ジャパンレンタカー事件‐津地裁 平28・10・25 労働判例1160号14頁、名古屋高判 平29・5・18 労働判例1160号5頁

【事案】
 Xが、XとYとの間の労働契約は、労働契約法19条1号又は2号に該当し、期間が満了する日までに有期労働契約の更新の申込みをし、また、Yの雇止めは合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、労働契約法19条により従前の労働契約の内容である労働条件と同一の条件で契約更新の申込みをYは承諾したものとみなされると主張して、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたもの。

【判断】
〔第1審〕
「ア 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合(労働契約法19条1号)は、その契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合は、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす(労働契約法19条)。
イ 本件では、・・・Xは平成4年4月1日から平成26年12月20日の本件雇止めに至るまで、Y営業所間を異動しながら、22年以上もの間、6か月ごと又は2か月ごとにYとの有期労働契約の更新を繰り返していたこと、Xの業務内容は、6か月あるいは2か月で終了するような期限が決められた業務ではなく、勤務時間帯が夜間であるというだけで、正社員とそれほど変わらない業務内容であったこと(〈人証略〉)、Xが雇用されていた間、Yから意に反して雇止めにされた従業員はいなかったこと、更新手続は形骸化しており、雇用期間満了後に更新手続が行われることもあったこと等からすれば、XY間の有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであったといえる。
 したがって、XY間の有期労働契約は、過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる。これに反するYの主張は採用できない。」

「ア 携帯電話の忘れ物に関する対応
・・・Xは、本来であればYA5店内で保管しておくべき携帯電話をジャンパーに入れたまま自宅へ持ち帰ってしまったこと、そのまま気づかず3日間も放置してしまったこと、携帯電話に気づいてからもYに提出せず警察に届け出たこと、そのため、Yは顧客からの問い合わせに迅速な対応が取れず、防犯ビデオを確認したり、警察から捜査を受けるなどの影響を受けたことからすれば、携帯電話の忘れ物に関するXの対応は適切なものであったとは認められない。
 しかし、Xが顧客の携帯電話を盗んだとまでは認めるに足りる証拠はなく、あくまで過失により自宅に持ち帰ってしまったこと、携帯電話をYに届けなかったことは最善とはいえないが、警察に届けたという次善の策を取っていることからすれば、Xが不正を行ったとまでは認められない。Cも、調査報告書において、「不正の観点からも、バイト甲野においては問題なし。」と記載しており(〈証拠略〉)、Yも当初は問題視していなかったと認められる。
 Yは、平成26年12月2日の面談において、携帯電話の忘れ物の件について、Xに弁解の機会を与えたが黙っていたと主張するが、・・・Dは、Xに対し、「最近何か変わったことはありませんでしたか。」「会社に何か伝えておくことはないですか。」と尋ねただけであって、このような質問をもって携帯電話の忘れ物の件について尋ねられたものと理解するのは困難であり、弁解の機会を与えたとは認められない。
 したがって、Xの携帯電話の忘れ物に関する対応が適切でなかった点は、本件雇止めの合理的な理由たり得ない。
 イ 顧客からのクレーム
 Xの顧客対応が無愛想で感じが悪いという顧客からのクレームが5件ほどあったことは認められる(〈証拠略〉)。
 しかしながら、・・・Y営業所では、接客以外にもさまざまな業務があり、基本的には女性スタッフが接客に適しているという理由でカラオケの受付対応をすることになっている(C証人調書)というのであるから、Xが接客に至らない点があったとしても、Yの業務に支障が出るようなものではない。Cも従業員教育で接客の指導をし、改善の見込みがあると判断していたというのであり(C証人)、その結果22年間もXを雇用し続けてきたのであるから、今更Xの顧客対応が雇止めの理由となったというのは不可解である。
 したがって、Xの顧客対応が不愛想であったという点は、本件雇止めの合理的な理由たり得ない。
 ウ Xの業務懈怠
 Yは、Xはカラオケの受付業務及び清算業務をほとんどせず、他のアルバイト従業員に指図をするだけだったり、勤務時間中自分で持ちこんだ映画やアニメのDVDをフロントのモニター画面で再生し、鑑賞していたり、フロントの電話機2台のうち1台の受話器を上げたままにして鳴らないようにしていたり、車が空いていても事前予約を断ったりしていたと主張し、その旨証人J(以下「J」という。)も陳述・証言し(〈証拠略〉、J証人)、Xがほとんど受付業務を行っていないことは証拠(〈証拠略〉)からも認められる。
 しかし、・・・Y営業所では、接客以外にもさまざまな業務があり、基本的には女性スタッフが接客に適しているという理由でカラオケの受付対応をすることになっている(C証人調書)とういのであるから、Xが受付業務をほとんど行っていなかったとしても、Y営業所の業務に支障を来すとは認められない。Xがレンタカー関係の大きい車の洗車や点検を行っていたことはJ証人も認めており(J証人)、XがYで働いている期間が一番長いため、夜間アルバイト従業員の中ではリーダー的存在であり(〈証拠略〉)、J証人らに仕事の指示をするため、J証人らにとっては、指示だけして全部他人に押し付けて自分は動かないというように見えた可能性がある。
 また、勤務時間中自分で持ちこんだ映画やアニメのDVDをフロントのモニター画面で再生していたという点については、音楽関係のDVDなら自分で持ちこんだものを流すことは了承されていたというのであり(J証人、C証人)、Xも禁止されてからは持ちこんでいないと陳述・供述しており(〈証拠略〉、X本人)、Yの業務に支障を与えたような事実もない。
 J証人は2回程度F店長にXの働きぶりで文句を言ったと供述するが、その内容は、全部J証人らに指示して押し付けてX自身が動いてくれない、というものであり、フロントの電話機2台のうち1台の受話器を上げたままにして鳴らないようにしていたり、車が空いていても事前予約を断ったりしていたという具体的なことはF店長には訴えていないのであるから(J証人調書)、実際に上記の具体的事実があったというJ証人の証言は信用できない。
 何よりも、平成26年12月2日の面談の際、CもDも、このようなXの勤務態度が雇止めの理由であるとは全くXに伝えておらず(C証人、X本人)、Cもこのような事実の確認までは取れなかったのでXに注意はしていない(C証人調書)。
 以上のとおりであるから、Xの業務懈怠については、その事実を認めるに足りる証拠はなく、本件雇止めの合理的な理由たり得ない。
 エ 睡眠障害
 ・・・平成26年10月30日、Xは、過労、軽度うつ状態及び睡眠障害と診断されている。しかし、この睡眠障害は、2週間の休養が必要との診断であり、過労が原因と思われる。そして、Xは2週間休養したのであるから、基本的には睡眠障害も治癒したものと認めるのが相当である。
 Yは、その後も業務に支障が出ることを考えて雇止めにしたと主張するが、レンタカーの配車・引き上げ等の運転業務は、アルバイト従業員には基本的には任せておらず(〈C証人調書〉)、回送業務も夜間はほとんど行っていない(〈C証人調書〉)というのであるから、Xが行う業務にはほとんど影響はない。また、睡眠障害を理由に雇止めをするのであれば、少なくとも現在もなお睡眠障害が治癒されずに、車の運転ができないほどであることが認められる必要があるが、これを認めるに足りる証拠はなく、Yも何ら診断書を改めて取らせるなどの確認をしていない(〈C証人調書〉)。さらに、睡眠障害の者を雇用できないと主張しながら、Y自身が平成27年1月20日まではXが働くことを認めていたのであるから矛盾している。
 したがって、睡眠障害も本件雇止めの合理的な理由たり得ない。」
「Yが主張する本件雇止めの理由は、いずれも合理的な理由たり得ず、これらを総合考慮しても、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。」

「Yが、届出義務があるのにこれを怠り、Xを雇用してから本件雇止めに至るまで、健康保険、厚生年金及び雇用保険の届出をしていなかった事実に争いはない。
 したがって、Yは、故意又は過失によって、Xの健康保険、厚生年金及び雇用保険に加入する権利を侵害したのであるから、Xに対し、民法709条の不法行為責任を負う。」

「ア 健康保険の届出・納付義務違反による損害 
 証拠(〈証拠略〉、X本人)及び弁論の全趣旨によれば、平成7年度から平成26年度のXの国民健康保険料がXの父・・・名義で世帯単位で支払われていること、Xは、世帯の中でXだけが国民健康保険に加入していた時期(平成20年まで)は、自らが保険料を納付し、父が国民健康保険に加入した平成21年以降は、自分の負担分については父に現金で渡すことで支払っていたこと、その額は、別紙1「X収入及び健康保険料」の「健康保険料」欄記載のとおり・・・であることが認められる。
 したがって、そのうち2分の1・・・はYが負担すべき損害であると認められる。
 イ 厚生年金保険の届出・納付義務違反による損害
 Xは、65歳になった後に受領できたはずの年金給付を逸失利益として損害であると主張する。
 しかし、Xは、訴訟提起時点で43歳であり、未だ老齢厚生年金の受給権者の年齢に達していないこと、年金を巡る法律改正の動向も定かではなく、現段階では将来的にXが65歳に到達してから15年分の年金給付を受領できるかは不確定であることからすれば、Yの厚生年金保険の届出義務違反に係る不法行為時に、Xの計算するような厚生年金を受給できる蓋然性があったとは認められない。
 したがって、Xの主張する15年分の年金相当額は損害としては認められない。
 ウ 慰謝料
 Yの健康保険の届出義務違反については、前記アのとおり損害をYに賠償させることでXの損害は十分填補されるといえること、厚生年金保険の届出義務違反については、Xには国民年金に加入することもできたのにこれをしていないこと、Yとの労働契約締結時当初から健康保険及び厚生年金への加入がないことはXには分かっていたはずであるのに、Xは、この点についてYに対して質問をしたのみで(X本人調書)、抗議などをしたことを認めるに足りる証拠もないことからすると、Xに財産的損害の填補がされてもなお足りない精神的苦痛が発生したとは認められない。」

「1か月単位の変形労働時間制が適用されるには、①労使協定又は就業規則で、②変形期間(1か月以内の一定の期間)及びその起算日(労働基準法32条の2、労働基準法施行規則12条の2第1項)、③変形期間における各日、各週の労働時間(変形期間を平均し1週間当たりの所定労働時間が法定労働時間40時間の範囲内)(労働基準法32条の2第1項)を定め、④就業規則で定める場合には、各日の始業及び終業時刻(労働基準法89条)を定める必要がある。
 しかし、・・・就業規則第18条では、変形労働期間の各日、各週の労働時間、始業時刻及び終業時刻は、別に定めるシフトパターン表を組み合わせることにより行うとするだけで、シフトパターン表は証拠として提出されていないから、結局のところ、Xに変形労働時間制が適用されることを認めるに足りる証拠はない。
 なお、・・・アルバイト従業員は毎月最大21日まで入れることができたという元A5店店長であるCの認識からすると、Xは、最大1か月231時間(1日11時間〔休憩1時間を除く。〕×21日)もシフトを入れられることになり、1週間当たり40時間の法定労働時間を大きく超えるから、Yの作成したシフトパターン表が労働基準法の要件を満たしていたとは推認できない。
 以上のとおりであるから、変形労働時間制を採用していたというYの主張は採用できない。」

「ア ・・・Yは変形労働時間制を採用していたと認められないから、一勤務のうち、8時間を超える労働時間については、割増賃金が発生するところ、・・・Xが割増賃金を請求する期間である平成25年4月21日以降の雇用契約書には、一勤務の日給1万2000円の内訳として、時給を800円とした計算で、6時間分の深夜割増賃金と3時間分の時間外労働賃金が既に含まれていることを示す記載がある。
 イ しかし、仮に、労働契約において、時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労働基準法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部は又は全部とすることができる(最高裁昭和63年7月14日判決・労判523号6頁)。
 また、便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならない。さらに、算入されているとされる残業時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならない。(最高裁平成24年3月8日第1小法廷判決補足意見・裁判集民事340号121頁参照)
 ウ これを本件についてみると、・・・XY間の雇用契約書では、8時までに終業した場合は時給800円で計算した割増賃金を含む1万0600円を超える1万2000円を支給するのに対し、8時以降の残業に対する割増賃金は、既に上記1万2000円に含まれるから労働基準法37条所定の額に満たない1時間当たり850円を加算支給するとしている。これでは、日給として支払われる1万2000円の中に何時間分の残業手当が算入されているのか明確であるとはいえない。また、算入されている残業時間を超えて残業が行われた場合に、別途上乗せして適法な残業手当が支給されているとも認められない。
 また、Xの給与明細書(〈証拠略〉)では、基本給が16万8475円などと時給800円の8時間労働で計算すれば算出し得ない額で記載されている。また、時間外割増賃金及び深夜割増賃金の額は記載されているものの、支給対象の時間外労働の時間数が何時間なのかが分からず、労働者に明示されているとは認められない。
 以上に加えて、・・・日給の額に変更がないのに雇用契約書の記載が変更されていること、・・・契約書の体裁が変わったことについて、アルバイト従業員に対し、更新手続の際、詳細な説明をしていないことからすると、実質的な賃金の定めに変更はないのに、労働基準法に合わせてつじつまを合わせるためだけに日給の内訳を書き込んだものと認められ、労働者との間で雇用契約書記載の内訳どおりの合意があったものとは認められない。 したがって、残業手当は日給に含まれており支払済みであるというYの主張は採用できない。」


〔控訴審〕
「ア ・・・平成22年ころから平成24年ころまでのYとX間の雇用契約書では、就業時間は午後(ママ)20時より午前8時までとされ、休憩時間については記載がなかったこと、賃金は日給1万2000円とされていたことが認められる。
上記雇用契約書の記載によれば、割増賃金算定における基礎時給の認定においては、休憩時間は0時間と扱うほかなく、1日8時間を超える合意は無効であるから、所定労働時間は8時間として計算することになる。また、Yの就業規則等に上記日給1万2000円の中に時間外割増賃金分及び深夜早朝割増賃金分(以下「固定残業代」という。)が含まれていることはうかがえないから、その全額が基礎賃金となる。
なお、上記雇用契約書には、週末手当1000円の記載があるが、支給要件が明確でないので、割増賃金算定における基礎賃金の対象とはしない。
したがって、割増賃金算定における基礎時給は15000円(1万2000円÷8時間)となる。
イ ・・・平成25年4月21日以降のYとX間の雇用契約書では、就業時間は20時から翌5時まで(うち旧家時間1時間)とされ、賃金については、所定労働時間分の賃金が6400円(800円×8時間)、深夜割増賃金として1200円(800円×0.25×6時間)が、時間外割増賃金として3000円(800円×1.25×3時間)が支給される旨の記載があることが認められる。
 上記雇用契約書によれば、1万2000円の中に固定残業代が含まれていることになり、また、割増賃金算定における基礎時給は800円ということになる。したがって、前記アの雇用条件と比較するとXの賃金に係る労働条件の切り下げに当たり、Xに不利益となる変更である。
 しかし、・・・更新期間・更新手続等によれば、平成24年当時の段階では、YとX間の有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであったと認められる。そうすると、前記アの労働条件を上記のとおり不利益に変更するためには、Xの承諾があることを要する(労働契約法9条)。
 上記変更後の労働条件の内容に照らせば、上記変更は、基本給を減じ、その減額分を労働基準法及び同法施行規則の除外賃金とし、又は割増賃金とすることによって、残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるのが相当であるところ、・・・Yがアルバイト従業員に対しそのような目的自体の合理性や必要性について詳細な説明をしていないことからすると、形式的にXが同意した旨の雇用契約書が作成されているとしても、その同意がXの自由な意思に基づくものであると認めることはできない。
 したがって、上記変更はその効力を認めることができないから、平成25年4月21日以降もXの割増賃金算定における基礎時給は1500円というべきである。また、上記変更後に割増賃金とされた部分については、上記説示によればこれを有効な割増賃金の支払とみることはできない。」