社会保険は、法に定められている要件に該当する限り、当然に被保険者となるが、事業主による届出(本人による請求)がされ、保険者によって確認がされないと、法の保護を受けることができない。(労災保険は、事業主による保険関係成立の届出義務(徴収法4条の2第1項)が規定されているが、個々の者の資格取得といった届出は不要。また、事業主が保険関係成立の届出を怠っていても、その間に発生した労災事故についてなされる保険給付について事業主から費用徴収(法31条1項1号)がされることになるが、本人が「労働者」である限り、法の保護を受けることができる。)

事業主は、自らが雇用する者が被保険者となった事実について届出義務を負う。(雇用保険法7条・健康保険法48条・厚生年金保険法27条)

届出を怠る行為は、公法上のみならず、私法上においても問題となり得る。

「雇用保険についても、使用者は、雇用契約の付随義務として、信義則上、…取得を届け出て、労働者が失業等給付等を受給できるよう配慮すべき義務を負うと解すべきである。そして、使用者がこの義務に違反して、…取得を届け出ないときや、偽りの届出をしたときは、その行為は、違法性を有し、債務不履行ないし不法行為を構成するものというべきである。」(「大真実業事件」H18・1・26 大阪地裁 「労働判例」912号51頁)

「事業主による法27条に違反する被保険者資格の取得の届出義務違反行為は、当該労働者との関係でも、違法との評価を免れないものというべきである。」(「京都市役所非常勤嘱託員厚生年金保険事件」H11・9・30 京都地裁 「判例時報」1715号51頁)

「使用者は、雇用契約の付随義務として、信義則上、…取得を届け出て、労働者が老齢厚生年金等を受給できるよう配慮すべき義務を負うものと解するべきである。そして、使用者が、この義務に違反して、…取得を届け出ないときは、その行為は、違法性を有し、債務不履行ないし不法行為を構成するものというべきである。」(前掲「大真実業事件」)

「事業主が法の要求する前記の届出を怠ることは、被保険者資格を取得した当該労働者の法益をも直接に侵害する違法なものというべきであり、労働契約上の債務不履行をも構成するものと解すべきである。」(「豊國工業事件」H18・9・5 奈良地裁 「労働判例」925号53頁)

事業主が届出をしない場合、虚偽の届出をした場合などは、被保険者本人が確認の請求を行うことができる。(雇用保険法8条・健康保険法51条・厚生年金保険法31条)

「事業主である被告の本件債務不履行にかかわらず、原告は公共職業安定所の長に対し、自己の被保険者資格の得喪に関し確認の請求を行うことができ、その確認をすれば、被告が法定の手続を履践した場合と同額の基本手当を受給することは可能であるから、被告の本件不履行により、原告に基本手当相当額の損害が生じたとの主張は失当である。」(「山口(角兵衛寿し)事件」H1・8・22 大阪地裁 「労働判例」546号27頁)

「事業主の届出と被保険者の確認請求によって被保険者資格の取得の発効について遺漏なきを期そうとした法の趣旨に鑑み、原告らが確認請求、その他自分たちの厚生年金保険に加入する権利を保全するための何らの行動に出なかった過失を斟酌し、民法722条により、原告らが被った損害の内、その7割について被告に賠償を命じることが相当と判断する。」(前掲「京都市役所非常勤嘱託員厚生年金保険事件」)

保険者の確認は、事業主の届出、本人の請求、職権によって行われる。(雇用保険法9条・健康保険法39条・厚生年金保険法18条)

「適用事業に雇用される労働者は、この…確認を受けていると否とにかかわらず、法律上当然に被保険者となるのであるが、この…失業等給付を受ける等の権利の行使は、…確認を経てはじめて具体的に行うことができるものであり、また、…確認があった日の2年前の日より前の被保険者であった期間は、被保険者期間の計算の基礎としないこととされている等、…確認を経なければ被保険者としての権利義務が十分には効力を生じない仕組みになっている。このように…確認に重要な意味を持たせているのは、…基本手当の受給資格の有無及び給付日数を決定するための基礎となる被保険者歴を確実に把握しておく必要があること等の理由によるものである。」((財)労務行政研究所編『新版 雇用保険法(コンメンタール)』368頁,2004年,労務行政)

「資格の取得または喪失という法律関係は第35条または第36条に該当する事実が発生したときに当然生ずる。しかし、その法律関係は、いわば潜在的な法律関係であり、それが具体的に保険給付の支給、保険料の徴収、支払いというような法律効果を発生するためには、確認という行為により、その法律関係が公に確認されなければならないのである。」(法研『健康保険法の解釈と運用』317-318頁,2005年)

「当然被保険者の資格の取得、喪失及び被保険者の種別の変更は、それぞれの該当する事実がそれぞれ一定の事実に該当することによって当然成立するものであることは明らかであるが、これら被保険者資格に確認措置等の一定の法的確定力を付与しない限り、保険給付の請求に際して、5年、10年を経過した資格関係が、事業主の届出と事実に相違することのあった場合、それによって争うこととなり、保険給付の裁定に正確を期しがたいのである。ここにおいて被保険者の資格取得、喪失及び被保険者の種別の変更に関して、確認という処分により、法的な確定力を付与し、それによってその確認の処分に対する審査を求め(法90条)、被保険者の権利保護と保険給付の正確を期することとしたのである。」(法研『厚生年金保険法解説』495-496頁,2002年)