懲戒処分に先立ち、あるいは何らかの事情によって、労働者を自宅待機させることがあるが、その扱いには注意が必要となる。

「これら出勤停止・自宅待機は、使用者の業務命令によって行われるが、労働者には就労請求権がないので、賃金を支払うかぎり使用者には、就業規則における明示の根拠なしにそのような命令を発する権限が認められる。ただし、業務命令権の濫用とされないためには、それ相当の事由が存在することが必要である。これに対して、出勤停止・自宅待機期間中の賃金を支払わない措置を伴う場合には、債務の履行不能の場合の反対給付請求権の有無に関する法原則(民536条2項。…)から使用者は、事故発生、不正行為の再発のおそれなど、当該従業員の就労を許容しないことについて実質的理由が認められないかぎり、賃金の支払を免れないとされる。」(菅野和夫『労働法〔第9版〕』423頁,弘文堂,2010年)

「自宅待機命令が、懲戒処分に相当する事実があったかどうかの調査のために、あるいは職場規律維持のために業務命令として命じられることがある。こうした自宅待機命令は、原則として、使用者の責めに帰すべき就労不能となり、労働者は賃金請求権を失わないと解すべきである。さらに相当な根拠なしに労働者の就労を拒否する業務命令は、違法・無効となりうる。」(西谷敏『労働法』210頁,日本評論社,2008年)

「自宅待機命令は、懲戒事由がないことが明らかであるなど、必要性のない場合や、不当に長期にわたるなど相当性を備えない場合には、権利濫用として無効とされ、あるいは不法行為と評価されうる。」(山川隆一『雇用関係法〔第4版〕』243頁,新世社,2008年)

「被告が、原告に対し、業務上の必要から、自宅待機を命ずることも、雇用契約上の労務指揮権に基く業務命令として許されるというべきである。しかしながら、…業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず、自宅待機を命じあるいはその期間が不当に長期にわたる等の場合には、自宅待機命令は、違法性を有するものいうべきである」(「ネッスル事件」平2.3.23 静岡地裁 「労働判例」567号47頁)

「本件自宅待機命令は…真に原告らに東京研修を受けさせる目的の下になされたというよりも、原告らが…らの横領事件に関与していると疑っていた被告会社が、さしたる根拠もないのに憶測に基づき、原告らを…事務所から排除し、原告らが横領事件に関与しているかどうかを調査する目的の下にしたものであると認定するのが相当である。そうすると、本件業務命令は、被告会社がその業務命令権を濫用した違法なものというべきである。」(「クレジット債権管理組合事件」 平3.2.13 福岡地裁 「労働判例582号25頁)

「使用者が従業員に対し労務提供の待機を命じることは、当該従業員の労務の性質上就労することに特段の利益がある場合を除き、雇用契約上の一般的指揮監督権に基づく業務命令として許されると解されるところ、…原告の職務に右特段の利益を認めることは困難であり、本件自宅待機命令は被告の業務命令と認められる。そして、業務命令としての自宅待機命令も正当な理由がない場合には裁量権の逸脱として違法となると解すべきところ、…原告の…行為が就業規則所定の懲戒事由に該当することを疑わせるものであり、被告が…懸念を抱くこともやむを得ないと認められることに照らすと、本件自宅待機命令の発令には正当な理由があったものと認めることができる。…しかしながら、…被告が本件自宅待機命令を長期間継続した主たる目的が、…原告に任意の退職を求めることにあり、その間必要な事実調査を尽くさなかったと認められることをあわせ考えると、…自宅待機命令を継続したことは、正当な理由を欠く違法なものといわざるを得ない。」(「ノースウェスト航空整備士事件」 平5.9.24 千葉地裁 「労働判例」638号32頁)

「このような場合の自宅謹慎は、…一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない。そして、使用者が右賃金支払い義務を免れるためには、当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか又はこれを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要すると解すべきであり、単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである。本件については、右緊急かつ合理的な理由又は懲戒規定上の根拠の存在を認めるに足りる証拠は存在しないから、被告が行った右賃金控除は、単なる賃金不払いとみざるを得ず、…右控除分につき賃金支払いを求める部分は理由がある。」(「日通名古屋製鉄作業所事件」平3.7.22 名古屋地裁 「労働判例」608号59頁)

「債権者は、…自宅待機命令を命じられ、…までの間就労に就かなかったものであるが、右自宅待機命令は懲戒処分であるとはいえず単に使用者の有する指揮監督権に基づく労働力の処分の一態様であり、業務命令の一種にすぎない。したがって、債務者が債権者に対し、右期間内の賃金を支払わなかったことは違法である。」(「関西フェルトファブリック事件」平8.3.15 大阪地裁 「労働判例」692号30頁)