空調服事件‐東京地判 平28・3・8 労働判例1145号28頁、東京高判 平28・8・3 労働判例1145号21頁

【事案】
 Xが、Yに対し、雇用契約上の地位にあることの確認等を請求したもの。

【判断】
〔第1審〕
「本契約には試用期間の定めがあり、本件解雇につき、Yは、その定めに基づいて試用期間経過時点で留保された解約権を行使したものと解される。そして、労働契約において試用期間を定め解約権を留保した趣旨に鑑みると、採用決定後の調査や就職後の勤務状況に照らし、使用者において、採用時に認識できなかった事実が判明し、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、その行使が社会通念上相当として是認され得る場合に限り、解約権を有効に行使できるものと解するのが相当である。」

「Yは、本件解雇の理由につき、本件全体会議において、Xが、Yの試算表や決算書が間違っている旨発言したことが、本件解雇の理由である旨主張する。
 確かに、試算表や決算書が間違っているか否かは、当該企業にとって重要な事項であるから、従業員が当該事項に関する言動をする際には、たとえ企業内であっても慎重な配慮が必要であるところ、本件において、試算表や決算書が間違っている旨の発言が、Y社内のほぼ全員(親会社の従業員も含む。)が参集した本件全体会議において、関係部署や代表者に対して事前に発言する旨の連絡・調整なしにされたこと(〈証拠略〉、Y代表者、弁論の全趣旨)が、Yの役員や従業員を困惑させることは容易に推測されるところであり、Xの発言が穏当を欠くものであったことは否定できない。また、同発言から推察されるXの性格傾向は、Yにとって試用期間中に判明した事実と一応言い得る。
 しかし、Xの上記発言は、その前後の文脈からはBが来訪することに関する事務連絡の一環としてされたものであり(〈証拠略〉、X本人)、殊更Yの関係者を貶めるなどの悪意をもってされたとは認められないこと、その後、Xは、Y代表者に対し、配慮が足りなかったなどとして2度にわたり反省の意を示していること(〈証拠略〉、X本人。なお、Yは、これらの機会のXの発言が謝罪であるという評価を争うが、少なくとも心配をかける言い回しをしたとして反省の意を示しているとの限度では認定できる。)、YがXの上記発言を明示的に注意した様子も、Xが同趣旨の発言を繰り返した様子もうかがえないこと等からすると、Xの上記発言をもって、Yにおいて解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在するとは認められない。そうすると、本件解雇は社会通念上相当なものとして是認できず、無効なものというべきである。」


〔控訴審〕
「当裁判所は、原判決とは異なり、Xの理由はいずれも理由がないものと判断する。」

「本件契約には試用期間の定めがあり、本件解雇は、試用期間中にYに留保された解約権の行使として行われたものである。しかるところ、使用者による試用期間中の労働者に対する留保解約権の行使は、本採用後の通常解雇より広い範囲で認められるべきであるが、解約権の留保の趣旨・目的に照らして、使用者において、採用決定後の調査や就職後の勤務状況等により、採用時に知ることができず、また知ることを期待できないような事実を知るに至った場合であって、その者を引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に相当であると認められる場合など、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、その行使が社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解される。」

「YがXを雇用したのは、Yにおける業況の拡大に対応した社内体制構築の一環としてであり、Xが社会保険労務士としての資格を有し、経歴からも複数の企業で総務(労務を含む。)及び経理業務をこなした経験を有することを考慮し、労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当させる目的であり、人事、財務、労務関係の秘密や機微に触れる情報についての管理や配慮ができる人材であることが前提とされていたものと認められる。
 ところで、企業にとって決算書などの重要な経理処理に誤りがあるという事態はその存立にも影響を及ぼしかねない重大事であり、仮に担当者において経理処理上の誤りを発見した場合においても、まず、自己の認識について誤解がないかどうか、専門家を含む経理関係者に確認して慎重な検証を行い、自らの認識に誤りがないと確認した場合には、経営陣を含む限定されたメンバーで対処方針を検討するという手順を踏むことが期待される。
 しかるに、Xは、自らの経験のみに基づき、異なる会計処理の許容性についての検討をすることもなく、Yにおける従来の売掛金等の計上に誤りがあると即断し、上記のような手順を一切踏むことなく、全社員の事務連絡等の情報共有の場に過ぎず、また、Bの来訪日程を告げること(ママ)の関係においても、必要性がないにもかかわらず、突然、決算書に誤りがあるとの発言を行ったものであり、組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。さらに、上記発言後のXの行動及び原審本人尋問の結果によれば、Xにおいて自らの上記発言が不相当なものであることについての自覚は乏しいものと認められる。
 以上によれば、Xのこのような行動は、YがXに対して期待していた労務管理や経理業務を含む総務関連の業務を担当する従業員としての資質を欠くと判断されてもやむを得ないものであり、かつ、Yとしては、Xを採用するに当たり事前に承知することができない情報であり、仮に事前に承知していたら、採用することはない労働者の資質に関わる情報というべきである。
 ウ そうすると、本件解雇には、Yにおいて解約権を行使する客観的な理由が存在し、社会的に相当であると認められる。
(3) したがって、本件解雇は有効であるから、Xの労働契約上の地位を有する旨の確認請求及び未払賃金の支払を求める請求はいずれも理由がない。」