全国社会保険協会連合会事件=京都地判 平13・9・10 労働判例818号35頁

【事案】
 Xが、雇用期間が満了したとして雇止めされたことにつき、Yに対し、雇止めは許されないとして、地位確認等を求めたもの。

【判断】
「(1) Xは、昭和…に看護婦免許を取得し、平成…まで病院で働いた後、退職して育児に専念していたが、子供に手が掛からなくなった外、経済的な理由もあって、日勤であれば勤められると思い、平成10年2月20日、Y病院で採用面接を受け、その際、総看護婦長T(以下「T」という。)から、パートの雇用期間は1年になっているが、他のパートタイム看護婦は長年務めて、よく働いているという話をされ、同日付で、業務内容を外来看護業務全般とし、雇用期間を同年4月1日から平成11年3月31日までとする、パートタイム看護婦としての労働契約を締結した。
(2) Xは、平成10年4月1日から外来看護業務に従事し、外来の診療科の看護婦が休暇を取得した際の代替要員として働き、午前と午後で別の診療科へ応援に行くこともあったが、その業務内容については、パートタイム看護婦であっても、適切な看護処置を行うためには、正規職員看護婦と同様の専門的知識及び技術が必要であり、しかも、臨機応変かつ迅速に、時には一人で判断し行動しなければならないこともあり、看護業務については、正規職員看護婦より勤務時間が短いだけで、その他は同看護婦と同様の勤務をし、責任を負担していた。
(3) Xは、同年12月、外来の看護婦長S(以下「S」という。)から平成11年4月以降の進退について質問され、雇用継続を希望し、子供が平成12年4月に入学校に入学すれば、三交替勤務も可能であると答えたが、平成11年2月19日、Jから同年3月31日で雇止めをする旨通告されたため、組合に相談してY病院と交渉し、同月5日、Jから雇用期間を同年4月1日から同年9月30日までとする労働契約書を示され、他のパートタイム看護婦と同様、雇用期間は形式上6か月であるが、期間が満了しても雇用は継続され、辞めさせられることはないものと思い、前記契約書に署名押印した。
(4) すなわち、Xは、組合が同年2月24日Y病院に対し、定型のパート労働契約書第6条の「雇用期間満了を以って退職するものとする。」との規定を削除することと、パート労働契約について今後も従来と同様の取り扱いをすることを文書で要求し、その結果として、Xの労働契約の期間も同年4月1日以降は他のパートタイム看護婦と同様に6か月となり、同年3月5日には、Jが組合の書記長であったK(以下「K」という。)の質問に答え、6か月の期間は形式だけであり、これで辞めさせることはないと説明したので、Xの労働契約も、他のパートタイム看護婦と同じ条件となり、反復更新されるものと理解した。
(5) Xは、同年10月初めころ、Jから雇用期間を同月1日から平成12年3月31日までとする契約書への署名を求められたとき、「これで最後やからね」と言われ、直ちに署名せず、組合に交渉してもらったが、その交渉が進展せず、契約書がないのに雇っておくことはできないという話があったため、やむなく前記契約書に署名したが、同契約書第2条(雇用期間の定め)には、他のパートタイム看護婦の契約の例に見られたような「今回の更新をもって最終とし平成12年3月31日をもって本契約は終了する」との記載はなかった。
(6) Xは、平成11年10月中旬ころ、Sに対し、同年4月から夜勤もできるので正規職員看護婦として働きたいと改めて申し入れたが、これを伝え聞いたTから、正規職員看護婦になるためには採用試験を受けてもらわなければならないと言われ、同年11月15日に試験を受けたものの、同月下旬ころ不採用の通知を受け、その後、平成12年1月ころ、組合から同年4月以降も勤めるのであればJに挨拶しておくように指示され、Jに対し、同月以降もパートタイム看護婦として勤務したいと申し入れたが、同年2月29日、Jから期間満了により契約は終了すると告げられ、同年4月1日以降の就労を拒否された。
(7) Yは、Y病院の看護婦につき、同月3日付でパートタイム看護婦1名を採用し、健康管理センターに配属した外、外来の診療科では、同年3月31日付で、Xを雇止めし、正規職員看護婦2名を病棟勤務から配置転換して外来勤務とし、また、2名の看護婦が切迫早(流)産のため休暇を取り又は欠勤し、その内1名が同年2月29日から産休に入ったため、同年3月6日健康管理センターから正規職員看護婦1名を応援として配置し、同年5月5日付で正式に配置転換し、他の1名が同月6日から産休に入ったため、同月15日から応援者1名を配置したのであり、要するに、Yは、Xの雇止めに伴って新たなパートタイム看護婦1名を採用した。
(8) Y病院では、非正規職員として、パートタイム助産婦・看護婦と、宿直のみを勤務内容としたアルバイト看護婦と呼ばれる非常勤嘱託職員看護婦とを採用してきたが、勤務内容、賃金、身分保障等において両者の取扱には大きな違いがあり、後者については雇止めの例が多数あったのに対し、前者については雇用期間が6か月とされていたものの、期間満了後も契約が更新されて定年(満60歳の年度末)まで勤務した者が多く、現在も勤務しているパートタイム助産婦の勤続年数は約10年と約7年、同じくパートタイム看護婦1名の勤続年数は約20年であり、いずれも雇用期間を6か月(当初は2か月)として契約が更新されてきた。
(9) Y病院では、看護婦の採用手続につき、パートタイム看護婦の場合は履歴書及び看護婦免許の確認と総看護婦長による面接だけの簡易な方法であったが、正規職員看護婦の場合は定期採用と中途採用で若干違いがあるものの、筆記試験、面接及び健康診断を行っており、また、パートタイム看護婦から正規職員看護婦を優先的に採用するという人事制度は採っていないが、これまでに、パートタイム看護婦の内4名が、正規職員看護婦に欠員が生じたことや夜勤ができるようになったことから、同看護婦になるための試験を受けることなく、同看護婦に採用された。」

「XとYとの間の労働契約は、実質的に見て期間の定めのない契約に当たるということはできないが、Xに雇用継続に対する合理的な期待があり、解雇に関する法理が類推適用されるというべきである。すなわち、Xは、Yとの間で、期間の定めのある労働契約を締結したのであるが、期間満了後の雇用継続に対するY側の採用面接時の説明、Xの職務内容の正規職員看護婦との異同、契約更新に至った経緯、Y側の更新時の説明、他のパートタイム看護婦に対する雇止めの実例の有無、Y病院の外来の本件雇止め後の状況等の諸事情を勘案すると、Xが期間満了後の雇用継続を期待することに合理性があるということができ、この期待は法的保護に値するものであるから、Xに対する雇止めには解雇に関する法理が類推適用され、単に労働契約の期間が満了したというだけでは雇止めは許されず、客観的に合理的な理由が必要であり、これを欠く雇止めは社会通念上相当として是認することはでいないといわなければならない。ところが、本件雇止めは、期間満了のみを理由とするものであって、客観的にみて合理的な理由があるとはいい難いので、信義則上許されないものというべきである。」

「(3) ところで、Yは、Jが同年10月初めころ「これで最後やからね」と言ってXに契約書への署名を求め、Xもこれに応じて署名したのであるから、Xは平成12年3月31日限り契約が終了することを明確に認識していた旨主張しているが、Xは、平成11年3月5日にJから言われたとおり、契約書の雇用期間は形式上のもので、これをもって辞めさせられることはないと信頼していたにもかかわらず、前記のとおり「これで最後やからね」というJの発言があったため、直ちに契約書に署名せず組合に相談したというのであるから、Jの前記発言があったとしても、なお期間満了後の雇用継続に対するXの期待は合理的なものであったということができる。
 これに関し、Yは、当事者の一方が期間満了後の雇用継続を期待しただけで、当事者双方の合意した期間の定めが事後的に覆されるというのは、契約自由の原則に照らし問題がある旨の主張をしているが、前記のとおり、Xが単に主観的、一方的に期間満了後の雇用継続を期待していたに過ぎないのではなく、周囲の事情に照らしても、Xの前記期待に合理性があると認められる場合には、信義則上その合理的な期待を保護すべきであると考えられるので、Yの前記主張は採用することができない。
(4) 更に、Yは、以前は看護婦の不足が著しく、多くの看護婦を確保して少しでも長く勤めてもらうため、本人の希望に沿ってパートタイム看護婦として採用し、契約を反復更新するという雇用管理方針を採っていたが、平成7、8年ころからは、看護婦の不足状況が改善したため、それまでのパートタイム看護婦の雇止めが事実上できなくなっている状況を考慮し、人材の向上を図り、反復更新による雇用継続の期待を生じさせないため、新たに雇い入れるパートタイム看護婦から期間を1年として更新をしないという方針に変更した旨主張し、Y病院事務長・・・の陳述書にも同旨の記載があり、T及びJもこれに沿う証言をしているが、Tは、総看護婦長であり、看護婦の人事を任されている上、Y病院の管理者会議の構成員であるにもかかわらず、前記の方針変更についてはJから聞かされたに過ぎないこと、Kは、Y病院に対し、Xについてだけ雇用期間を1年とした理由を団体交渉の席上で追及したが、上記のような方針変更に関する説明を受けなかったこと、Yは、Xとの間で、最初は期間を1年とする労働契約を締結したが、その後は、組合との交渉の結果とはいえ、2回にわたって期間を6か月とする労働契約を締結したことなどを考慮すると、少なくともXの採用及び更新に関しては、Yの主張するようなパートタイム看護婦の採用方針の変更があったとしても、Y病院において十分に徹底されていなかったといわざるを得ないので、Xの雇用継続に対する期待が合理性のないものということはできない。」