NOVA事件 ‐ 名古屋地判 令元・9・24 労働判例1237号25頁

【事案】
 Yにて英語講師として勤務していたXらが,XらとY間の契約につき,形式上業務委託契約とされていたが,実質的には労働契約であり,Xらの年次有給休暇請求権の行使を妨げた上,健康保険加入義務を懈怠したとして,Yに対し,不法行為又は債務不履行による損害賠償請求等をしたもの。

【判断】
「(1) 以下の事情を総合考慮すれば,Xらは,Yの指揮監督下において労務を提供していたものと評価することができるし,Xらの報酬についても労務の提供の対価として支払われたものとみることができる。以下のとおりXらの専属性の程度が高いことも合わせ考慮すると,Xらは,Yとの関係において,労働基準法上の労働者に当たると解するのが相当である。
 ア 業務遂行上の指揮監督
  (ア) Yは,雇用講師と同様,委託講師のレッスンにもテキストの使用を義務付け,初回研修,その後のオブザベーション・フィードバックによって,テキストの使い方,マニュアルに沿った教授法を具体的に指示しており,委託講師の裁量は小さいと思料されること。
  (イ) Yが,委託講師に対し,雇用講師と同様,ビジネス英語,TOFLE試験対策のレッスンに関する社内資格を取得するための研修を委託講師のスケジュールに盛り込み受講させていたこと。
  (ウ) Xらが,レッスンに空き時間が出来た場合,雇用講師と同様,コーヒーマシンの清掃,教室等の清掃,ゴミ出しなど施設の管理業務や,販促物(ティッシュ)配り,パンフレットの作成,カウンセリングにも従事していたこと。
  (エ) Yが委託講師に対して雇用講師と同様の細かい服装に関する指示をしており,実際にYのマネージャーがX1に対して注意していること。
  (オ) Y自身,あくまで事前に確認し,同意を得た上としつつも,委託講師との間でレッスン場所やスケジュールを変更することがあることを自認している。また,X5やX6のように,委託講師についても,他校のヘルプとして契約外のレッスンに従事することがあること。
 イ 具体的仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由
 委託講師は,受け持ちレッスン時間に生徒らの予約があれば,レッスンを実施しなければならず,その意味で個別のレッスンについて諾否の自由はない。この点は,本件契約書上,包括的に受け持ちレッスン時間のレッスンを受託しているとも解されるから,過度に重視できないが,指揮監督関係を肯定する方向に働く一事情といえる。
 ウ 勤務場所・勤務時間の拘束性
 レッスンの時間,レッスンを行う校舎は,予め契約によって決められており,その意味で勤務場所・時間の拘束が認められる。この点については,Yが指摘するように,業務の性質によるものとも解され得るが,レッスンがなくなった場合でも,その時間,当該校舎の販促業務や清掃業務等に従事しなければならなかったことも加味すると,やはり指揮監督関係を肯定する方向に働く一事情とみるのが相当である。
 エ 報酬の労務対償性
 委託講師に対する報酬は,成功委託料も含めて1レッスン(44分間)を基準(ママ)して支払われており,一定時間労務を提供したことに対する対価とみることができる。
 オ 専属性
 確かに,Yが指摘するように,委託講師の兼業は可能であり,実際にその実績もあることは認定事実のとおりであるが,雇用講師も兼業を禁止されておらず,この点は労働者性を左右する程の事情であるとはいえない。
 むしろ,委託講師は,契約期間中,競業避止義務を負わされており,Yと同様の英会話学校の業務に従事することができず,契約期間終了後も1年間,同様の義務を負わされていたこと,Xらが週5日,X1については週34コマ,その他のXらについては週40コマのレッスンを担当しており,時間的余裕がなく,Yが指摘するような兼業は事実上困難であったと認められることからすれば,専属性は高いといえる。」

「ア 弁論の全趣旨(前記第2の4(2)のYの主張)によれば,Xらが,雇入れの日から6か月間(X1においては1年6か月間)継続して勤務し,全労働日の8割以上出勤していたと認めるのが相当である。
 イ 前示判断のとおり,Xらは,労働基準法上の労働者に当たるから,Yに対して年休権を有していた。その日数は,労働基準法39条に従い,X1が21日,そのほかのXらが10日となる。
 しかるに,Yは,Xらとの契約を業務委託契約と扱い,Xらの年休権の行使を違法に妨げたと評価せざるを得ず,不法行為の成立を認めるのが相当である。」

「(1) 健康保険法3条3項各所定の適用事業所の事業主は,健康保険法48条に基づき,健康保険の被保険者の資格取得等の届出をすべき義務を負うものと規定されるが,この届出義務は,単なる公法上の義務にとどまらず,労働契約の当事者である使用者は,労働者に対し,労働契約に付随する信義則上の義務又は不法行為上の作為義務として,上記被保険者資格得喪の届出を適正に行うべき義務を負い,同義務を怠った場合は,労働契約上の債務不履行責任又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
(2) Yが健康保険法上の適用事業所であることには争いがない。以下Xらが健康保険法上の被保険者に当たるかについて検討する。
 ア 判断枠組み
 健康保険法(平成24年法律第62号による改正前のもの。以下特に断らない限り同じ。)3条1項は,被保険者に関して,「適用事業所に使用される者」と定めている。この「使用される者」とは,労働基準法上の労働者と全く同義であるとは解されないものの,基本的には重なるものと解するのが相当である。もっとも,健康保険法3条1項ただし書及び同項各号は「臨時に使用される者」等について適用除外対象者としているところ,健康保険法は,被保険者に関して常用的な使用関係を前提としているものと解され,上記の適用除外対象者に加えて,短時間労働者についても,上記「使用される者」に含まれないものと解するのが相当である。
 この点,平成24年法律第62号によって,上記適用除外対象者に加え,一定の短時間労働者を適用除外対象者として具体的に定める規定が設けられることとなったところ(平成28年10月1日から施行),これは,健康保険法が明確にしていなかった被保険者の対象から除外される短時間労働者の範囲を具体的に定め,明確にしたものと評価される。
 本件のように,上記改正後の健康保険法が施行される前においては,健康保険法及び同法に関する政省令に被保険者とされない短時間労働者を判断する具体的な基準の定めは見当たらないことからすれば,被保険者とされるか否かについては,個々の事例ごとに,労働日数,労働時間,就労形態,職務内容等を総合的に勘案して判断すべきものと解するのが相当である。内かん及び課長通知は,その記載内容をみる限り,この判断枠組に特に反するものではない。
 イ 本件へのあてはめ
  (ア) 労働日数・労働時間
 証拠(乙14)によれば,常勤の雇用講師の所定労働時間は,1日8時間,週40時間であり,所定労働日数は週5日であることが認められる。これに対し,Xらの所定労働日数は,常勤の雇用講師と同様週5日であり,Xらの所定労働時間は,X1が週34コマで44分×40=1496分(24時間56分),その他のXらが週40コマで44分×40=1760分(29時間20分)となる。
 常勤の雇用講師の週の所定労働時間の4分の3は30時間であり,Xらの所定労働時間はいずれもこれに達しないものの,X1以外のXらについてはこれに近似するもの(Xらが主張するように,レッスン準備や生徒カルテの記入のための事務処理時間が4分間とされているが,これが4分ではなく5分かかれば,週の労働時間は30時間に達する。)であったと評価できる。
 (イ) 連続したレッスンの間の時間
 証拠(甲A~F1,甲A2)及び弁論の全趣旨によれば,レッスン間の合間は10分であることが認められる。そうすると,委託講師が連続してレッスンを担当する場合,レッスン準備や生徒カルテの記入のための事務処理時間が実際に4分間であったしても,6分しか間隔がないことになる。その6分間について,委託講師が職場を離れることが事実上困難であることは短時間であることからして明らかである。
 そして,証拠(甲A~F1,甲A29及び弁論の全趣旨によれば,Xらについては1レッスン分等の休憩を挟むこともあるが,連続してレッスンを行うことが多かったことが認められる。
  (ウ) Xらの報酬額
 Xらの報酬は,1レッスンあたり基本委託料と言語報酬のみで1200円であり,これにXらの担当コマ数を乗じて1週あたりの報酬を概算で算出すると,週40コマであるX1以外のXらについては4万8000円,週34コマであるX1については4万0800円となる。
  (エ) Xらは,前記認定事実(2)カのとおり,競業避止義務を負っていた。
 ウ これらの事情を総合的に勘案すると,少なくともX1以外のXらについては,短時間労働者として被保険者から除外するということは相当ではなく,健康封建法じょうの被保険者に当たるというべきである。
 そうすると,Yは,X1以外のXらについて前記届出義務を怠ったことについて,労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものといわざるを得ない。」