国際自動車(第2)事件‐東京高裁 平30・1・18 労働経済判例速報2341号16頁

【事案】
 Yに雇用されていたXらが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の規定は無効であり、Yは、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張して、Yに対し、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めたもの。
 1審がXらの請求を棄却したため控訴。

【判断】
「歩合給は,労働基準法27条の「出来高払制その他の請負制」の賃金であると解されるところ,同条が,出来高払制その他の請負制の賃金制度の下で,出来高が少ない場合でも労働者に対し通常の実収入賃金とあまりへだたらない程度の収入が保障されるよう労働時間に応じ一定額の賃金の保障をすることを要求し,また,労働省労働基準局長通達(平成元年3月1日基発第93号)が,自動車運転者の歩合給に関し,「賃金制度は,本来,労使が自主的に決定すべきもの」ではあるが,歩合給制度のうち特に累進歩合給制度についてはこれを廃止すべきものとしているほかは,歩合給をどのように定めるべきかを規律する法令等は見当たらない。
 歩合給は,出来高払賃金の一種であるから,労働時間に対して支払われる賃金ではなく,労働の成果に応じて額が変動する賃金であり,どれだけ時間外労働等を行っても,成果が上がらなければ支給される金額が上昇しないことはもとより,成果が同じであれば,そのためにより長時間をかけた場合の方が,より短時間で済んだ場合と比べて,生産性が低いとして低い評価を受けることも不合理とはいえないのであって,その場合,1時間当たりの歩合給の単価が結果的に低下することは,歩合給の性質上,何ら否定されるべきことではない(労働時間に応じた賃金は,労働基準法27条の労働時間に応じた「一定額の賃金」の限度で保障されているに過ぎない。)。また,「労働の成果」の評価方法として,揚高から経費に相当する部分を控除する算出方法をとることも不合理ではなく,たとえ揚高が同じであったとしても,時間外労働等がされた場合には,時間外労働等に伴う残業手当等の増加により経費が増加する結果,「労働の成果」自体が相対的に低くなるということもできる。そうすると,労使間で,あらかじめ,これを見越して残業手当等その他の経費に相当する金額を控除する方法で歩合給を算出するような方式について合意することを否定すべき理由はない。歩合給の内容が,最低賃金法(昭和34年法律第137号)4条及び同法施行規則(昭和34年法律第16号)2条1項5号により時給換算した額が最低賃金額に満たないときは,その限度で無効とされることがあるが,これらを除けば,歩合給の下で,労働の成果の評価を踏まえた賃金の算出方式をどのように定めるかは,強行法規及び公序良俗に違反しない限り,当事者の自由であり,もっぱら労使自治に委ねられるべきである。」

「Yにおいては,Y賃金規則と同様の歩合給の算出方式を定めた賃金体系は,過去に行われていた固定給中心の賃金体系を改定したものであること,当該改定に当たっては,当時の労使間において大小30回を超える協議が行われた結果,改定後の賃金体系への移行に係る労使の合意が,乗務員の約95パーセントで組織される国際労働組合の主導により成立したことのほか,同組合においては,効率よく売上げをあげる乗務員や,深夜時間帯に勤務時間がないあるいは少ない乗務員がいることを考えると,歩率を低くして割増賃金を外付けにする(すなわち,歩合給…の算出に当たり控除しない。)よりも本件規定の方が組合員全体にとって公平であり,適正な労働分配も達成でき,本件規定は労働分配の観点から見て乗務員にとって最も有利であると考えたこと,Yは,乗務員の入社に際し,Y賃金規則(書証略)の内容を説明して周知させていること,少なくとも本件訴訟に係る訴えが提起された平成26年までの10年以上もの間,Yにおいては,Y賃金規則で定める方式に従って賃金が支払われていたことからすると(書証略,弁論の全趣旨),本件規定は,労使間の合意に基づき定められ,労働契約の内容となっているものと認められる。
 また,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきであるから(最高裁平成27年(受)第1998号同29年2月28日第3小法廷判決・裁判所時報1671号59頁参照),揚高を基に計算された「対象額…」から同条に定める割増賃金に相当する額及び交通費を控除したものを「歩合給…」とする旨の本件規定が同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできない。」

「労働基準法37条は,時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ,割増賃金の算出方法は,労働基準法37条等に具体的に定められている。もっとも,労働基準法37条は,労働基準法37条等に定められた方法により算出された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり,使用者に対し,労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算出方法と同一のものとし,これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
 そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否か(要件①)を検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた賃金が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否か(要件②)を検討すべきであり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第2小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第1小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
 他方において,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定していないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである(前記最高裁平成29年2月28日第3小法廷判決参照)。」

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