損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件‐東京地判 平28・10・14 労働判例1157号59頁

【事案】
 判決により労働基準法114条所定の付加金の支払を命ぜられたXが、判決確定前に未払割増賃金を支払ったので、付加金の支払義務が発生しておらず、Yが同判決を債務名義、同判決で命ぜられた付加金請求権を請求債権とし、Xを債務者として行った債権差押えは不当な執行であるとして、同強制執行の不許を求めたもの。

【判断】
「1 労働基準法114条は、裁判所は、労働者の請求により、解雇予告手当(同法20条)、休業手当(同法26条)、割増賃金(同法37条)、年次有給休暇の期間における賃金を支払わない(同法39条6項)使用者に対し、使用者が本来支払うべき金額の未払金のほか、同一額の付加金の支払を命じることができると定めている。
 付加金の性質は、労働基準法によって使用者に課せられた義務の違背に対する制裁であって、損害の填補としての性質を持つものではないと解され、実体法的な権利関係に基づいて生ずるものではないから、未払賃金割増賃金の弁済等の実体法上の消滅原因によって付加金支払義務を免れることができないというべきである。また、付加金支払義務は、付加金の支払を認める判決の確定によって生じるところ、判決の基礎とすることができる事実は、事実審の口頭弁論終結時までのものである。このことからすると、付加金支払義務が発生するためには、事実審の口頭弁論終結時において、付加金の支払を命ずるための要件が具備されていれば足り、当該判決が取り消されない限りは、事実審の口頭弁論終結後の事情によって、当該判決による付加金支払義務の発生に影響を与えないというべきである。
 したがって、使用者が判決確定前に未払割増賃金を支払ったとしても、その後に確定する判決によって付加金支払義務が発生するので、付加金支払義務を消滅させるには、控訴して第一審判決の付加金の支払を命ずる部分の取消を求め、その旨の判決がされることが必要となる。
2 この点、Xは、最高裁平成26年判決が「裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには」と判示していることから、事実審終了後判決確定までの間に未払割増賃金が支払われた場合には、付加金が発生しないことが前提となっており、判決にある付加金支払義務は、判決確定前に未払の割増賃金等が支払われないことを停止条件として発生する、又は、判決確定前に未払の割増賃金等が支払われることを解除条件とするものである旨主張する。
 しかし、最高裁平成26年判決では、付加金支払義務はその支払を命ずる判決の確定によって発生するものであるが、事実審の口頭弁論終結後の事実は判決の基礎とすることができないから、使用者が未払賃金の支払を完了して付加金支払義務を免れることができるのは、訴訟手続上、事実審の口頭弁論終結時までとなることが説示されているものと解され、このことからすると、付加金支払義務を免れるためには使用者として控訴をした上で訴訟手続上、支払の事実を主張立証することが必要であると解される。
 したがって、判決による付加金の支払義務の発生は、判決確定前の未払割増賃金等の支払の有無を条件とするものである旨のXの主張は採用できない。
3 本件においては、Xは未払割増賃金を供託したものの、付加金の支払を命じた本件判決は確定しているから、本件判決主文第2項により付加金支払義務は発生している。したがって、Yのした執行は不当とはいえず、Xの請求には理由がないから、これを棄却する。」

※控訴棄却