福島県教組事件-最1小判 昭44・12・18

【事案】
 Yの公立学校職員であるXらの給与は、給料及び暫定手当は毎月21日に当月分を、また、勤勉手当は毎年6月15日及び12月15日に所定の額を支給されることになっていたところ、YがXらに対し昭和33年12月15日に支給した勤勉手当には、Xらが同年9月5日から同月15日までの間、全日または一定時間勤務しなかったことにより支払われるべきではない分をも含んでいたので、Yは、昭和34年1月15日から同月20日までの間にXらに対し、それぞれの過払金の返納を求め、この求めに応じないときには翌月分の給与から過払額を減額する旨通知したうえ、これを同年2月21日又は3月21日に支払われる給与から控除した。
 Xらは当該控除が労働基準法24条1項規定の賃金全額払の原則に反すると主張した。

【判断】
「おもうに、右事実に徴すれば、Yの行った所論給与減額は、YがXらに対して有する過払勤勉手当の不当利得返還請求権を自働債権とし、XらのYに対して有する昭和34年2月分または3月分の給与請求権を受働債権としてその対当額においてされた相殺であると解せられる。しかるところ、本件につき適用されるべきものであった労働基準法24条1項では、賃金は、同項但書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従って、右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。
 しかし、賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときまたは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払われるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、許される相殺は、過払のあった時期と賃金の精算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。そして、所論引用の最高裁判所判決(昭和34(オ)第95号、同36年5月31日大法廷判決、民集15巻5号1482頁)が判示する前記24条1項の解釈は、当該事件に即し、労働者の債務不履行または不法行為によって生じた使用者の労働者に対する損害賠償債権と労働者の使用者に対する賃金債権との相殺に関連してされたものであるから、本件のような賃金過払の場合の相殺についての叙上の解釈は、右最高裁判所判決の趣旨と牴触するものではない。また、このような相殺は、所論民法505条1項但書にいう債務の性質が相殺を許さないときにはあたらないと解すべきである。
 そこで、本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係に徴すれば、Yのした所論相殺は、前記説示するところに適い、許さるべきものと認められ、従ってこれと同旨の原判決の判断は正当として首肯することができる。」

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