更生会社三井埠頭事件-横浜地川崎支判 平12・6・9 労働判例809号86頁、東京高判 平12・12・27 労働判例809号82頁

【事案】
 Yは、港湾運送等を営む会社であったが、平成10年10月15日、横浜地方裁判所において、更生手続開始決定を受け、Y及びSが更生管財人に就任した。
 X1は、昭和45年2月に更生会社と労働契約を締結し、平成11年に行われた40歳以上の従業員を対象とする希望退職募集に応募し、同年3 月31日に退職した。(退職直前の役職は、資源事業部長であった。)
 X2は、昭和37年3月に更生会社と労働契約を締結し、平成11年に行われた40歳以上の従業員を対象とする希望退職募集に応募し、同年3 月31日に退職した。(退職直前の役職は、資源事業部環境事業課長であった。)
 X3は、平成8年1月に更生会社と労働契約を締結し、平成11年に行われた40歳以上の従業員を対象とする希望退職募集に応募し、同年3 月31日に退職した。(退職直前の役職は、資源事業部環境事業課の課長職であった。)
 Yは、平成10年5月以降、Xら管理職従業員の毎月の賃金を減額して支給した。
 Xらが、在職中に一方的に賃金を減額されたとして、更生会社の管財人に対して未払賃金の支払いを求めた。

【判断】
〔第1審〕
「Xらの賃金の減額については、平成10年5月13日、更生会社前代表取締役が、X1及びX2を含む管理職従業員に対して通告したことはあったものの、Xらがこれを承諾したと認めることはできない。
 これに対して、Yは、Xらが遅くとも平成10年10月25日には黙示の承諾をしたと主張するところ、X1とX2が平成10年5月13日に賃金減額の通告を受け、X3もその後まもなくこれを知ったこと、右通告に対応する形で減額した賃金が継続して支払われていたこと、Xらが、更生会社の前経営陣あるいはYや管財人代理らに対して直接異議を申し述べたことがないことの各事実が認められる。しかしながら、Xらが賃金減額について容認していることを表明した事実は認められないこと、かえって、X1は、平成10年10月ころには、人事部を通して減額措置の申し入れ、平成11年3月には、Xら3名が書面を作成してそれまでの減額分の支払いを求めた事実が認められること、更生会社の前経営陣からも、YやS管財人らからも、Xらに対して賃金減額の措置について意思確認を求めたことはなかったことを勘案すると、Xらが賃金が減額されていることを認識しながら異議を申し立てなかったことをもって、賃金減額を黙示的に承諾していたものと推認することはできない。」
「労働契約における最も重要な要素である賃金を使用者が一方的に減額することは許されないから、Yには、平成10年5月分から平成11年3月分までに減額した賃金及びこれに対する各支払日の翌日から年6分の割合の遅延損害金をXらに対して支払う義務があるというべきである。」

〔第2審〕
「労基法24条1項本文はいわゆる賃金全額払の原則を定めているところ、これは使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る趣旨に出たものであると解されるから、就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らし、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効であると解すべきである(最高裁判所昭和48年1月19日第2小法廷判決・民集27巻1号27号、最高裁判所平成2年11月26日第2小法廷判決・民集44巻8号1085頁参照)。」
「・・・に照らせば、右Oが管理職従業員らに対し本件減額通知をしたことは認められるもののその場において又はその日ころ、Xらがその自由な意思に基づいて右減額を承諾する旨の意思表示をしたものとは認めることができない。」
「・・・に照らすと、外形上、Xらは本件減額通知を黙示に承諾したものと認めることが可能である。
 しかしながら、本件全証拠に照らしても、Xらが本件減額通知の根拠について十分な説明を受けたことも、更生会社において本件減額通知に対する各人の諾否の意思表示を明示的に求めようとしたとも認められないこと(承諾の意思を明確にするための書面の作成もなければ、個別に承諾の意思を確認されたこともない。)、X1及びX2がその各本人尋問において、「本件減額通知に異議を述べなかったのは、異議を述べると解雇されると思ったからである」旨供述し、X3もその本人尋問において、「異議を述べなかったのは、自らの在籍期間が短く、他の人を差し置いて異議を述べるべきではないと思ったからで、賃金の控除に納得していたわけではない」旨供述していること、さらに、本件減額通知の内容は、管理職従業員についてその賃金の20パーセントを控除するというもので、Xらの不利益が小さいとはいえないものである上、仮に更生会社の存続のためには賃金の切下げの差し迫った必要性があるというのであれば、各層の従業員に応分の負担を負わせるのが公平であると考えられるのに(本件において、管理職従業員に対して一律20パーセントの賃金の減額をすることが真に経済的合理性を有し、かつ、公平に適うものと認めるべき事情は存しない。)、管理職従業員についてのみ右のような小さくない負担を負わせるものとなってることなどにかんがみると、Xらがその自由な意思に基づいて本件減額通知を承諾したものということは到底できないし、また、外形上承諾と受け取られるような不作為がXらの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない。」

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