イクヌーザ事件‐東京地判 平29・10・16 労働経済判例速報2335号19頁

【事案】
 Xが,Yに対し,割増賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「ア …本件雇用契約においては,80時間分の固定残業代として,平成26年1月から同年4月分までは8万8000円を支給し,同年5月から平成27年6月分までは9万4000円を支給すると定められ,これに基づき固定残業代が支給されていたものと認められる。(なお,Yの賃金規程(書証略)第12条にも,固定残業代に関する定めが存在するものの,同賃金規程がXを含む従業員に対し,周知されていたと認めるに足りる証拠はない。)。
 イ これに対し,Xは,固定残業代の定めが有効とされるためには,その旨が雇用契約上,明確にされていなければならず,また,給与支給時にも固定残業代の額とその対象となる時間外労働時間数が明示されていなければならないところ,Xが受領した給与明細には,基本給に含まれる固定残業代の額及びその対象となる時間外労働時間数が記載されておらず,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働の割増賃金に当たる部分を判別することができないと主張するが,…Yは,本件雇用契約における基本給に80時間分の固定残業代(8万8000円ないし9万9400円)が含まれることについて,本件雇用契約書ないし本件年俸通知書で明示している上,給与明細においても,時間外労働時間数を明記し,80時間を超える時間外労働については,時間外割増賃金を支払っていることが認められ,基本給のうち通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働の割増賃金の部分とを明確に区分することができるから,Xの上記主張は採用することができない。
 また,Xは,本件雇用契約における平成26年4月16日以降の固定残業代の額も8万8000円であることを前提として,これは80時間分の時間外割増賃金額を大きく下回っており,給与支給時に固定残業代の額及びその対象となる時間外労働時間数が明示されていなければ,労働基準法所定の残業代が支払われているか否か不明となるとも主張するが,…同日以降の固定残業代は9万9400円である上,本件雇用契約における固定残業代は,年間休日日数の違いから,80時間分の時間外割増賃金額にわずかに足りない(平成26年1月から同年4月支払分につき1118円〔891.18円×1.25×80時間-8万8000円=1118円。…。〕,同年5月から同年12支払分につき1391円〔1007.91円×1.25×80時間-9万9400円=1391円〕,平成27年1月から同年6月支払分につき975円〔1003.75円×1.25×80時間-9万9400円=975円〕)ものの,これにより上記固定残業代の定めが無効になると解することはできない。
 さらに,Xは,Yが主張する固定残業代の対象となる時間外労働時間数は,本件告示第3条本文が定める限度時間(1か月45時間)を大幅に超えるとともに,いわゆる過労死ラインとされる時間外労働時間数(1か月80時間)に匹敵するものであるから,かかる固定残業代の定めは公序良俗に反し無効であると主張するが,1か月80時間の時間外労働が上記限度時間を大幅に超えるものであり,労働者の健康上の問題があるとしても,固定残業代の対象となる時間外労働時間数の定めと実際の時間外労働時間数とは常に一致するものではなく,固定残業代における時間外労働時間数の定めが1か月80時間であることから,直ちに当該固定残業代の定めが公序良俗に反すると解することもできない。
 ウ 以上によれば,本件雇用契約における上記固定残業代の定めは有効である。」

「労働基準法114条所定の付加金は,使用者に同法違反行為に対する制裁を科すことにより,将来にわたって違法行為を抑止するとともに,労働者の権利の保護を図る趣旨で設けられたものであり,付加金について裁判所が支払を命じることができる旨が規定されていることからすると,使用者による同法違反の程度や態様,労働者が受けた不利益の性質や内容,前記違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮して,支払の要否及び金額を検討するのが相当である。
 これを本件についてみるに,Yは,…Xに対し,固定残業代を支給していた上,支給対象の時間外労働時間数を超えて時間外労働をした場合や深夜労働をした場合には,別途,時間外,深夜割増賃金を支払っており,…未払時間外,深夜割増賃金は,年間休日日数の違いから,少額の未払が生じたにすぎず,こうした事情を総合して考慮すると,本件においては,Yに対し,付加金の支払を命ずるのは相当でない。」

 │  このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote  (00:00)

記事検索
カテゴリー
月別アーカイブ
livedoor 天気