京都市(児童相談所職員)事件 - 京都地判 令元・8・8 労働判例1217号67頁

【事案】
 Xが,Yに対し,懲戒処分の取消しを求めたもの。

【判断】
「(1) 以上のとおり,Xにおいて,懲戒事由に該当する非違行為として存在するのは,本件行為2に限られることになる。
 ここで,地方公務員につき地方公務員法29条1項各号の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うとしていかなる処分を選ぶかは,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指導監督にあたる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。すなわち,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,裁判所が上記処分の適否を査定するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
(2) そこで,懲戒事由に該当する本件行為2を行ったXに対して停職3日を内容とする本件懲戒処分を行うことが,社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を逸脱又は濫用した違法があるものといえるか否かについて,以下検討する。
 ア まず,本件行為2の原因,動機,性質を検討するに,まず,本件行為2のうち本件複写記録の持ち出し行為については,Xは,1回目の内部通報の結果を受けて,その調査結果に個人的に不満を抱いたため,2回目の内部通報を行うこととし,その際にH弁護士に渡す本件児童の妹の児童記録に係る複写文書1枚とともに,本件複写記録を自宅に保管したものといえる。このような経緯を経て行われた本件複写記録の持ち出し行為は,いわゆる公益通報を目的として行った2回目の内部通報に付随する形で行われたものであって,少なくともXにとっては,重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり,このほかに,本件複写記録に係る個人情報を外部に流出することなどの不当な動機,目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから,その原因や動機において,強く非難すべき点は見出し難い。
 また,本件行為2のうち本件複写記録の自宅での廃棄行為については,I課長からの返却の指示があったにもかかわらず,Xがこれに従わず,安易に本件複写記録を自宅で廃棄したことそれ自体は,今後の情報漏えいの可能性が万に一つ(ママ)ないようにするために持ち出した現物を返却させるというYの正当な目的の実現を妨げた点からも,大いに非難されるべきものである。しかしながら,Xは,上記廃棄行為について,証拠隠滅を図るなどの不当な動機や目的があったとは考え難い。そうすると,Xによる本件複写記録の自宅での廃棄行為は,非常に軽率な行為として大いに非難されるべきものではあるが,その動機や目的において,殊更に悪質性が高いものであったとまではいえない。
 イ 次に,本件行為2の性質,態様についてみると,本件行為2のうち本件複写記録の持ち出し行為については,Xが持ち出した本件児童の個人情報としては,本件複写記録の1枚のみであり,本件全証拠を検討しても,Xにおいて,本件児童の児童情報データ等のうち,他の文書ファイルについて出力や持ち出しを行った事実は認められない。そうすると,Xによる本件複写記録の持ち出し行為は,飽くまで,本件虐待事案に対するXの職務上の関心に起因して行われた性質の行為である。そして,Xは,本件複写記録を自宅で保管していたにすぎず,その保管状況は必ずしも明らかではないものの,自宅で保管していた本件複写記録が外部に流出した事実は認められず,同記録が外部の目に触れる状況ではなかったものと考えられることからすると,必ずしも情報漏えいの危険性の高い不適切な態様での保管状況であったとまではいい難い。
 また,本件行為2のうち本件複写記録の自宅での廃棄行為については,本件複写記録を廃棄したことそれ自体は前記アのとおり大いに非難されてしかるべき行為ではあるものの,その廃棄の態様は,自宅でシュレッダーに掛けて裁断して行ったというものである。そうすると,本件複写記録に記載された情報を外部に容易に認識し得ないような方法で廃棄したものであって,この点については酌むべき事情であるといえる。なお,Yは,Xが本件複写記録を溶解処分せずにシュレッダーで廃棄したことをも問題視するようであるが,京都市児童相談所の職場においても,職員によっては,機密性の高いとされる文書をシュレッダーで廃棄することがあり得る状況であったことがうかがえることからすると,Xが本件複写記録を返却せずにYの職場での溶解処理ができなかった以上に,本件複写記録をシュレッダーで廃棄したことそれ自体に,大きく非難すべき点はない。
 ウ さらに,本件行為2の結果,影響についてみるに,Xが自宅に持ち出した本件複写記録はシュレッダーで廃棄されており,結果としては,同記録が一般市民の目にする形で外部に流出することのないまま処分されたものである。そして,Yの保健福祉局の調査の結果によっても,L1議員による本件複写記録の情報の入手経路は明らかになっておらず,本件全証拠を検討しても,Xが自宅に持ち出した本件複写記録によって,本件児童の個人情報がL1議員に流出したことを認めるに足りる証拠はない。この点に関して,本件児童からは,Xによる本件行為2を含む各行為について京都市児童相談所に対する信頼を損ねるものである旨の強い非難が寄せられていること(〈証拠略〉)は十分に考慮すべきであるとしても,Xによる本件行為2によって,Yの児童福祉行政に対する信頼が回復不能なほどに大きく損なわれたとまでは認めることはできない。
 エ 本件行為2の前後における態度を見ると,Xにおいて,京都市児童相談所が取り扱う児童記録データ等が極めて高度なプライバシー情報を含んでいることの畏れや問題意識があるのかについて疑問なしとしないが,Xは,本件複写記録を廃棄した当初から,本件複写記録を廃棄したことそれ自体の不適切性については,K部長らから指摘を受けると,軽率な行為であったことを素直に認めていたのであり,一定の反省の態度を見て取ることができる。
 オ さらに,Xの懲戒処分歴等についてみるに,Xはこれまで懲戒処分歴は存在せず,かえって,Xは,FA制度で京都市児童相談所A2課に配属となった平成26年度の人事評価においては,いずれの評価項目も良好な評価を得ており,かつ,日頃の勤務態度についても,児童に対し得(ママ)て熱心に対応しており,業務面においては特段の問題はないとの評価を得ていたものである。これに加え,Xは,本件行為2についても,基本的には,京都市児童相談所の職員としての職責を果たすべきとの自らの有する職業倫理に基づいて行ったものであるから,大いに軽率な面があったことを踏まえてもなお,上記のXの懲戒処分歴や勤務態度といった事情は,酌むべき事情として考慮されるべきものといえる。
(3) 以上に加え,前記1で認定した事実経緯に照らすと,本件懲戒処分は,Xが主張,供述するような「結論ありきで行われた」あるいは「内部告発に対する報復」といった不当な目的ないし動機をもってされた処分であるとの評価はできないものの,本件懲戒指針では,情報セキュリティーポリシー違反の非違行為については戒告から免職まで処分量定の幅は広く規定されている中で,過去に非公開情報がインターネットを経由して外部から閲覧できる状態となり当該情報の拡散を招いた職員が停職10日の懲戒処分とされた懲戒事例(〈証拠略〉)との比較において,本件行為2を行ったXに対する懲戒処分として,本件複写記録の情報が拡散するまでに至らなかったにもかかわらず,停職3日とする本件懲戒処分を選択することは,重きに失するものといわざるを得ない。
(4) 以上によれば,本件懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を欠いて,その裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。」