マンナ運輸事件‐神戸地判 平16・2・27 労働判例874号40頁

【事案】
 Xが、Yから受けた懲戒解雇処分につき、懲戒解雇を相当とする非違行為が存せず、むしろ、Xに対する一連の不当な人事の仕上げであって無効であり、またYが予備的に主張する普通解雇も相当な事由を欠き、無効であるとして、従業員たる地位確認等を求めたもの。

【判断】
「(ア) 労働者は、労働力の使用を包括的に使用者に委ね、使用者は労働力の包括的な処分権を取得するから、労働契約において、労働の種類、態様、場所等の労働条件が限定されていない限り、使用者はそれらを特定して労働者に命ずることができ、またこれを変更する配転命令をなす権限を有するものと解するのが相当である。
(イ) 本件において、XとY間の労働契約において、労働の種類、態様、場所等の労働条件について、・・・深夜勤務の点を除いては、それらを限定する合意がなされていたとは本件証拠上認められないから、Yは、限定のない範囲で、従業員との包括的合意に基づき配転命令をなす権限を有しているものと認められる。
(ウ) もっとも、使用者が配転命令をなす権限を有する場合でも、権限濫用の法理の適用を受け、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機、目的を持ってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情が存する場合には、権利の濫用として無効となると解される。」

「Xは、Yの正社員に登用されるに際し、旧労働基準法の規制及びこれを受けた就業規則の規定に従って午後10時から午前5時までの深夜勤務に従事させられることはないとの前提で、Yとの間で労働契約を締結したものと認められるから、XとYとの間の労働契約の内容として、Xを深夜勤務に従事させないとの勤務時間限定の合意が成立していたものと認めるのが相当である。」
「Yは、就業規則の改定により女性従業員につき深夜勤務の禁止が解除されたことに伴い、XとYとの労働契約の内容も変更されたと主張するが、就業規則の改定に際し、Xがそのような労働契約の内容の変更に同意したことを認めるに足る証拠はない。また、深夜勤務を可能にすることは、女性労働者の就労の機会を広げることで有利な面はある一方、深夜勤務が女性労働者の健康や生活に過大な負担を課する可能性があることや、上記就業規則の改定は、単に、女性従業員について深夜勤務の禁止の規定を削除したにすぎないことを考慮すると、上記改定は、それ以前に正社員となった女性従業員の既得の労働条件を変更するものではなく、その任意の同意の下に深夜勤務に従事させることを可能にしたにすぎないと解され、したがって、使用者に一方的に女性従業員を深夜勤務に従事させる権限を付与する趣旨であるとまで解することはできない。
 よって、上記就業規則の改定によって、XとY間の勤務時間に関する労働契約の内容が当然に変更されたとは認められない。」
「Yは、平成11年10月12日に、Y代表者がXに労働基準法の改正につき説明し、女性従業員についても深夜勤務への配置転換があることを告げ、Xからの異議の申し出はなかった旨主張し、Y代表者の供述及びY代表者作成の陳述書(〈証拠略〉)にはこれに沿う部分もあるが、客観的裏付けがない上、そのような話を聞いていないとして全面的に否定するX本人の供述に照らしてにわかに信用しがたい。また、仮にY主張の事実があったとしても、Xが積極的に深夜勤務を厭わない意思を表明したというわけではなく、Y側の希望を述べたにすぎないと見ることができるから、深夜勤務について包括的に同意したとまでは認めがたい。
 また、Yは、Xが平成12年1月中旬から17日間、深夜勤務に従事し、これを拒否しなかったと主張しているが、この点も、Xが深夜勤務に個別に同意したことを示すにすぎず、包括的に同意したとまでは認めがたい。
 なお、証人Cは、Yにおいて、従業員の配置転換に当たっては、その個別の同意を得るのが通常であることを肯定する証言をしている。」
「Yは、Xの個別の同意なくして深夜勤務に従事させることはできず、Xを午前3時までの深夜勤務を常態とするマンナセンター1係へ配置転換する本件配転命令は、Xが同意しない以上、その効力を有しないものと解するのが相当である。」

「証拠(〈証拠略〉、X本人)及び弁論の全趣旨によれば、Xは、平成14年8月1日にE副部長から本件配転命令を告知された際、その理由については何ら聞かされなかったことが認められるところ、もし、Y主張のような業務上の必要性に基づき本件配転命令をなしたのであれば、Yとしては、これに応じないXに対し、その必要性を具体的に説明するはずである。」
「Yは、本件配転命令は、Xが上司の注意を聞き入れなかったり、他の従業員との協調を欠いた状況にあったため、マンナセンター2係の人間関係の一新を図る目的もあったし、Xが同2係において取引先からクレームを多く受けていたことから、深夜勤務に配置転換することにより、取引先のクレームを減らせるということもあったと主張し、証人Cの証言並びにC、E及びF作成の各陳述書(〈証拠略〉)には、この主張に沿う部分が存するが、Xが他の従業員との協調を欠いた状況にあったとの点は、X本人の反対趣旨の供述に照らしてたやすく信用しがたいし、取引先のクレームに関しては、Mの例で見られるようにマンナセンター1係と同2係とで取引先の多くが共通であった可能性があり、そうであれば、Xの異動が取引先のクレームを減らす目的でなされたとはにわかに考えがたい。」
「本件配転命令に業務上の必要性があったことを肯認できない。」

「Xは、Yから、平成10年1月31日に2年連続無事故であったとして表彰されるなど、平穏に勤務していたこと、しかし、平成11年6月、Xは、Yの賃金規程が年齢給に関し、男性従業員については40歳まで上がるのに、女性従業員については30歳までと定めているのが不当な男女差別であり、労働基準法違反であるとして、神戸西労基署に申告し、同年7月21日に同労基署がYに是正勧告をなしたこと、その後間もない同月下旬ころ、Xは、Yの親会社であるマンナ運輸株式会社(訴訟承継後のY)の総務部総務課所属のG(社会保険労務士)から、面談を求められ、労基署に申告したのではないかとの趣旨の質問を受け、肯定も否定もしなかったこと、また、同月初旬ころ、XとB本部長との間で、・・・軋轢が生じたこと、その後、上記是正勧告に基づく2年間の遡及的是正につき、Yは、同年9月4日にA子からの請求権の放棄を受けたが、Xが請求権の放棄に応じなかったため、同月13日に神戸西労基署にその旨の是正報告をなしたこと、その後、同年10月12日、XはY代表者から、3時間以上にわたり、会社の財務状況等を理由に年齢給の遡及的是正にかかる請求権の放棄を強く迫られたため、これに応じて確認書(〈証拠略〉)に署名したこと、その直後、Y代表者はXに対し、事務管理業務からはずして乗務員の業務だけ従事させると告げ、実際に、同月16日から運転業務だけに従事させられたこと、そのころから、Yの役員や幹部従業員は、Xに対し厳しい態度をとるようになったこと、その後、Xは、・・・職場や業務内容等を変更されたこと、平成14年7月8日、XがE副部長と賞与に関し面談した際、職場内での他の従業員の喫煙につき配慮して欲しいと申し入れたところ、同副部長は「そういうことを言う人は夜勤に行ってもらうか、辞めてもらうか、どちらしかないな。」と言い放ったこと、その後、E副部長がC乗務と相談の上、Xに対し、本件配転命令を通告したことが認められる。」
「Yは、Xが女性従業員の年齢給の男女格差につき神戸労基署に申告した者であることを推知し、それ以後、Xに対し、会社を内部告発した従業員として、厳しい態度で対応してきたことが窺われ、喫煙問題についてのXの申入れに対するE副部長の発言内容等を勘案すると、本件配転命令は、Yを労基署に内部告発したり、権利主張をするXを疎ましく感じ、制裁を課する動機、目的による人事であったと推認することができる。」

「本件配転命令は、Xを深夜勤務に従事させないとの勤務時間限定の合意に反する点で無効であるし、そうでないとしても、業務上の必要性がなく、不当な動機、目的でなされ、かつXに社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を課するものであるから、無効であるというべきである。
 そうすると、Xが本件配転命令に従わなかったことをもって、就業規則第38条11号の指揮命令違反として、懲戒解雇事由となるとするYの主張は理由がなく、採用できない。」

「当該懲戒解雇事由の存在を肯認できない以上、たとえ本件懲戒解雇が普通解雇の手続をもってなされたとしても、普通解雇として合理性を欠き、解雇権の濫用として無効である。」