採用内定においては、解約権留保付の労働契約が成立していると解されている。

「 採用内定がいかなる法的性格をもつかについては、内定取消しに対する法的措置をめぐって多くの議論がなされてきた。
 まず唱えられたのが、(a)内定から入社までは一連の契約締結過程であるとする契約締結過程説であるが、これによれば、採用内定だけでは当事者は特段の義務を負わず、内定取消しに対しては不法行為による損害賠償請求の余地があるのみである。次に、(b)内定は、卒業後に労働契約を締結する旨の予約であるという予約説が主張されたが、この説でも、予約違反への対処はやはり損害賠償請求(ただし予約違反の債務不履行)にとどまるとされた。そこで、(c)内定段階で労働契約が成立するとする労働契約成立説が唱えられた。この説によれば、内定取消しは労働契約の解約(解雇)であり、内定者はその無効を主張して労働契約上の地位確認訴訟を起こしうる。
 もっとも、内定者が卒業できない場合などには内定が取り消されることから、労働契約成立説はさらに、(c1)卒業することが停止条件であるとの説(契約は内定時に成立するが、その効力は卒業ないし入社まで発生しないとする)、(c2)卒業できないことが解除条件であるとの説(内定時に契約の効力まで発生するが、卒業できないと効力が失われるとする)、(c3)卒業できないことなどを理由とする解約権が留保されているとする説(この説によれば、解約権を行使しない限りは存続する)などに分かれていた。
 こうしたなかで最高裁は、内定の実態はさまざまであるから一律には考えられないとしつつも、採用内定後には労働契約を成立させるための意思表示は特に予定されていなかった事案において、内定通知により使用者が契約締結の申込みを承諾したものとして、内定時に解約権留保つきの労働契約が成立したと判断した。」(山川隆一『雇用関係法〔第4版〕』72頁、新世社、2008年)

「本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、Yからの募集(申込みの誘引)に対し、Xが応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するYからの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、Xの本件誓約書の提出とあいまって、これにより、XとYとの間に、Xの就労の始期を・・・大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当」(大日本印刷事件-最2小判 昭54・7・20)

「YからXに交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったと解することができるから、XがYからの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するYからの右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、XとYとの間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された・・・日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。」(電電公社近畿電通局事件-最2小判 昭55・5・30)

採用内定の取消は、労働契約の解除(解雇)にあたり、解約権の行使が客観的に合理的であること、社会相当性が認められることを要する(労契法16条)。

「一般には留保解約権に基く解雇は、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇事由が認められるのであるけれども、留保解約権の行使は解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的合理的で社会通念上相当の場合にのみ許されるものといわなければならない。」(日立製作所事件-横浜地判 昭49・6・19)

「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」(前掲・大日本印刷事件)

「採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する(1)人員削減の必要性、(2)人員削減の手段として整理解雇することの必要性、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性という4要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。」(インフォミックス事件-東京地判 平9・10・31)

「XとYとの間に始期付解約権留保付労働契約が成立している場合において、Yの解約権行使は、客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由がある場合には、当該解約権の行使は適法であるが、そのような事由が存在しない場合には、当該解約権の行使は無効であり、XとYとの間に労働契約は継続しており、また、解約権行使が違法として解約権行使に伴い原告が被った損害を、Yは相当因果関係の範囲内において賠償する義務を負うと解するのが相当である。」(オプトエレクトロ二クス事件-東京地判 平16・6・23 労判877号13頁)

「一般に内定において解約権が留保されるのは、新卒採用に当たり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力、その他社員としての適格性の有無に関連する事項について、必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨によるものと解されるところ、雇用契約締結に際しては使用者が一般的に個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮すると、そこでの解約権行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することのできる場合にのみ許されるというべきである。したがって、内定の取消事由は、使用者が、採用決定後における調査の結果により、当初知ることができず、また知ることができないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし内定者を雇用することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に相当であると認められることを要し、その程度に至らない場合には、解約権を行使することはできないと解される。」(宣伝会議事件-東京地判 平17・1・28 労判890号5頁)