賃金は、労働契約の内容である労働条件の一つであり、その変更には、予め周知されていた合理的な就業規則(労契法7条)、労使の合意(労契法8条)、労使の合意に基づいて変更した合理的な就業規則(労契法9条)、変更後のものが周知され、かつ、労使の合意によらなくてもその変更過程に合理性が十分に認められる就業規則(労契法10条)によって、その変更が労働契約の内容となっていると認められることを要する。

(会社の経営難や、労働者の非違行為等よることもあるが)労働者にとって比較的身近である「評価(考課)」による賃金の変更も、その変更が労働契約の内容となっていると認められることが必要である。

賃金の変更(減額)を予定する根拠が存在しない場合は、合理性を欠いたものと評価される。

「職能資格制度における職務遂行能力は、勤続によって蓄積されていく性質(保有能力)であることが暗黙の前提とされており、いったん蓄積された能力が下がるということは想定されていない。したがって、職能資格制度における職務遂行能力を、年々発揮される能力(発揮能力)であって年々変動するものであると理解して、降格・降級を行うためには、職能資格制度を定める規程(就業規則)においてそのような制度内容を明示しておく必要がある。いいかえれば、職能資格を引き下げる措置には、そのような降格についての就業規則上の根拠規定を必要とする。」(菅野和夫『労働法〔第9版〕』233頁,弘文堂,2010年)

「Yが採用する給与体系は、級、号給は、Y内部で積み重ねられた経験、技能によって一定水準に到達したことに基づいて、毎年昇給するという構造であり、職能資格制度であると評価できる。そうすると、その給与を降格するということは、到達した職務遂行能力の引下げを意味するものであり、基本的には制度が本来予定していないものである。してみると、そのような意味での降格は、就業規則なり雇用契約の中で明確に位置づけられているのであればともかく、そうでないときは、根拠のない資格の降格であって違法であるとの評価を受けることになる。」(学校法人聖望学園ほか事件-東京地判 平21・4・27 労判986号28頁)

変更の根拠が存在する場合は、原則として、変更後の賃金が労働契約の内容となるが、評価の過程において、恣意的、不明確、不公正などとされるような事由が認められる場合は、権利の濫用になる。

「 人事考課制度が就業規則等の規定を通じて労働契約の内容となる場合には、使用者は、契約上の人事考課権ないし査定権をもつことになる。人事考課は、企業の経営判断と結びついたものであり、特にわが国では考課項目に抽象的なものが多いため、使用者は、人事考課を行うにあたり原則として広い裁量権をもつ。
 しかし、①性別(均等法6条など)や組合加入または正当な組合活動(労組法7条1号)など、法律上考慮してはならないことを考慮した場合、②評価が個人の感情など不当な目的にもとづいてなされ、または評価要素の比重が著しくバランスを欠いた場合、および③判断の根拠に重大な事実誤認がある場合には、人事考課は法令違反ないし裁量権の濫用として違法となる。」(山川隆一『雇用関係法〔第4版〕』95頁,新世社,2008年)

「労働契約の内容として、成果主義による基本給の降給が定められていても、使用者が恣意的に基本給の降給を決することが許されないのであり、降給が許容されるのは、就業規則等による労働契約に、降給が規定されているだけでなく、降給が決定される過程に合理性があること、その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することが必要であり、降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められ、その仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には、個々の従業員の評価の過程に、特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り、当該降給の措置は、当該仕組みに沿って行われたものとして許容されると解するのが相当である。」(エーシーニールセン・コーポレーション事件-東京地判 平16・3・31 労判873号33頁)

「Xが従業員に対して降級を行うには、周知性を備えた就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に従ってこれを行うことを要するのであり、新賃金規程の下でXが従業員に対し降級を行うには、その根拠となる具体的事実を必要とし、具体的事実による根拠に基づき、本人の顕在能力と業績が、本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものと解するのが相当である。Xが人事評価の結果に即して降級の内規を定めて運用を行っていることは上記のとおりであるが、人事評価の結果当該内規に該当したからといって直ちに就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に該当するものということはできないのであり、具体的事実による根拠に基づき、本人の顕在能力と業績が、本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものというべきである。したがって、本件降級処分が有効であるというためには、Xは、根拠となる具体的事実を挙げて、本人の顕在能力と業績が、本人の属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていることを主張立証することを要するものというべきである。」(マッキャンエリクソン事件-東京高判 平19・2・22 労判937号175頁)

「本件評定を決定的としてB部長の本件修正では、本件人事制度の実施の際のXの不手際(提出様式の間違い、再提出が設定期限より遅れたことなど)やこれに関するXの態度(礼を失するものであったことなど)が大きく反映しているとみるほかないが、このような事情はマイナス評価を受け得るものであることは否定できないものの、本件評価期間におけるXの職務行動等を把握する上では断片的なものであるばかりか、主観的な受け止めによるところが大きい事情であるから、かかる事情から直ちにXの本件評価対象期間中の職務行動等を徴表させる事情として重視するのは危険というべきである。(・・・)
 また、上記のような事情は本件評価対象期間における日常のXの職務行動等の観察を通じて評価するのが相当であり、したがって、その評価については、日頃職員の勤務態度等に接している直属の上司のそれを尊重することが、本件人事制度においても当然の前提になっていると解される(・・・)。」(国際観光振興機構事件-東京地判 平19・5・17 労判949号66頁)

「労働契約関係において、使用者が人事管理の一環として行う考課ないし評定については、基本的には使用者の裁量的判断で行われるべきものであり、原則として違法と評価されることはないと解される。しかしながら、性別や社会的身分といったおよそ差別的取扱の基礎とすることができないような事由に基づいて差別的な評価がなされた場合だけでなく、使用者が、嫌がらせや見せしめなど不当な目的のもとに特定の労働者に対して著しく不合理な評価を行った場合など、社会通念上とうてい許容することができない評価が行われたと認められる場合には、人事権の甚だしい濫用があったものとして、労働契約上又は不法行為法上違法の評価をすることが相当である。」(日本レストランシステム(人事考課)事件-大阪地判 平21・10・8 労判999号69頁)