フェデラルエクスプレスコーポレーション事件-東京地判 平24・3・21 労働判例1051号71頁

【事案】
 Yは、陸上運送業、航空運送業、運送取扱業及び代理店業、日本向け又は日本発貨物の自己所有航空機による運送業等を目的とする会社であり、Y日本支社は、Yのアジア太平洋地域(APAC)に所属していた。
 Xらは、いずれも平成21年5月31日以前にYとの間で労働契約を締結し、Y日本支社のエアポート部門の業務に従事していた。
 Yには、Y日本支社の従業員で組織するフェデラルエクスプレス日本支社労働組合が存在しており、Xらは当該組合に所属していた。
 Yは、平成20年10月1日付け就業規則において、日本の祝日のほか「社員の誕生日、年末年始(12月30日、同月31日、1月2日、同月3日)、メーデー(5月1日)及びクリスマス(12月25日)の7日間を休日と定めていた。
 Yは、平成21年6月1日付けで、上記休日のうち、「5月1日、12月25日、12月30日及び社員の誕生日」の4日間を休日から削除する旨の就業規則の変更を行った。
 Yは、日本の従業員に対し、就業規則変更に先立ち、同年4月30日に、本件会社休日を廃止し、恒久的に通常の労働日とする旨告知するとともに、遅くとも6月初めまでには、Y従業員であれば誰でも社内のパソコンから容易に閲覧が可能であるY日本支社のオンラインシステム上で公開している就業規則の全文(変更履歴付きのもの)を、就業規則変更を反映したものに更新し、就業規則変更を周知した。
 Xらは、会社の定める休日とされていた4日間を休日から削除した就業規則の変更には合理性がないとして、4日間を休日として行使できる地位にあることの確認を求め提訴した。

【判断】
「労働契約法9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」とし、同法10条は、その例外として、就業規則の変更が合理的なものであるときには、労働条件は当該変更後の就業規則の定めるところにより変更されると定めている。そして、同条は、上記合理性の有無につき、労働者の被る不利益の程度(①)、労働条件の変更の必要性(②)、変更後の就業規則の内容の相当性(③)、労働組合等との交渉の状況(④)その他の就業規則の変更に係る事情(⑤)に照らして合理的なものであるといえるか否かにより判断するものとしているが、これは、従前の判例法理(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁、最高裁昭和63年2月16日第3小法廷判決・民集42巻2号60頁、最高裁平成9年2月28日第2小法廷判決・民集51巻2号705頁、最高裁平成12年9月7日第1小法廷判決・民集54巻7号2075頁等)に内容的な変更を加えるものではない。」
「Yにおいて従業員が本件会社休日の4日間を会社休日として取得するに至った経緯は前記(…)認定のとおりであり、従前から既得権としてY従業員の労働条件の一部となっていたものであるといえるところ、本件就業規則変更により、これらの本件会社休日が廃止されて通常の労働日とされ、Xらの年間所定労働時間が増加し、賃金カットと同様の効果が生じているのであるから、本件就業規則変更にはXらの重要な労働条件を不利益に変更する部分を含むことは明らかである。」

労働者の受ける不利益の程度(①)
「Yは、本件休日が廃止されたとしても、従業員は年次有給休暇の取得により会社休日に容易に代替することができ、実際にも従業員は毎年相当数の年次有給休暇を使い残し、次の年に繰り越している、本件就業規則変更後に年次有給休暇が不足したというような事態も生じていないと主張する。
 しかし、従業員のほとんどが毎年年次有給休暇を4日以上消滅させていたというのであれば、それを、廃止された本件会社休日に充てることにより実質的な不利益を受けることはないということもできるかもしれないが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(・・・)。また、仮に十分な年次有給休暇の残日数を有しているとしても、これを行使するか否か、いつどのように行使するかは本来従業員の自由であって、本件会社休日について年休権を行使することなく新たに課された労働義務の履行を選択することも十分に考えられることからすれば、年次有給休暇による本件会社休日への充当を前提として実質的不利益がないとするのは相当ではないというべきである。」

労働条件の変更の必要性(②)
「本件就業規則変更により年間所定労働時間が増加し、Xらには賃金カットと同様の効果が生じていることからすれば、賃金や退職金と同じく労働者にとって重要な労働条件に関し実質的に不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることを要するというべきである。」
「PAC経緯経費削減施策及びAPAC追加経費削減施策に加えて、Y日本支社における独自の経費削減施策として本件会社休日の廃止を行う旨のYの判断はいささか性急過ぎている感が否めず、本件就業規則変更が上記不利益を労働者に法的に受忍させることを正当化するまでの高度な必要性があるとはいい難いというべきである。」

変更後の就業規則の内容の相当性(③)
「変更後の就業規則の内容の相当性としては、従前の判例法理の考慮要素であった「代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」及び「同種事項に関する我が国社会における一般的状況」も引き続き考慮すべきである。」
「本件会社休日をそれぞれ個別に同じ航空会社で比べると、少なくとも5月1日と12月30日については休日としている会社が過半数以上を占めているのであって、このような状況からすれば、4日間すべてを通常の労働日とすることについてはいささか相当とはいい難い面もあるというべきである。また、年間休日数で比較すれば125日ないし126日であったものが本件就業規則変更により121日ないし122日となったものであるが、土日祝祭日を除いた休日のみをみれば、7日が3日となって半分以上減少していることも、いささか相当とはいい難い。さらに、Yにおいては、本件会社休日の廃止に対する代償措置は何もとられていない。
 しかも、本件就業規則変更では、「恒常的」に本件会社休日を廃止して通常の労働日としているところ、APAC経費削減施策においても昇給・昇格等については時限的に実施するにとどめており、実際に景気回復の兆しを受けて報酬プログラムの凍結も再開されていることなどと比べても、Y日本支社の独自の経費削減施策として本件会社休日の廃止を「恒常的」に実施することの相当性には疑問が残るといわざるを得ない。」

労働組合等との交渉の状況(④)
「「労働組合等」とは、多数組合、少数組合、過半数代表その他労働者を代表するもの等が広く含まれ、それらとの交渉状況すべてが合理性の判断の際の考慮対象となると解される。」
「Yと本件組合との間の交渉状況は前記(…)のとおりであり、約1か月間の間に3回団体交渉が行われたにすぎず、また、Yの主張するように業績等に関する資料を全て労働組合に開示しなければならない義務まではないとしても、業績の悪化に伴う本件会社休日の廃止についてそれなりの具体的な資料を示した上での説明はなされておらず、「恒常的」な廃止とすることについての資料の配布も説明もない。本件団体交渉の中では、無駄な経費の指摘等もあるが、これを受けてYにおいて十分な検討等がなされているとも認められない。そして、Yと本件組合との間で本件就業規則変更について合意もなされていない。」
「Yの各従業員代表に対する説明(交渉状況)は前記(…)認定のとおりであり、意見聴取に対する各従業員代表の意見は前記(…)認定のとおりであるところ、「恒常的」な廃止ではなく期限を設けた措置を希望していることや、代替措置の検討がなされていないこと及びYから開示された情報が非常に限定的であり経費削減施策の実施の相当性について一般社員は検証ができないことなどの指摘がなされている。なお、意見聴取に対して意見を述べていないことは、消極的同意にすぎず、団体交渉の上で多数労働組合が積極的に同意(合意)したことなどと当然に同視することはできない。」
「Yと本件組合等との間で実質的な交渉がなされ、十分に労使間の利益調整がされた上で本件就業規則変更がなされたとは到底いい難く、本件組合や従業員代表の一部が「恒常的」とする点などについて意見を述べてもYがこれに対して十分な検討及び対応をしていたものとはいえない。」
「労働組合等との合意がないことをもって直ちに合理性が否定されるというものではないとしても、そもそも就業規則の変更が将来に向けて統一的集団的労働条件変更の問題であることからすれば、集団的労使関係において当該変更がどのように受け取られたのかという点に着目して総合判断を行うことはむしろ当然であって、単に合意の有無といった結論のみならず、合意に至らなかった理由やその間の交渉状況等によって合理性を否定する方向の一要素となる場合もあるというべきである。」

まとめ
「本件就業規則変更により労働者の被る不利益の程度は必ずしも小さいとはいえないこと、業績の大幅な落ち込みにより経費削減施策を行う必要性があったこと自体は認められるとしても、本件就業規則変更を行った労働者に上記不利益を法的に受忍させることを正当化するまでの高度な必要性があるとまではいい難いこと、変更後の就業規則の内容の相当性についても当然に認められるというものではなく、相当性があるといえるのか疑問が残る点も見受けられること、Yと本件組合等との間で実質的な交渉がなされ、十分に労使間の利益調整がされた上で本件就業規則変更がなされたとは到底いい難いことなどを総合考慮すれば、本件就業規則変更は労働契約法10条所定の合理性の要素を満たすものとはいえない。したがって、Xらには、労働契約法10条による就業規則変更の拘束力は適用されず、Xらの労働契約の内容としては本件会社休日の4日間はいずれも休日のままということになり、Xらは本件会社休日を休日として行使することができる。」

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