セコム損害保険事件-東京地判 平19・9・14 労働判例947号35頁

【事案】
 Xは、平成17年4月1日、Yとの間で期間の定めのない雇用契約を締結した。
 Yは、平成18年4月11日、Yに対し、同日をもって解雇するとの意思表示をした。
 解雇通知によれば、解雇事由は、①礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼしたこと、②良好な人間関係を回復することが回復困難な状態に陥っていること、③再三の注意を行ってきたが改善されないこと、の3点であった。

【判断】
「認定事実(1)によれば、XはYに入社して間もない平成17年4月6日、職場の長であるAの言動について人事グループのDに宛てて苦情を申し立て、「会社に対し私も相当の考えをもっていこうと考えています。」旨会社の在り方を問うていること(ア)、その後も同年5月23日にXの所属部署の課長であるBの言動についてA及びDに管理職としての資質をいきなり問うような苦情の電子メールを送信していること(イ)、同年8月8日にもBの職場における言辞について批判する内容の電子メールをDに送信していること(エ)が認められる。また、Xによる電子メールのDに対するものとしては、同年8月12日のAとの保険約款に関する会話内容を報告する中での同人の批判、「社長が、人様の前で頭を下げる日は近い」旨の問いかけ、同月24日の職場の同僚女性事務職及びBの発言を報告する中での同人らへの批判、同月29日の開発業務部長であるHからの依頼に関して会社の業務指示の流れが不明瞭で迷惑している旨の報告をしているもの(エ)がある。
 さらに、Xは、平成17年5月30日までに、空調の件で未だ温風が吹き出し口から出ることから暑くて業務に支障があるとして改善要請したのに改善がなされていないことに端を発してAに対して管理職としてのあるべき姿勢を問うたり、同様にBの課長としての資質を問うほか、職場の同僚であるE及びJとも対立する局面が生じている(ウ)。
 そのほかに、Xは、平成17年8月31日にAから翌日に座席を移動するよう指示されたのに対してすみやかに従うことをせず、むしろ自己の考えから移動の必要性がないとして翌日書面でこれを断るなどしている(オ)。」
「このようなXの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠けるものである。そして、Xがこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると、X自身に会社の組織・体制の一員として円滑かつ柔軟に適応して行こうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば、このようなXの言動は、自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。」
「Xの問題行動・言辞の入社当時からの繰り返し、それに対するY職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、XY間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
 それゆえ、YによるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を濫用したことにはならないものというべきである。」
「Xは、それぞれYが指摘する局面のうち、Xの言動には同人自身には非が無くYである会社側すなわちA、Bの言動に問題があるとし、その他の者との関係では事実関係が解雇するほどのものではないという。
 しかしながら、ここでXの言動として問題とされているのは、Xと会社の他の人間あるいは会社側のいずれの方がその当時言っていることが正しいかということではなく、Xの言い分がある程度正論であったり、あるいは会社を良くするためという意思に発したものだとしても、その物の言い方なり、会社批判あるいは職制批判さらには自分の所属部署の上司たるB、Aについて人事のDにあからさまに苦情・報告する行動態度にある。自分の言っていることが間違ったことでなければ何を言ってもいいことにならないのは社会人として常識であるところ、Xの勤務態度は客観的に見て自己中心的で職制・組織無視の考え・行動が著しく、非常識かつ度を超したものと評価せざるを得ないレベルにある。」
「Xは、空調の件にしてもAに対する例えば体型なりアルコール中毒といった発言あるいはトイレに関する発言にしてもXだけが責められるべきものではなく、対話の文脈の中で考えた場合には解雇事由になり得ないかのように主張する。
 しかし、職場の上司に対する物の言い方というものがあるはずであり、何よりもXにおける入社当初からの自己の考えを前面に出した物の言い方には、およそその職場あるいは会社に適合して職制なり職場の状況の様子を見据え一旦はその環境を受け容れた上で自己の意見の表明とはほど遠く、攻撃性が顕著であり、平成18年になってからのトイレ発言のようなもはやお互いの対立的な相容れない状況がある程度明らかになってきてからの売り言葉に買い言葉といった状況を呈している状況では上司部下といった関係を尊重した人格的な信頼関係の基礎が崩れている。繰り返しになるがXによるYの組織体制を顧みない言動や人間関係を無視した言動は、人事への言及となって職制からもXからも持ち込まれ、前記前提事実(2)、カにおけるDによる度重なる指導につながっているもので、事態は組織統制、服務規律の維持の上で重大といわざるを得ない。」