した平成24年1月20日をもってY会社を自然退職したことになり、雇用契約上の権利を有する地位を喪失したというべきである。」