日本郵便(東京)事件‐東京地判 平29・9・14 労働経済判例速報2323号3頁

【事案】
 Yとの間で期間の定めのある労働契約を締結したXらが、期間の定めのない労働契約を締結しているYの正社員と同一内容の業務に従事していながら、手当等の労働条件において正社員と差異があることが労働契約法20条に違反するとして、地位確認等を求めたもの。

【判断】
「ア 労契法20条は、有期労働契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情(以下、この3つを併せて「職務の内容等」ということがある。)を考慮して、「不合理と認められるものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、問題となっている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているのであって、合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないと解される。そして、「不合理と認められるもの」という文言から規範的要件であると解されるので、同条の不合理性については、労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者において、当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負い、主張立証に係る労契法20条が掲げる諸要素を総合考慮した結果、当該労働条件の相違が不合理であると断定するに至らない場合には、当該相違は同条に違反するものではないと判断されることになる。
 イ 同条は、不合理と認められるものか否かの判断に当たり、①職務の内容、②当該職務内容、配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮要素としているところ、その規定の構造や文言等からみて、①及び②が無期契約労働者と同一であることをもって、労働条件の相違が直ちに不合理と認められるものではなく、両当事者の主張立証に係る①から③までの各事情を総合的に考慮した上で不合理と認められるか否かを判断する趣旨であると解される。このように労契法20条の判断において、職務内容は判断要素の一つにすぎないことからすると、同条は、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく、同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており、有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることも許容するものと解される。」

「正社員に支給される外務業務手当が時給制契約社員には支給されないという相違があるものの、両者の間には、職務の内容並びに職務の内容及び職務の変更の範囲に大きな又は一定の相違がある上、正社員には長期雇用を前提とした賃金制度を設け、短期雇用を前提とする契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けることは、企業の人事上の施策として一定の合理性が認められるところ、外務業務手当は、・・・制定の経緯から明らかなとおり、職種統合による賃金額の激変を緩和するため正社員の基本給の一部を手当化したものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来するものであること、その具体的な金額も、労使協議も踏まえた上で、統合前後で処遇を概ね均衡させる観点で算出されたものであること、郵便外務事務に従事する時給制契約社員については、時給制契約社員の賃金体系において、外務加算額という形で、外務事務に従事することについて別途反映されていることが認められ、これらの諸事情を総合考慮すれば、正社員と時給制契約社員の外務業務手当に関する相違は、不合理であるとは認められない。」

「(エ) これまで判示してきた年末年始の期間における労働の対価として一律額を基本給とは別枠で支払うという年末年始勤務手当の性格等に照らせば、長期雇用を前提とした正社員に対してのみ、年末年始という最繁忙時期の勤務の労働に対する対価として特別の手当を支払い、同じ年末年始の期間に労働に従事した時給制契約社員に対し、当該手当を全く支払わないことに合理的な理由があるということはできない。もっとも、年末年始勤務手当は、正社員に対する関係では、定年までの長期間にわたり年末年始に家族等と一緒に過ごすことができないことについて長期雇用への動機付けという意味がないとはいえないことから、正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえないというべきである。
 (オ) したがって、年末年始勤務手当に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、同社員に対して当該手当が全く支払われないという点で、不合理なものであると認められる。」

「正社員に対しては勤務シフトに基づいて早朝、夜間の勤務を求め、時給制契約社員に対しては募集や採用の段階で勤務時間帯を特定して採用し、特定した時間の勤務を求めるという点で、両者の間には職務の内容等に違いがあることから、正社員に対しては、社員間の公平を図るため、早朝勤務等手当を支給するのに対し、時給制契約社員に対して支給しないという相違には、相応の合理性があるといえる。また、時給制契約社員については、早朝・夜間割増賃金が支給されている上、時給を高く設定することによって、早出勤務等について賃金体系に別途反映されていること、類似の手当の支給に関して時給制契約社員に有利な支給要件も存在することからすれば、早出勤務等手当における正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理であると認めることはできない。」

「祝日に勤務することへの配慮の観点からの割増しについては、正社員と時給制契約社員との間に割増率(100分の35)の差異はないこと、正社員に対する祝日給については、正社員は祝日も勤務日とされており、昭和24年以降、祝日に勤務しない常勤職員(当時の国家公務員)にも勤務したものと同額の賃金が支払われていたことや、平成19年の郵政民営化の際、郵政民営化法第173条に基づき、民営化前の労働条件及び処遇に配慮する必要があったこと、国家公務員についても同様の支給形態が採用されていることなどに基づくものであり、正社員の賃金体系に由来する正社員間の公平のために設けられたものであること、これに対し、時給制契約社員については、元々実際に働いた時間数に応じて賃金を支払う形態が採られており、勤務していない祝日にその対価としての給与が支払われる理由がないことなどを踏まえると、正社員と時給制契約社員の祝日給に関する相違は、不合理と認めることはできない。」

「一般に、労使交渉において、労働組合側が基本給の増額を要求するのに対し、使用者側は、基本給を増額すると、退職金や年金が連動して増額となって財政負担が将来にわたることから、本件の夏期年末手当に相当する賞与等の一時金を増額して労働者の年収額自体は増加させるものの、基本給の増額は拒否し、最終的に一時金の増額で労使が合意することもままみられることは公知の事実である。このように、賞与は、労使交渉において、基本給に代わり、労働者の年収額を直接に変動させる要素として機能している場合があることからすると、基本給と密接に関連する位置付の賃金であるといえるところ、本件の夏期年末手当も、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定される実情にあることは前判示のとおりであり、その意味で、基本給と密接に関連する賞与の性質を有する手当である。そうすると、Yの正社員である新一般職又は旧一般職と時給制契約社員との間には、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな又は一定の相違があることから、基本給と密接に関連する夏期年末手当について相違があることは一定の合理性があること、賞与は、対象期間における労働の対価としての性格だけでなく、功労報償や将来の労働への意欲向上としての意味合いも有することからすると、長期雇用を前提として、将来的に枢密な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する同手当の支給を手厚くすることにより、優秀な人材の獲得や定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること、時給制契約社員に対しても労使交渉の結果に基づいた臨時手当が支給されていることなどの事情を総合考慮すれば、正社員の夏期年末手当と時給制契約社員の臨時手当に関する算定方法等の相違は、不合理と認めることはできない。」

「配置転換等の実情を踏まえると、配置転換等が予定されていない時給制契約社員と比較して、住宅に係る費用負担が重いことを考慮して、旧一般職に対して住宅手当を支給することは一定の合理性が認められ、また、長期雇用を前提とした配置転換等のある正社員である旧一般職に対して住宅費の援助をすることで有為な人材の獲得、定着を図ることも人事上の施策として相応の合理性が認められることなどの事情を併せ考慮すれば、旧一般職と時給制契約社員との間の住宅手当の支給に関する相違は、不合理と認めることはできない。
 これに対し、新一般職に対しては、転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていないにもかかわらず、住宅手当が支給されているところ、同じく転居を伴う配置転換等のない時給制契約社員に対して住居手当が全く支給されていないことは、先に述べた人事施策上の合理性等の事情を考慮に入れても、合理的な理由のある相違ということはできない。もっとも、正社員に対する住宅手当の給付は、住居費の負担を軽減することにより正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務に対する動機付けを行う意味も有することからすると、正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する住居手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえないというべきである。
 (ウ) 以上によれば、新人事制度が導入された平成26年4月以降の住居手当に関する新一般職と時給制契約社員との間の相違は、同社員に対して同手当が全く支払われないという点で、不合理であると認められる。」

「夏期冬期休暇は、その時期や日数については、とりわけ職務の内容や繁忙期による影響を受けると考えられるものの、職務の内容等の違いにより、制度としての夏期冬期休暇の有無について差異を設けるべき特段の事情がない限り、時給制契約社員についてだけ、制度として夏期冬期休暇を設けないことは、不合理な相違というべきである。
 これを本件についてみるに、正社員と時給制契約社員とを比較すると、最繁忙期が年末年始の時期であることには差異がなく、他の前判示に係る職務の内容等の相違を考慮しても、取得要件や取得可能な日数等について違いを設けることは別として、時給制契約社員に対してのみ夏期冬期休暇を全く付与しない合理的な理由は見当たらない。」

「病気休暇が労働者の健康保持のための制度であることに照らせば、時給制契約社員に対しては、契約更新を重ねて全体として勤務期間がどれだけ長期間になった場合でも、有給の病気休暇が全く付与されないことは、前判示に係る職務の内容等の違いに関する諸事情を考慮しても、合理的理由があるということはできない。
 したがって、病気休暇に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理なものであると認められる。」

「正社員については、シフト制勤務により早朝、夜間の勤務をさせているのに対し、時給制契約社員については、募集や採用の段階で勤務時間帯を特定した上で雇用契約を締結し、その特定された時間の勤務を求めているという意味で職務内容等の違いがあり、その違いに基づき、正社員についてのみ社員間の公平を図るために夜間特別勤務手当を支給することは、相応の合理性があるといえるから、夜間特別勤務手当における正社員と契約社員の相違は、不合理なものと認めることはできない。」

「正社員である新一般職又は旧一般職と時給制契約社員の間には、職務の内容並びに職務の内容及び職務の変更の範囲に大きな又は一定の相違がある上、正社員には長期雇用を前提とした賃金制度を設け、短期雇用を前提とする時給制契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けることは、企業の人事上の施策として一定の合理性が認められるところ、郵便外務・内務業務精通手当は、正社員の基本給及び手当の一部を原資に郵便外務・内務業務精通手当として組み替える方法により、正社員に対して能力向上に対する動機付けを図ったものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来するものであること、郵便外務・内務業務精通手当は、労使協議も経た上で新設されたものであること、時給制契約社員については、資格給の加算により担当職務への精通度合いを基本給(時給)に反映させていることなどの諸事実を総合考慮すれば、正社員と時給制契約社員の郵便外務・内務業務精通手当に関する相違は、不合理なものと認めることはできない。」

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