November 14, 2017

NHK(名古屋放送局)事件‐名古屋地判 平29・3・28 労働判例1161号46頁

【事案】
 Yの職員であったXが、Yに対し、精神疾患による傷病休職の期間が満了したことにより解職となったところ、同期間満了前に精神疾患が治癒していたと主張して、解職が無効であり、Yとの間に労働契約が存続しているとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、傷病中に行ったYのテスト出局(試し出勤・リハビリ出勤)により、労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供を命じられ、実際に労務の提供を行ったが、テスト期間途中で出局が中止され、それにより労務の提供をしなくなったのはYの帰責事由によるものであるとして、賃金等の支払等を求めたもの。

【判断】
「(1) Yの職員就業規則上、賃金(基準賃金)の95パーセントが支給される4箇月の傷病欠勤に引き続き、賃金の90又は95パーセントが支給される1年8か月の傷病休職期間が定められており、更にその後に1年6か月の無給休職扱期間が定められているところ(・・・)、このような欠勤や休職に関する職員就業規則の内容がXY間の労働契約の内容になっていたことは争いがない(労働契約法7条本文参照)。したがって、これらの期間内に実施されるテスト出局期間中の賃金の支給についても、その契約内容に従うべきこととなり、本件テスト出局は無給休職期間に実施されたものであるから、その期間の作業については、XY間の労働契約上、賃金が支払われないのが原則である。
 そして、Yの職員就業規則上、職員の休職事由が消滅した場合に復職を命じることとされており、復職後は労働契約に従った賃金が支給されることになる。傷病休職からの復職の要件としては、傷病が治癒し、職務の遂行に支障のないことを産業医が認定した場合とされている。
(2) Xは、賃金請求の前提として、テスト出局中に無給であることが最低賃金法に反する旨の主張をする。
 しかしながら、同法は、労働基準法上の賃金、すなわち「労働の対償として使用者が労働者に支払う」ものに適用されることから(最低賃金法4条、2条3号、労働基準法11条)、Yにおいて、傷病により職務の遂行に支障があり、休職事由があるとして傷病休職を命じられた職員について、無給休職扱が定められていること自体が直ちに最低基準(ママ)法に違反することにはならないと解される。
 もっとも、Yの職員が、傷病休職中にもかかわらず、労働基準法上の労働を行ったと認められる場合には、最低基準(ママ)法の適用があることになるから、本件においては、結局のところ、本件テスト出局中にXの行った作業が労働基準法上の労働といえるかどうか、すなわち、XがYの指揮命令下に置かれていたかどうかの判断によることになり、具体的には、Yのテスト出局が、傷病休職中にもかかわらず、職員に労働契約上の労務の提供を義務付け又は余儀なくするようなものであり、実際にも本件テスト出局中にXが行った作業が労働契約上の労務の提供といえるかどうかを検討すべきことになると考えられる(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第1小法廷判決・民集54巻3号801頁等参照)。
(3) この点、テスト出局は、・・・精神科領域の疾患により傷病休職中の職員について、職員が職場復帰のためのリハビリを行うに当たってYが場を提供することを目的とし、併せて復職の可否の判断の材料を得るためのものである。テスト出局の設置や実施自体は法的義務ではなく、具体的な制度内容はYの裁量に委ねられるべきものと解されるが、テスト出局が、傷病休職中の職員に対する健康配慮義務(労働契約法5条参照)に基づく職場復帰援助措置義務の考え方を背景に、Yにおいて制度化したものと解されるから、上記のような目的や制度趣旨に沿った範囲内であることが必要であるというべきである。
 特に、テスト出局が、傷病休職中の職員に対する職場復帰援助措置義務を背景としていることを踏まえると、その内容として、労働契約上の労務の提供と同水準又はそれに近い水準の労務の提供を求めることは制度上予定されていないと解される。
 また、テスト出局は、職場復帰のためのリハビリであり、復職の可否の判断材料を得るためのものであるとはいえ、疾病の治癒自体は主として主治医が担当すべきものであり、職員からの復職の申出を受けた後、合理的な期間を超えて、職員を解雇猶予措置である傷病休職の不安定な地位にとどめておくことはかえって健康配慮義務の考え方にもとることになる。そこで、テスト出局はあくまで円滑な職場復帰及び産業医等の復職の可否の判断に必要な合理的期間内で実施されるのが相当であり(〈証拠略〉)、休職事由が消滅した職員について、産業医等の復職の可否の判断に必要と考えられる合理的期間を超えてテスト出局を実施し、復職を命じないときは、債務の本旨に従った労務の提供の受領を遅滞するものとして、その時点からYが賃金支払義務を免れないというべきである。」

「テスト出局の目的が職員が職場復帰のためのリハビリを行うことや復職の可否の判断材料を得ることにある以上、主治医による復職可能との判断を前提にし、段階的に出局時間を長くし、作業負荷を増加させて通常勤務に近づけていくこと自体は合理的である(〈証拠略〉)。また、最後の2週間は職場の実態に合わせて通常業務を想定した作業を行うこととされているが、テスト出局のほとんどの期間の作業内容は軽度のものが想定されており、職員、管理職及び産業医の3者で協議して決定・変更するものであるし、復職の検討を行う状況の目安として、治癒の完治が条件ではなく、通常業務を想定した作業負荷のもとにおいて、無断で遅刻、怠勤、欠勤することなく、通勤を含めて安全に実施されていることとされていることからしても(〈証拠略〉)、制度上、作業の成果や責任等が求められているとは認められない。加えて、Yとの労使関係が継続しており、テスト出局はYの職場の資源を利用し、その管理下で作業をするものであるから、その目的や作業内容を考えても、Yの管理職の指示に従うこと自体は自然であるといえる。
 さらに、テスト出局の前提となる傷病休職はそもそも解雇猶予の制度であり、テスト出局が職場復帰援助措置義務に沿う制度である以上、テスト出局の状況が復職の判断材料とされることをもって、テスト出局が制度自体としてYから労働契約上の労務の提供を義務付け又は余儀なくするようなものということはできない。」

「確かに、Xが本件テスト出局中に行ったニュース制作業務等は、実際に放送されていることからしても、職員が本来的業務として行うことの一部を担当したものではあるが、実際に行った役割や作業内容が本来Xが果たすべきものと同水準に至っていたとまでは認められない。」

「Xの疾病は、長期間にわたり症状の増悪と軽快を繰り返しており(初めてD1医師を受診してうつ病と診断され、その治療を受け始めたのは平成20年2月である(〈証拠略〉)。平成25年のテスト出局に引き続き、本件テスト出局においても、復職がかかった重要な段階であったにもかかわらず、Xがストレスに対して過剰に反応し、衝動的又は感情的で、攻撃的な対応に出てしまう場面が繰り返し見られたことから、Xの疾病が根本的な原因解決に至っていない可能性があるという・・・各意見は首肯できるものである。)

「Xの休職事由が本件解職までに消滅していないことは・・・のとおりであり、さらに、・・・本件テスト出局自体に問題があったとは認められないし、Xも、本件テスト出局以前にもテスト出局を経験し、本件テスト出局に当たっても説明を受け、テスト出局の主要な内容について理解に欠けるところはなかったものである(〈証拠略・人証略〉、X本人)。」

「無給休職扱期間は、基準賃金の90又は95パーセントが保障される傷病欠勤(4か月)及び傷病休職(1年8か月)の後に設けられており、この間に健康保険法に基づく保険給付の受給ができ、実際にXに無給休職扱期間に標準報酬日額の100分の85の金員が結構(ママ)保険組合から傷病手当金及び付加給付として毎月支給されていたほか(争いがない)、テスト出局中交通費も支給されていることからすれば、経済的な負担が軽減される措置が講じられているといえ、この点でも違法とすべき事情は認められない。」

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