松原興産事件-大阪地判 平30・5・29 労働判例1210号43頁,大阪高判 平31・1・31 労働判例1210号32頁

【事案】
 Xが,YにおけるXの上司から継続的にパワーハラスメントを受けて,うつ病にり患し,退職を余儀なくされたと主張して,Yに対し,損害賠償請求をしたもの。

【判断】
〔第1審〕
「(1) A班長のパワハラ行為及びD店長のパワハラ容認
 ア …認定事実によれば,次のとおり,判断される。
 Xのうつ病発症前6か月間を検討するに,平成24年4月に本件店舗に転入したA班長は,Xの勤務態度を問題視して降格的配置をしたり,叱責を繰り返したばかりか,とりわけ,同年7月15日,本件店舗の経験の長いXがA班長と対立した際には,「お前もほんまにいらんから帰れ。迷惑なんじゃ。」と発言して,パチンコ台の鍵を取り上げようとし,同年9月6日には,「お前をやめさすために俺はやっとるんや。店もお前を必要としていないんじゃ。」と発言して,スピーカー線破損の始末書作成を強要し,同年10月2日には些細な指示命令違反の有無を捉えて,「嘘つけ。お前いうこと聞かんし。そんなんやったらいらんから帰れや。」と発言した上,反抗に対する懲罰として,Xを約1時間にわたって,カウンター横に立たせたこと(以下「本件パワハラ行為」という。)は,業務指導の域を超えたXに対する嫌がらせ,いじめに該当し,その発言は,Xの人格を否定するような内容であって,パワハラに該当する。
 そして,D店長は,上記のようなA班長のXに対する嫌がらせを把握できる状況にありながら,A班長に対して有効な指導をすることはなかった。
 イ これに対してYは,Xは就業規則に反して,A班長の指示に従うことなく,合理性のない弁解をして反抗的態度をとったもので,それに対する指導として,A班長の言動は社会的相当性を有すると主張するが,本件パワハラ行為は,指導の一環と捉えられるものではなく,班長という役職を利用し,あるいは,その権限を誇示するために,Xに対して,無用の嫌がらせとして行われたものとしか評価できない。
(2) Yの使用者責任
 …認定事実によれば,本件パワハラ行為は,Yの本件店舗従業員であるA班長が,その業務を行う中で,その部下であるXに対して,指示・指導等として,行われたものであるから,Yの事業の執行についてされたものであり,Yは,使用者責任を負う。」

「証拠(〈証拠略〉)によれば,…本件パワハラとうつ病の発症との間には相当因果関係が認められる。
 しかしながら,他方,ストレス-脆弱性理論によれば,心理的負荷の強度が非常に大きければ,個体側の脆弱性が小さくても,精神的破綻を来し,個体側の脆弱性が大きければ,心理的負荷が小さい場合にも精神的破綻を来すこととなるところ,…認定事実によれば,XとA班長は常時同勤ではなかったこと(勤務時間が重なるのは半分程度),本件パワハラ行為による心理的負荷は極めて強度とまではいえないこと,更には,Xのうつ病は既に5年半に及ぶも改善の目途が立っていないことが認められ,これらの事実によれば,個体側の脆弱性がうつ病発症及び長期化の素因となっているものというべきであって,それは,損害賠償額の認定に当たっては衡平の観点から斟酌されるべきであって,民法722条2項の類推適用により,Xの損害からは,25%の減額を行うのが相当である。」

〔控訴審〕
「本件のように,上司からパワーハラスメントを受け,うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求においても,裁判所は,加害者の賠償すべき額を決定するに当たり,損害を公平に負担させるという損害賠償法の理念に照らし,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で考慮することができると解される。
 しかしながら,企業等に雇用される労働者の性格等は多様のものであるところ,ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,その性格等が当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても,そのような事態は使用者として予想すべきものということができ,しかも,使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は,各労働者がその従事すべき業務に適するかどうかを判断して,その配置先,遂行すべき業務の内容等を定めるのであり,その際に,各労働者の性格をも考慮することができるものである。
 したがって,労働者の性格が,上記同様の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には,裁判所は,上司からパワーハラスメントを受けて,うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として考慮することはできないというべきである(最高裁判所平成12年3月24日第2小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。」