ドリームエクスチェンジ事件‐東京地判 平28・12・28 労働経済判例速報2308号3頁


【事案】
 XがYに対し、懲戒解雇(予備的に普通解雇)の無効等を主張し、他方、YがXに対し、給与の過払いの返還等を求めたもの。

【判断】
「イ ・・・本件解雇の有効性を検討するに、労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする契約であるから(労契法6条)、労働者は、基本的な義務として、使用者の指揮命令下に服しつつ職務を誠実に遂行する義務を負い、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を負っている。したがって、業務時間中に私的なチャットを行った場合、この職務専念義務に違反することになる。もっとも、職場における私語や喫煙所での喫煙など他の私的行為について社会通念上相当な範囲においては許容されていることからすれば、チャットの時間、頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導及び処分歴の有無等に照らして、社会通念上相当な範囲内といえるものについては職務専念義務に反しないというべきである。
 ウ 本件チャット(・・・)は、その回数は異常に多いと言わざるを得ないし、概算で同時分になされたチャットを1分で算定すると1日当たり2時間、30秒で換算しても1時間に及ぶものであることからすると、チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、職務専念義務に違反するものというべきである。
 もっとも、職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になると解すべきである。
 エ 本件チャットは、単なるチャットの私的利用にとどまらず、その内容は、懲戒事由・・・のとおり、本体チャット(顧客情報)、本件チャット(信用毀損)、本件チャット(誹謗中傷)及び本件チャット(セクハラ)というものであるところ、就業に関する規律(服務.心得)に反し、職場秩序を乱すものと認められる。すなわち、懲戒事由…について、顧客情報はYの営業上、信用上、重要な情報と認められ、個人情報保護が強く求められる現在の社会的な状況を踏まえれば、顧客情報が万一流失した場合、営業上・信用上重大な損害がYに発生することになる。Xが行ったYの顧客情報の持出の助言は、かかる重大な損害を生じさせる具体的危険性のある行為であって、Xが助言した時点では、既にCが顧客情報の持出を終えていたこと、Cが持ち出した顧客情報をYが直ちに削除したため、現実に顧客情報が流失して、Yに営業上・信用上重大な損害が発生するには至らなかったことを十分考慮しても、その行為は悪質であるというほかない。懲戒事由…について、Xが経理課長という地位にあったことを踏まえれば、本件チャット(信用毀損)の内容は、信憑性のある情報として、Yの従業員に受け止められる可能性が多分にあり、これにより一部の社員のYに対する信頼が損なわれ、他の社員や社外へ伝播することによる信用毀損の危険性もあったといえる。現に、従業員Iは、チャット上で「Aさん居なくなったら、いつ潰れるの情報ももらえなくなるので」(書証略)と話しているところ、同人は、Xは経理課長であり、Yの会社の金を扱う人間であったため、真実味をもって受け止めていたこと(書証略)、同Hは、Xの言葉を信用し、転職サイトに登録して具体的に転職を検討していたいこと(書証略)がそれぞれ認められる。懲戒事由…について、本件チャット(誹謗中傷)及び本件チャット(セクハラ)は、誹謗中傷の対象となっている従業員本人が、誹謗中傷されていることを認識していなかったとしても、その内容(特に、Dが書いた反省文(書証略)をPDFファイルにして、社内チャットで他の従業員に送信して、Dを笑いものにするという内容(人証略)に照らせば、当該対象者との間で、いわゆるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントという不法行為が成立する否かは別にしても、従業員間の就労環境を現実に侵害していることになるというべきである。
 このように、本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、Yから、本件チャットについて、弁明の機会を与えらえた際、Xは、本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことからすれば、Yにおいて、Xは本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、Xに対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したこともやむを得ないというべきである。
 オ Xは、Xに対する懲戒処分と他の従業員に対する処分との均衡を問題とする。しかしながら、本件チャットは、上記のとおり、多岐の服務心得に違反するものであること、顧客情報の持出をしたC、本件チャットを主導的に行っていたと判断されたF及びGも懲戒解雇処分となっていること、本件チャットへの参加が従属的であると判断され、チャット行為を認めて反省の態度を示していたH及びIは厳重処分になったこと(証拠略)がそれぞれ認められ、Xに対する懲戒処分のみが均衡を欠いているということはできない。
 カ 以上のとおり、Xがこれまで懲戒処分を受けたことがないこと、本件解雇を通知された時点では、おおまかに本件懲戒事由があることを認め、謝罪の言葉を述べていたことなどXに有利な事情を十分踏まえても、本件解雇(懲戒解雇)は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。よって、本件解雇は、有効であるから、Xの請求(…)のうち、・・・賃金の支払を求める部分には理由がない。」

「イ ・・・労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第1小法廷判決・民集54巻3号801頁及び最高裁平成9年(オ)第608号・第609号同14年2月28日第1小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。そして、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、本件チャットを行っていた時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられているなど労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。
 ウ そこで検討するに、本件チャット(書証略)のうち、所定労働時間(午前9時から午後6時までの所定労働時間から1時間の休憩時間を除いた時間)内に行われたものについては、労働契約上、労働者が労働義務を負う時間内に、自席のパソコンで行われたものであること、Yは、本件チャット問題が発覚するまでの間、Xが自席で労務の提供をしているものと認識しており、Xの直属の上司であるEとの間で私的チャットがなされているが、Xの業務態度に問題がある等として、YがXを注意指導したことは一切なかったこと、本件チャットは、基本的に社外の人間との間ではなく、会社内の同僚や上司との間で行われたものであること、業務に無関係なチャット、業務に無関係とはいえないチャット、私語として社会通念上許容される範囲のチャット及び業務遂行と並行してなされているチャットが渾然一体となっている面があり、明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることがそれぞれ認められ、これらを併せ考慮すれば、所定労働時間内の労働については、いずれも使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、労基法上の労働時間に当たると認められる。
 したがって、所定労働時間内におけるチャット時間を抽出して、これがなければ、終業時刻後の残業は不要であったとして、居残り残業時間から所定労働時間内のチャット時間を控除することはできないというべきである(なお、休憩時間中にチャットを行うのは自由であるから、休憩時間になされたチャットを労働時間から控除することはできないことは当然である。)。
 エ 本件タイムカードによれば、Xは終業時刻(午後6時)よりも遅い退勤が常態化していることが認められるところ、Yにおいて、Xが残業する場合、所属長(部長)への申請が不要という扱いをしており(弁論の全趣旨)、残業することについて、何ら異議を述べていないことからすれば、居残り残業時間については、黙示の指揮命令に基づく時間外労働にあたると認められる。そこで、居残り残業時間から、この時間になされたチャットに要した時間を控除すべきか問題となる。
 そこで検討するに、Yは所定労働時間内になされたチャットと所定労働時間外になされたチャットの時間を区別して主張立証するものではないこと、上記ウと同様、所定労働時間外になされたチャットの態様(書証略)をみても、いずれも同僚との間でなされたチャットであり、私語として許容される範囲のチャットや業務遂行と並行して行っているチャットとが渾然一体となっている面があること、そのため明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることを考慮すれば、所定労働時間外になされたチャットについても、Yの指揮命令下においてなされたものであり、労働時間に当たるというべきである。よって、居残り残業時間から、この時間になされたチャットに要した時間を控除することはできない。」
「カ ・・・チャットの私的利用を行っていた時間を労働時間とみることについては、ノーワークノーペイの原則との関係で問題を生じうるが、チャットの私的利用は、使用者から貸与された自席のパソコンにおいて、離席せずに行われていることからすると、無断での私用外出などとは異なり、使用者において、業務連絡に用いる社内チャットの適用が適正になされるように、適切に業務命令権を行使することができたにもかかわらず、これを行使しなかった結果と言わざるを得ない(Y代表者も「管理が甘かった」(書証略)旨述べている。)。」

「Yは、賃金規程24条で、「この計算には諸手当のうち、…会社が指定する手当て以外は参入しません。」と定めていることをもって、基礎賃金に、役職手当は含まれないと主張する。しかしながら、Xに支給された役職手当は、・・・管理本部経理課課長へと昇格したことによって支給されるようになり、・・・以降6万円、・・・以降8万5000円が支給されていたものである(以下「本件役職手当」という。)。労基法が定める除外賃金(労基法37条5項、労働基準法施行規則21条)は、制限列挙であり、これらの手当に該当しない「通常の労働時間又は労働日の賃金」は全て算入しなければならず、これらに該当しない手当を割増賃金の基礎から除外する旨を就業規則で定めても、労基法37条に違反するものとして無効となる。本件役職手当は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たるものであり、労基法上の除外賃金に該当すると認めることはできないから、これを基礎賃金に含めて計算するのが相当である。」

「Yは、Xを管理本部経理課課長に任命し、新たに役職手当を支給することになった際、辞令(書証略)に「基本給30万円」、「役職手当6万円」、「ただし、時間外勤務手当は役職手当に含みます。」と記載していたこと、Xもその趣旨を認識しており、本件訴訟まで残業代を一切請求していなかったことからすれば、本件役職手当は実質的に割増賃金を補充する趣旨であり、これを基礎賃金に算入することはできないし、未払残業代から既払金として控除するべきであると主張する。
 確かに、Yの給与規程及び辞令の記載内容からすれば、Yは、主任以上の職階の者については、一定の時間外勤務に対する割増賃金に見合う部分を役職手当に含ませる意図を有していたことが一応は認められる。しかし、そうであるとしても、主任以上の職階の者に対して支払われる役職手当の中には、主任以上の職責に対する手当の分も含まれるはずであるが、これと区別して時間外労働に対して支払われる額やこれに対応する時間外労働時間数は特定明示されていない。そうである以上、本件役職手当の一部を時間外割増賃金として扱うことはできず、本件役職手当は、全額をこれを基礎賃金とせざるを得ないし、未払残業代から既払金として控除することもできない。」

「(2) 労基法41条2号は、管理監督者とは、経営者と一体にあり、重要な職務と責任を有しているために、職務の性質上、一般労働者と同様の労働時間規制になじまず、勤務や出退社について自由裁量を持つため、厳格な労働時間規制がなくとも保護に欠けることはないことをその趣旨とする。このような趣旨からすると、同号の管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な者と解するのが相当であり、当該労働者の管理監督者該当性については、職位等の名称にとらわれることなく、①業務内容、権限及び責任の重要性、②勤務態様(労働時間の裁量・労働時間管理の有無・程度)、③賃金等の待遇を総合的に考慮して判断すべきである。
 (3) これを本件についてみると、Xは、・・・管理本部経理課課長に任命され、経理に関して一切の権限を有し、税務署等の対外的なYの窓口となり、最終的にはY代表者の確認を要するものの、経理に関する書面の作成・提出を、Xの判断・責任においてなされていたことが認められるが(人証略)、Xの業務は経理に関するものに限られており、唯一の部下であるDに関する人事を含め、労務管理に関する権限を有していたものと認めることはできない。また、Xは、経理課長に任命された後でも、それ以前と同様、本件タイムカードにより出退勤時刻を管理されていた上、遅刻早退に関する労働条件は、当初、「遅刻早退した時間に対し、基本給をもとに実費計算し基本給より差し引く。」というものであったところ、経理課長に任命された際、この労働条件が変更されたことを認めるに足りる証拠はない。Xは、経理課長に任命後、月額6万円(・・・)の役職手当を受給するようになったが、月額6万円でおよそ25時間分の残業代(6万円÷(1863×1.25))、月額8万5000円でおよそ36時間分の残業代(8万5000円÷(1863×1.25))に相当するところ、別紙(略)のとおり、ほとんどの月がこれらの時間を超える残業時間になっていることからすると、Xについて、管理監督者としての業務内容、権限及び責任に見合った待遇がされていると評価することも困難である。」

「本件未払手当の対象期間中、Xが、遅刻・早退・欠勤をしていたとは認められないから、皆勤手当の支給要件を満たしていることは明らかである。Yは、皆勤手当は勤勉な労働に報いるために支払われるものであるから、本件チャットを行い、業務懈怠をしているXに支給する根拠はないと主張するが、皆勤手当の不支給は、「遅刻・早退・欠勤がゼロ」(賃金規程16条)ではないことであり、労働者に業務懈怠があったか否かという、使用者の判断によって支給される手当ではないことは文理上明らかである。よって、Yの主張は採用できない。」

「Xは、・・・管理本部経理課課長の地位にあったから、会社が決定する役職手当を受給する地位にあったと認められる。Yは、役職手当は残業手当を含んでいるところ、本件チャットを行い、業務懈怠をしていたXに支給する根拠はないと主張する。しかしながら、Yは、役職手当の不支給自由について、賃金規程において、「3 役職手当は、一賃金支払い期間のすべてにわたって欠勤したときには支給しません。」、「4 役職手当は、管理する部下及び協力して作業する部署からの支持が得られない場合は減額、或いは支給しないことがあります。」(書証略)と定めているところ、残業していない者に対して支給しない旨又は業務懈怠のある者に対して支給しない旨規定しているものではない。また、不支給当時、Xが「管理する部下及び協力して作業する部署からの支持が得られない場合」に当たるとして、役職手当を不支給とすることに決定したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、Yの上記主張は採用できない。」

「本件チャットを行っていた時間について、これを所定労働時間から控除することはできない以上、本件チャットに要した時間を所定労働時間から控除して、給与が過払いの状況にあるとするYの主張は、その前提において採用できない。」

「本件チャット(信用毀損)は、経理課長の地位にあり、Yの経理状況を把握しているXにおいて、Yが・・・倒産するという事実を摘示するものであるところ、Yの信用について、社会から受ける客観的評価を低下させるものであり、社内のチャット内での発言とはいえ、チャットに参加していない他の従業員への伝播可能性も十分肯定でき、現に従業員間で伝播していたこと(書証略)からすれば、Yの信用及び名誉が毀損されたものと認められる。したがって、本件チャット(信用毀損)は、不法行為を構成すると認められる。」