札幌市(懲戒免職処分取消等請求)事件‐札幌地判 平28・3・17 判例地方自治420号64頁

【事案】
 酒気帯び運転を行ったこと等を理由として、懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を受けたXが、Yに対し、当該処分の取消等を求めたもの。

【判断】
「(1) 判断基準
 地方公務員につき法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択すべきかは、平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものというべきであるから、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを、その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。
 したがって、裁判所が当該処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか、又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20第3小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照、最高裁平成2年1月18日第1小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
 もっとも、法29条に基づく処分として免職処分を行う場合、当該処分が被懲戒者に対し、公務員たる身分を剥奪するという重大な不利益を課すものであることからすれば、処分行政庁が免職処分を選択するにあたっては、その当否につき、特に慎重な考慮が必要となるものというべきである。
  (2) 本件懲戒処分の適法性
 そこで、本件懲戒免職処分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものかどうかについて検討すると、その内容は以下のとおりである。
    ア ・・・Xは、自動車で自宅を出発し、その後、少なくとも、日本酒1パック及び缶チューハイ3本を運転中に立ち寄ったコンビニエンスストア等でその都度購入し、日本酒1パック及び缶チューハイ1缶を停車中又は走行中の車内でこれを飲み干し、更に缶チューハイ1本を半分程度飲んだものであり、最終的に本件事故を起こした後のアルコール検査では呼気1リットルあたり0.5ミリグラムものアルコールが検出されるに至っていた(・・・)。
    イ 本件非違行為が行われた当時、飲酒運転については、飲酒運転が社会的な耳目を集めるいくつもの悲惨な事故をもたらしたことから、道路交通法の改正により厳罰化が実施されるなど、飲酒運転に対する社会的な非難の声が高まり、これに応じてその根絶を社会全体で目指している状況にあったところ、Xの本件非違行為は、そのような社会全体の目標を主導する立場にある公務員としてはもとより、社会の一構成員としても強い非難に値する行為であることはいうまでもない。
 Yにおいても、懲戒処分の指針(甲7)により、酒酔い運転又は酒気帯び運転により人身事故を起こした職員に対しては、基本的に、酒酔い運転については免職処分をもって、酒気帯び運転については免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)をもってそれぞれ臨み、また、これらの運転行為により生じた事故が物損事故にとどまる場合においても、場合によっては免職処分を行うこととすると定められていた。このような指針は、上記のような社会における飲酒運転の撲滅に向けた取組の状況を踏まえ、高い規範意識が求められる公務員による飲酒運転に対して厳罰をもって臨むことを地方公共団体であるYが宣明したものとして合理性を有するものというべきである。
    ウ 本件におけるXの行為は、自ら自動車を運転して自宅を出発した後、一度紙パック入りの日本酒(180ミリリットル)を購入してこれを飲み干した上、道中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて次々と酒を買い足し、停車中だけではなく走行中の車内において飲酒に及ぶなど、およそ常識では考えられない態様で飲酒運転に及んでおり、このような飲酒運転の態様からすると、Xの飲酒運転に対する抵抗意識は希薄であり、規範意識が著しく鈍麻していたものといわざるを得ない。
 また、本件事故は結果として物損事故にとどまっているものの、事故直後の呼気検査におけるXの呼気中アルコール濃度は1リットルあたり0.5ミリグラムであり(・・・)、これは、一般的には、運動失調(千鳥足)や判断力の鈍化などの症状が出るような酩酊度(中程度酩酊)とされているのであって、このような状況において自動車を運転した本件非違行為については、他者の生命・身体の安全を害する重大事故を発生させるおそれがある極めて危険性の高い行為であるといわざるを得ず、結果として物損事故にとどまったことをもって、非違の程度が軽微なものであったなどと評価することは到底できない。
 このような本件非違行為の態様からすると、同非違行為は酒気帯び運転の中でも最も悪質な態様の部類に属するものであり、当該行為についてXに酌むべき事情は全く存在しないといわざるを得ない。そうすると、Yの「懲戒処分の指針」において、酒気帯び運転により物損事故を起こした場合には、懲戒処分として免職のほかに停職や減給も選択可能とされていることを踏まえても、本件非違行為に対する量定として、処分行政庁が酒気帯び運転に対する懲戒処分の中で最も重い免職を選択したことが不合理であったとはいえない。
    エ 他方、Xは、昭和56年6月1日にYに採用されてから、32年以上もの長期間にわたり、一度も懲戒処分を受けることなく、平素の勤務態度にも特に問題なく自身の業務に従事していたことが認められ(・・・)、また、本件非違行為が行われた当時、Yの職制上、Xは管理職の立場にはなかったのであるから、本件処分の相当性を判断するにおいてXに有利に斟酌すべきと考え得る事情も存在する。
 しかし、本件非違行為の態様の悪質性(上記イ)に加え、Xの上記職務状況等が本件非違行為に対する懲戒処分の量定において特に有利に斟酌されるべき顕著なものであるとまではいえず、また、Xは、当初実施された上司からの事情聴取に対して、Xが現在認めるに至った飲酒の経緯や飲酒量に関して異なる虚偽の説明を繰り返し行っており(・・・)、本件非違行為について真摯に反省しているとは認め難いことを考慮すると、上記事情の存在をもって、Xの本件非違行為に対して懲戒免職処分をもって臨むことが当該非違行為に対する制裁としての相当性を欠いているということはできない。」

「Xは、32年以上の長期間にわたり真摯に職務に取り組み、過去に処分歴も存在せず、市民からもその誠実な仕事ぶりが評価されていたことを考慮すると、本件退職手当支給制限処分は、このようなXの永年の実績を一時に奪うものであり、社会通念上著しく妥当性を欠くものであると主張する。
 しかし、本件非違行為の悪質性等については、上記・・・のとおりであり、その非違の程度は重大であるといわざるを得ず、これまでXに処分歴がないことやXが非管理職の地位にあったことなどといったXにとって有利に斟酌し得る事情を考慮しても、本件退職手当支給制限処分が社会通念上妥当性を欠く不相当なものであるとは認められない。」