エーザイ事件‐東京地判 令元・9・5 労働経済判例速報2404号27頁

【事案】
 Xが,Yに対し,Yが希望退職制度の優遇措置の適用が除外されることを知りながらXの退職届を受理し,また,その後の退職届の撤回に応じなかったことが不法行為に当たるとし,損害賠償請求等を求めたもの。

【判断】
「(1) Xは,Yは,本件退職届を受理することにより,Xが本件制度の優遇措置の適用を除外されることを知りながらこれを受理し,また,Xが本件退職届の取下げを申し出たにもかかわらずこれに応じなかったものであり,そのため,Xは本件制度に基づく割増退職金を受ける機会を失ったのであるから,これらは不法行為に当たる旨主張する。
 (2) しかしながら,…Yが本件退職届を受理した平成30年10月15日には,Yにおいて本件制度の実施が決定されていなかったのであるから,Yが,本件制度の除外要件が適用されることを知りながら本件退職届を受理したとは認められない。
 なお,仮に上記時点において本件制度の内容が概ね決定されており,これが実施されればXに優遇措置の除外要件が適用される可能性が相当程度あったとしても,Yは,本件制度の内容について,公表までの間は秘密を保持することとしていたものであり,かかる取扱いは希望退職制度である本件制度の目的,内容に照らして合理的なものというべきであるから,本件退職届を受理するに当たり,Xに対して本件制度の内容を告知すべき義務があるということはできない。
 したがって,Yが,Xが本件制度の適用を除外されることを知りながら本件退職届を受理したとの不法行為は認められない。
 (3) Xは,Yが本件退職届の取下げの申出に応じなかったことが不法行為に当たる旨主張する。
 しかしながら,…Yは本件退職届の決済を行い,Xに対してその旨を伝えているのであるから,本件制度の公表時点において,労働契約を解約する合意が成立していたものと認められる。そして,本件制度の公表後に退職届の取下げを認めるとすれば,本件制度の公平,適正な運用が妨げられることは明らかというべきであり,Yが本件退職届の取下げの申出に応じるべき義務は認められない。
 したがって,Yが本件退職届の取下げに応じなかったことが不法行為に当たるということはできない。
 (4) Xは,Yの就業規定において退職届の提出期限が決められていたことや,業務の引継ぎを考慮し,退職予定日の55日前に退職届を提出したのであるが,早期に退職届を提出した者ほど本件制度の適用が除外されることになるのは不合理であると主張する。
 しかしながら,本件制度においては,募集退職日の前日以前の退職日で既に退職届を提出し,Yがこれを承認している場合は,優遇措置の適用を除外する旨が定められているところ,Xは,募集退職日(平成31年3月31日)の前日以前である平成30年11月30日を退職日として本件退職届を提出し,Yはこれを受理しているのであるから,本件制度において,Xは優遇措置の適用を除外される者に該当し,Xに対して優遇措置を適用しないことは,本件制度の適用に当たり何ら不合理なものではない。
 また,本件制度の適用除外に関する上記規定は,同制度を公平,適正に運用するために合理性が認められるものであり,他方,Xが被る不利益は,優遇措置を受けられないというにとどまるもので,退職の自由が制限されるものではないところ,本件退職届が提出される経緯についても,Xは自らの都合で退職を決定したもので,Yから早期の退職を求めたというような事情は窺われないことからすれば,Xの主張する事情を考慮しても,Xに対して優遇措置を適用しないことが不合理となるものではない。
 したがって,Xの主張は,採用することができない。」