東日本旅客鉄道事件‐東京地判 平29・6・29 労働経済判例速報2321号3頁

【事案】
 定年退職したXらが、Yに対し、Yの賃金規程では4月に定年を迎え同月末日で定年退職する者のみ期末手当が支給されない仕組みとされており、これが合理性のない差別的取扱いに該当し、公序良俗であると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、夏季手当相当額の賠償金等の支払を求めたもの。

【判断】
「(1) Yにおける期末手当は、賞与としての性格を有するものであるところ、賞与が査定対象期間における労働に対する報償的な性質を有するにとどまらず、将来の労働への意欲向上や将来の貢献への期待という要素を併せ持つものであること、企業においては多数の従業員に対する賞与の支給事務を迅速かつ画一的に行う必要があることなどを踏まえると、企業が賞与の支給について、支給日に近接した基準日を設け、当該基準日に企業に在籍している(基準日前1箇月以内に退職又は死亡した場合を含む。)こと(以下「在籍要件」という。)を要求することは、当該企業の経営上の裁量に属する事項として合理性が認められると解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第661号同57年10月7日第1小法廷判決・裁判集民事137号297頁、最高裁昭和60年(オ)第258号同年11月28日第1小法廷判決・裁判集民事146号165頁参照)。
 (2) これを本件についてみると、・・・Yは、現行賃金規程において、①期末手当の調査期間として、夏季手当につき前年10月1日から当年3月31日まで、年末手当につき4月1日から9月30日までの各期間を設定し、②期末手当支給の基準日として、夏季手当につき6月1日、年末手当につき11月1日と、それぞれ各手当の支給日に近接した日(約1箇月前)を設けた上で、基準日に在籍する社員及び基準日前1箇月以内に退職し又は死亡した社員に対して、調査期間における各社員の勤務成績等に応じて算定された額の手当を支給することとしている。また、Xらの所属する労働組合の上部団体である動労総連合は、Yとの間で本件協約を締結し、・・・夏季手当の支給に関して、その支給方法及び具体的取扱いについては賃金規程の定めによると合意しているのである。
 そうすると、Yが期末手当の支給について、上記のとおり支給日に近接した基準日を設け、基準日における在籍要件を設ける取扱いをすることは、一定の合理性が認められるというべきである。その他一件記録に照らしても、期末手当に関するYの当該取扱いが公序良俗に反することを基礎付ける事情は認められない。
 (3)ア これに対し、Xらは、現行賃金規程によれば4月生まれの退職者のみが不利益を受けるから、他の月生まれの者との間で差別的取扱いをするものであると主張する。しかし、例えば3月生まれの従業員が退職する場合であっても、当該従業員は夏季手当の調整期間(前年10月1日から当年3月31日まで)の全部において業務に従事しているにもかかわらず、当該調査期間に対応する退職後の夏季手当を受給できないことは同様であり、その余の月の退職者においても同様に、期末手当のうり調査期間中に就労していたとしても受給できない部分が生じるものであるから、Yの取扱いは、4月生まれの者にだけ不利益を課すものとはいえない。
 したがって、Xらの上記主張は採用できない。
 イ Xらは、賞与は賃金の一部を構成するのであるから、調査対象期間中の労働に対応する賞与(期末手当)は支給されなければならないとも主張する。しかし、賞与の性質を持つ期末手当は、調査期間における労働に対する報償的な性質を有するにとどまらず、将来の労働への意欲向上や将来への貢献への期待という要素を併せ持つものであること、期末手当は調査期間におけるYの業績やその間の各従業員の勤務成績等を踏まえて、都度算定されるものであることからすれば、賃金と同視することはできない。また、企業が賞与の支給に関して基準日における在籍要件を設けること自体に合理性が認められることは、前記(1)で説示したところから明らかというべきである。したがって、Xらの上記主張には理由がない。
 ウ また、Xらは、分割・民営化以前の国鉄時代には、定年退職日が労働者の誕生日にかかわらず一律年度末の3月末日とされていたため、当該年度に退職する労働者全員に対して同年度の夏季手当及び年末手当が支給されていたところ、Yが旧賃金規程を定めたことから、労働者の誕生日による不利益が生じた旨主張する。しかし、Yは、国鉄の分割民営化により設立された新企業体であり、国鉄とは全く別法人であるから(公知の事実)、国鉄の分割民営化の前後で制度の比較を行うこと自体がそもそも失当といわざるを得ず、Xらの上記主張は採用することができない。
 エ さらに、Xらは、訴外甲株式会社(以下「甲」という。)では、平成3年に期末手当に関する就業規則の規定が改定され、期末手当の調査期間についてはYと同様の規定となったが、基準日については変更されず、かつ、「基準日前2箇月以内に退職し又は死亡した社員」をも支給対象とするよう規定が改定され、4月末に退職する労働者にも期末手当が支給されるようになり、同一年度内での不平等が生じなくなったのであるから、Yにおいても、甲と同様の規定を設けることに障害があるとはいえないなどと主張する。しかし、Yと甲は全くの別法人であるから、期末手当の基準日に関して甲がYと異なる規定を設けているからといって、Yが甲と同様の規定を設けなければならない根拠はなく、甲の上記規定がYにおける取扱いの不合理性を基礎付ける事情にはなり得ない上、前述したとおり、企業が賞与(期末手当)の支給について基準日や在籍要件を設けることは裁量に属する事項として合理性が認められるから、甲と同様の規定を設けないことが不合理であるということはできない。したがって、この点に関するXらの主張は理由がない。
 オ その他、Xらは、期末手当におけるYの差別的取扱いにより、定年後再雇用期間における夏季手当(精勤手当)の受給額も減少するなどの影響が生じたなどと主張する。しかし、定年後再雇用の下における上記手当は、定年後改めて締結される再雇用契約における労働条件によって定めるものであり、定年前の労働条件に基づく期末手当の不支給についての合理性の問題とは関連性がないから、Xらの上記主張は失当である。」