プロポライフ事件‐東京地判 平27・3・13 労働判例1146号85頁

【事案】
  Xが、Yに対し、残業代等の請求をしたもの。

【判断】
「(1) 26年6月変更について
 Yは、①平成23年4月1日の労働条件変更に際し、Xに対し、基本給月額35万円のうち12万円分については、時間外・深夜・休日労働の割増賃金として支払う趣旨である旨を説明し、Xはこれを了解した旨、②平成23年5月20日前記①の趣旨を明確にするため、改めて雇用契約書(〈証拠略〉)を作成することとし、社会保険労務士を通じて、職務手当及び役職手当は78時間分の時間外勤務及び39時間分の深夜勤務の割増賃金として支払う旨を説明し、前記雇用契約書にもその旨を明記し、Xは前期雇用契約書に署名押印した旨を主張する。
 しかしながら、前記①の事実については、これに沿う証拠(〈証拠・人証略〉)があるものの、同証拠は的確な裏付けを伴わないものであって、採用することができず、他に①の事実を認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、Xの賃金の支給項目を、基本給月額35万円及び家賃手当月額3万円から基本給月額20万8800円、家賃手当月額1万5000円、家族手当月額1万5000円、職務手当月額11万7000円(時間外固定残業代)、役職手当月額1万1700円(深夜固定残業代)及び調整手当月額1万2500円に変更することは、その総額に変更はないものの、(a)基本給の額が減じられている点、(b)職務手当及び役職手当が固定残業代の趣旨のものに変更されたことにより、当該時間分の割増賃金を請求することができなくなるほか、基礎となる賃金が減じられることとなる点、(c)家族手当に関しては、その支給に当たって要件が定められており、その要件を欠くことになれば支給されなくなる上(・・・)、これらが労基法37条5項の除外賃金に該当する手当の趣旨である場合には、基礎となる賃金がその分減じられることとなる点において、23年6月変更は、Xの賃金に係る労働条件の切下げに当たるというべきである。
 そして、前記のとおりの変更の内容に照らせば、23年6月変更の目的は、基本給を減じ、その減額分を労基法及び同法施行規則の除外賃金とし、又は固定残業代とすることによって、残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるほかないところ、そのような目的自体の合理性やYがXに対して前記目的を明確に説明したことを認めるに足りる証拠がない以上、形式的にXが同意した旨の書証があるとしても、その同意がXの自由な意思に基づくものと認めるべき客観的に合理的な事情はない。
 そうすると、23年変更はその効力を認めることができないから、平成23年6月も、Xの賃金(固定給)は、23年4月変更時点と同じ基本給35万円及び家賃手当3万円の合計38万円というべきである。
(2) 24年3月変更について
 弁論の全趣旨によれば、Xが平成24年3月頃に居宅を購入し、それに伴って23年6月給与規程8条1項、5項に従った日割減額を行った結果が2万6128円となることが認められる。
 Xは居宅を購入したことで家族手当が不支給となる根拠が明らかでない旨を主張するものの、前記(1)において説示したとおり、23年6月変更には効力がなく、平成24年3月時点でのXの賃金(固定給)は、基本給及び家賃手当の合計額であって、労働条件には家族手当の支給は含まれていないというべきであるから、Xの前記主張は理由がない。
 したがって、Xが居宅を購入した時点での賃金(固定給)は、基本給35万円となる。
(3) 24年4月変更について
 Yは、固定残業代の合意をさらに明確化するため、これまで残業代として支払っていた職務手当及び役職手当を、固定時間外労働手当及び固定深夜労働手当という名称に改めた旨を主張する。
 しかしながら、既に説示したとおり、Xが居宅を購入した時点での賃金(固定給)は基本給35万円であり、24年4月変更による賃金(固定給)の内容は、基本給及び家賃手当というべきであり、24年4月変更はその労働条件を切り下げるものというべきである。そして、24年4月変更についても、前記(1)で説示したと同様の理由により、Xの同意が、Xの自由な意思に基づくものと認めるべき客観的に合理的な事情はない。
 したがって、24年4月変更は効力がないものというべきであって、平成24年4月時点でのXの賃金(固定給)は、基本給35万円ということになる。
(4) 24年7月変更について
 Yは、Xが、度々寝坊等で遅刻を繰り返した上、平成24年6月29日、夫婦げんかを原因として無断欠勤したため、Xを主任に降格させるとともに、賃金テーブルに従って賃金を減額した旨を主張する。
 しかしながら、確かに、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、Xが平成24年6月29日に無断で遅刻したことが認められるほか、その原因がXの夫婦間の問題にあったことが窺われるものの、後に認定するXの実労働時間によれば、同日以前にXが度々遅刻をしていたとは認められないし、Yにおいて役職を降格させる上での判断基準、手続等は本件全証拠によっても明らかでない。
 そうすると、Xを主任に降格させ、その賃金を減額したことがYの裁量内の行為であるとは到底認められないのであって、平成24年7月時点におけるXの賃金(固定給)は、基本給35万円であるというべきである。
(5) 24年10月変更について
 弁論の全趣旨によれば、24年10月変更は、Yが、賃貸住宅に居住している者だけに支給していた家族手当を賃貸住宅以外に居住している者にも支給することとして、固定給を、24年7月変更(合計30万3333円)時から合計31万9333円と増額した変更であることが認められる。
 この増額そのものを無効と解する必要はないものの、既に説示したとおり、平成24年10月時点におけるXの賃金(固定給)は基本給35万円であるから、前記31万9533円は、前記基本給35万円の一部をなすものと解するのが相当である。」