ドコモCS事件‐東京地判 平28・7・8 労働経済判例速報2307号3頁

【事案】
 Xが、社員であったYらが住宅補助費を不正に受給した等主張して、当該住宅補助費相当額等の支払を求めたのに対し、Yらが、住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇は無効であるとして、地位確認等を行ったもの。

【判断】
「(1) 懲戒解雇は、就業規則の懲戒解雇に関する根拠規定が存在しても、当該懲戒解雇に係る労働者の行為の性質及びその他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法15条、16条)。懲戒解雇は最も重い処分であり、雇用契約上の権利を有する地位の喪失のみならず、労働者の名誉に悪影響を与え、退職金の支給制限等の経済的不利益を伴うことが多いから、懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められる。
 (2) ・・・Yらの住宅補助費申請は少なくとも乙建物に係るものは住宅補助費の支給要件を満たさない上、Yらは少なくとも未必の故意をもって、共謀の上、その居住実態を偽って住宅補助費を不正に受給している。その不正受給は、平成18年から平成25年まで7年以上、五百数十万円に及び(・・・)、過誤取扱通達で返納の対象となり、かつ、まだ返納されていないものだけでも金175万8400円となる。Yらの乙建物に係る住宅補助費の申請は申請書、賃貸借契約書等を精査して予想困難な居住関係及び権利関係を秘したものであるから、Xが長年これに気付かず、住宅補助費を支給していたことをYらの有利に斟酌すべきではない。Yらが利得する一方、Xが受けた財産的損害は多額であり、両者間の信頼関係を著しく破壊するものといわなければならない。
 X就業規則における懲戒事由(・・・)である「法令、または会社の業務上の規定に違反したとき」「社員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があったとき」「その他著しく不都合な行為があったとき」にも該当する。
 (3) 労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し、使用者が調査を行おうとするときは、その非違行為の軽重、内容、調査の必要性、その方法、態様等に照らして、その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり、供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する過度の支配・拘束にわたるものでない限り、労働契約上の義務として、その調査に応じ、協力する義務があると解される。その調査の過程において、芳しくない態度、ことに虚偽の供述など、積極的に調査を妨げる行為があった場合は、信頼関係をますます破壊し、反省、改善更生といった情状面の評価において、不利益に重視されることもやむを得ないというべきである。・・・Y1は、Xの事情聴取において、事実関係に関する虚偽の供述を複数回にわたって繰り返しており、Y2もこれに同調する態度を示し、自分たちの独自の見解に固執して、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還請求権からは大幅に減額されている過誤取扱通達の範囲内の返還(・・・)にも応じていない。
 (4) ・・・Xは、Yらに対し、慎重に調査を進め、事情聴取も少なからず実施し、Yらに弁明の機会も十分に与えて、慎重な検討を経て本件解雇を決定したと認められる。
 過誤取扱通達に関しては、平成26年1月通知では「自主返納」としてその制限の範囲を超える返納を求め、閲覧は許すも謄写や持ち出しまでは認めておらず、平成26年4月通知及び本訴請求でも解釈の誤りから一部過大な請求になった部分もあるが、①平成26年1月通知は、Yらの弁明を促し、返還方法等の相談に応じる用意があることを示しており(書証略)、一方的で強引な請求とまではいえないこと、②過誤取扱通達による返納の範囲の制限は、法令上の期間制限よりも社員をかなり有利に扱うもので、これに違反しても社員が法令上の期間制限よりも不利に扱われるわけではないこと(・・・)、③平成26年4月通知及び本訴請求における返還請求における割合も大きくないこと、④Yらは、住宅補助費の受給に問題はなかったと主張して、平成25年11月分を除いて、住宅補助費返納の必要を全て争っており(書証略)、過誤取扱通達に基づく返納の範囲に関する見解の不一致で返納に至らなかったわけではないことに照らせば、本件解雇に至る経緯において、Xに著しく過大な返納を強引に請求する顕著な問題があり、それがためにYらが一切の返納を拒否する態度を誘発したということはできない。
 証拠(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、XのYらの事情聴取及びYらとの交渉において乙建物専有部分3号がY1の父の所有であるといったん認めるような説明をした後、Y1の父名義の不動産登記は専ら住宅補助費受給目的で実質的にはYらの所有であると判断している旨を説明する、甲603号、604号に係る住宅補助費及び住宅手当の支給はもう問題視しないかのようにも受け取れる発言があるなど、その説明が必ずしも首尾一貫しなかったことはうかがわれるが、調査及び交渉が進展中の過程における説明にとどまり、特に平成26年5月28日まではXはH元課長から事情を聴取しておらず、Yらから提出されたH元課長のメールの内容がH元課長の記憶を正確に反映されたものではないことを把握していなかったこと(・・・)に照らすと、X担当者が意図的にYらを混乱させようとしたとは認めるに足りないし、乙建物に係る住宅補助費申請に係るYらの弁明を妨げるような結果を生じているとも認められない。
 (5) 以上の認定判断を総合すると、甲603号、604号に係る住宅手当又は住宅補助費の適否の点を判断するまでもなく、Yらの乙建物に係る住宅補助費の不正受給は、その態様、期間、被害金額、発覚後の態度等に照らして悪質であり、未だ被害回復もされていない。本件解雇に至る経過を見ても、経過を全体的に見れば手続の適正に見るべき問題があるとはいえない。
 したがって、懲戒解雇は懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められることを考慮しても、XがYらに対し本件解雇をもって臨んだことが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるということはできない。」