April 23, 2018

A不動産事件‐広島高判 平29・7・14 労働判例1170号5頁

【事案】
 Xが,Yに対し,Yが行った解雇は,懲戒解雇及び普通解雇のいずれの解雇事由に該当する事実がない等と主張し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたもの。
 第1審が,YのXに対する懲戒解雇の意思表示は有効であると判断し,Xの請求を棄却したため,Xが控訴。

【判断】
「(1) 就業規則の周知について
…Yの就業規則は,Yの事務所内の鍵の掛かる保管庫の中に備え置かれていたこと,上記保管庫の鍵は必要な者が使用できるようにしてあったことが認められ(…),Yにおいて採用する従業員から提出を受ける誓約書に就業規則に関する記載があること(…)も併せ考慮すると,Yにおいては,その就業規則が,常時,従業員がその内容を知り得る状態にして備え置かれ,周知されていたと認めることができる。
(2) 本件懲戒解雇事由…の該当性について
 本件懲戒解雇事由…につき「刑事上の罰に問われた」とは,文言上,起訴され,懲役,禁固又は罰金等の刑罰(刑法9条)に問われた場合がこれに当たり,不起訴処分を受けたにすぎない場合は,これに該当しないと解される(懲戒解雇事由に関する定めを拡張して解釈することは相当でない。)。
 そして,Xは,本件告訴に係る強要未遂罪及び名誉毀損罪につき不起訴処分となっているから(…),本件解雇事由…に該当する事由があるとはいえない。
(3) 本件懲戒解雇事由…の該当性について
 ア 信用毀損の有無
  (ア) 本件文書の内容は,Yの役員であるY代表者の息子が本件刑事事件を犯した者である旨をいうものであり(…),Yの業務内容,役員構成及び従業員数(…)を前提とすれば,Yそれ自身の信用を損なうものということができる。
 そして,Xは,本件文書をY代表者が本部長を務める本件協会に送信したところ,これにより,Y代表者が本件協会の会員に対して本件刑事事件につき謝罪,説明を行うことを余儀なくされたのであるから(…),Yの信用は,少なからず毀損されたと認められる。
  (イ) これに対し,Xは,本件刑事事件は本件報道がされていた事実であり,Yの信用が毀損されたとしても,それは本件刑事事件を起こした三郎の行為及び本件報道によるもので,本件報道を記載したに過ぎない本件文書の送信によりYの信用が毀損されたとはいえないと主張する。しかし,本件刑事事件に関する情報が警察内部及びその関係者にとどまる限り,Yの信用は毀損されない。また,本件報道は,三郎の職業につき会社役員などとするのみで,Yの名称を報道したものではなかったところ,本件文書には,三郎がYの役員であるなどの事実を付加して記載されている。そして,Y代表者が謝罪等をした本件協会の会員の中に,本件報道をしたL新聞及びE新聞を購読していないなど本件報道に接していないなど本件報道に接していなかった者が存在することは明らかである。そうすると,本件刑事事件が本件送信の契機になったとしても,本件送信による信用毀損が本件報道による信用毀損の域を出ないものであったとはいえず,本件送信との間の因果関係は否定されない。
 さらに,Xは,Y代表者が自らの判断で本件協会の会員に対する謝罪等をしたのであり,XにおいてY代表者が上記謝罪等をすることを予測していなかった旨を主張する。しかし,Y代表者が上記謝罪等をしたのは本件送信を受けてのことであったのであり(…),本件送信とは無関係に上記謝罪等をしたとは認められない。また,Xが本件文書にYに(ママ)本件協会の理事等の辞任を求める旨を記載したことからすると,Xは,Y代表者が本件協会において苦渋の立場に立たされることを認識し,認容していたと認められるのであり,上記予測をしていなかったとの主張は採用することができない。
 イ 本件懲戒解雇事由…の意義及び該当性
  (ア) 他方,本件懲戒解雇事由…は,「会社の信用を著しく損なう行為のあったとき。」というものであり,その「著しく」という文言があることのほか,一般に,懲戒解雇が労働者に与える影響,効果にも鑑みると,本件懲戒解雇事由…に該当する信用毀損行為は,単に,信用を損なう行為があったというだけでなく,その行為により,会社の信用が害され,実際に重大な損害が生じたか,少なくとも重大な損害が生じる蓋然性が高度であった場合をいうものと解するのが相当である。
  (イ) この点につき,確かに,Yは同族経営の小規模な会社であり(…),役員個人の信用に係る事実がYの信用に直結するといえる。また,Yは,顧客からの信用を得て高額の不動産取引に関与する業態であるから,信用の維持はYにとって重要であり,Y代表者が本件協会の理事及び本部長に就任したことも,Yがそれまでに培った信用を基礎としていることがうかがわれるところ,本件送信により,本件協会の会員に対し,Yの役員が本件刑事事件により逮捕された事実が広く知られるとの結果が生じたのであり,Yの信用毀損の程度を軽く見ることはできない。
 しかし,他方で,本件送信はYの顧客に対してされたものではなく,Yに売上の低下等の経済的な実損害が生じたものではない(…)。また,Y代表者が本件協会の理事及び本部長の辞任を余儀なくされるには至っていない(…)。そうすると,本件送信による信用毀損が原因で,Yに実際に重大な損害が生じたとか,重大な損害が発生する蓋然性が高かったとまでは認められず,このほか,これを認めるに足りる証拠はない。
  (ウ) よって,本件送信の事実をもって,Xに本件懲戒解雇事由…に該当する事由があったということはできない。
(4) 以上によれば,本件解雇の意思表示は,その余の点について判断するまでもなく,懲戒解雇として無効である。」

「(1) 本件普通解雇事由の存在及び該当性
 ア 本件普通解雇事由の「会社に損害を与えた」とは,その文言上,Yの信用を毀損した場合も含まれると解するのが相当である。
 また,Yの就業規則が周知されていたことは,…説示したとおりである。
 イ …の説示によれば,Xは,Yの信用を毀損したと認められるから,本件普通解雇事由があるといえる。
(2) 普通解雇の相当性
 ア 本件送信により生じたYの信用毀損の程度を軽く見ることができないものであることは,…説示したとおりである。
 イ Xは,Xの賞与等の待遇にかねて不信感を抱いていたところ,本件報道による悪影響を懸念し,Y代表者による本件刑事事件についての謝罪等に納得することもできずに不満を募らせ,本件送信をするに至ったものであるが(…),本件送信に先立ち,Yの内部において,Y代表者に対してさらなる説明を求めるなどの協議をしたことはなく,いきなりYの外部の団体である本件協会に不満のはけ口を求めたものであり,しかも,Xは,当日に思い立って僅か5分程度で本件文書を作成し,本件送信をしたものであり(…),短絡的であるとの批判を免れない。さらに,本件協会はY代表者が理事及び本部長を務める団体であり,本件文書の内容が,本件会員がY代表者に対して理事等の辞任を求めるものであることからして,本件送信が本件協会におけるY代表者の立場を危うくすることを意図するものであるにとどまらず,息子の不祥事というY代表者にとって他人に極力知られたくない事実に言及したものであるから,小規模な会社であるYにおいて,本件送信によるXとYとの間の信頼関係の破壊の程度は大きいと言わざるを得ない。
 ウ なお,Xは,Yのコンプライアンスを高める目的で本件送信をしたと主張し,これに沿う供述をするが,短絡的に本件送信をしたことと相容れない上,本件文書の記載内容は,Y代表者に対し,Yの従業員がYの経営につき改善を求めたものではなく,本件協会の会員が理事等の辞任を求めたものであり,Y代表者に対し,本件送信によりYのコンプライアンスを高めるよう求められていると気づかせるのは甚だ困難である。このような事情に照らすと,Xの上記供述は容易に採用することはできず,このほかに上記主張を認めるに足りる証拠はない。
 また,Xは,三郎に対して処分がされないこと等との均衡についても主張するが,本件送信とXの主張に係る事実とは,Yの外部の団体(本件協会)を巻き込むものであったか否か等の点でその行為の性質が異なり,比較対照の前提を欠くものであるから,採用することができない。
 エ 以上によれば,Xに対する普通解雇は,客観的に合理的であり,社会通念上も相当であるということができる。
(3) 本件解雇の手続
ア 本件通知書による意思表示
 本件通知書には,就業規則上の懲戒解雇事由の具体的な条項が記載されていないが,解雇理由及びこれに続く部分には,本件懲戒解雇事由…及び…に該当する趣旨と解される記載がされており(…),本件通知書の内容を説明したY代理人作成の回答書(〈証拠略〉)には懲戒解雇であることが明記されているから,本件通知書により懲戒解雇の意思表示がされたものであると認められる(ただし,…無効である。)。そして,本件通知書には,本件告訴をしたことが併記されているとおり,Xによる秩序違反に対して制裁を行使する意思であることが容易に認められる一方で,普通解雇事由の具体的な条項その他本件労働契約の解約申入れにすぎないことを窺わせる記載はされておらず,普通解雇の意思表示が内包されているとはい認められない。
 よって,本件通知書により普通解雇の意思表示がされたと認めることはできない。
 イ 答弁書の陳述による普通解雇の意思表示
 上記(1),(2)によれば,本件普通解雇事由が存在し,客観的に相当であるから,上記意思表示(…)は有効であり,上記陳述がされた…月…日から30日が経過した同年…月…日をもって,本件労働契約が終了したと認めることができる。」

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