日本土建事件‐津地判 平21・2・19 労働判例982号66頁

【事案】
 Kの両親であるXらが、Yに対し、YはKを違法で過酷な時間外労働に就労させ、当時に上司によるKに対するパワーハラスメントを放置した等として慰謝料等を請求したもの。

【判断】
「(1) ・・・Kは、Yに入社して2か月足らずで本件作業所に配属されてからは、極めて長時間に及ぶ時間外労働や休日出勤を強いられ、体重を十数キロも激減させ、絶えず睡眠不足の状態にありながら、一日でも早く仕事を覚えようと仕事に専念してきたことが認められる。それにもかかわらず、Yでは、時間外労働の上限を50時間と定め、これを超える残業に対しては何ら賃金を支払うこともせず、それどころか、Kがどれほどの残業をしていたかを把握することさえ怠っていたことが認められる。X1からKの残業を軽減するよう申し入れがあったことに対しても、およそ不十分な対応しかしていない。
 このようなYの対応は、雇用契約の相手方であるKとの関係で、その職務により健康を害しないように配慮(管理)すべき義務(勤務管理義務)としての安全配慮義務に違反していたというほかない。したがって、この点に関し、Yには、雇用契約上の債務不履行責任がある。そして、同時に、このようなYの対応は、Kとの関係で不法行為を構成するほどの違法な行為であると言わざるを得ないから、この点についても責任を負うべきである。このことは、後に、Yが時間外労働割増賃金及び深夜労働割増賃金を全額弁済供託したからといって異なることはない。」

「Kは、長時間に及ぶ残業を行い、休日出勤をしてまでYの本件作業所において仕事に打ち込んでいたところ、Kの指導に当たってCは、Kに対し、「おまえみたいな者が入ってくるで、M部長がリストラになるんや!」などと、理不尽な言葉を投げつけたり、Kが甲野建設株式会社の代表取締役の息子であることについて嫌味をいうなどしたほか、仕事上でも、新入社員で何も知らないKに対して、こんなこともわからないのかと言って、物を投げつけたり、机を蹴飛ばすなど、つらくあたっていたことが認められる。
 また、Kは、Cから今日中に仕事を片づけておけと命じられて、1人遅くまで残業せざるを得ない状況になったり、他の作業員らの終わっていない仕事を押しつけられて、仕事のやり方がわからないまま、ひとり深夜遅くまで残業したり、徹夜で仕事をしたりしていたことが認められる。
 そのほか、Cからは、勤務時間中にガムを吐かれたり、測量用の針の付いたポールを投げつけられて足を怪我するなど、およそ指導を逸脱した上司による嫌がらせを受けていたことが認められる。
 このような状況においても、Kは、養成社員として入社した身であるから仕方がないんだと自分に言い聞かせるようにして、Cに文句を言うこともなく我慢して笑ってごまかしたり、怪我のことはCに口止めされたとおりA所長らにも事実を伝えず、一生懸命仕事に打ち込んできたことが認められる。
 本件交通事故が発生した日の前日も、Kは徹夜でパソコン作業に当たっていたが、このとき、一緒に残業していたのは数量計算等を行っていたB工事長のみであり、他の作業員及びA所長は帰宅しており、Kの仕事を手伝うことはしなかったことが認められる。なお、A所長に至っては、勤務時間中にリフレッシュと称して度々パソコンゲームをしており、Kの仕事を手伝っていた様子はうかがえない。
(2) これらの事実からすれば、Kは、Yに入社して2か月足らずで本件作業所に配属されてからは、上司から極めて不当な肉体的精神的苦痛を与えられ続けていたことが認められる。そして、本件作業所の責任者であるA所長はこれに対し、何らの対応もとらなかったどころか問題意識さえ持っていなかったことが認められる。その結果、Yとしても、何らKに対する上司の嫌がらせを解消するべき措置をとっていない。
 このようなYの対応は、雇用契約の相手方であるKとの関係で、Yの社員が養成社員に対してYの下請会社に対する優越的立場を利用して養成社員に対する職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務(パワーハラスメント防止義務)としての安全配慮義務に違反しているというほかない。したがって、この点に関し、Yには、雇用契約上の債務不履行責任がある。そして、同時に、このようなYの対応は、不法行為を構成するほどの違法な行為であると言わざるを得ないから、この点についても責任を負うべきである。」

「Yは、雇用契約におけるKが健康を害しないように配慮(管理)すべき義務(勤務管理義務)としての安全配慮義務に違反するとともに、Yの社員が養成社員に対してYの下請会社に対する優越的立場を利用して養成社員に対する職場内の人件侵害が生じないように配慮する義務としてのパワーハラスメント防止義務に違反したことに伴う慰謝料及びこれらに関する不法行為に基づく慰謝料を支払うべき責任があることになる。」