大興設備開発事件‐京都地判 平8・11・14 労働判例729号67頁、大阪高判 平9・10・30 労働判例729号61頁

【事案】
 Xが、就業規則の退職金規定に基づき、退職金の支払いを求めたもの。

【判断】
〔第1審〕
「1 (証拠略)によれば、本件就業規則は「従業員」を対象にしており(1条1項)、「従業員」とはYに採用された者である(3条)旨規定しており、また、本件就業規則には「高齢者」も「従業員」に含まれることを前提にするかのような規定(6条5項)もあることが認められる。そこで、本件就業規則の文言だけを取り上げれば、「高齢者」にも本件就業規則の適用があるといえなくもない。
2 しかし、・・・本件就業規則が定める労働条件は実際のXの労働条件とは符合しないのに対し、正社員の労働条件とは符合していること、Yは正社員だけを念頭に置いて本件就業規則(退職金支給規定)を作成したこと、Yは労働基準監督署からの指摘を受けて本件就業規則を作成したところ、労働基準監督署は本件就業規則が正社員にのみ適用があることを前提にYを指導していたと推認できることなどを考慮すると、本件就業規則は、正社員に関するものであり、「高齢者」であるXにそのまま適用されることはないというべきである。
3 ところで、・・・「高齢者」及び「パートタイム従業員」に関する就業規則が平成8年1月に作成されるまでは、「高齢者」に関する就業規則はなかったのであるから、それまでの間は、特段の事情がない限り、その性質に反するものを除いて、本件就業規則が「高齢者」に準用されるというべきである。
4 しかし、・・・Yは「高齢者」に退職金を支給する意思はなかったこと、Xは「高齢者」である自分が退職金の支給を受けられないことを承知しながら、Yと雇用契約を締結して勤務していたこと、本件就業規則が労働基準監督署からの指導により作成されたものであり、過渡的なものといえなくもないこと、Yは労働基準監督署から「高齢者」の雇用条件が不明確であることなどを指摘されて、各「高齢者」との間で雇用契約書を作成したこと、さらにYは平成8年1月に「高齢者」に関する就業規則(退職金を支給しない旨明示)を作成していることを考慮すると、Xには少なくとも本件就業規則の退職金支給規定は適用されないというべきである。」


〔控訴審〕
「先にみたとおり、昭和58年から平成7年までの間、平成6年12月に制定された本件就業規則及びそれ以前の旧就業規則は、いずれも適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていたのであり、本件就業規則の中には高齢者及びパートタイムの従業員にも本件就業規則が適用されることを前提とした第6条5項、第20条1項の規定がある。したがって、本件就業規則は高齢者にも適用されると解するのが相当である。
 Yは、本件就業規則を高齢者やパートタイムの従業員を除く正社員に適用することを念頭に置いていたので、制定に当たり、正社員には説明会を開き、代表者の意見を聞き、できあがった規則を正社員に見せたが高齢者には示していないと主張する。しかし、就業規則には法的規範性が認められており、本来的には労働条件の画一的、統一的処理という点にその本質があり、それ故に合理性をもつものといえるから、その解釈適用に当たり就業規則の文言を超えて使用者であるYの意思を過大に重視することは相当ではない。しがたって、Y主張のような事情があるとしても、先にみたとおり、平成8年1月に至るまでは高齢者やパートタイムの従業員に適用される就業規則が別に定められていたものでもなく、本件就業規則の規定の内容が従業員全般に及ぶものとなっていて、高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者であるXにも適用されると解するのが相当である。」

「先にみたとおり、本件就業規則には高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがなく、勤続3年未満の者には退職金を支給しないとの定め以外の適用除外規定が見当たらず、退職金は基本給と勤続年数を基礎に算出される定めとなっており、Xについても右定めによって退職金を計算することが可能であることが認められる。そして、Xは、他の会社で働き60歳に達し、年金を受給できるようになってからYに採用された者であり、60歳時にYから退職金を支給された者ではない。このような事実関係のほかに、就業規則によって支給条件を定められた退職金には賃金という性質があることを否定できないこと、退職後の支給であるため年金を受給しつつ労働を続けるために賃金や諸手当を低額に抑えるという要請を受けないことを併せ考えると、高齢者であるXについて、本件就業規則の退職金の定めを適用できないと解すべき根拠はないというべきである。
 Yは、Xが高齢者には退職金が支給されないことを知っていたと主張する。しかし、Xが平成7年3月11日付で作成してYに提出した退職金がない旨の記載の雇用契約書(〈証拠略〉)は平成7年3月11日から同年9月10日までの雇用に関するものであり、これに先立ちYに提出した雇用契約書に関する意見書(〈証拠略〉)はXが平成7年3月の時点で労働条件をどのように定めるのが望ましいと考えていたかを示すものであり、いずれもXの平成7年3月10日以前の労働について退職金請求権がないという趣旨のものと認めることはできない。
 Yは高齢者に対し退職金を支給したことがないと主張する。証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、Yが平成4年10月8日にBに書簡を発して同年11月20日に勇退することを求め、平成5年2月末まで顧問として活動すれば慰労金10万円を支払うと申し出たことが認められるものの、Yが同人に対し退職金を支給したと認めることはできない。しかし、そうだとしても、右事例は本件就業規則制定以前のことであり、これをもってYが高齢者であるXに対し退職金を支給しなくてもよいということにはならないというべきである。又、Xの場合を除いて、Yに採用され平成6年12月15日制定の本件就業規則が適用されれば退職金を支給される場合に該当する勤務実績を有する高齢者の退職自体の存在が不明確であることから、Yが高齢者に退職金を支給したことがないといるかどうかは必ずしも明らかではない。
 そうすると、本件就業規則中の退職金に関する定めは高齢者であるXにも適用されると解するのが相当である。」