K社事件‐東京地判 平29・5・19 労働経済判例速報2322号7頁

【事案】
 Xが、Yに対し、懲戒解雇が無効であること、労働契約法19条に基づいて有期雇用契約が更新されること並びに懲戒解雇、それに至るYの対応及び契約期間満了後の更新拒絶には不法行為が成立することを主張して、雇用契約上の権利を有する地位の確認等を求めたもの。

【判断】
「(1) 解雇その他の懲戒は、就業規則等の根拠に基づく場合であっても、懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと認められるときは懲戒権を濫用するものとして無効である(労働契約法15条、16条)。特に、懲戒解雇は、最も重い懲戒処分であり、雇用契約関係を終了させる上、「懲戒」の名称が付されることで重大な規律違反に対する制裁としての解雇であることが明らかにされて労働者の経歴を傷づけ再就職の重大な障害ともなるから、その選択には慎重を期する必要がある。また、有期雇用契約においては「やむを得ない事由」、すなわち期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了せざるを得ないような特別の重大な事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において労働者を解雇することができず(労働契約法17条1項)、懲戒解雇も「やむを得ない事由がある」ことを要する。
 諭旨解雇は、退職願の提出を勧告するものであるが、提出に応じないときは懲戒解雇が予定されており、辞職という解除条件が付された懲戒解雇というべきもので、程度の差はあれ労働者の経歴を傷つけることには変わりないから懲戒解雇に準じて法的な規制が及ぶというべきである。
 本件就業規則は「他人に対して暴行・脅迫・監禁その他社内の秩序を乱す行為を行った場合」(70条10号)に該当するときは懲戒解雇とすることを定めているが、情状により諭旨解雇以下に処することも認めており(・・・)、労働契約法の前記解釈に反することはできないから、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由となる「暴行」は「やむを得ない事由」に当たる程度に悪質なものに限られるというべきである。」

「Xには暴行に当たる行動があり、懲戒に相当する事由は認められるが、その契機は偶発的で、態様や結果が特に悪質なものともいえず、その背景には、Xの自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度があり、反省も不十分であったことを考慮しても、期間満了を待つことなく雇用契約を直ちに終了させる解雇を選択せざるを得ないような特別の重大な事由があるとは認めるに足りないから、その余の点を判断するまでもなく、Xに対する本件解雇は懲戒権を濫用するものとして無効であって、XとYとの間の有期雇用契約は、本件解雇では終了しなかったというべきである。」

「XとYとの間の有期雇用契約は、期間の定めのない雇用契約と同視することはできないが、XとYとの間では特段の事情がない限り契約を更新することが黙示に合意されていたと推認され、契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があったというべきである。他方、XとYとの間の有期雇用契約は、期間満了後、当然に更新することまで予定されていたわけではなく、直近の・・・契約書(書証略)でも「労働者の勤務成績、態度」などを判断基準として「更新する場合がある」にとどまることは明示されている。また、更新を妨げる上記「特段な事情」は、有期雇用契約の期間満了前の解雇における「やむを得ない事由」や通常の解雇における「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」こと(労働契約法16条)と同程度のものであることまでは要しないと解される。」
「1月17日の出来事は解雇に値する懲戒事由に当たるとはいえないが、本件就業規則の定める懲戒事由には該当し、反省も十分ではなく、Xはかなり以前から自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度が継続しており、Yからは、確認書が徴されるなど、それなりに改善が促されていたが、十分な改善はなく、1月17日の出来事、その反省の不十分からXの「態度」が芳しくないことが改めて明らかになったといえるから、Xに契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があっても、Yには有期雇用契約の更新を拒む特段の事情があったというべきである。
(3) なお、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年10月22日厚生労働省告示第357号)第1条によると、Yは有期雇用契約を更新しないときは、期間満了の日の30日前に雇止めの予告をすべきところ、Yがこの予告をした主張立証はない。
 しかしながら、上記基準は労働基準法14条2項、3項に基づく行政官庁の助言・指導の基準にとどまるから、これに違反する雇止めが直ちに違法になるわけではない上、先行した本件解雇で有期雇用契約の継続を望まないYの意思は明らかに示されているから、Xに有期雇用契約更新の合理的な期待を抱かせる、又は更新を拒むことの社会通念上の相当性を害するには足りないというべきである。
(4) 以上によれば、XとYとの間の有期雇用契約は、・・・労働契約法19条に基づいて更新されることなく、期間満了をもって終了したというべきである。」

「①本件解雇は、社内における暴力を禁圧しようとするあまり、諭旨解雇及び懲戒解雇のもたらす法律上、事実上の効果に十分に配慮しない行き過ぎたものであったこと、②Xは、本件解雇で有期雇用契約期間の途中で突然職と賃金収入を失い、生活にも少なからず不安が生じたこと、③Xは、本件解雇から期間満了に有期雇用契約の終了までの間の賃金をえるため、調停及び労働審判事件の申立てを余儀なくされ、弁護士費用の負担を要したこと、④懲戒解雇とされたことでXはその名誉にも少なからず悪影響を受け、高齢になりつつあり、再就職が容易な年代とはいえないX(本件解雇時で58歳)にとって、その悪影響は軽視できないことが認められ、Xは、本件解雇で、相当程度の精神的苦痛を受けたというべきである。他方、⑤Xには懲戒事由が認められ、Xは、Yは、懲戒の種類の選択を誤ったにとどまること、⑥本判決で、本件解雇から期間満了までの賃金は遅延損害金とともに認容され、事後的ではあるが、経済的損害の大半は填補されること、⑦本判決の理由中で本件解雇が無効であることが判示されることで1月17日の出来事が懲戒解雇相当のものではないことも明らかにされること、⑧Yが何らかの不当な意図、動機のもとに本件解雇を行ったとは認められず、その過程では、X及びCから事情を聴取する、防犯カメラの映像を確認する、建交労神田支部の承認を得るなど、Yなりに慎重を期そうとし、労働協約や本件就業規則では懲戒解雇には不要な解雇予告手当を支給し(なお、解雇予告手当は本件解雇が無効であった以上、返還されるべきものと解される。)、不十分ながらもXの利益に配慮する姿勢もあったことも認められる。
 以上によれば、本件解雇には不法行為としての違法性が認められ、その損害が全て填補済みともいえず、Xは相当程度の精神的苦痛を受けているから、Yは、不法行為に基づき慰謝料支払義務を負うべきであるが、慰謝料の金額は・・・円と同額で足りるというべきである。
 (2) ・・・XとYとの間の有期雇用契約は、・・・期間満了で更新されることなく、期間満了で終了しているから、その更新又はその拒否に関して、Yに違法な行為があったとは認められない。」