日産自動車事件‐横浜地判 平31・3・26 労働経済判例速報2381号3頁

【事案】
 Yの課長職を務めていたKの妻であるXが,Kの死亡によりその賃金請求権の3分の2を相続したとして,Yに対し,割増賃金等の支払を求めたもの。

【判断】
「労基法41条2号の趣旨は,管理監督者は,その職務の性質や経営上の必要から,経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任,権限を付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にある一方,他の一般の従業員に比して賃金その他の待遇面でその地位にふさわしい待遇措置が講じられていることや,自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていることなどから,労基法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないことにある。
 とすれば,労基法上の管理監督者に該当するかどうかは,①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである。」

「(2)職責及び権限について
ア ダットサン・コーポレートプラン部
(ア) ダットサン・コーポレート部において,マネージャーは,新しい車両の投資額及び収益率を決定するPDM会議に出席するとともに,投資額及び収益率の提案を企画立案する立場にあったものと認められる(…)。しかしながら,PDM会議で実際に提案するのは,PDであって,マネージャーが企画立案した提案も,PDが了承する必要があること(…),PDM会議で,マネージャーが発言することは,基本的に予定されていないことからすれば(…),PDM会議における経営意思の形成に直接的な影響力を行使しているのは,PDであって,マネージャーは,PDの補佐にすぎないから,経営意思の形成に対する影響力は間接的である。
 また,マネージャーは,ファンクションリプライを取り付ける権限を有していたが(…),収益に影響がある際には,PDM会議で,コントラクトを再提案して,CEOの決裁を得る必要があったのであるから(…),マネージャーの権限は,限定的であったといえる。
 他方,マネージャーは,PCMPP会議では,司会進行を担い,コントラクトの進捗,過未達を報告するとともに,ファンクションリプライの未達の責任者に対し,釈明を求めるといった職務を行っており(…),同会議への関与の度合いは,PDM会議と比較して高いと言える。しかしながら,PCMPP会議でのマネージャーの上記職務は,経営者側(PDM会議)で決定した経営方針(コントラクト)の実施状況について,経営者側(PCMPP会議の決定権者であるMCチェアマン,BUヘッド及びPD)に現状の報告をし,その経営方針を実施するための支障となる事象(ファンクションリプライの未達)の原因究明(責任者からの釈明)の報告をしているにすぎず,上記職務を担っているという点で,経営者側と一体的な立場にあるとまで評価することはできない。
 (イ) したがって,ダットサン・コーポレートプラン部に配属されていた当時のKのその他の職責及び権限を考慮しても,その当時のKが,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められない。
 イ 日本LCVマーケティング部
 (ア) 日本LCVマーケティング部において,マーケティングマネージャーは,マーケティングプランを企画し,マーケティングプランを決定するマーケティング本部会議でそれを提案する立場にあったものと認められ(…),この点で,地域・部門が限定的であるとはいえ,Yの経営方針を決定する重要な会議に参画する機会が与えられていたと評価することができる。しかしながら,マーケティングマネージャーは,マーケティング本部会議で提案する前に,マーケティングダイレクターから,あらかじめマーケティングプランの承認を受ける必要があること,マーケティングダイレクターも,同会議に出席し,マーケティングマネージャーと一緒にマーケティングプランを提案する立場にあること,マーケティングマネージャーは,マーケティングダイレクターとは異なり,担当車種が課題に上るときだけマーケティング本部会議に出席すること(…)からすれば,マーケティングマネージャーは,マーケティングダイレクターの補佐にすぎず,経営意思の形成に対する影響力は間接的なものにとどまると評価すべきである。
 また,マーケティングマネージャーは,営業本部会議において,RCの社長及び役員に対し,ディーラーへの援助を依頼するが(…),この点は,経営意思の形成にも,労務管理にも関わらないものであるから,管理監督者性の判断に影響を与えるものではない。
 (イ) したがって,日本LCVマーケティング部に配属されていた当時のKのその他の職責及び権限を考慮しても,その当時のCが,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められない。
(3) 労働時間の管理について
 Kは,本件勤怠管理システムに勤務時間を入力し,承認者の承認を得ていた(…)。
 しかしながら,ダットサン・コーポレートプラン部(NTC)及び日本LCVマーケティング部(本社)における所定労働時間は,午前8時30分から午後5時30分(休憩時間1時間)であったにもかかわらず(書証略),Kは,午前8時30分よりも遅く出勤し,午後5時30分より早く退勤することが多かったが(書証略),遅刻,早退により賃金が控除されたことがない(書証略)ことからすれば,Kは,自己の労働時間について裁量を有していたと認めることができる。なお,これに対し,Xは,甲11(書証略)に遅刻早退した場合に精算が発生する旨記載されていると主張するが,Yは,上記記載は定型書式であると主張しており,上記認定説示のとおり,Kは,遅刻早退により賃金が控除されたことがないことからすれば,甲11(書証略)を根拠に,Kが遅刻早退により賃金が控除される立場だったと解することはできない。
 もっとも,Eは,管理監督者ではないことについて当事者間に争いのないPE1職だった時から,午前9時30分から10時くらいに出勤しており,大卒で入社した時以来,スーパーフレックス制であったと証言しているから(人証略),上記のKの労働時間についての裁量は,Kの地位に関係なく従業員に与えられていたものとも推測する余地もある。
 (4) 待遇について
 Kの基準賃金は,月額86万6700円又は88万3400円で,年収は1234万3925円に達し,部下より244万0492円高かったのであるから(…),待遇としては,管理監督者にふさわしいものと認められる。
 (5) 以上からすれば,Cは,自己の労働時間について裁量があり,管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているとは認められないところ,これらの諸事情を総合考慮すると,Kが,管理監督者に該当するとは認められない。」