O公立大学法人(O大学・准教授)事件‐京都地判 平28・3・29 労働判例1146号65頁

【事案】
 Xが、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたもの。

【判断】
「Xは、Yとの間で労働契約を締結し、Yに勤務していたのであるから、本件解雇の当否は、労働契約法16条に基づき判断すべきと解するのが相当である。
 Yは、本件解雇が分限免職に当たるから、Yに裁量があり、その当不当について司法審査が及ばないとの趣旨を主張するが、上記のとおり、XとYとの関係は、民間企業における使用者と労働者との関係と同様の労働契約関係である以上、その解雇の有効性の審査に関して労働契約法16条の適用が除外されると解釈することは相当といえず、上記の主張は理由がない。」

「ア Yは、本件解雇の事由について、概要、生協職員への土下座の強要等に関する件、男子学生の告訴等に関する件、リストカット及び現行犯逮捕に関する件を中心とした・・・認定事実記載の一連の経過を総合的にみれば、Xに対するYとしての配慮は限界であり、Xの行為や態度は矯正困難であって、職務の円滑な遂行に支障を来し、又は支障を生じる蓋然性があるため、Xは大学教員として必要な適格性を欠くと主張するが、ここには①Xの行為や態度には大学教員として問題があるものが存在するため、Xは大学教員として必要な適格性を欠くという主張と、②上記の問題に対する対応を含め、YがXに対して行ってきた配慮は限界に達し、大学の組織運営にも支障を来すようになったため、Xは大学教員として必要な適格性を欠くという主張が含まれると解される。
 イ まず、上記①に関連して、大学教員として特に問題のある行為や態度であるとしてYが処分説明書(〈証拠略〉)に列挙する3件の出来事について検討する。
  (ア) ここで、Xの行為や態度を外形的にみたときの可能性やこれによるYへの影響の点を考慮すべきことは当然である。
 もっとも、・・・一連のXの行為や態度については、Xが一定のルールを厳格に守ることを極めて高い水準で他者にも要求するところがあり、これが守られない場合には自己に対する攻撃であると被害的に受け止め、その感情をコントロールできず、反撃的な言動をとるというものであり、アスベルガー症候群の特徴としてのこだわり、組織という文脈での状況理解の困難さなどに由来するものとみるべきである。そうすると、仮にこれらの行為や態度が客観的には当然に問題のあるものであったとしても、Xとしては、的確な指摘を受けない限り、容易にその問題意識が理解できない可能性が高かったといえる。
 この点につき、D学長及びE学部長は、各職位に就任後、Xがアスペルガー症候群を有する者であることを認識し、書籍等でこれに関する一応の知識を得ていたというのであるから、上記のようなアスペルガー症候群の特徴に起因するXの行為や態度に関する基礎的な知識を有していたものと考えられる。そうだとすれば、Xの非難可能性や改善可能性を検討するに当たっては、Xの行為や態度に対して、YがR学長及びE学部長を通じていかなる対応を採り、上記のような特徴を有するXに問題意識を認識し得る機会が与えられていたかという点も十分に斟酌しなければならない。
  (イ) Xが、平成23年10月、生協職員に対し、声を荒げて抗議し、土下座による謝罪をさせた件については、生協側にも一定の過誤はあったといえ、生協職員への必要以上の謝罪の強要とみる余地もある行為であり、また、このようなXの行為により、D学長は、匿名の学生及び生協理事長から事実関係の調査や監督強化の申入れを受けるに至っており、生じた影響の面からも軽微な問題であったとはいい難い。
 もっとも、D学長は、この事態に関して、しばらく判断を留保し、Xの状況を見守るという方針をとったのみで、指導を実施するなどの積極的な措置は何ら講じておらず、・・・アスベルガー症候群の特性等を踏まえると、確かにアスペルガー症候群の者は、コミュニケーションや社会性に支障がある場合も少なくないものの、指示や指導が全く不可能というものでもないのであって、D学長の上記対応に接したXとしては、自らの行動に問題があることを認識し、以後これを改善する機会を与えられることがなかったといわざるを得ない。
  (ウ) Xが、平成25年6月、男子学生を警察に通報し、さらに告訴した件については、その経緯に照らして、男子学生に非があることは明らかであり、Xの正当な権利行使としてその行為自体を非難することはできないばかりでなく、アスペルガー症候群のXにとって、警察への通報や告訴を行うことに問題があるという視点を自ら思い致すことは困難であることは想像に難くない。
 Yは、通報や告訴を制限する内規は存在しないものの、大学教員としては、未熟な学生に対して教育的な配慮をもって解決すべきであり、学長その他の関係者と協議することなく通報及び告訴を行ったことを問題視する(〈証拠略〉)。確かに、大学教員の教育者としての側面を重視すれば、Yのいうように、通報や告訴は学生に前科前歴を生じさせ得るものであり、事案の軽重、経緯等も踏まえて、学長その他の関係者と協議の上で、個別具体的にその要否を判断すべきであり、本件におけるXの行動は相当でなかったとみる余地も皆無ではない。しかしながら、上記のとおり通報及び告訴が正当な権利行使として原則として是認されるべきものであり、Y及びO大学においてこれらについての手順や事前協議を定める内規は存在しないという以上、学生とのトラブルは教育的指導を第一次的に行うべきとの大学教員としての慣例が存する(証人D)という程度の理由で、Xの行動を過度に問題視することは相当でないといわざるを得ない。
 さらにいえば、この件に関しても、D学長及びE学部長は、Xに対して、特段具体的な指導やYが有する問題意識の指摘を行ったことはないというのであって、上記のとおり、その不文律を容易に理解し得ないであろうXにとっては、その問題意識を理解し、改善する機会を与えられることが全くなかったものといわざるを得ない。
 加えて、Yは、上記の男子学生との問題に関して、D学長らがXに指導を行おうとしても病気又はストレスという理由でこれが実現しなかったことも問題であったというが(〈証拠略〉)、・・・Xは面談前にたまたま交通事故に遭い負傷し、その後も体調が優れずに先送りとなっていたものであり、面談の要請を無視することもなく、D学長に状況を随時通知していたのであって、上記指導が実現しなかったことをもって大学教員として問題ある行為とみなすことは妥当でない。
  (エ) Xが、平成25年9月、O医科大学附属病院においてリストカットを行い、銃刀法違反の嫌疑により現行犯逮捕された件については、確かに、大学教員が自傷行為に及び、現行犯逮捕されたとなれば、学生に対する心理的影響は生じ得ると考えられるところであり、外形的にみると大学教員として問題がある行為であったとみる余地はある。
 しかし、上記で認定してそこに至る経緯、特に、Xはうつ状態が高じて、O医大病院の救急外来で精神科医師の診察を受けることを希望して赴いたものであることをも踏まえると、この行為は、被害を受け男子学生を警察に通報し、告訴した点について問題があるとの認識を有していないXが、D学長による面談要請や、教員会議でこの問題が議題にされることとなり、自己が置かれた状況に対する十分な理解ができないために、まさにアスペルガー症候群の二次障害としてのうつ状態に陥り、これに起因して引き起こしたものと考えられ(〈証拠略〉)、X自身が自己の行為を適切に選択すること自体がそもそも困難であった可能性も十分に考えられることからすれば、上記行為を理由として、直ちにXを非難し、不利益を課することは酷であるといわざるを得ない。
 その他、Yは、Xが、E学部長に対し、侮辱的なメールを送信したことも問題であると主張するが、これについても、Xからすれば、アスペルガー症候群による適応障害があるものの、教員会議に復帰しようと努力し、これに対する助力をE学部長に求めたにもかかわらず、これに向き合ってもらえなかったことから短絡的に発したものということができるのであり、これもまたアスペルガー症候群に由来する対応ということができるのに、その原因を分析した上で、YからXに対する適切な指導がなされた形跡はない。
 このように、Yが、大学教員として問題があるとして特に指摘するXの行為については、これを容れる余地がないわけではないものも存するが、いずれにしても、一般的には問題があると認識し得る行為であっても、Xにおいては、アスペルガー症候群に由来して当然にその問題意識を理解できているものではないという特殊な前提が存在するのであって、Yから、Xに対して、当該行為が大学教員として問題である、あるいは少なくともYは問題があると考えているという指導ないし指摘が全くなされておらず、Xに改善の機会が与えられていない以上、Xには問題行動とみる余地のある行動を改善する可能性がなかったものと即断することはできない。」

「障害者基本法19条2項においては、事業主は、障害者の雇用に際し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならないとされており(なお、本件解雇当時は未施行であるが、障害者の雇用の促進等に関する法律36条の3においては、事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、事業主に対して過重な負担を及ぼすものとなるものでない限り、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配慮その他の必要な措置を講じなければならないとされており、少なくともその理念や趣旨は、同法施行の前後を問わず妥当するものと解される。)、このような法の理念や趣旨をも踏まえると、障害者を雇用する事業者においては、障害者の障害の内容や程度に応じて一定の配慮をすべき場合も存することが予定されているというべきである。
 確かに、大学としてアスベルガー症候群の教員を擁するのであれば、同教員に対する一定の配慮が必要となることは不可避であり、これによる種々の負担や問題が生じることもあり得るところではあるが、D大学及びE学部長並びにYとしての解雇の意思表示を議決した懲戒等審査委員会は、本件解雇に至るまでに、Xが引き起こした問題の背景にアスペルガー症候群が存在することを前提として、解雇事由の判断を審査したり、Xに必要な配慮に関して、最も的確な知識を有すると思われるXの主治医に問合せを行ったりしたことはなく(しかも、同人はO医科大学附属病院の医師であるから、問合せは極めて容易であった)、そのことも原因となっているものと思われるが、解雇以外に雇用を継続するための努力、例えば、アスペルガー症候群の労働者に適すると一般的に指摘されているジョブコーチ等の支援を含め、障害者に関連する法令の理念に沿うような具体的方策を検討した形跡すらなく、そのような状況をもって、Xに対して行ってきた配慮がYの限界を超えていたと評価することは困難であるといわざるを得ない。
 ところで、YがXの障害を認識した上で採用したものではないという事情については一考の余地があるが、Yは、・・・XのJ学分野における優れた経歴や能力を評価し、Yが運営するO大学にふさわしい教員であると認めて、教員として採用し、それ以降、使用者として、そのような優れた経歴や能力を持つ教員を擁しているという利益を享受していたものであって、その後、Xの障害が判明し、これに起因して一定の配慮が必要となったとしても、これはYとしてある程度は甘受すべきものであるということもでき、その積み重ねによって対応に苦慮することとなったとして、上記のようにO大学にふさわしい教員であるとの評価をもって採用したXを大学教員としての適格性を欠くとの理由で直ちに解雇し、Xにその負担を負わせることは、公平を欠くものといわざるを得ない。」

「労働契約法16条に照らすと、本件解雇は、就業規則所定の解雇理由に該当する事由があると認められないから、客観的に合理的な理由を欠くものであって、無効である。」