岩手県交通事件‐盛岡地一関支判 平8・4・17 労働判例703号71頁

【事案】
 Xが、Yに対し、懲戒処分(①6か月間の懲戒休職、②1の懲戒処分以後、その懲戒事由に類似する行為をした場合の懲戒解雇、③1の懲戒解雇処分後の一定期間内に任意退職した場合の退職金の減額)の無効確認等を求めたもの。

【判断】
(10・18休暇)
「代休とは休日出勤の代償として認められた労働契約の免除であるから、これはあらかじめ定められた休日同様に尊重すべきものであり、一旦合意により定めた代休日を、いかに業務上の必要があるとはいえ使用者側の都合により一方的に変更することは原則として許されないと解される。そして、・・・Xが右代休の変更に同意しなかったのは明らかであるから、その余の主張について判断するまでもなく、Xが右代休日に出勤しなかったことをもって懲戒処分の根拠とすることはできない。」
(10・25休暇)
「Yによる年休の時季変更権の行使の有無及びその正当性につき検討するに、・・・Y千厩営業所長の就労要請により時季変更権の行使がなされたとみるべきであり、そして、・・・10月はYの貸切バス運行業務の最も繁忙な時季であって、閑暇期には業務が少ない社員ガイドの労務が最も期待されていること、千厩営業所所属の社員ガイドは2名であったところ同日は他のガイドも貸切バスに乗務しており、一関営業所の社員ガイドも1名が年休を取得していたのを除いて業務に従事していたこと(〈証拠略〉)、前示のとおり貸切バス運行業務は繁閑の差が激しいためかY一関営業所及び千厩営業所を合わせると社員ガイドとフリーガイドを半々の割合で雇用しているが、通常まず社員ガイドを配備するのが本則であるうえ、本件の場合Xが乗務しなければ両日がいわゆる分断運行となる見込みがあり、現にそうした結果となって不便と不経済をもたらしたことなどに鑑みると、右時季変更権の行使は正当であったというべきである。
 Xの主張するとおり、何人といえども趣味を持ち、人間らしく生きる権利を有することは近代ないし現代社会においては当然のこととして承認されているが、他方において、人は労働すべき契約上、社会生活上の義務を負っており、これとの調和も図らなければならないことも当然であって、年休請求者の担当する業務の性質、その繁閑及び人員配置の難易等を考慮して時季変更権の行使を認めることは右幸福追求権に対する不当な制限とはいえない。」
(11・15休暇)
「生理日の就業が著しく困難であるか否かは業務によって差異があり、バスガイドの業務は生理日の女子にとっては比較的心身の負担を伴うことであると考えられ、また、その困難性につきその都度厳格に証明することを要するとすれば正当に休暇を取得する権利が抑制されかねない反面、請求すれば必ず取得を認め、取得した以上は何の目的にこれを使用しようと干渉し得ないものとすれば、事実上休暇の不正取得に対する抑制が困難となり、これが横行すれば、使用者に対する労働義務の不履行あるいはこれを取得しない従業員との関係において不公平を生ずることとなり(本件のように2日間は有給休暇とされ、処遇上出勤扱いされている場合は特にそのことが顕著となる。)、ひいては女子労働に対する社会の信頼ないし評価が損なわれるおそれがあるので、生理休暇制度の運用は難しい面が存する。しかしながら、少なくとも、取得者が月経困難症であるとの証拠もなく、生理休暇を取得した経緯、右休暇中の取得者の行動及び休暇を取得しなければ就業したであろう業務の苦痛の程度等から、就業が著しく困難でないと明らかに認められる場合などは、当該生理休暇の取得は不正取得として許されないというべきである。」
(12・6休暇)
「同日が前示労使合意にかかる特定休日の残日数に該当することはYの主張するところで、Xも明らかに争わない。しかし、Xはこれを休日であると主張するのに対し、Yは休暇と同様であって時季変更権が適用されると主張するので、この点につき検討するに、右労使合意の際交わされた書面(〈証拠略〉)には、残日数は「各自任意に消化する。」と表現されており、請求者が自由に選択指定できると解釈するのが自然であること、また、(人証略)の各証言によっても、右解釈と同様に運用されていることが窺われることから、右残日数は取得者が任意に指定できる休日であると認められる。したがって、使用者側が一方的にこれを変更することはできず、また、同日就業しなかったことをもって、処分の根拠とすることはできない。」

「10・25休暇は時季変更権の行使により年休取得の要件を、11・15休暇は生理休暇の要件をそれぞれ具備していないのに取得されたものであるから、規則違反であって、右諸規定による懲戒休職処分の要件に該当する。」
「Xは、YがXに対し休暇等を取得して民謡大会等に出演することについて注意をせず、処分についても警告をしなかったので、Xには後ろめたいことをしているとの意識が全くなかった旨主張し、X本人尋問においてもこれに沿う陳述をした。しかしながら、・・・10・25休暇の取得前に右注意が十分に与えられているうえ、それ以前においても勤務態度全般について注意が与えられているのであるから、注意が与えられなかったとする点は失当であり(〈証拠略〉の乗務員指導票にはX自身の署名捺印が存する。)、また、処分について警告が与えられた事実は窺われないが、本件懲戒処分のような処分がなされるか否かはともかくとして、右のような注意をされた後に改めない場合は何らかの処分がなされることは予期可能であったというべきである。何ら後ろめたいことをしている意識がなかったとのX本人の陳述部分は不自然であって(もし、仮にそうであったとすれば、注意を謙虚に受けとめていなかったこととなる。)、採用し得ない。」

「本件懲戒処分1の6か月間の休職は懲戒休職では最高限度であり、長期の給与の不支給を伴う思いものである一方、本件休暇等のうち10・18休暇及び12・6休暇は処分の根拠とすることができないものであること、10・25休暇及び11・15休暇については、Xの不就業により不便、不経済を生じ、関係者に迷惑をかけるなど事業の正常な運営は妨げられたが、それ以上の実害は生じなかったこと、Xに対し注意はなされたものの、Xにおいてはこのような思い処分が課されることは予想外であった(X本人)ことなどに鑑みると、本件懲戒処分は、その理由に比し、程度において重すぎるといわざるを得ず、右根拠事実及び前示一切の事情によれば、休職3か月の限度で有効であり、これをこえる部分は懲戒権の濫用であって効力がないと認めるのが相当である。」

「本件懲戒処分2は、Yの規則、規程等に根拠が見当たらないことは前示のとおりである。右処分は、再び規則違反の行為等をすれば懲戒解雇にする趣旨と解されるが、懲戒解雇は、規則、規程に要件が定められており(〈証拠略〉)、賞罰委員会はこれを変更する権限をもたず、新たに規則違反行為等が発生すれば、改めて懲戒解雇事由に該当するか審議されなければならないから、本件懲戒処分2は、その文言通りの効力を認めることはできず、無効と解すべきである。」

「本件懲戒処分3も規則等に根拠がないことは前示のとおりであって、他にその法的根拠についての立証がないので、右処分は無効であると解する。」