就業規則によって労働契約の内容である労働条件を変更する場合においても、個別に労働条件を変更する場合と同様に、労働者と使用者の合意を要する。(労契法9条)

「この合意は、形式を格別規定されていないので、書面の合意のみならず口頭の合意もありうるし、明示の合意のみならず黙示の合意もあり得る。たとえば、不利益に変更された就業規則が長年労働者に容認されて通用してきたという場合には、黙示の合意が成立していると解釈されうる。ただし、そのような黙示の合意の認定は慎重に行うべきであろう。」(菅野和夫『労働法〔第9版〕』125頁,弘文堂,2010年)

「就業規則の合理的変更法理が判例法上揺るぎなく確立するまでは、変更された就業規則の下で異議なく就労している労働者については黙示の同意が成立したといわざるを得ないとする議論が有力であった。しかし、就業規則の合理的変更法理を立法上も正面から確立した労働契約法の下では、労働者が合意していない就業規則変更には労契法10条の合理性審査が用意されている。同8条ないし9条の合意の認定による処理はこの合理性審査の潜脱となるおそれのあることを踏まえ、合意の認定はあくまで厳格・慎重になされるべきである。したがって、就業規則の不利益変更に異議を留めず就労していたというだけで、変更された労働条件に当然に黙示に同意していたと考えるべきではない。」(荒木尚志『労働法』322頁,有斐閣,2009年)

「継続的関係たる労働契約においては、一定の労働条件変更があっても、従来通りの就労を継続することは決して珍しいことではない。そして、労働関係における交渉力の格差、実際の労働現場で労働条件問題で紛争を惹起することから生じる様々な問題・懸念から、労働者が異議を明示的に提示しない可能性等にも留意するべきである。」(荒木尚志・菅野和夫・山川隆一『詳説労働契約法』111-112頁,弘文堂,2008年)

「就業規則の不利益変更に労働者が個別的に同意した場合、9条本文の反対解釈としては、変更の合理性の有無にかかわらず、当該労働者には変更後の就業規則が適用されることになりそうである。しかし、その同意が労働者の真意にもとづくものかどうか慎重に判断されるべきであり、客観的にみて変更に合理性がないと判断される場合には、変更への同意は、労働者の真意にもとづかず、無効とみなされることが多いであろう。」(西谷敏『労働法』174頁,日本評論社,2008年)

「同条からは、その反対解釈として、労働者が個別にでも労働条件の変更について定めた就業規則に同意することによって、労働条件変更が可能となることが導かれる。そして同法9条と10条を合わせると、就業規則の不利益変更は、それに同意した労働者には同法9条によって拘束力が及び、反対した労働者には同法10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し、そして上記の趣旨からして、同法9条の合意があった場合、合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。もっとも、このような合意の認定は慎重であるべきであって、単に、労働者が就業規則の変更を提示されて異議を述べなかったといったことだけで認定すべきものではないと解するのが相当である。就業規則の不利益変更について労働者の同意がある場合に合理性が要件として求められないは前記のとおりであるが、合理性を欠く就業規則については、労働者の同意を軽々に認定することはできない。」(協愛事件-平22.3.18 大阪高判 労判1015号83頁)

就業規則を変更することについて労働者の合意が得られない場合において、変更後の就業規則を周知し、かつ、労働者の不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の変更に係る事情に照らし、合理性が認められる場合においては、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則に定めるところによるものとされる。(労契法10条)

「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、…、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」(第四銀行事件 平9.2.28 最二小判)