February 20, 2018

東日本旅客鉄道(出向)事件‐東京地判 平29・10・10 労働経済判例速報2330号3頁

【事案】
 Xらが,Yに対し,出向命令は,命令による出向がYへの復帰を前提としない実質的な転籍であるにもかかわらず,Xらの個別的同意又は労働協約に基づかないから無効であるなどと主張して,出向先に勤務する雇用契約上の義務がないことの確認を求めたもの。

【判断】
「ア 企業間の人事異動である出向は,労務提供の相手方が変更されることからして,特段の事情のない限り,就業規則ないし労働協約上の根拠規定や採用時における労働者の同意を要するものと解されるが,必ずしも出向時における個別的同意までは要しないと解するのが相当である。
 これを本件出向命令についてみるに,・・・Xら(・・・)は,いずれも国鉄民営化の際又はその後,Yに入社し,駅業務,車両清掃整備業務,検修業務などに従事していたところ,Yの就業規則28条には,会社は,業務上の必要がある場合,社員に出向を命ずることができ,社員は,正当な理由がなければこれを拒むことができない旨の規定がある上,出向先での勤務条件に関しては,出向規程において,出向中の取扱い,労働時間,休憩時間,休日,有給休暇等の就労条件,賃金,安全・衛生,業務災害補償,福利厚生等その他処遇に関して出向労働者の利益に配慮して詳細に定められていることが認められ,Yは,Xらに対し,上記就業規則及び出向規程に基づき,出向を命ずることができると解するのが相当である。
 イ これに対し,Xらは,「使用者は,労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができない」(民法625条1項)との規定を根拠に,使用者は,原則として労働者の個別的同意を得なければ出向を命ずることはできないとか,少なくとも労働協約において,出向の詳細について出向労働者の利益に配慮した規定が定められている必要があると主張する。
 この点,確かに,民法625条1項の規定は出向にも適用されるものの,労働者の承諾について,必ずしも出向時の個別的同意を要するとはいえず,事前の包括的同意でも足りるものと解され,かかる事前の包括的同意としては,労働協約のみならず,就業規則の規定によることもできると解するのが相当であり,この理は,Yが,他の労働組合との間では出向に関する労働協約を締結していることによって左右されることはなく,かかる協約が締結されている場合には,その規範的効力を有する部分につき,就業規則に対する優越が認められるにすぎないものと解される。
 したがって,Xらの上記主張は,採用することができない。」

「Yにおいては,出向社員は,Yの人事担当部署の所属とされること(出向規程4条1項),出向期間中は,原則として休職とするものの,Yにおける勤続年数に通算されること(同5条1項,2項)からして,本件出向命令による出向後も,YとXらとの間の雇用関係は継続しており,その法的性質はいわゆる在籍出向であると解され,出向元であるYとの労働契約を終了させることを内容とする転籍出向とみることはできない。また,本件業務委託により,Xらが従来Yにおいて担当していた業務の大部分が本件グループ会社に委託されており,Yに復帰しても,従来と同じ業務に就くことが困難である上,本件業務委託の目的及び進捗状況等から,出向期間が原則3年とされていた本件出向命令の大半が延長されているとしても,本件業務委託及びこれにかけて,Yからの出向者がエルダー出向者やプロパー社員に置き換わることを予定していたものであり,平成29年1月時点でX1ら6名を含む合計67名が現に復帰している(人証略)ところ,Yにおいて,出向に関する上記就業規則の定めが形骸化し,これが実質的な転籍に当たると解することも困難である。」

「Yは,就業規則及び出向規程に基づき,Xらに対し,個別的同意を得ることなく,出向命令を発令することができると解されるものの,かかる出向命令も無制限に認められるものではなく,当該出向命令の目的の合理性,必要性,出向措置の対象となる者の人選基準の合理性,具体的人選の相当性,出向中の社員の地位,賃金,退職金その他処遇等に係る著しい不利益の有無及びその程度,当該出向発令に至る手続の相当性等の諸事情を考慮して,当該出向命令の発令が権利の濫用に該当する場合には,当該出向命令は無効になるものと解される(最高裁判所平成11年(受)第8005号同15年4月18日第2小法廷判決・裁判集民事209号495頁参照)。」

「Yは,国鉄の分割・民営化により発足した会社であり,その設立の特殊性もあって社員の年齢構成に顕著な隔たりがあるとともに,年金満額支給開始年齢の段階的引上げなどもあって,平成8年頃から,高齢者の雇用の場の確保が課題となっていたこと,かかる課題解決のために定年延長を行うことはその財政状況に照らして困難であると判断し,グループ会社等において再雇用の機会を提供するシニア制度や再雇用機会提供制度を導入するとともに,グループ会社等における受入先の拡大を図っていたこと,このためYは平成10年頃からグループ会社等に対し,鉄道事業業務等の一部の委託を開始し,順次その対策範囲を拡大していたこと,このような状況の下,本件業務委託は,安全の確保を大前提に,エルダー社員の技術力・ノウハウを活かせる出向先を拡大し,新たな再雇用制度の中で,技術力・ノウハウを後進に確実に継承し育成していくこと,グループ全体の総合力を発揮し,コストダウンを徹底した効率的な事業運営のもとでグループ全体を発展させ,より働きがいのある職場・労働環境を早急に実現させるとともに,グループ会社における構内・車両検修業務の技術基盤を確立し,技術力の向上を実現させ,プロパー社員も含めた業務体制を構築させることを目的とするものであることが認められる。
 上記によれば,本件業務委託及びこれに伴う本件出向命令は,Yを取り巻く社会情勢やY自体の社員構成の特徴,業務における将来的な展望等を踏まえて,長期間にわたり進められてきたグループ全社全体としての業務の適正配分の一環としてされたものと理解することができ,Yの経営者としての合理的な経営判断に基づくものと解することができる。」

「本件業務委託及びこれに伴う本件出向命令の目的は,経営者たるYの合理的判断に基づくも相当なものであり,何ら違法はなく,業務上の必要性も認められる。」

「本件出向命令は,原則として,Yにおける勤務場所及び担当業務をそのまま引き継ぐものであり,本件グループ会社のプロパー社員に対する技術承継という目的にも沿うものである上,格別,特定の労働組合に所属する従業員を狙い撃ちしたものでもなく,出向措置の対象となる者の人選基準の合理性,具体的人選の相当性も認められる。」

「本件出向命令に係る出向者の労働条件については,就業規則及び出向規程に詳細な定めがあるところ,出向社員は,Yの人事担当部署の所属とされ(出向規程4条1項),出向期間中は,原則として休職とするものの,Yにおける勤続年数に通算されること(同5条1項,2項),出向社員に対しては,いずれも出向前と同一水準の賃金に加え,出向特別措置として月額2500円,年間3万円の特別加算金が支給され,年間休日は5日間少なくなるものの,年次有給休暇についてはYの従業員と同じ日数が与えられること(証拠略,弁論の全趣旨)が認められ,本件出向命令に伴う不利益の程度は,通常の異動に伴い甘受すべき程度を超えないものと認められる。」

「Yが当初から出向者全員をYに復帰させることは不可能と考えており,現時点においても,出向者全員の復帰の具体的計画が立っておらず,Xらは,本件出向命令の出向期間を延長され,その大多数はYへ復帰することなく定年を迎えるとしても,本件出向命令によりXらが労働者にとって看過し難い不利益を課されているとまで認めることは困難であり,その不利益の程度は通常の異動に伴い甘受すべき程度を超えないものと認められる。」

「本件出向命令の目的の合理性,本件出向命令の必要性,出向措置の対象となる者の人選基準の合理性,具体的人選の相当性,出向中の社員の地位,賃金,退職金その他処遇等に係る不利益の有無及びその程度,当該出向命令発令に至る手続の相当性等の諸事情を考慮しても,当該出向命令の発令が権利の濫用に当たるとはいえない。」

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