日本テレコム事件‐東京地判 平8・9・27 労働判例707号74頁

【事案】
 Xが、Yに対し、雇用契約に基づく歩合給、夏季賞与及び営業経費の支払請求権があるとし、その支払等を求めるとともに、就労中、Y従業員からいじめや嫌がらせを受けた上違法に解雇され、発病もしたとし、これらに被った精神的損害の賠償等を求めたもの。

【判断】
「アオイ東京店についてYに課金を生じさせるためにはリプレースすることを要し、その前提として同店がリプレースを承諾することが必要となるので、Xの歩合給も、右の承諾を得た上で、解約書等を取得することにより初めて発生することになるが、同店には、リプレースの意思が最初から全くなかったことが明らかであって、同店は解約書を作成し、Xに渡しているものの、これは誤解に基づき誤って作成されたものに過ぎず、Y自身もリプレース不成立であると認め、解約書をアオイ東京店に返却しているのであるから、同店については、歩合給発生のための要件が満たされなかったものと認められる。
 以上からすれば、Xが、アオイ東京店との契約に関し、歩合給の支払いを求める点は理由がない。」

「当事者間に争いのない事実等を総合すると、営業外務社員であるXには、Y臨時社員就業規則が適用されること、同就業規則24条、同条に基づく「臨時社員就業規則」別の定め3条1、2号は、Yは賞与支給対象となる契約社員を、賞与支給日に在職する者に限定していたこと、Yにおける平成3年度夏季賞与の支給日は平成3年6月27日であったこと、Xは右賞与支給日に先立つ同年5月31日付けで解雇され、右賞与支給日にはYに在職しなかったことが認められる。そうすると、前記の各規定により、Xは平成3年度の夏季の受給資格を有しないこととなる。
 したがって、Xが、Yに対し、平成3年度夏季賞与の支払いを求める点は理由がない。」

「営業社員が交通費を支出した場合において、・・・交通費の精算を行う合意が存していたことが認められる。」「(証拠略)の中には、・・・S社発行の領収書が存することが認められるが、(証拠略)(・・・)及び(人証略)によれば、Xは、当日、Yの営業用車両を使用していたことが認められ、Xが営業車両を使用しつつ、あえてタクシー及び電車を利用する必要性がXに存したことを認めるに足りる証拠はなく、また、Yにタクシー代を請求する場合に必要な・・・各手続をXが履践したことを認めるに足りる証拠もない。」
「(証拠略)の中には、発行日付が「1991年04月27日」と印刷文字により記載され、そのうち日の部分が「26」と手書きで訂正されたH社発行の領収書が存することが認められるが、右訂正を施したのがXであることは当事者間に争いのないところであって、同号証により、Xが真に同月26日、同社のタクシーを利用したものとは直ちに認められず、他にXが同日タクシーを利用したことを認めるに足りる証拠はなく、タクシー代を請求する場合に必要な・・・各手続をXが履践したことを認めるに足りる証拠もない。
 以上からすれば、Xが、交通費の支払いを求める点はいずれも理由がない。」

「従業員が営業や業務遂行の上で必要と考えた書籍の購入代金をYの負担とするためには、・・・手続及び取扱いがなされていたこと、そして、Xについても同様の要件の下に書籍代をYの負担とする旨の合意が存していたことが認められる。」
「Xが、X主張にかかる各書籍を、Yの営業や業務遂行のために購入したものと認めることはできず、また、必要な手続も全くとられていないのであるから、XがYに対し、それらの支払いを求める理由がない。」

「Yは、・・・Xについても、同様の手続の下に、ガソリン代金をYが負担するとの合意が、X、Y間において存したことが認められる。」
「Xは、ガソリン及び最低限安全上必要のあるものを補給、購入したと主張し、証拠としては(証拠略)(X作成にかかる支払証明書)が存するが、・・・主張上も証拠上も不明である上、本件全証拠によるも、XがYに対し、ガソリン代を請求するために必要とされる前記手続を行ったとは認められない。
 したがって、XがYに対し、ガソリン代の支払いを求める点は理由がない。」

「Yは、営業社員に対し、・・・コレクトコールカードを貸与し、・・・テレフォンカードを交付していたこと、・・・正当な理由があれば、その都度電話代を支払っていたこと、XはYからコレクトコールカードの配付をうけていたことがそれぞれ認められる。」
「X・Y間において、YがXの購入したテレフォンカードの代金を負担するとの合意が存在したと認めるに足りない。
 したがって、XがYに対し、テレフォンカード代の支払いを求める点は理由がない。」

「Xに対するいじめや嫌がらせの有無については、Xの営業経費の請求に手続的不備があり、請求内容についても適正でないと思われるものが存したことは、既に認定したとおりである他、Xには、これ以外にも、営業経費の請求、顧客に対する説明不足によるトラブルの発生、営業報告書の不提出、協調性の欠如、上司の業務命令違反等多くの問題点が存したことが認められるのであって(〈証拠・人証略〉)、Y従業員らがXになした指示、指導が不法行為を構成するとは認められない。また、Tが、注意事項を守らなかった場合に金員を控除する旨を記載した書面を配布した点についても、営業社員全員の発破をかける目的でなされたことが認められ(〈証拠略〉)、実際にも金員が控除された事実はないのであるから、Xに対する不法行為を構成するほどの行為であるとは認められない。更に、Yが、顧客に対する意思確認を行ったこと及び営業戦略を立てて従業員に指示したことについても、不法行為を構成するものとは認められず、その他にも、不法行為を構成するようなXに対するいじめや嫌がらせが存したことを認めるに足りる証拠はない。
 次に、本件解雇について検討するに、右に認定したとおり、Xには、営業経費の不適正な請求、営業活動の誤り、協調性の欠如、業務命令違反等様々な問題点が存していたことが認められるのであり、このような事情の下に行われた本件解雇権の行使が濫用となるとは認められず、まして不法行為を構成するとは認められない。なお、YのXに対する解雇予告手当の支払いは、当初不足していたが、不足分は既に遅延損害金を含めて追加支給されているのであるから、この点についても不法行為を構成しない。」
「Xの右発病とYにおける就労との間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。」
「いじめや嫌がらせ、本件解雇及びXの発病について、YのXに対する不法行為が成立するとは認められないのであるから、XがYに対し、慰謝料の支払いを求める点は、理由がない。」

「歩合給未払いを理由とする付加金の請求は理由がなく、裁判所はYに対し、付加金の支払いを命じない。」