朝日新聞社(国際編集部記者)事件‐東京高判 平19・11・29 労働判例951号31頁

【事案】
 Xらが、Yとの間の契約関係が雇用契約であると主張して、Yに対し、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払を求めたもの。
 1審がXらの請求を棄却したため、同人らが控訴したもの。

【判断】
「(1) 国際編集部においては、記事作成についての不足人員を確保するため、出向社員、派遣社員によるほか、正規の入社試験を経て社員を採用することなく、記事作成(朝日新聞の記事を翻訳することを含む。)の業務を外部に委託する形式をとることとし、採用時において、正社員ではないこと、正社員に登用される可能性もないこと(別に社会人採用の試験制度が設けられていた。)、その身分から社会保険がないこと(雇用契約ではないこと)を説明し、その了解を得た上で採用し、原稿料として報酬を支払う旨の契約、記事原稿の作成業務を委託する契約を締結し、この者をフリーランスの記者と称して、就業規則の適用がなく、勤務時間の制約、職務専念義務もない、正社員とは異なる扱いをしていたものである(証人D、〈証拠略〉)。
 Xらは、いずれも上記説明を受け、これを理解して業務に就き、原稿料として報酬を受領し、個人事業者として所得を申告していたものである。後記のとおり、英字新聞における新聞記事の作成が高度の専門性を要し、その記事の確保を目的に契約をしたもので、その業務が、国際編集部においてその机や備品・設備を使用して勤務時間内に他の社員らスタッフと協力して行うものという側面を有し、報酬の計算が執務したとする日数に日額を乗じて計算する方式であり、個々の記事原稿に要する労務を算定しこれを基礎にすることをしていないこと、X1が記事を作成し、X2、X3においてはデスクの指示する記事作成をするという業務の具体的な遂行形態においては、社員である記者がする業務とさほどの差異がないといえることを斟酌しても、Xらの業務が雇用契約によるものと認めることはできない。また、国際編集部において、翻訳業務につき語数を単位に出来高として報酬を支給する形態の勤務者が存在し、Xらがこのような者とは明らかに異なる形態で業務に就いていたといえるが、このことからXらの業務が雇用契約によるものとまでいうことはできない。
(2) X1について
 X1は、当初の業務は記事の翻訳であったが、その能力や才能を買われて取材に基づく記事を作成するようになり、その必要からミーティングに出席し打合せに参加していたりしたが、勤務時間の制約はなく、一定の記事を作成することが期待され、これに応じて、順次、報酬額を増やしてきたものである。
 報酬額は、申告した日数に一定額を乗じた計算をしていたが、出勤し勤務したか否かのチェックがあるわけではなく、一定の出勤日数を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。X1に対しては、「有給休暇」名目で、日数を年7日ないし10日加算する扱いがされるようになったが、これも、計算の基礎とする日額を増やさずに、報酬を引き上げるための計算方法というべきものであり、X1に有給休暇が与えられていたものではなかった。
 X1は、記事作成の業務委託を受け、その報酬として原稿料を受領することを承諾していたものであり、記事原稿を完成させるには、デスク、外国人コピーエディターらスタッフの協力を得る必要があり、そのため出勤し仕事を完成させていたのであり、上記のような報酬計算がされていたからといって、これを雇用契約によるものということはできない。
 X1の業務の遂行過程が、Yの社員が記者として記事を作成する場合とさほど異なるものではなかったと見ることもできるが(X1、〈証拠略〉)、これは記事作成という業務の性質からいえることであり、X1が委託を受けて記事作成に当たっていたことと矛盾するものではない。
(3) X2について
 X2は、Yの業務に就くに際し、雇用契約であると考えてその契約内容をメールで確認しようとし、Yから明確な返答を受けられなかったが、時給や1日8時間の勤務との説明を受け、休憩時間は有給との理解ができる返答を受け、また、そのように国際編集部に出勤する体制のもと業務についていたということができる。
 しかし、X2の業務は専門性の高い英字新聞における経済記事原稿の作成であり、主として、特定の朝日新聞の記事を与えられ、これを正確でわかりやすり記事原稿に翻訳作成することであり、その業務を円滑に進め、締め切りに間に合わせるため、出勤した上、デスク、外国人コピーエディターらスタッフの協力を得て速やかに仕事を完成させていたのであるから、個々の記事作成業務の委託を受けてその完成をめざし、その対価が支払われていたと見ることも十分可能というべきである。また、指示された記事の翻訳をしていたことや、デスクや外国人コピーエディターらから上記のような指示を受けることは、業務の性質から当然の事柄であって、このことをもって職務の従属性が決せられるものではない。
 そして、業務の対価が、日数を基礎に計算されているが、X2は、その経験や能力を評価されて業務につき、成果をあげ、一定レベルの仕事が期待でき、勤務したか否かのチェックをすることなく一定の出勤日を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられていたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。
 X2は、期間を1年に限定し更新をする雇用契約の経験があり、Yとの契約に際し、これとは異なる期間の定めがない契約であること、しかし、正社員とはまったく異なるものであること、雇用契約に伴う社会保険はなく、原稿料が支払われ、業務は他の業務と平行してできることを説明され、いつ契約が解除となるやもしれないことを理解して業務に就き、原稿料として報酬を受け取り業務を続けていたものであるから、雇用契約が結ばれたということはできない。
(4) X3について
 X3は、当初、社会記事の翻訳業務に就き、その後、毎週定期に掲載される映画情報欄やイベント情報欄の記事執筆を行い、原稿料を得ていたものである。
 X3が業務に就くにあたり、日給額の説明があり、出勤した日数を基礎に報酬が計算されていること、土日を除く出勤日に出勤し、指示された記事の作成に当たっていたことが認められる。
 しかし、X3の業務は、専門性がある英字新聞の原稿記事の作成であり、指示された情報欄の作成という個々の業務の完成を目的とするものと評価できるものであるし、勤務時間は、業務を完成させるのに差し支えなければ、特にこれに拘束されるものではなく、その勤務時間が管理されていたものでもなかった。また、報酬は、原稿料であって、X3が指定された日(土日を除く平日)に出勤したことを前提に、X3が申告した日数を基礎に日額を乗じて算定されていたが、X3は、上記記事作成に応じた能力があることが期待でき、一定の出勤日を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。X3が、情報欄の様々な記事の作成を依頼されていたからといって、上記の判断が左右されるものではない。
 X3は、正社員とはまったく異なるものであること、雇用契約に伴う社会保険はなく、原稿料を受け取るものであることを承諾して業務に就いたものであり、雇用契約によって業務に就いていたと認めることはできない。」