日立製作所武蔵工場事件-最1小判 平3・11・28

【事案】
 Xは、YのD工場に勤務し、トランジスターの品質及び歩留りの向上を所管する製造部低周波政策課特性管理係の所属していた。
 YのD工場の就業規則には、Yは、業務上の都合によりやむを得ない場合にはXの加入するD工場労働組合との協定により、1日8時間の実働時間を延長することがある旨定められていた。そして、Yと組合との間において、「「1」 納期に完納しないと重大な支障を起こすおそれのある場合、「2」 賃金締切の切迫による賃金計算又は棚卸し、検収・支払等に関する業務ならびにこれに関する業務、「3」 配管、配線工事等のため所定時間内に作業することが困難な場合、「4」 設備機械類の移動、設置、修理等のため作業を急ぐ場合、「5」 生産目標達成のため必要ある場合、「6」 業務の内容によりやむを得ない場合、「7」 その他前各号に準ずる理由のある場合は、労働時間を延長することがある。前項により実働時間を延長する場合においても月40時間を超えないものとする。但し緊急やむを得ず月40時間を超える場合は当該1ヶ月分の超過予定時間を一括して予め協定する。」旨の書面による協定が締結され、所轄労基署長に届け出られた。
 Xの上司であるF主任は、Xに対し、残業してトランジスター製造の歩留りが低下した原因を究明し、その推定値を算出し直すように命じたが、Xは右残業命令に従わなかった。
 Yは、Xに対し、出勤停止14日間の懲戒処分を科したが、処分後もXは命令に従う義務はないとの態度を変えず、提出した始末書も反省の色がないとして受領を拒否し、過去の処分歴と相まって就業規則所定の懲戒事由「しばしば懲戒・訓戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込みのないとき」に当たると判断し、Xを懲戒解雇した。
 Xが本件懲戒解雇の無効を主張し提訴。
 
 1審はXの請求を認容、2審は1審を取消し、Xの請求を棄却。Xが上告。

【判断】
「労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定められているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁、最高裁昭和58年(オ)第1408号同61年3月13日第1小法廷判決・裁判集民事147号237頁参照)。」
「右の事由のうち「5」ないし「7」所定の事由は、いささか概括的、網羅的であることは否定できないが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正かつ円滑に実施する必要性は同法36条の予定するところと解される上、原審の認定したYの事業の内容、Xら労働者の担当する業務、具体的な作業の手順ないし経過等にかんがみると、右の「5」ないし「7」所定の事由が相当性を欠くということはできない。
 そうすると、Yは、・・・本件36協定所定の事由が存する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、F主任が発した右の残業命令は本件36協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。」


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