三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件‐鳥取地判 平20・3・31 労働判例987号47頁、広島高松江支判平21・5・22 労働判例987号29頁

【事案】
 Xが、Y会社の従業員であるY2から大声で罵倒されたこと、Y3から自己研鑽と称して、Y会社の社内規程を精読するように指示される等によって損害を被ったとして、Yらに対し、損害賠償請求等を求めたもの。

【判断】
〔第1審〕
「Xは、Y3やY2に対し、Aに対する悪口を言っていないと述べていたのであり、Y2としても、それを直ちに虚偽であると決め付ける根拠などなかったのであるから、Xが「反省する様子を示さず、反抗的で、面談を一方的に切り上げようとした」という理由で、Y2がXに対し、声を荒げて根拠のない非難をしたこと、即ち、罵倒したことは、それ自体、不法行為を構成するというべきである。また、Y2は、客観的な裏付けを伴わない自身の判断が、裁判所や労働基準監督署による規律よりも優先するという思い上がった考えを何度も強調しており、その言動の内容自体も不当である。そのうえ、Y3を含むY会社の人事担当者らは、Xの言動に関する誤った理解を前提に、XをK社に出向させ、Y会社における本来の職務とは異なる清掃業務に従事させており、その後、K社による勤務成績の評価にまで介入している。Y会社のXに対する処遇は、Y2、Y3らの前記不法行為後も、不当なままであるといわなければならない。これらは、全体として、Xの勤務先ないし出向元であることや、その人事担当者であるという優遇的地位に乗じて、Xを心理的に追い詰め、長年の勤務先であるY会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせ(いわゆるパワーハラスメント)を構成するというべきである。」


〔控訴審〕
「・・・Y2が、B課長とともに、Xを呼び、本件面談に及んだのは、直接的には、当日朝、E取締役から「(Xの話は)不適切な内容なのでよく話を聞いて注意しておくように」と指示を受けたためであるが、具体的には、Xが・・・女子ロッカールームで「Aさんは以前会社のお金を何億も使い込んで、それで今の職場(マルチメディアビジネスユニット)に飛ばされたんで、それでY2課長も迷惑しとるんだよ。」と述べ、Aを中傷する発言をしたことについて、その発言を直接聞いた女子従業員2名から確認しているにもかかわらず、Xが2度にわたる面談で上記発言を否定した上、・・・E取締役に「フォトニクスビジネスユニットでサンプルの不正出荷をしている人がいる。」と述べるなど、上記中傷行為について依然として反省の態度が見られないこと、従業員の県外出向については労使間の協議を経て、従業員の雇用確保のために会社が執った施策であるにもかかわらず、労使間のルールを無視してY会社の役員に直接電話をかけ、かつ、脅迫的な言辞を用いて妨害・中止させようとしたことについては従業員として不相当な行為であるから注意、指導する必要があると考えたことによるものであり、企業の人事担当者が問題行動を起こした従業員に対する適切な注意、指導のために行った面談であって、その目的は正当であるといえる。
 なお、Xは、・・・女子ロッカールームでAを中傷する発言をしたことはないと主張するが、上記発言を直接聞いたというC及びDの証言に不自然なところは見られず、反対尋問でも核心部分については揺らいでいないこと、X自身、本人尋問において、「Aが伝票を切らずに、サンプルを出しているということを言ったことがある。」旨供述し(・・・)、Aの不正に関する発言をしていたことを認めていること、・・・新聞記事は、その記事内容からして、同記事中の「女性従業員(51)」がXを意味していることは明らかであり、Xが、新聞記者に対して・・・同僚や上司に「伝票を切らずに帳簿に残らないように出荷して、代金を何億円も使い込んだ社員がいる」との「内部告発」をした旨の話をしていることが窺われること等の事情からすれば、Xが・・・女子ロッカールームで「Aさんは以前会社のお金を使い込んで、それで今の職場(マルチメディアビジネスユニット)に飛ばされたんで、それでY2課長も迷惑しとるんだよ。」とAを中傷する発言をしたと認めるのが相当である。
 しかしながら、Xの上記の中傷発言があったことを前提としても、本件面談の際のY2の発言態度や発言内容は、X提出のCD‐R(〈証拠略〉)のとおりであり、感情的になって大きな声を出し、Xを叱責する場面が見られ、従業員に対する注意、指導としてはいささか行き過ぎであったことは否定し難い。すなわち、Y2が、大きな声を出し、Xの人間性を否定するかのような不相当な表現を用いてXを叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えているものであり、Xに対する不法行為を構成するというべきである。もっとも、本件面談の際、Y2が感情的になって大きな声を出したのは、Xが、人事担当者であるY2に対して、ふて腐れ、横を向くなどの不遜な態度を取り続けたことが多分に起因していると考えられるところ、Xはこの場でのY2との会話を同人に秘して録音していたのであり、Xは録音を意識して会話に臨んでいるのに対し、Y2は録音されていることに気付かず、Xの対応に発言内容をエスカレートさせていったと見られるのであるが、Xの言動に誘発された面があるとはいっても、やはり、会社の人事担当者が面談に際して取る行動としては不適切であって、Y2及びY会社は慰謝料支払義務を免れない。もっとも、Y2の上記発言に至るまでの経緯などからすれば、その額は相当低額で足りるというべきである。」

「Y3がXに対して社内規程類の精読を指示したのは、Xに職場の秩序を乱す問題行動が見られたことから、次の職場でも問題を起こさないためにも社内規程類の理解を促す必要があると考え、出向直前の待機期間における指導の一環として行ったものであり、懲罰の意図あるいは退職を促す意図に基づくものとまでは認め難く、社会通念に照らして相当な措置であって、Xに対する不法行為を構成するものであるとはいえない。」

「前記説示のとおり、Y2が、本件面談の際、大きな声を出し、Xの人間性を否定するかのような不相当な表現を用いてXを叱責した点については、Xに対する不法行為を構成するというべきである。もっとも、前述のとおり、本件面談の際、Y2が感情的になって大きな声を出したのは、Xが、人事担当者であるY2に対して、ふて腐れ、横を向くなどの不遜な態度を取り続けたことが多分に起因していると考えられるのであり、原判決が認容する慰謝料は相当な額であるとはいえない。」