使用者の責任によって労務の提供ができなくなったときは、労働者は、賃金の支払いを受ける権利を失わない。

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」(民法536条2項)

使用者の責任によって労働者を休業させる場合は、休業手当の支払いをすることが義務付けられている。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」(労基法26条)

民法による「賃金請求権」と労基法による「休業手当請求権」の関係については以下のように考えられている。

「本条は民法の一般原則が労働者の最低保障について不充分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障せんとする趣旨の規定であって、民法536条第2項の規定を排除するものではないから、民法の規定に比して不利ではない。」(S22・12・15 基発第502号)

「休業手当の保障における「責めに帰すべき事由」は反対給付請求権の有無の基準である「責めに帰すべき事由」(「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」と解されている)よりも広く、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も天災事変などの不可効力に該当しないかぎりはそれに含まれると解するのが妥当である。要するに、休業手当は、労働者の最低生活を保障するために、民法により保障された賃金請求権のうち平均賃金の6割に当たる部分の支払を罰則によって確保したにとどまらず、使用者の帰責事由をも拡大した。」(菅野和夫『労働法〔第9版〕』252-253頁,弘文堂,2010年)

「労基法26条は、民法536条2項よりも使用者の責任範囲を拡大する一方で、支払いを強制する最低基準を平均賃金の60%に限定したとするのである。さらに、労働者が民法にもとづいて賃金全額を請求できる場合にも、使用者は、少なくとも平均賃金の60%については罰則によって支払いを強制されるし、付加金(労基法114条)の制裁を受ける可能性もあるから、労基法26条はその点でも意味がある。」(西谷敏『労働法』255頁,日本評論社,2008年)

「労働基準法26条が「使用者の責にきすべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法114条、120条1号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであって、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである。…休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」(「ノース・ウェスト航空事件」S62・7・17 最高裁第2小法廷 「労働判例」499号6頁)