大庄事件‐京都地判 平22・5・25 判例時報2081号144頁、大阪高判 平23・5・25 労働判例1033号24頁

【事案】
 Xらの子であるKが、急性左心機能不全により死亡したことにつき、Kの死亡はY会社での長時間労働にあると主張して、Xらが、Y会社に対しては不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、Y会社の取締役であるY2、Y3、Y4、Y5に対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき、損害賠償請求等をしたもの。

【判断】
〔第1審〕
「(1) Y会社の責任
 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。そして、この義務に反した場合は、債務不履行を構成するとともに不法行為を構成する。
 Y会社は、労働者であるKを雇用し、自らの管理下におき、I店での業務に従事させていたのであるから、Kの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Kの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむをえず長時間となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。
 しかるに、・・・Y会社では、給与体系において、本来なら基本給ともいうべき最低支給額に、80時間の時間外労働を前提として組み込んでいた。また、36協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容しており、実際、特段の繁忙期でもない4月から7月までの時期においても、100時間を超えるあるいはそれに近い時間外労働がなされており、労働者の労働時間について配慮していたものとは全く認められない。また、KについてはY会社に入社後、健康診断は行われておらず、Kが提出した健康診断書は、Y会社への入社1年前に大学で実施した簡易なものであり(・・・)、Y会社の就業規則で定められていたことさえ守られていなかった。
 そして、・・・労働者の労働時間を把握すべき部署においても、適切に労働時間は把握されず、I店では、1か月300時間を超える異常ともいえる長時間労働が常態化されており、Kも・・・長時間労働となっていたのである。それにもかかわらず、Y会社として、そのような勤務時間とならないよう休憩・休日等を取らせておらず、何ら対策を取っていなかった。
 以上のことからすると、Y会社が、Kの生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠り、不法行為上の責任を負うべきことは明らかである。
 (2) Y取締役らの責任
 会社法429条1項は、株式会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ、取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には、第三者を保護するために、法律上特別に取締役に課した責任であるところ、労使関係は企業経営について不可欠なものであり、取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い、それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である。
 Y会社においては、・・・Y会社の組織体制からすると、勤務時間を管理すべき部署は、管理本部の人事管理部及び店舗本部であったということができ、I店では管理すべき部署は、管理本部の人事管理部及び店舗本部であったということができ、I店については、そのほか、店舗本部の第一支社及びその下部の組織もそれにあたるといえる。
 したがって、人事管理部の上部組織である管理本部長であったY5や、店舗本部長であったY3、店舗本部の下部組織である第一支社長であったY4も、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたといえる。また、Y2は、Y会社の代表取締役であり、経営者として、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができる。
 しかるに、Y会社では、時間外労働として1か月100時間、それを6か月にわたって許容する36協定を締結しているところ、1か月100時間というのは、・・・厚生労働省の基準で定める業務と発症との関連性が強いと評価できるほどの長時間労働であることなどからすると、労働者の労働状態について配慮していたものとは全く認められない。また、Y会社の給与体系として、・・・基本給の中に、時間外労働80時間が組み込まれているなど、到底、Y会社において、労働者の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないような適切な措置をとる体制をとっていたものとはいえない。
 確かに、Y会社のような大企業においては、Y取締役らが個別具体的な店舗労働者の勤務時間を逐一把握することは不可能であるが、Y会社として、前記のような36協定を締結し、給与体系を取っており、これらの協定や給与体系はY会社の基本的な決定事項であるから、Y取締役らにおいて承認していたことは明らかであるといえる。そして、このような36協定や給与体系の下では、当然に、Kのように、恒常的に長時間労働する者が多数出現することを前提としていたものといわざるを得ない。
 そうすると、Y取締役らにおいて、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、・・・一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、Y取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、任務懈怠があったことは明らかである。そして、その結果、Kの死亡という結果を招いたのであるから、会社法429条1項に基づき、被告取締役らは責任を負う。」


〔控訴審〕
「当裁判所も、Xらの請求は、少なくとも原判決が認容した限度においては理由があるから正当としてこれを認容すべきものと判断する。」

「取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社が使用者としての安全配慮義務に反して、労働者の生命、健康を損なう事態を招くことのないよう注意する義務を負い、これを懈怠して労働者に損害を与えた場合には会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当である。」

「人事管理部の上部組織である管理本部長であったY5や店舗本部長であったY3、店舗本部の下部組織である第一支社長であったY4は、I店における労働者の労働状況を把握しうる組織上の役職者であって、現実の労働者の労働状況を認識することが十分に容易な立場にあったものであるし、また、取締役会を構成する一員として取締役会での議論を通して、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができる。また、Y2もY会社の業務を執行する代表取締役として、同様の義務を負っていたものということができる。しかるに、Y取締役らが、Y会社をして、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築させ、長時間勤務による過重労働を抑制させる措置をとらせていたとは認められない。
 Y会社は、給与体系として、基本給の中に時間外労働80時間分を組み込んでいたため、そのような給与体系の下で恒常的に1か月80時間を超える時間外労働に従事する者が多数出現しがちであった。また、Y会社の三六協定においては、時間外労働の延長を行う特別の事情としてイベント商戦に伴う業務の繁忙の対応と予算決算業務が記載されていたが、現実にはそのような特別事情とは無関係に恒常的に三六協定に定める時間外労働を超える時間外労働がなされていた。現に、I店においては、Y会社の他の店舗と比べて繁忙な店舗ではなく社員の負担も平均的な店舗であったにもかかわらず、繁忙期でもなかったKの勤務期間中に店長を含む多数の従業員の長時間労働が恒常化していたのであって、このことからすれば同様の事態はY会社の多店舗においても惹起していたものと推認される(〈証拠略〉からもこのことが窺われる)。そしてこのような全社的な従業員の長時間労働については、Y取締役らは認識していたか、極めて容易に認識できたと考えられる(なお、全国展開しているY会社においては、・・・全国的に組織化された人事管理部や店舗本部などによる監督体制が執(ママ)られていたのであるから、各店舗における労働者の勤務態勢などについては全国的にある程度平準化されていたものと考えられる。
 しかるに、Kの入社後研修においてもE部長が給与の説明に当たり1か月300時間の労働時間を例にあげていた状況であったし、社員に配布されていた社員心得である「大庄魂・大庄商法覚書」(〈証拠略〉)では、出勤は30分前、退社は30分後にすることが強調されているが、働き過ぎを避ける健康管理の必要性には何ら触れられていない。また、日々のワークスケジュールを作ることで、実質的に従業員の具体的勤務時間を決定しうる店長に配布されている店舗マニュアル(〈証拠略〉)には、効率の良い人員配置が必要であることが記載されているが、社員の長時間労働の抑制に関する記載は全く存在していない。人事管理部においても勤務時間のチェックは任務に入っておらず、人事担当者による新入社員の個別面談においても、長時間労働の抑制に関して点検を行ったことを認めるべき証拠はない。
 以上のとおり、Y取締役らは、悪意又は重大な過失により、会社が行うべき労働者の生命・健康を損なうことがないような体制の構築と長時間労働の是正方策の実行に関して任務懈怠があったことは明らかであり、その結果Kの死亡という結果を招いたのであるから、会社法429条1項に基づく責任を負うというべきである。
 そして、同様の理由から、Y取締役らの不法行為責任も優に認めることができる。」

※上告審・棄却、不受理(第3小決 平25・9・24)