山元事件‐大阪地判 平28・11・25 労働判例1156号50頁

【事案】
 Xらが、Yに対し、Kの労働時間を適切に管理すべき義務があったのにこれを怠ってKに長時間労働及び不規則かつ深夜にわたる労働をさせたことにより、Kが死亡したと主張して、損害賠償等を請求したもの。

【判断】
「(1) 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであり、労働基準法上の労働時間制限や労働安全衛生法の健康配慮義務は、上記のような危険の発生の防止をも目的とするものと解されるから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり(最高裁判所平成12年3月24日第2小法廷判決民集54巻3号1155頁参照)、使用者が上記義務に違反した場合には、労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(2)ア Yとアルバイト従業員との間の労働契約は、法形式としては、被用者の申込みに応じて、使用者が具体的な作業場所を指示し、被用者が同現場の作業に従事するという形をとるものであるが、Yにおいては、1人のアルバイト従業員が1日のうちに複数の現場に赴いて稼働することがあることを当然の前提として、賃金の算定における各現場の間の移動時間の取扱いや、移動に要する交通費の支給に関するルールが定められていたのであるから、Yは、個々の現場での作業を完全に独立したものとして扱っていなかったというべきである。
 イ 陳列棚の搬入・組立・設置等の業務は、相当の重量を有する什器類を扱うものであって、一定の体力を要するものであった上、現場によってはYのアルバイト従業員用の休憩場所が用意されず、立ったまま休憩をとらなければならない場合もあったのであり、業務に従事する者の体力的な負担も相応にあったといえる。
 また、Yにおけるアルバイト従業員の業務は、現場により時間帯や時間数が様々であって、決まったシフト等が存在しない上、・・・深夜の時間帯に及ぶ作業も少なくなかったことに照らせば、Yにおける労働状況は、長時間稼働する者にとって、稼働の時間帯が非常に不規則であり、疲労の蓄積を招きやすいものであったといえる。
 ウ 加えて、・・・Kは、遅くとも平成9年5月頃からYにおいて恒常的にアルバイト従業員としての勤務を開始しているところ、①YにおけるKの年収は遅くとも平成21年頃までには300万円を超え、平成23年については400万円を超えるなどしており、Kが専らYでの勤務により収入を得ていたと認められること、②KはBデパートの通用口を出入りするための腕章を所持しており、同現場における業務に継続して従事することが予定されていたといえること、③KはYにおける勤務期間が長く、アルバイト従業員が足りない際に作業に入るようY従業員から依頼を受けたこともあったこと等からすれば、Kが、過去においてYのアルバイト従業員として、15年以上もの長期間継続して労務を提供し、かつ、将来にわたっても長期間継続して労務を提供する意思を有していたことが明らかであり、Yにおいても、Kのそのような意思を認識していたものと認められる。
 エ 以上のとおり、Yのアルバイト従業員の労働状況として、その従事する業務は、長期間従事することにより疲労の蓄積を招くものであった上、Kにおいては、15年以上の長期間にわたり継続的にアルバイト従業員として稼働するとともに、さらに将来にわたって稼働する意思を有しており、Yにおいてもこのことを認識していたのである。YとKとの間の労働関係は、形式的には各現場ごとに個別の労働契約が成立するものではあるが、上記のような事情に照らせば、Yは、Kに対し、期間の定めのない雇用契約における使用者と同様に、業務に伴う疲労等の蓄積により心身の健康を損なうことのないよう注意すべき義務を負っていたと認めるのが相当である。
 以上によれば、Yは、遅くともKが死亡する1年前までの時点において、Kが一定期間継続して就労することを前提として、Kから具体的な作業の申込みを受けるにつき、作業に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を負っていたものというべきである。すなわち、Yは、Kの労働時間及びその他の労働形態等(稼働する時間帯、現場ごとの作業時間等)を把握するともに、労働時間数等においてKに過度の負担をもたらすことのないよう調整するための措置を採るべき義務を負っていたものであり、具体的には、Kによる申込みの前においては労働時間等を適切に調整するよう、また、申込みの後においても他の日時、時間帯に変更等するよう指導するなど、Kの労働状況を適切なものとするための措置を採るべき義務を負っていたというべきである(なお、Yにおいてそのような措置を採ることが困難であったとはいえない。)。
(3) ・・・Kは、長期間における不規則な労働に加え、死亡直前の2週間における長時間かつ極めて不規則な労働により死亡するに至ったものと認められるところ、Yは、労働時間等のKの労働状況により、Yにおけるアルバイト業務がKに過度の負担をもたらすおそれがあるにもかかわらず、Kの正確な労働時間を把握することを怠り、かつ、Kの労働時間等を調整するための措置を採ることなく、漫然とKを各現場における作業に従事させたものといえるから、Yは、Kに対する上記の義務の履行を怠ったものというべきである。」

「Yにおいて作業現場に必要なアルバイト従業員を確保することができない場合には、Y側から作業に入るよう個別に依頼されることがあり、稼働年数が長く、真面目な性格であったKが、その責任感から、現場に穴をあけることのないよう努力して作業を引き受けていたことは容認に推察できるものの、Yにおいては従事すべき作業のノルマというものは設定されておらず、基本的には、Kからの申込みがない限り、具体的な作業に従事する義務が発生するものではなかったといえる。
 そうすると、Kはその従事する作業についてある程度主体的に選択し得る立場にあったともいえるのであって、Kが作業に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なう事態を避けるためには、自らにおいても業務量を適正なものとし、休息や休日を十分に取ることにより疲労の回復に努めるべきであったことは否定できないから、Kの死亡による損害の全額についての賠償をYに命じるのは、当事者間の公平を失し、相当とはいえない。」