秋北バス事件-最大判 昭43・12・25

【事案】
 Yには、Xが入社した際、停年の定めはなく、後に一定職以上の者を除く停年の定めが規定され、更にその後に一定職以上の者についても停年の定めが規定されるに至った。
 Yの営業所次長の職にあったXは、一定職以上の者についての停年の定めが規定された時点において当該停年年齢となっていたため、Yは、Xを停年とした。
 Xは、就業規則の変更に同意をした事実はなく、停年の規定は自分に効力が及ばないとして提訴。

 1審はXの請求を認容。原審は、Yの控訴を認容。Xが上告。

【判断】
「おもうに、多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定する必要が生じる。そこで、労働協約や就業規則によって、まず、労働条件の基準を決定し、その基準に従って、個別的労働契約における労働条件を具体的に決定するのが実情である。」
「元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる。
 そして、労働基準法は、右のような実態を前提として、後見的監督的立場に立って、就業規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。すなわち、同法は、一定数の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89条)とともに、就業規則の作成・変更にあたり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規則を届け出て(90条参照)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる(106条1項、なお、15条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91条参照)、しかも、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92条)ものとしているのである。これらの定めは、いずれも社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93条)、就業規則のいわゆる直律的効力まで是認しているのである。
 右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。」
「就業規則は、経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができることになっているが、既存の労働契約との関係について、新たに労働者に不利益な労働条件を一方的に課するような就業規則の作成又は変更が許されるであろうか、が次の問題である。
 おもうに、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかない。そして、新たな停年制のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。」
「停年制は、労働者が所定の年齢に達したことを理由として、自動的に、又は解雇の意思表示によって、その地位(職)を失わせる制度であるから、労働契約における停年の定めは一種の労働条件に関するものであって、労働契約の内容となり得るものであることは疑いを容れないところであるが、労働契約に停年の定めがないということは、ただ、雇用期間の定めがないというだけのことで、労働者に対して終身雇用を保障したり、将来にわたった停年制を採用しないことを意味するものではなく、俗に「生涯雇用」といわれていることも、法律的には、労働協約や就業規則に別段の定めがないかぎり、雇用継続の可能性があるということ以上には出でないものであって、労働者にその旨の既得権を認めるものということはできない。従って、停年制のなかったXごとき主任以上の職にある者に対して、Yがその就業規則で新たに停年を定めたことは、Xの既得権侵害の問題を生ずる余地のないものといわなければならない。また、およそ停年制は、一般に、老年労働者にあっては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず、給与が却って逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできず、本件就業規則についても、新たに設けられた・・・という停年は、わが国産業界の実情に照らし、かつ、Yの一般職種の労働者の停年が・・・と定められているのとの比較権衡からいっても、低きに失するものとはいえない。しかも、本件就業規則条項は、同規則・・・条の規定に徴すれば、停年に達したことによって自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法20条所定の解雇の制限に服すべきものである。さらに、本件就業規則には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられており、同条項を適用することによって生ずる苛酷な結果を緩和する途が開かれているのである。しかも、原審の確定した事実によれば、現にXに対しても、Yより、その解雇後引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がされており、また、Xら中堅幹部をもって組織する「E」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に道を譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである。
 以上の事実を総合考慮すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後直ちに同条項の適用によって解雇されることになる労働者に対する関係において、Yがかような規定を設けたことをもって、信義則違反ないし権利濫用と認めることもできないから、Xは、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。」

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