学校法人早稲田大阪学園事件‐大阪地判 平28・10・25 判例時報2340号106頁

【事案】
 Xが、新人事制度が施行され就業規則が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額等の支払を求めたもの。

【判断】
「Xらの退職金が減額になったのは、退職金支給率や支給率の算定期間が変更になったことによるものではなく、給与規則が変更され、各号俸に対応する基本給の額が減額となったことによるものである。そして、本件変更が、退職金制度のみを変更するものではなく、人事制度全体を改正するものであることからすれば、退職金支給規則のみに着目するのではなく、人事制度全体に着目することが必要であり、その結果、上記のとおり、Xらの退職金の額が減額となるという事態が生じていることからすれば、本件変更は不利益変更に当たる。したがって、検討においても、退職金のみならず、新人事制度全体を踏まえて検討をする必要がある。」

「賃金や退職金等は労働者の生活に直接関わる重要な事項であることからすれば、経営状態が悪化したからといって直ちに労働条件を不利益に変更することが許されるものではないが、他方で、経営状態の悪化が進み、末期的な状況にならない限り、労働条件の改正に着手することが許されないものではなく、むしろ、末期的な状況になってからでは遅いともいえるのであり(法人が破綻してしまえば、結局、労働者にとっても不利益となるし、破綻に至らなくとも整理解雇が避けられない事態となれば、やはり解雇対象となった労働者にとって大きな不利益となる。)、収入の増加及び労働者の労働条件に直接かかわらない支出の削減を優先すべきであることは当然ではあるが、法人が末期的な状態に至ることを回避すべく、複数年にわたって赤字経営が続いており、その改善の見込みもなく、潤沢な余剰資産があるわけでもないというような状況においては、破綻を回避するために労働条件を不利益に改正することもやむを得ないというほかない。X2は、Yには実質的には長期も短期も負債がない旨供述するが、そもそも、・・・Yは、平成22年頃のことではあるが、私学共済事業団に対して借入れを申し込んだが拒絶されたというのであって、借入れができない状態にあったともいえるから、X2の供述が、借入れが可能であることを前提とするものであれば、前提が誤っているといわざるを得ない。また、その点を措くとしても、上記説示のとおり、Yの経営状態が赤字続きであったこと、改善の見込みがないばかりか、むしろ手持ち資金がなくなる危険性があったことなどからすれば、仮に、金融機関からの借入れが可能であったとしても、借入れた金員は返済しなければならないことはいうまでもなく(しかも利息を付す必要がある。)、経営状態を改善する方策を講じなければ、結局のところ、破綻を先送りにするだけであるといわざるを得ない。」

「Yの経営状況は非常に悪化していたといわざるを得ず、経営状態が改善されなければ最悪の場合には解散をも視野に受け入れざるを得ないこととなる(実際、平成24年4月12日の団体交渉では解散の話にも言及がなされている。)。解散や整理解雇は、従業員に大きな影響を及ぼすものであることから、その前段階として回避努力を行うことが必要となるところ、既に説示したとおり、生徒数に鑑みれば、収入が劇的に増加(回復)することは見込めないという状況下においては、支出を削減するという方法によるしかないこととなる。Yは、役員数の減少、役員報酬の減額(・・・)、定期昇給の停止(・・・)、手当の削減(・・・)、希望退職の募集(・・・)等の措置を講じていたものではあるが、・・・人件費の支出が大きな割合を占めるというYの性質からすれば、経営状態を改善するためには、上記のような一時的な対策のみでは効果は限定的であるといわざるを得ず、賃金体系(退職金を含む。)を抜本的に改革するほかなかったといわざるを得ない。
 そうすると、本件変更には、労働者の退職金等という重要な権利に不利益を及ぼすこととなってもやむを得ない高度の必要性があったと認められる。」

「(ア) 本件変更後の内容の相当性、具体的には、変更後の内容自体の相当性、代償措置その他関連する労働条件の改善状況や、同種事項に対する一般的状況等についてみると、賃金については、・・・激変緩和措置が設けられ、実際、Xらに対しても、同措置に基づき補償金が支払われている。
 また、基本給の変動が退職金の金額にも影響を及ぼすことから、基本給が下がる職員については、新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比較し、高い方の金額によることとするなど、一定の激変緩和措定を設けているということができる。
  (イ) また、Yは、新人事制度を導入するに当たり、職群資格を設け、MC職群資格を取得した教職員については3号給上位の号給に昇格させることができるとしたところ(・・・)、実際に、MC職群資格を取得したことで基本給が増額となった者が4名存在する。もっとも、他方で、MC職群資格を取得しても基本給が減額となった者が8名存在することに照らせば、MC職群資格取得を取得すれば必ず基本給が増額するという性質のものではないが、その場合であっても、MC職群資格を取得することで基本給の減額幅を抑えるのは可能であるから、Yが職群資格を設けたことは一定の代償措置であると評価することができる(もっとも、Xらの年齢・新人事制度における俸給額からすれば、仮に、XらがMC職群資格を取得していたとしても、抑えられた減額幅はそれほど大きくなかったといえる)。
  (ウ) さらに、Yの退職金支給規則には本件変更の前後を通じて実質的な相違はないところ、Yにおいては、勤続38年以上の教員の退職金支給率は60とされ、基礎となる基本給も退職時の基本給とされているのに対し、公益財団法人大阪府私学総連合会の退職金事業では、加入期間47年でも退職金支給率は51.495である上、基礎となる基本給も退職時の基本給ではなく、退職前60か月の平均とされているほか、Xらの退職年数に応じた支給率を比較しても・・・Yにおける退職金の支給率及び基礎となる基本給の額は、大阪府という同一地域内において高いものとなっているといえる。
  (エ) 以上からすると、本件変更後の内容は相当なものといえる。」

「Yが、本件組合に対し、財政状況が悪化しており、放置すれば財政破綻を来すおそれがあることについては少なくとも本件変更の約7年2か月前から説明していることや、本件変更の約11か月前である平成24年6月1日付けで人事制度改革に関する個別相談窓口を設けるなどしていたこと(・・・)をも併せ考慮すれば、Yは、本件組合あるいは教職員に対し、少なくとも、突如として本件変更の必要性があることを説明したものではなく、以前から、複数回にわたって新人事制度導入の必要性やその内容について説明を行っていたと評価することができ、6期連続赤字という経営状態であっても、直ちに昇給を停止するなどの措置を講じるのではなく、従前の給与規則に基づいて賃金の支払を継続してきたものである。また、本件変更に係る説明に際しても、本件組合からの要求を受けて資料を開示するなどしていたほか、本件組合との交渉においても、新人事制度が所与のものであって、変更の余地がないというような強固な態度をとることなく、平成24年度の賞与の支給、昇給の延伸及び激変緩和措置等に関する本件組合の要求を受けて、従前提案していた制度から変更するなど、柔軟な対応をとっていたと評価することができる。そうすると、全体として、Yの本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであったと評価することができ、平成24年4月12日の団体交渉において、書記長が「平成25年度の改革は考えていただいて結構」、「財政再建策をやって頂いて結構」と述べるに至っているのも、その表れと評価することができる。」

「本件変更については、これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、他方で、変更を行うべき高度の必要性が認められ、変更後の内容も相当であり、本件組合等との交渉・説明も行われてきており、その態度も誠実なものであるといえることなどからすれば、本件変更は合理的なものであると認められる。」

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