多治見労基署長(日東製陶)事件=岐阜地判 平13・11・1 労働判例818号17頁

【事案】
 航空機事故により死亡した被災者の遺族であるXらが、被災者らは、勤務先会社の業務としての研修旅行に参加中、業務災害により死亡したものであるとして、Yに対し、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を申請したところ、Yがこれらを支給しない旨の処分をしたので、これらの取消しを求めたもの。

【判断】
「ア 証拠(〈証拠略〉)によれば、本件旅行における訪問先は、「大同磁器工場見学」と「新竹ハイテク工業団地」を除けば、いずれも「あったかランド台湾」以外の多くの観光ツアーにおいても訪問先に取り上げられており、これらは台湾における主要な観光場所であると認められる。
 これらの観光場所に施工された自社製品の利用状況を見学させたり、陳列されている陶磁器の名品等を鑑賞させることにより、従業員の愛社精神を高揚させ、周辺知識や教養の向上を図ることは、観光や慰労という以上の効果をもたらすものであるが、その程度の見学等をもって、直ちに業務性のある研修行為と評することは困難である。
 イ また、Xが、研修を目的として新たに追加したと主張する「中華工芸館」の訪問目的についてみるに、・・・「日東製陶研修旅行予定表」(〈証拠略〉)には、「中華工芸館(みやげ買物)」と記載され、また「研修旅行予定表(〈証拠略〉)には、「中華工芸館(ショッピング)」と記載されており、X主張の研修目的は一切記載されておらず、むしろ土産物のショッピング先として記載されていることが認められる。そして、このように訪問先として追加された「中華工芸館」の訪問目的が買物であるとすれば、別に買物コースとして予定されていた「芸祥」「滋和堂」の訪問を取りやめ、免税店である「フローレンス」の訪問時間を削ったからといって、それが研修目的を重視する趣旨でなされたことを裏付けることには必ずしもならない。
 ウ 丁原課長が作成した本件旅行の計画書(〈証拠略〉)添付の・・・「研修旅行」と題する書面)によれば、本件旅行の目的は「1海外旅行の経験の無い人、または、少ない人ばかりなので、海外旅行の楽しさ、手軽さ、身近さを知ってもらい今後個人で家族で行けるようになればと思う 2大同磁器の新しいタイル工場の視察 3海外での日東グラニットの現場視察 4免税店でのショッピング 5故宮博物館(ママ)で中国4千年の文化見学」とあり、その中には研修目的に合致するものもある(上記2・3)が、同じく丁原課長が作成し、従業員に配布された・・・「1994年度日東製陶研修旅行のお知らせ」と題する書面(〈証拠略〉、「お知らせ」)では、「海外旅行の、楽しさ・手軽さ・身近さを経験し、みんなで楽しく・よい思い出にしましょう。」と記載されているのみで、研修目的を窺わせる記載はなく、従業員に対して本件旅行が研修を主たる目的とする旨の説明がなされ、その周知が図られていたとは認められない。
 エ 証拠(〈証拠略〉)によれば、本件旅行の訪問先のうち、大同磁器工場については、同社が日東製陶など日東グループの各会社と同じく食器・タイル製造を目的としており、日東建材とは業務提携関係にあり、また、日東グループ各社との人材交流もあるのであって、日東製陶の業務との関連性は強く、純粋に研修目的の訪問先であったと認められる。
 しかしながら、全部で2泊3日の本件旅行の訪問先のうち、大同磁器工場の訪問に割り振られた時間は、当初の計画では約1時間(〈証拠略〉)に過ぎず、実際に同工場に滞在した時間は2時間15分、また工場見学に要した時間は1時間20分から1時間50分程度(〈証拠略〉)と認められるが、本件旅行全体の日程の中ではそれほど長時間を占めたものではなく、他の観光地の訪問と比べて、これが本件旅行の中心的目的をなすものであったとは認められない。
 また、新竹ハイテク工業団地訪問は、一応研修を目的とするものと解されるが、その内容は車窓から工場団地を見るにとどまるのであって、研修目的として付随的なものといわざるを得ない。
 オ 証拠(〈証拠略〉)によれば、平成4年、5年の「研修旅行」は1泊2日の日程で国内(平成4年は高知、平成5年は奈良・大阪)で行われたことが認められるが、主な訪問先は、平成4年は観光地として龍河洞、桂浜、高知城、かずら橋、大歩危、現場視察は追手筋歩道と高知中央公園のタイル施工現場、平成5年は観光地として長谷寺、薬師寺、法隆寺、大阪城、吉本会館(吉本新喜劇)、現場視察は大阪城ホール、クリスタルタワー、ツインタワーとされており、いずれの場合も、現場視察とされるものを考慮に入れてみても、一般の観光、慰安旅行の範ちゅうを出るものではないと解される。そして、これらに続き平成6年に企画された本件旅行に至って、従来の社員旅行の基本的な趣旨目的が変更されたことを窺わせるほどの事情は見当たらない。
(3) 以上、アないしオに指摘した諸点に照らしてみると、本件旅行の主たる目的は観光及び慰安にあると解され、研修を中心とした旅行であると認めるのは困難である。」

「(1) 旅行日の出勤・欠勤及び賃金の取扱いについて
 この点について日東製陶における従前の取扱いをみてみるに、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、同社の従業員には月給社員と日給社員が存在する(・・・)が、平成4年、5年の研修旅行の際には、日給社員に対しては、有給休暇取得者を除いて、旅行参加者に対して旅行日の賃金は支払われていないこと、月給社員については、旅行参加者は出勤扱いされる一方、不参加者は有給休暇を取得しない限り欠勤扱いとされたものと認められる。
 これに対して、本件旅行における賃金の取扱いについてみるに、日東社長の陳述書(〈証拠略〉)には、日給社員、月給社員ともに参加者は出勤扱いをして賃金を支給した旨のXの主張に沿う記載があり、また、出勤表(〈証拠略〉)や給料明細書(〈証拠略〉)によっても、旅行参加者について、日給社員、月給社員を区別せず、日曜日・・・も含めて全て出勤扱いとし、日給社員に対しては旅行日3日分の賃金が支払われていることが認められる。
 しかしながら、上記の取扱いについて、日東社長の前記陳述書では、旅行に先立って従前の取扱いを変更するよう経理課長に指示した旨の供述記載となっているが、一方、同社長は労働基準監督官に対しては、賃金の取扱いは従来どおりであると供述しており(〈証拠略〉)、また、証人尋問においては、曖昧な供述をするに止まっていること、旅行日が有給扱いになるのであれば、従前よりも旅行に参加しやすくなるのであるから、従業員に対してもその旨の周知がなされるものと考えられるところ、そのような周知がなされた経緯があるとは窺われないこと、従業員のHは、本件事故後に日東社長の指示により旅行参加者について有給扱いとしたと述べていること(〈証拠略〉)、これらによってみれば、日東社長の前記陳述書の記載部分は信用することができず、旅行参加者について一律に出勤扱いとする措置がとられたのは、本件事故の後、同社長の指示したことによるものと認めるのが相当である。
(2) 旅行への参加・不参加の自由
 証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、本件旅行は、・・・朝礼で、丁原課長から従業員に説明されるとともに前記「お知らせ」が配付されたこと、この「お知らせ」には、「締め切り 2月10日」との記載があるが、この記載は本件旅行への参加にあたって参加者が参加を申し込むための期限を記載したものと解するのが自然であること、本件旅行に参加した者は日東製陶の従業員42名中29名で(〈証拠略〉)、不参加者の占める割合は約31%の高率にのぼり、平成4年、5年のそれも、給料台帳によって計算してみると、それぞれ不参加率が約39.6%と43.75%であって、同様に高率であること、本件旅行に参加しなかった者の不参加理由は、必ずしもやむを得ない理由によるものではないこと(〈証拠略〉)、そして、不参加者に対する参加の働きかけが、研修旅行であることを理由として、可能な限り参加を促すような態様によって行われた形跡は見当たらず、従業員らも本件旅行への参加が強制的なものとは捉えていなかったと窺われること(〈証拠略〉)、以上の諸点が認められ、これらによれば、従業員らに対して、本件旅行が業務の一環としての研修旅行であって、参加を義務づけられるものであるとの周知、伝達はなされておらず、その参加、不参加は、従業員らの自由意思に任され、参加が強制的されていたものとは認められない。」

「本件旅行は日東製陶の業務として行われたとは解し難く、従って、被災者らの本件旅行への参加については業務遂行性が認められず、同人らの本件事故による死亡を、労災保険法所定の業務上の事故による死亡と認めることはできない。」