【明確区分・対価性】
〔基本給〕
「基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ,かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ,その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができる」(小里機材事件‐東京地判 昭62.1.30 労判523号10頁)

「当裁判所も,…原判決が認容した限度において正当としてこれを認容すべきものと判断するが,その理由は,…原判決の理由説示と同じであるから,これをここに引用する。」(小里機材事件‐東京高判 昭62.11.30 労判523号14頁)

「所論の点に関する原審の認定判断は,…正当として是認することができ,その課程に所論の違法はない。」(小里機材事件‐最1小判 昭63.7.14 労判523号6頁)

「全体が基本給とされており,その一部が他の部分と区別されて労働基準法(…)37条1項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれない以上,…基本給について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金にあたる部分とを区別することはできないものというべきである。」(テックジャパン事件‐最1小判 平24.3.8 判時2160号135頁)

「Yが時間外労働等に対する対価と支払ったと主張する部分は,①法定時間内の通常の労働の対価となる賃金部分と明確に区分されていないため,労働者において,労働基準法37条等所定の方法により算定される時間外労働等に対する割増賃金が正しく支払われているのかを検証することも困難である上,②予定される時間外労働等が極めて長時間に及び,Xらの実際の時間外労働等の状況とも大きくかい離するものであることなどからすると,XらとYとの間の雇用契約において,真に時間外労働等に対する対価として支払われるものとして合意されていたものとは認められない。」(WIN at QUALITY事件‐東京地判 平30・9・20 労経速2368号15頁)

「対価性については,Yの固定残業代制(いわゆる基本給組込型と化される。)に関する定め(給与規程…)が,「調整給を含めた基本給」に「月45時間相当の時間外勤務割増賃金」を含む旨を定めていることからすれば,Yとして,時間外労働等に対する対価の支払いのため,上記固定残業代制を位置づけていたことは一応うかがわれる。
 しかしながら,明確区分性について,同項は,あくまでも「調整給を含めた基本給」に「月45時間相当の時間外勤務割増賃金」が時間外割増賃金のみを指すのか,基本給部分にも時間外割増賃金が含まれるのかは明らかではなく,また,時間数の明示はあるものの,割増賃金の種類が示されておらず,通常の労働時間に対する賃金部分と割増賃金部分との比較対照が困難なものとなっている。そして,Yにおいて,Xらを含む従業員に対して,労働基準法所定の割増賃金額以上の支払がされたか否かの判断を可能とするような計算式が周知されており,実際に,当該計算式に従って割増賃金が計算され,超過した割増賃金が支払われているような事情もうかがわれない。」(新栄不動産ビジネス事件‐東京地判 令元・7・24 労経速2401号19頁)

〔手当〕
「Yにおける職能手当は,…割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、また、職位手当についても,…割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、結局、職能手当、職位手当の支給により時間外割増賃金が支払われているとはいうことができない。」(キャスコ事件‐大阪地判 平12.4.28 労判787号30頁)

「特定の支給項目による賃金分の全額を,時間外労働に対する割増賃金として定額で支払うものとする場合には,そうした趣旨が明確になるようその支給項目を設定すべきであり,通常の労働時間に対する賃金の性質を併有する支給項目を設定し,これに時間外労働に対する割増賃金分を含ませる場合には、その金額的内訳を明示すべきである。」(ジオス事件‐名古屋地判 平11.9.28労判783号140頁)

「一定額の手当の支払がいわゆる固定残業代の支払として有効と認められるためには,少なくとも,①当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること,②当該手当に係る約定(合意)において,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分とを判別することができ,通常の労働時間の賃金に当たる部分から当該手当の額が労基法所定の時間外割増賃金の額を下回らないかどうか判断し得ることが必要であると解される。」(泉レストラン事件‐東京地判 平26・8・26 労判1103号86頁)

「定額手当制の固定残業代については,いわゆる定額給制の固定残業代とは異なって,計算可能性及び明確区分性を確保するうえで時間外労働等の時間数を特定する必要はなく,労基法37条が,定額手当制の固定残業代の対象となる時間外労働等の時間数を特定することを要請しているとは解されない」(泉レストラン事件‐東京地判 平29.9.26 労経速2333号23頁)

「そもそも,管理職手当は,その名称からして,管理職としての職責等に対する対価という性質を包含すると理解するのが自然であって,これに割増賃金の支払に充てる趣旨が含まれ得るとしても,通常の労働時間に対する賃金との区分が明確であるとはいえない。したがって,管理職手当の支給をもって,割増賃金(固定残業代)の支給に当たると認めることはできず,上記アのYの主張を採用することはできない。」(泉レストラン事件‐東京地判 平29.9.26 労経速2333号23頁)

〔歩合給〕
「Xらに支給された…歩合給が,…通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって,Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべき」(高知県観光事件‐最2小判 平6.6.13
裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/698/062698_hanrei.pdf)

「使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき」(国際自動車事件‐最3小判 平29.2.28
裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86544)

〔年俸制〕
「年俸制を採用することによって,直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくてもよいということにはならない。…労働基準法37条の趣旨は,割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから,…割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。」(創栄コンサルタント事件‐大阪地判 平14.5.17 労判828号14頁)

「XとYとの間においては,…割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると,本件合意によっては,Xに支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,Xに支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって,YのXに対する年俸の支払により,Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」(医療法人社団康心会事件‐最2小判 平29.7.7
裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86897)

〔高給取り〕
「①Xの給与は、労働時間数によって決まっているのではなく,会社にどのような営業利益をもたらし,どのような役割を果たしたのかによって決められていること,②YはXの労働時間を管理しておらず,Xの仕事の性質上,Xは自分の判断で営業活動や行動計画を決め,Yはこれを許容していたこと,このため,そもそもXがどの位時間外労働をしたか,それともしなかったかを把握することが困難なシステムとなっていること,③XはYから受領する年次総額報酬以外に超過勤務手当の名目で金員が支給されるものとは考えていなかったこと,④XはYから高額の報酬を受けており,基本給だけでも平成14年以降は183万3333円を超える額であり,本件において1日70分間の超過勤務手当を基本給の中に含めて支払う合意をしたからといって労働者の保護に欠ける点はないことが認められ,これらの事実に照らすと,YからXへ支給される毎月の基本給の中に所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価とが区別されることなく入っていても,労基法37条の制度趣旨に反することにはならないというべきである。」(モルガン・スタンレー・ジャパン事件‐東京地判 平17.10.19 労判905号5頁)

「XとYとの間においては,…割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると,本件合意によっては,Xに支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,Xに支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって,YのXに対する年俸の支払により,Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」(医療法人社団康心会事件‐最2小判 平29.7.7
裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86897)

【長時間見込】
〔否定例〕
「基本給は,ほぼ最低賃金に合わせて設定され…それ以外の賃金はすべて時間外手当とすることによって,よほど長時間の労働をしない限り時間外手当が発生しない仕組みになっている…。
 Xの給与額の決め方をみても,Yにおいて,時間外手当について,…どの程度の時間外労働を要するかなどの検討をした様子も全くなく,単純に最低賃金時間額を上回って万単位で最も低い金額を基本給…を保障するためにその余を定額の時間外手当に割り振ったものであるといえる。」(トレーダー愛事件‐京都地判 平24.10.16 労判1060号83頁)

「職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると,本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが,このような長時間の時間外労働を義務付けることは,使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく,安全配慮義務に違反し,公序良俗に反するおそれさえあるというべきである(月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害するおそれがあることを指摘する厚生労働省労働基準局長の都道府県労働局長宛の平成13年12月12日付け通達-基発第1063号参照)。
 したがって,本件職務手当が95時間分の時間外賃金として合意されていると解釈することはできない。」(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件‐札幌高判 平24.10.19労判1064号37頁)

「本件固定残業代規定は,割増賃金部分の判別が必要とされる趣旨を満たしているとはいい難く,この点に関するYの主張は採用できない(そもそも、本件固定残業代規定の予定する残業時間が労基法36条の上限として周知されている月45時間を大幅に超えていること,…等にかんがみれば、本件固定残業代規定は,割増賃金の算定基礎額を最低賃金に可能な限り近づけて賃金支払額を抑制する意図に出たものであることが強く推認され,規定自体の合理性にも疑問なしとしない。)。」(ファニメディック事件‐東京地判 平25.7.23 労経速2187号18頁)

「労基法32条は,労働者の労働時間の制限を定め,同法36条は,36協定が締結されている場合に例外的にその協定に従って労働時間の延長等をすることができることを定め,36協定における労働時間の上限は,平成10年12月28日労働省告示第154号(36協定の延長限度時間に関する基準)において,月45時間と定められている。100時間という長時間労働を恒常的に行わせることが上記法令の趣旨に反するものであることは明らかであるから,法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で,X・Y間の労働契約において本件営業手当の支払が合意されたとの事実を認めることは困難である。したがって,本件営業手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有するという解釈は,この点において既に採用し難い。」(マーケティングインフォメーションコミュニティ事件‐東京高判 平26.11.26労判1110号46頁)

「83時間の残業は、36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間であり、しかも「朝9時以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当」とされていることを勘案すると、相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反するといわざるを得ず、これがXとYとの間で合意されたということはできない。」(穂波事件‐岐阜地判 平27.10.22労判1127号29頁)

「月80時間を超える長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが…法令の趣旨及び…36協定に反するものであることは明らかであるから,法令の趣旨及び36協定に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で,X・Y間の労働契約においてサービス手当及びLD手当の支払が合意されたとの事実を認めることは困難である。仮に,事実としてかかる合意をしたとしても,上記法令の趣旨に反する合意は,公序良俗に反するものであり,無効と解するのが相当である(民法90条)。したがって,サービス手当及びLD手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有するというYの主張は採用できない。」(ビーエムホールディングスほか1社事件‐東京地判 平29.5.31労判1167号64頁)

「本件固定残業代についてXの同意があったとしても,本件労働契約においては当初から,労働者の労働時間の制限を定める労働基準法32条及び36条に反し,36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働を恒常的に義務付けられ,同合意は,その対価として本件固定残業代を位置づけるものであることからすると,36協定の有効性にかかわらず,公序良俗に反し無効である(民法90条)と解するのが相当である。」(マンボー事件‐東京地判 平29.10.11 労経速2332号30頁)

「厚生労働省は,業務上の疾病として取り扱う脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(平成22年5月7日付け基発0507第3号による改正後の厚生労働省平成13年12月12日付け基発第1063号)として,発症前1か月ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること,発症前1か月におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できることを示しているところである。このことに鑑みれば,1か月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは,脳血管疾患及び虚血性心疾患の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり,このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して,基本給のうちの一定額をその対価として定めることは,労働者の健康を損なう危険のあるものであって,大きな問題があるといわざるを得ない。そうすると,実際には,長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき,通常は,基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。」(イクヌーザ事件‐東京高判 平30.10.4 労判1190号5頁)

〔肯定例〕
「Yの賃金体系が100時間以上の時間外労働を恒常化させるものであることを理由としてYの賃金体系が労基法37条の趣旨に反するという主張については,割増賃金に関する規定以外の労基法の規定や他の労働関係法令との関係で問題となり得る可能性があることはともかく,Xが支払を受けていない割増賃金があるかどうかの判断に直接影響を及ぼす主張ではない。」(富士運輸事件‐東京高判 平27・12・24 労判1137号42頁)

「Xは,Yが業務手当は月当たり時間外労働70時間,深夜労働100時間の対価として支給されているとすることに関して,平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし,36協定にも反するから,そのような時間外労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。しかし,上記労働省告示第154号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず,労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし,Yは,36協定において,月45時間を超える特別条項を定めており,その特別条項を無効とすべき事情は認められないから,業務手当が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても,それによって業務手当が違法になるとは認められない。」(コロワイドMD事件‐東京高判 平28.1.27 労経速2296号3頁)

「月約87時間は,平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超えるものであるが,雇用契約に対して強行的補充的効力を有するものではない上,本件特約は,時間外労働等があった場合に発生する時間外割増賃金等として支払う額を合意したものであって,約87時間分の法定時間外労働を義務づけるものではない。」(結婚式場運営会社A事件‐東京高判 平31.3.28 労判1204号31頁)

【不利益変更】
「本件においては,…Xの基本給は55万円0000円であったから,これを基本給41万0000円,調整手当200円,業務手当11万6500円,深夜手当2万3300円に,それぞれ分けて支給することは,基本給を減額することを意味し,Xにとっては不利益処分となるから,このことについてXの同意が必要とされる」(山本デザイン事務所事件‐東京地判 平19.6.15 労判944号42頁)

「以前のYの割増賃金に関する定めであれば,実際に行われた時間外労働時間が1月あたり45時間よりも短い場合であっても,従業員には常に基本給満額を受け取る権利があったものであるが,仮に,固定割増賃金に関するYとXらとの合意の内容がY主張のようなものであったとすると,当該合意後には,従業員は1月当たり45時間の時間外労働をしなければ基本給満額を受け取る権利を有しないことになるから,X1ら3名及びX8を含む…従業員にとっては賃金の実質引下げにも等しい重大な変更である」(ワークフロンティア事件‐東京地判 平24.9.4 労判1063号65頁)

「Xの賃金の支給項目を、基本給月額35万円及び家賃手当月額3万円から基本給月額20万8800円、家賃手当月額1万5000円、家族手当月額1万5000円、職務手当月額11万7000円(時間外固定残業代)、役職手当月額1万1700円(深夜固定残業代)及び調整手当月額1万2500円に変更することは、その総額に変更はないものの、(a)基本給の額が減じられている点、(b)職務手当及び役職手当が固定残業代の趣旨のものに変更されたことにより、当該時間分の割増賃金を請求することができなくなるほか、基礎となる賃金が減じられることとなる点、(c)家族手当に関しては、その支給に当たって要件が定められており、その要件を欠くことになれば支給されなくなる上(・・・)、これらが労基法37条5項の除外賃金に該当する手当の趣旨である場合には、基礎となる賃金がその分減じられることとなる点において、23年6月変更は、Xの賃金に係る労働条件の切下げに当たるというべきである。」(プロポライフ事件‐東京地判 平27.3.13 労判1146号85頁)

「いったん雇用契約書(…)の内容で労働契約が成立している以上,出向手当を固定残業代とすることは,従前,基本給及び出向手当から構成されていた所定労働時間の賃金を基本給のみに切り下げる労働条件の不利益変更に当たるから,その賃金減額が有効となるためには,X2の同意があり,かつ,その同意がXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すること(労働契約法8条,最判平成28年2月19日民集70巻2号123頁参照),又は従前の労働条件を変更する就業規則を労働者に周知し,かつ,その労働条件変更が合理的なものであること(同法10条参照)のいずれかを要する」(グレースウィット事件‐東京地判 平29.8.25 労経速2333号3頁)

「Yでは,本件給与規定③に従った取扱いがなされるまで,本件給与規定①に従った取扱いがなされたものと認められるところ,本件給与規定③は,本件給与規定①において支給されていた職務手当について,固定的な割増賃金として支給する旨の定めを置くほか,本件給与規定①に従って支給されていた物価手当,現場手当,外勤手当,通勤手当等について何ら定めることなく,単に,1か月の所定労働時間を超えて勤務した従業員に支給する割増賃金のうち,一定金額を固定残業手当として支給する旨の定めのみを置くというものである。また,…Yは,新たに職務手当の支給を受けるといった変更のない者,すなわち,X2については,それまで物価手当及び運転手当として支給していた金額の合計額と同額を,X3については,それまで物価手当として支給していた金額と同額を,X5については,それまで物価手当及び外勤手当として支給していた金額と同額を,いずれも固定残業手当として支給している。これらに,…説示した事情を考慮すれば,本件就業規則②及び本件給与規定③に変更されることにより,Yの労働者は,時間外労働が固定残業手当を超える場合には,それまで支給されていた物価手当,現場手当,外勤手当,運転手当など固定残業手当に変更された金額に相当する賃金を失い,時間外労働が固定残業手当を超えない場合には,時間外労働に対応する割増賃金を失うことになるといえ,労働者に不利益に労働条件を変更するものであると認められる。」(サンフリード事件‐長崎地判 平29.9.14 労判1173号51頁)

「C社労士及びY代表者は,Xに対し,本件固定残業制度の採用に伴う基本給の減少が形式的なものにとどまる,総額としては支給される額は変わらないとも説明している(…)が,Xの新賃金体系と従前の賃金体系を比較すれば,正に割増賃金の基礎となる基本給が減少するものであり,基本給の減額は,形式的なものにとどまるものではない。その上,Xの新賃金体系においては,基本給(引いては発生する割増賃金の額)が減少するのみならず,発生した割増賃金についても,固定時間外勤務手当分は既払となるのであるから,総額としても支給額が減少することがないという説明も誤っているといわざるを得ない(従前は支払われるべき割増賃金が支給されていなかったことから,支給総額が給与明細上抑えられていたに過ぎず,この違法な支給状態とXの新賃金体系の下で支給される賃金の額に差がなかったとしても,Xに不利益がないということはできない。)。」(ビーダッシュ事件‐東京地判 平30.5.30 労経速2360号21頁)

【説明・情報提供等】
「給与として支給されるうち,通常の労働時間の賃金に相当する額が幾らであるかは,労働者にとって,その条件で労働契約を締結するか否かを判断するに当たり極めて重要な事項であるというべきである。このことに鑑みると,それらが個別の労働契約や就業規則で明確にされないままに給与の総額のみで労働契約が締結されたにとどまる場合には,後に給与明細書でそれらの額が明確にされたとしても,給与明細書記載の手当の額を割増賃金代替手当の額とすることが労働契約の内容となったと評価することはできないというべきであり,労働契約締結時にこの区別が明確でない場合には,結局において、当該手当の支給を労働基準法37条所定の時間外等割増賃金の代替としての支給と認めることはできないと解するのが相当である。」(鳥伸事件‐京都地判 平28.9.30 労旬1886号80頁)

「労働契約締結時において、給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていたとは認められない。」(鳥伸事件‐大阪高判 平29.3.3 労旬1886号76頁)

「採用面接時の担当者である…C…同説明のみでは…Xが同説明を受けた上で本件労働契約を締結したとしても,Yとの間で有効な固定残業代に関する合意をしたとはいうことはできない。
 そして,基本給の額がいくらであるかは,割増賃金の算定に大きな影響を生じさせるなど,労働者にとって極めて重要な事項であるところ,その後,…Yにおいて,支給明細上,一方的に定めた割合により賃金総額を「基本給1」と「超過勤務手当」に分けて支給するにとどまり,…Xにおいて,賃金総額の振り分け方法について十分に理解した上で,これについて明確な同意を積極的にしていたと認めることもできないこと(…)からすると,XとYとの間で,…固定残業代として支払う旨の合意があったということはできない。なお,…本件誓約書には,割増賃金について,当時の就業規則…に基づき,毎月定額で支給されることを了承する旨の記載があるが,同条の内容は明らかでなく,そもそも,当時,就業規則が存在し,その内容が周知されていたのかも不明であることからすると,同誓約書によりXとYとの間で本件固定残業代についての合意があったと認めることもできない。
 さらに,本件就業規則についても,本件労働契約締結後に施行されたものである上,Yにおける上記の賃金の支給方法は,そもそも,本件就業規則…が定める割増賃金の支給方法と異なるものである。
 以上によれば,本件固定残業代が本件労働契約の内容になっていたとはいえない。」(マンボー事件‐東京地判 平29.10.11 労経速2332号30頁)

【その他】
「本件で36協定が存在しない以上少なくとも本件契約のうち1日8時間以上の労働時間を定めた契約部分は無効であるところ,いわゆる固定残業代の定めは,契約上,時間外労働させることができることを前提とする定めであるから,当該前提を欠くときは,その効力は認められないはずである。」(無洲事件‐東京地判 平28.5.30 労判1149号72頁)

【総合的判断】
「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」(日本ケミカル事件‐最1小判 平30・7・19
裁判所HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87883)


(労働契約は「合意」が原則(労契1条,3条1項,6条,8条,9条)であり,割増賃金を定額残業代として支払う場合においても,その旨が労使間において何らかのかたち(個別の契約や就業規則等)で合意が認められることが大前提)